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2 侵入するもの


 夕食はいつものように、九九艦爆と九七艦攻が腕をふるった。


「異国のお客さんの口に合うかどうかわかんないけどさ。いっぱい食べてちょうだいよ、ね!」

「お代わりもたっぷりあります。遠慮しないで、申しつけてくださいね」


 本来ならば、さらなる密な打ち合わせ、未知の敵への対策会議などもあってしかるべきだったが、


「いまは、出会えたこと、それが敵対ではなく和解への道であることに感謝しよう。いまはそれだけでいい」


 五二型が言い、長門や赤城も賛成したことで、それ以上のミーティングなどは持たれなかった。


「どんな敵でも敵は敵! 戦って勝つ、それだけなんだから!」

「とはいえ、どう出て来るか、そもそもほんとうに敵なのかも謎じゃな、むぐ」


 とは、隼や鍾馗たち。


「すばらしい空母です。わがドイツにもこのような大型空母があれば、もっと洋上の戦いにも進出できるのですが」


 Bf109Fが言う。

 そのテーブルには、五二型や二一型、それにFw190Aが同席していた。

 もっとも、Fw190Aは、


「ほら、ふーちゃん、もっと食べて! これ、お豆腐って言うんだよ。お豆腐は、白いでしょ。牛乳から出来てるんだよ!」

「ほ、ほんとうに? ……うぅぅ、なんだかぜんぜん牛乳の味しないよぉ」

「ウソを教えるな」


 なおも二一型にからまれ続け、五二型にやんわりと助け舟を出されることも。

 いっぽう、こちらはおもに海軍艦のテーブル。


「じゃあ、ドイツでは水上の大型艦は数も少ないし、いまいち元気もないっていうの。意外ね」

「戦いの主役は、あなたがた潜水艦なのね。それで肩身が狭いんじゃないかしら」


 長門、赤城が言えば、


「ええ。わたしたち潜水艦さえいれば、事足りるんじゃない。戦いにも勝てるって思うわね。ぁ、わたしはUボートⅦ型の、U-47。プリン、って呼んでくださいね」

「でも、空からの攻撃にはやっぱり弱いんです。バックアップしてくれもらえたら、っていつも思います。それにはどうしても、水上艦のみなさんが必要なんです。はい。わたしはUボートⅨ型のU-505、ヴェーザです。遠洋の通商破壊が専門なんです」

「わたしなら! 航空援護がなくったって、やることやってみせるわ! バッテリーもじゅうぶん! ワルター機関が実用化のおりには、無浮上で最初から最後まで、ミッションをこなすことだって!」


 最後は、UボートⅩⅩⅠ型、U-2540のレンネだ。


「いろいろ、傾聴すべき意見ね。やっぱりドイツ海軍は、潜水艦偏重というか、主流のようで……」

「そういえば、ヤポーネのUボートのみなさんは……」


 U-505が頭を巡らせる。

 日本の潜水艦が別のテーブルにいた。


「伊号潜水艦ね。呼びましょうか」

「いえ、それには。思ったより大柄な方が多くて。わたし、Uボートの中では大型なのに、わたしよりも体格がいいのに、ちょっと驚いてしまって」

「わたしたち日本海軍の伊号潜水艦は、艦隊型潜水艦といって、水上艦隊と行動をともにすることができるように設計されているのよ」


 赤城の説明に、


「えっ? だって、そんなことしたって、浮航してたって水上艦の巡航速度にも追いつかないし、敵の潜水艦には駆逐艦が対応するのでしょう? なんのために艦隊にくっついていくのか、よくわからないわね」


 U-47のプリンが言えば、


「まぁ、戦術思想って、その国その国でいろいろあるからね。たしかにそうね、ヴェーザさんだっけ」

「ヴェーザ、でけっこうです。そう呼んでいただいて」

「ヴェーザも、ウチに来れば呂号潜水艦ってとこかしら」

「ろ、ですか」

「そう。伊号が艦隊潜水艦。呂号はもう少し小さくて、近海用ね。沿岸警備用の波号っていうのもあるわ。い、ろ、は、はアルファベットのA、B、Cだと思えばいいわね」


 長門の説明には、


「はぁ、呂号、ですか」

「わたしなら! 浮航時の速度だって十五ノット! 以上あるし、艦隊にもじゅうぶんついていけそう! 言うなら、わたしみたいなⅩⅩⅠ型を、艦隊型って言うんじゃないかなっ!」


 やたら元気がいいレンネ。

 自分でも言うとおり、Uボートの中ではもっとも長身だが、それよりもバッテリーを大量に搭載しているため、Uボートとは思えないほどグラマーに突き出した胸がいかにも自慢げではある。


「はぁ、まぁ、そうね」

「お断りします」


 そこだけなぜか大人げない長門と赤城ではあった。

 そんな、ささやかな宴が続いていたころ。




「……ほんとうに、やるの」


 赤城の舷側に、ひっそりと横付けされる小船。

 中に乗っているのは、F4F、それに、


「もちろんデス! あいつら、同盟国なのをいいことに、いまごろ新型金属生物の情報をひとり占め、ノット! ふたり占めしてるとこかもしれないデス! ううん、それだけじゃない、もしかしたら夜明けと同時に、結託してミーたちを攻撃して来るかもしれないネ! 見過ごせないにも程があるネ!」


 F6Fだ。

 いちおうライフ・ジャケットを首から着込み、櫂を握っている。


「その恐れは、なくはないけれど」

「決まってマス! 姑息な騙し打ち、スネークアタック! ジャップやナチの常道ネ! ミーはヘビ、大嫌いデス!」


 そこまで言ってF6F、返しのついたカギつきのロープを、ぶんぶん振ると、


「たぁッ!」


 投げ上げる。赤城の高角砲の張り出し、その鉄柵にからみついた。


「ふん、OKネ! 行くわよ、ワイラ!」


 スルスルとロープを昇りだす。揺れる小船から、艦状形態の赤城へと乗り移って行く。


「レンジャーなみの身の軽さですね。でも、あっちにタラップ、降りてますけれど」


 Bf109Fたちが乗り移ったときのタラップが、海面近くまで降りてそのまま残っていたのだ。


「なにしてるデスか! 早く、早くネ!」


 見比べたあげく、


「こっちで行く。せっかくヘルミナが」


 律義にロープを昇って行く。




「防人さぁん! お風呂、用意できてますよぉ!」


 コンコン、とノックに続いて、声がした。


「あ、うん。ありがと、ぉ?」


 ひとまずドアを開けて礼を、と思った防人。ドアの向こうの戦闘機に、いっしゅん戸惑う。


(あ、あれ? にい子……だよな。でも、なんかすごく大人っぽいっていうか色っぽい。胸もこんなに大きかったっけ)

「にい子の胸、こんなに大きかったかな、って思ってるでしょ」

「ドキッ!」

「わたしよ、わたし!」


 そう言うと少女は、ポニーテールを自分で解いて見せた。長い髪がふぁさっ、自然に垂れ落ち、そこには、


「二二型……きさらぎさん!」

「あはは、間違えたんでしょ! 防人くんの目、確かめるように胸をじーっと見て、ほんと、エッチなんだから」

「いやだって、きさらぎさん、わざと髪型、変えてるし、そりゃ、間違いそうになりますよ」


 防人の言うとおりだ。

 二一型と二二型は顔立ちがそっくり。

 身長も同じで、基本プロポーションも似ているから、髪型までそろえられたら一見して区別ができない。

 そのうえいまは、風呂上がりなのか浴衣姿で、制服の着こなしなどの違いもないからなおのこと。


「ふふふ、わたし、あんまり存在感ないかも、って心配で、少し防人くんにもアピールしなくちゃ、って、ね」

「アピール、てか、ドッキリですよ、これ」

「でもいいことわかっちゃった。防人くんてば、にい子とわたしを胸で区別するのね」

「ふだんは髪型ですって! 髪の色も」


 二一型は黒髪、二二型は茶髪なのだが、いっしゅんわからなかった。


「いいのよ。わたしの発動機は栄二一型。にい子より百五十馬力も排気量が上なんだから。その分の違い、よーく、わかったんじゃない」

「はぁ、まあ」

「で、思わなかった? にい子の胸も、これくらいあったらもっといいな、とか」


 気がつくと、二二型が腕をからめて来る。

 身を寄せる、というよりほとんど防人に押し付けるように半ば密着していた。


「それは、まあ……てか、きさらぎさん、近いですよ。なんでこんなに」

「なんで、ってわかんない? わたしだって、戦闘機だし女の子なのよ。防人くんは男の子だし、ということは、ねえ」

「ということはどういうことなんですか!」


 ふわっ、とかすかに、甘い香りが立ち上ってくる。湯を浴びて強くなった二二型の肌の匂いが防人の鼻孔をくすぐる。


(いい匂い……にい子より大人っぽい感じで)

「にい子より大人っぽい匂い、って思った? 香水なんてつけてないわよ?」


 見上げる上目づかいの二二型の頬がほんのり染まる。唇も桜色に艶めいている。

 が、なにより、このアングルから視線を落とすと、二二型の浴衣の襟元の深くまで入り込んでしまう。

 ふっくらとした白いふたつのふくらみが作り出す、谷間までもが覗けて、


「ううう、きさらぎさんは、読心術でもできるんですか」

「そんなの無理だけど、防人くんのなら、できるかも。だってなに考えてるか、顔と態度で丸わかりなんだもの。わたしの胸、もっと見たい?」

「えええ!? いや、いや! そんなの絶対ダメなので」

「あら、自分の気持ちには正直になったほうがいいんじゃないかな、ってお姉さんは思うんだけど」

「は、ああ」

「それにこの下、なにも着てないのよね。浴衣一枚脱いだら、どうなると思う?」

「な、な! なんですとぉー!」


 変な言葉が出た。

 そういえばさっきから密着している部分が熱い。それに柔らかいし、二二型の言ってることはほんとうかもしれない。


(お、オレのシャツと、きさらぎさんの浴衣。布は二枚だけで、それって二ミリくらい。押し付ければ一ミリくらい、か)


 どうでもいい計算を真剣に考えてしまう。


「疑ってるの? 確かめよっか」


 不意に、二二型が身体を離す。と思うと、自分から帯に手を掛けて、


「うぉわっ! まずい、まずいですよ! こんな、廊下で」

「でも一歩入れば防人くんの部屋でしょお? ベッドもあるし、問題ないんじゃないかしら」

「べ、べべべべべ」

(ッド!)


 防人が止める間もなく、帯の結びを解いてしまう。そうして、


「ほぅら!」


 襟の合わせを左右に広げる。しゅんかん、まぶしい白い肌が目に飛び込んで来て、


「はぐ!」


 とっさに目をつぶってしまった。そんな防人に、


「もぉ! なんで見ないの? 目、開けて。ほら、早く!」


 うながす二二型。

 やむなく薄目を、


(ぅん?)


 全部まぶたを開くと、


「下、着?」

「あはは! 裸だと思った? もお! 防人くんのエッチ!」


 そこには、たっぷりと浴衣の前を広げた二二型の姿が。ただし、


「それに、下着じゃなくて水着よ!」


 そう言って、さっ、と閉じる。いっしゅんだが、白いビキニが防人の網膜に焼きついた。


「な、なんだ。水着、かぁ」

「そうよ。期待しちゃった? ふふっ、驚かせてごめんね」


 もう二二型は帯を締め直している。


「でも防人くん、ぜんぜん手を出さないんだもん。つまんない」

「すいません……って、なんでオレがあやまる」

「わたしってそんなに魅力ないのかなぁ。がっかりしちゃう」

「そ、そんなことないです。きさらぎさんは、こう、いいお姉さんっていう感じで、スレンダーで、真面目だけどいたずらっぽいところもあって、って思ってたけど、ちょっといたずら、酷過ぎっす」

「あはは! ごめん。……でも、ありがとう」


 二二型は、さっ、と身を寄せると防人の肩に手を添え、軽くつま先立ちで、


「へっ?」


 チュッ、その頬に、小さく唇を押し付けた。

 と思うと、


「うふふ、じゃあね! お風呂、沸いてるわよ!」


 手を振って、廊下を小走りに掛けて行く。

 その後ろ姿を、角を曲がって見えなくなるまで見送った防人。


「は、ぁぁ」


 自分も無意識で振っていた手を、気づいて下ろす。


「なん、だったんだろ……でもあれ、水着じゃないよな。下着だと、思います」


 なぜかひとり言もていねい語だった。

 そして二二型。

 廊下の角を曲がったところで、立ち止まる。壁にもたれて、


「……はぁ、はぁ、すっごいドキドキしちゃったじゃない。思わず水着って言っちゃった。ほんとは下着だったんだけど。でも、ぜんぜんなにも起きないし。ちょっと期待したんだけどなぁ」


 火照った身体を覚ますように、浴衣の襟元をつかむとパタパタ、扇ぐ。

 どうやら二二型、防人と「盛り上がる」ことで機体の性能向上を狙ったのか。しかし気持ちと身体の高ぶりとは裏腹に、そうした現象は起こらなかった。


「さつき隊長は自然になった、って。まだまだ防人くんとの「シンクロ」が足りないのかなぁ」


 言いながら、しかし唇は微笑む。


「防人くん、あれだけしても、なにもしないなんて。ほんと、キミって……」


 言葉を切り、思い直したように、


「でもそこがいいのよね、きっと。ぐんぐん押し倒されちゃったら、やっぱり違うって思うし」


 防人がその先にいる廊下の角を見つめて、


「あきらめないわよ、防人くん、わたし」


 つぶやく。

 その防人は。


「……(ぼーっ)」


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