10 集結
まさに、ドイツ空軍の戦闘機、金髪のBf109Fと銀髪のFw190Aだった。
しかし空軍機だけではない。
「海からも?」
『きゃあん!?』
サラトガが声を上げる。
彼女の周囲に、次々と浮上するのは、
「Uボートか」
UボートⅦ型、Ⅸ型、それにⅩⅩⅠ型もいる。
ことに最新のⅩⅩⅠ型は、水中千六百トン以上というグラマラスなボディーを、水中静粛性を保つため、なめらかなワンピース型の水着に無理やり押し込んでいる、というふうだ。
「どうしてドイツ軍が?」
「HAI! ジャップだけでなく、こんどはクラウツなの!? ジャップとクラウツは仲間だし、いっしょにミーたちを攻めに来たワケ!?」
「たしかに日本とドイツは同盟しているはず。けど、なにか、違う」
二二型の疑問は、F6FやF4Fもとうぜん感じていた。
結果的に、ドイツ軍機や潜水艦の出現は、サラトガや米艦上戦闘機たちを助けたことになる。
これが疑問に拍車をかけた。
迷いながらも上空で旋回を続ける各機。
そこへ、五二型にはBf109Fが、F4FにはFw190Aが並びかけた。
「話があります。いいわね」
「理由を聞かねばなるまいな。だが、どこでだ。われわれの空母まで来てもらうには、そちらの燃料が気になるが」
五二型の心配はもっともだ。
増槽タンクをつけているとはいえ、Bf109Fの航続距離は短い。
「ご心配、ダンケシェーン。話はあそこで。いちばん近くて、お互い手っ取り早いでしょ」
あそこ、とBf109Fが言って視線で示すのは、
「サラトガで、か。……おもしろい。付き合おう」
眼下の米空母サラトガだった。
驚く五二型だったが、すぐに冷静に計算する。理由も勝機もある、と踏んで、受け入れた。
「は!? わたしたちの空母に、降りる? ユーたちも? ジャップも!?」
こっちはFw190Aに話を持ち掛けられた米艦上戦闘機隊だ。F4Fを押しのけて、F6FがFw190Aをにらむ。
「キミたちに損な話じゃないよ。だっていま、現にぼくたち、キミたちを助けた、でしょ? ね」
笑うFw190A。ボーイッシュな笑顔だが、タフな一面ものぞく。
「いいでしょう」
「ワイラ! いいの?」
「サラの中なら、なにかあったときでも対応できます。ベンジーやディーヴァたちもいる」
「まぁ、そうネ。ワイラがそう言うなら、わたしは賛成ネ!」
こうして米軍機はもちろん、日本軍機、それにドイツ軍機も、空母サラトガに着艦することになった。
『えー、いきなりお客さま? ドイツからも? ぇええ、お化粧だって直してないのに、どうしたら』
戸惑うサラトガだったが、それ以上に、
「ま、また着艦! それもこんどは、アメ公の空母にぃぃい!?」
「長生きはするものじゃ。おもしろくなってきたわい。ちょうど着艦フックも付けたしのぉ」
半ばキレ気味、開き直りの隼、鍾馗だった。
「もう一時間は経ってる。攻撃は成功したろうかな」
誰もいない飛行場で、防人は空を仰ぐ。
もう陸軍のチハやハ号もいなかった。
とりあえず、やることがないので飛行場の復旧作業をしていた。
ひとりだが、やろうと思えば腕が掘削機になり、背中からは作業アームが伸び、脚はローラーになる。
ちょっとした人力よりも数段効率が良い。
「にい子やさつきさんたちが戻ってきたとき、着陸できないと困るからな」
そうしてようやく一本分のアプローチを復旧し終えたころ、
「ぅん?」
見上げていた青空に、機影。
みるみる大きくなって来る。真っすぐに、防人に向かって来ていた。
「防人さぁぁあああああんっ!」
「にい子?」
「防人さん! ぁぁぁぁ!」
「にい……のぅぉわ! おふごぶぇ!」
低空からとはいえ、そのまま突っ込んできた二一型。
防人にぶつかるように着地する。けんめいに受け止めようとした防人だが、もつれあって転がるのがせいっぱいだ。
「ぁあー、防人さん! 防人さん!」
仰向けに倒れた防人の胸に、顔をすりすり、擦り付ける二一型。とうぜん胸や腰も密着している。
「ぅうう……ぉ、おい! なにやってる」
「ぁ、防人さん! なんだか懐かしくって! 防人さんの匂い、くんくんふがふがしたかったですぅ」
「ふがふがは止めとけ。てか、懐かしいってほどか。それにまだ一時間も離れてないぞ。どうしたんだ。米艦隊攻撃は成功したのか」
ようやく事情を聞こうとする防人。
「はい! ええと、サラトガ? さんにさつき隊長やきさらぎさんや、隼さんもみんな着艦して」
「はああ!? サラトガってアメリカの空母だろ。なんで着艦……まさか捕虜になったのか」
「違うんです。急にドイツの人たちが、めっさー、しゅみっと? さんとか、ホッケがどうとかっていう人が」
「フォッケ・ウルフじゃないのか」
「そう、そうです! さすが防人さん!」
「さすが、じゃない! いや、いいんだ、続けてくれ。で、ドイツの空軍機がどうしたんだ」
「それで、なんです。防人さん! いっしょに来てください」
「来る……行くって、どこへ。どうやって」
「わたしといっしょに、サラトガさんまで、飛んで行くんです!」
「ふぁっ!?」
「は、はぁー、はぁー、はぁー、はぁー! し、死ぬかと!」
サラトガに着艦し、格納庫へ降りていく途中の防人。学生服の襟元を掻き合わせながら荒い息をつく。
「よかったですね、防人さん! 三十分で着きましたよー!」
「その三十分が、三時間にも感じられたぞ」
死相の浮かんだ表情で二一型を見る防人だ。
単座戦闘機の二一型に同乗者用のシートなどはない。
(胴体の中とかに無理やり何人か詰め込めないことはないって、そんな話、戦記もので読んだけど)
この場合、二一型にそんなスペースはとうぜんなく。ではどんな、といえば、
「しっかりつかまっていてくださいね、防人さん!」
「ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!」
ゆっくり低空を飛んでくれた二一型の速度がおよそ時速三百キロ。風が強い、なんてものじゃない。息もできない。
「きゃあっ! 防人さん、どこつかんでるんですかぁ! ぁんっ、そこは……!」
そんな二一型の反応も、それどころではまったくなく、なにをどこをさわっていたのかも覚えていない。
そうやってようやくたどり着いたサラトガの、格納庫。
「来たか」
五二型の姿がまっさきに目に入って、
「こんなとこにも来たの。あんたってあんがい無鉄砲っていうか」
隼の毒舌にも、安心する。
しかしなんといっても、格納庫を埋め尽くす他のアメリカ軍機、ドイツ軍機の目が圧倒的だ。
「男……」
「お、男だ。これが伝説の、男というもの」
「信じられないネ! ほんとに男なんて、いたなんて! ヘイ、ユー! 金のボール、ついてんのか! ネ!」
ほとんどセクハラのF6Fの言葉なども浴びながら、五二型に紹介された防人。
「中島、防人だ、です。武器はないけど、補給とかやってます。よろしく」
(てか、こう言うしかねーだろ。しっかしほんとに女の子ばっかなんだな。女子が武器、兵器の世界だから、とうぜん、ちゃとうぜんだけど)
「さて、そろったところで始めましょうか。俟った甲斐があるといいのだけれど。わたくしはフリッツァ、正式にはメッサーシュミットBf109F-4よ。おぼえておいてくださるかしら」
長い金髪の少女、Bf109Fだ。
ドイツ空軍の制服をきっちりと着こなし、目深に制帽もかぶっている。白いブーツがやけに目を惹いた。
「ぼくはフォッケ・ウルフFw190A-8だよ。へーえ、男の人って、なんだか不思議な匂いがするんだね。ふぅん、くんくん、くん」
「ぇ、うわ、ちょ……?」
不意に近づくと、無遠慮に防人の髪やら首筋やらに鼻を押し付けんばかりのFw190。こちらは制帽ではなく略帽を頭に留めるようにかぶっているのが、よく似合う。
フェミニンなBf109Fにくらべ、ボーイッシュな少女とはいえ、いきなりのスキンシップまがいには、
「ふぁえええ! だ、ダメです! 離れてくださいぃ! 防人さんから離れてぇ!」
「そうよ! なんなのあんた! いきなりくっつかないでよ、ウチの補給男に!」
二一型はとうぜんとして、なぜか隼までが憤る。
これに、
「はいはい、冗談! 冗談だってば。でも、ふふん、みんなこの防人って男の人が好きなんだ」
そう言って離れるFw190Aの言葉に、
「はい、大好きです! ……って、えええ、ぁああ!」
「な、なに言ってんのかしら! ドイツ機って、ジャガイモ食べ過ぎなんじゃない!」
いったんは言い切るも、みるみる真っ赤になってしゃがみ込む二一型と、赤い顔で勢いだけはよく反論する隼だ。
「あはは! よくわかったよ。よーく、ね! そっちのキミは、艦上機じゃないね。ちなみにぼくたちも、ここへ来るために着艦フックをつけて来たんだよ、ほら!」
ぴょん、とお尻を向けると、キュン、と着艦フックを立てて見せるFw190A。振りはしないが、まるでしっぽのようだ。
緊張していた格納庫内が、Fw190Aの子犬のようなしぐさでいっきになごんだ。
が、
「アー、もぉ! いつまで茶番をやってるデスか! いいかげん、待ちくたびれたネ! さっさと始めるデスよ!」
やはりキレ気味のF6Fと、
「お待たせしました~。さぁ、始めましょう! って、あら、わたしを待っていたんじゃなかったんですか。おほほほ、やだ~!」
そのF6Fをパチン、と叩くのは、
「サラトガ、さんか? ああそうか、艦の形になってるから」
二一型といっしょに降りるときも、人型ではない艦状形態だった。つまりいまは戦闘状態ではなく、ゆえにコアを離れて自由に動けるのだろう。
ところどころピン! と立った、長く、腰までも垂れている赤毛の髪。
満載で四万トンをはるかに超える排水量を誇るかのような、制服がはちきれるのでは、というほどの巨満なバストが視線を吸い付ける。
「な、なるほど。ぁ、でも赤城さんや長門だって」
なぜか、思い直す防人。
そんな気持ちが現実になったように、
「あ! 来ましたよ、防人さん! 長門さんに、赤城さん、それにみんな!」
二一型が気づいて手を振る。
解放されたシャッターから、舷側が切り取られたように大きく開いたその向こう。海上に日本艦隊が近づいてきていた。
「そうか。オレだけじゃなかったんだ!」
防人の言うとおり、日本側の艦隊もまた、報告を受けて合流のため、向かって来ていたのだ。
連合艦隊もまた、戦闘状態を解いた艦状形態。
すぐにカッターボートで、赤城と長門が乗り移ってきた。
「来たわよ! へーぇ、アメリカの船って、こんなふうになってるのね。初めまして、わたしは長門。以後、お見知りおきを」
敬礼する長門と、
「赤城です。ふぅん。大事な格納庫をあんなに開け放っちゃって。恥ずかしくないの。アメリカ女性って、なんていうのかな、慎みっていうものがどうも、足りないみたい? まぁいいけど」
腕組みしたまま、会釈する赤城。
どうもその腕組み。
胸を押しつぶるのではなく、下から持ち上げるようで、
「あれって、必要以上に大きく胸を盛るためなんじゃ……。でも、やっぱり排水量じゃ、負けてないか」
防人がつぶやくまでもなく、そんな赤城の意図は筒抜けだったようで、
「あら! ジャパニーズエアクラフトキャリア、赤城、ですね! 会いたかったわ! アジア人が作ったにしてはいい線行ってるってうわさだったけれど……そうね、グッド! すばらしい艦ですね!」
途中、じろっ、とサラトガの目が、赤城の胸へと突き刺さる。
そして誇るように、自らも両腕を胸の下で組む。
ますますグッ、と突き出されるサラトガのバスト。推定でトップ百センチは超えているのではないかと思わせる。
「トップとアンダーの差、どのくらいだというの。Hカップ……ううん、Jカップは下らない」
長門も目を回すほどだ。
「な、なによ、それくらい!」
「よしなさい、赤城。転進、いえ、戦術的撤退もときには必要よ」
「くぅ、ぅぅ!」
そんな流れを断ち切るかのように、
「これでほんとうに各国軍のおもなメンバーがそろったみたいね。それでは始めさせてもらいます」




