ハーレム万歳!
「やだぁ、勇者様ったらドコさわってるの」
「もう、アンジェにばっかりずるい!」
見目麗しい美女達が、俺の周りを囲んでいる。ふるんふるんの胸、すらりとした足、雪の様に白い肌、ぷりっとしたお尻。どの娘も魅力的で、俺は鼻の下が伸びそうになるのを必死で堪える。
「勇者様ぁ、お腹すいちゃったぁ♡」
「お風呂入りたーい。お腹も空いたー。」
うんうん、控え目な胸も良いよね。獣人モフ耳もグッとくるわぁ。みんな、なぁんて可愛んだろう。
「分かった分かった、みんな仲良くね。どこか宿屋にはいって休憩しようか」
俺の可愛いパーティメンバーである4人の女の子達を引き連れ、俺は街の宿屋へ入った。
やあ、俺の名前は翔太。
実はワラ・エネーノという世界に迷い込んでしまったんだ。トラックに轢かれそうになった少女を助けようとして……ではなく、駅の公衆トイレでズボンを下ろして座っている時に召喚された。あの時はビックリしたよ、気付いたらたら俺の周りに人が居るんだから。用を足した後で良かったと、本気で思ったよ。
周りを見渡すと、そこはテレビで見たようなヨーロッパ風の豪勢な部屋だった。いかにも魔法使いだろ的なローブを纏った人達が、何か模様が描かれた円陣を囲み、そのすぐそばには、やはり王様だろ的なマントと王冠を乗せたぽっちゃりお爺ちゃんが居た。ライトノベル展開キターーーーって思ったね。まあ、その俺の初登場は残念ながら、ズボンとパンツを下ろした格好だったんだがな。召喚するなら召喚するって言ってよ。
そして俺の心の奥底で飼っている厨二病が、ウズウズするような展開が待っていた。
「召喚されし者よ。そなたはこの世界に、平和と安寧をもたらすべく遣わされた神の使い。どうか、魔物にさらわれた我が国の姫君を救い出して欲しい。」
そして、俺はワラ・エネーノの平和を守るべく、戦いの旅に出る事になった。その中で出会った彼女達は、俺の大切な仲間だ。仲間以上の感情を抱いていると言っても良いだろう。皆可愛くて俺にゾッコン。ゆくゆくは全員と結婚出来たらと思っている。むふふ。
ふふ、ここで俺の嫁候補達を紹介しよう!
パーティきっての攻撃力、ドワーフでファイターのアンジェリカ。彼女は小柄で童顔ながら、素晴らしいプロポーションだ。あの胸は何カップあるんだろう……。ふにふにとした肌質からは、想像を絶するパンチを繰り出す。あの子のボディブローは死の淵を彷徨うぜ。何故知ってるかって?むかし色々あったんだよ!
魔法の腕はピカイチ、エルフのロジーナ。長い耳と白い肌、そしてすらっとしたきれいな足を持つ女の子だ。ロジーナは意外にやきもち焼きで、あまりに俺が他の女の子にかまうと、どエライ雷魔法を打ってくるんだよ。どこかの押しかけ鬼っ子宇宙人みたいだよね。そんなトコも可愛いよ。
次に甘え上手の踊り子、エスメラルダ。俺と同じ人間だが、褐色の肌と宝石のようなグリーンの瞳を持つエキゾチック美女だ。これがまた可愛くおねだりしてくるからたまらない。何でも聞いてあげたくなっちゃう。彼女が放つ魅惑的なダンスは、パーティの攻撃力や防御力を一時的に底上げしてくれる。また博識であらゆる言語や伝承に通じていて、才女な面も持ち合わせている。いいね、ギャップ萌え。
最後はうさ耳獣人のウナ。彼女は元気いっぱいのハツラツ少女だ。胸はパーティ随一の小ささ。いや、片手に収まる控え目な胸とは、奥深いものがあるんですよ。彼女が得意なものは狙撃だ。離れた所から打ち出される弓矢は、相手の眉間を1発で貫く。ぷりっとしたお尻に生えている、小さな尻尾を触りたいと思っているのは内緒だ。
そんな個性豊かで愛しいメンバーを従え、俺は旅を続ける。目標は攫われた姫君の奪還だ。きっと可愛らしい姫に違いない。ここまでお約束なら、攫った魔物も、きっとキュート女の子に決まっている。俺はワクワクしながら旅を続けるのだった。
おっと、ここで俺の秘密をちょっとだけ教えよう。実は俺、ひとつチートな能力を持っているんだ。その名も「魅了」。実際チートかどうか分からんけども、チートって事にするんだ。響きがいいから。戦闘にはてんで役に立たない能力だが、この力がある限り、俺の未来は絶対的に明るい!
ハーレム万歳!
ちょっと興奮してしまったな。失礼。さぁ、愛しのハニー達ときゃっきゃウフフな休憩をしようじゃありませんか。レッツ宿屋っ。
「お部屋はどうなさりますか?」
宿屋の主人がニコニコして問う。俺はもちろん皆同室で!と叫んでしまいたいのだが、前にきつく約束を交わしてしまったのでそうはいかない。
「2部屋借りたい。俺と彼女達は別々で」
何てったって、まだ未婚だしね。別に未婚でも良くね?って俺は思うんだけどさ。前強引にひと部屋にしようとしたら電撃バリバリされちゃったし、ここは未来の妻達のために我慢しちゃうよ?
「大浴場は男湯と女湯に分かれております。家族風呂といって、ひとまわり小さな風呂場を貸切にでも出来ますが、いかがいたしましょうか?」
なんと、ここには合法混浴風呂がありましたか!俺はつい桃源郷のような想像をしてしまった。生まれたままの姿を、恥ずかしそうに隠す彼女達。俺はみんなを隅々まで洗ってやって……
「ご主人、風呂は別々で入ります。家族風呂は必要ありません」
そう言ったのはエルフのロジーナだ。店の主人は「分かりました」というと奥に引っ込んでいった。俺がすぎく残念そうな顔をしていたんだろう、エスメラルダが覗き込んできた。
「ごめんねぇ、勇者様。だってねぇ、恥ずかしいの。あんな所や、こんな所、勇者様に見られたくないの」
ウルウルとした瞳で訴えられると俺も弱い。
「ね?」と首をかしげられると、俺は言いなりになる術しかないってば。そしてそんな恥ずかしがるエスメラルダ達を想像したら、なんかいい気分になってきた。
「いや、それで構わないよ。俺は先に部屋で休んでいるから、みんなで先に風呂に入ってくるといい」
俺は爽やか120%で言う。うん、仕方ないね。みんなが裸の付き合いをきゃっきゃしてる間に、俺は修行でもしていよう。うんうん、それがいい。
この手が出せそうで出せない雰囲気も、そそるよね。やっぱりお楽しみはとっとかなくちゃ。俺はみんなの生まれたままの姿を想像しながら、1人部屋に向かった。
ふっふぅ、ハーレム万歳!
◇
所変わってこちらは女湯。
男と別れた女達が、次々と服を脱いでいく。
「アンジェの胸って何食べたらそんな大きくなるのー?」
「そんなの知らないよー。あんまり大きくても困るんだよー?」
「困るとか言ってみたーいっ」
華やかな彼女達の会話は、寂れた宿屋の大浴場を賑やかにしていく。
「うわー、相変わらずロジーナの肌しろいわぁ。キメ細かい、うらやましー!」
「何言ってんの、エスメラルダだって綺麗な肌してんじゃない。色っぽいっていつも言われるでしょう?」
手ぬぐいひとつ持って、湯に浸かる彼女達は、揃って息を大きく吐いた。
「「「「あー、お風呂さいこー」」」」
まだ外は明るい。日の光が反射して、浴室の壁がキラキラしている。水面からうきあがる湯気は行き場がなく、ちゃぷんと跳ねる水音と共に高い天井に吸い込まれていった。
長い耳を持った色白の女性——ロジーナと呼ばれていただろうか。その彼女が手でお湯をすくい、自身の顔をにパシャっとかけた。まつ毛や唇に付いた水滴がキラッと輝いて、いっそ幻想的でもある。
その彼女が、ポツリと漏らした。
「ああ、もう……」
すると隣にいたドワーフの女の子アンジェリカがヨシヨシと頭を撫でた。気持ちは分かる、とでも言いたげである。すると、うさ耳をへにゃりとタレさせた少女ウナが、声を低くして吐いた。目が怖い。
「本当、いい加減にしてほしい」
褐色の肌を持つセクシー美女エスメラルダがうんうんと頷く。
そして皆、大きくため息を吐いてこう揃えた。
「「「「あのセクハラ勇者野郎……」」」」
以下、彼女達のたまった鬱憤である。
「本当、あいつ何様のつもりなの? 人の胸ジロジロ見てさぁ。まじで勘弁。」
「……頃合い見て助けてあげてんでしょー?『アンジェばっかりズルい!』って。でも、ほんと節操なしで困るよねぇ。何がハーレムだっつの」
プンプンと怒るアンジェリカに、ロジーナが呆れた声で賛同する。一方、元気っ子キャラのうさ耳ウナは、普段と全然雰囲気が違う。
「あの野郎、絶対一緒に風呂入るつもりだったよな」
「ウーナっ、いつものキャラ崩れてるわよぉ?」
そう注意するのはエスメラルダだ。
「だって、あいつ本当うざいんだもん!自分に魅力あるとか勘違いしてるんじゃないの?国王から高額の報奨金で頼まれてなきゃ、こんな仕事絶対しない!」
「それはそうねぇ。あたし達の仕事は、『勇者が途中で逃げる事なく、上手くおだてて誘導する』ですもんね」
そうそう、と皆縦に首を振る。
「ねえ知ってる? あいつ、私達と結婚したいらしいよ? 」
そう言ったのはアンジェリカだ。ふわふわの胸が若干お湯に浮いている。
「え、何それあり得ない。」
「ねえロジーナ。そう言ってたのよね?」
「そうなのよ。聞いた時ゾッとしたわ」
うわーっという他3人の表情は心底嫌そうだ。
「ていうか、4人と結婚するつもりなのぉ?普通に重婚じゃない。法律違反」
こうこぼしたのはエスメラルダだ。
「あいつこの4人満足に養うだけの生活力なんてないでしょ。何にも出来ないもん」
ケラケラ笑いながらアンジェリカが言う。
「顔平たいし、好みじゃない」
ばっさり言い捨てたのはウナだ。
「「「言えてるーっ」」」
「だいたいさ、同じパーティ内で1人の男に女4人が同時好きになってるシュチュエーションてどうなのよ」
「ありえないわぁ」
「他の女にただ可愛くて嫉妬して終わりとか、無いわね。誰か1人を選んでもらうまで、醜い女の争い勃発よ」
「本当ね。そんな人間関係御免だわ」
「でも男の方は、みんな平等に愛してるとか言うんでしょう?そう言っておけば女の中で争いなんか起きないとでも思ってんのかしら」
女だけが集まった会話とはどうしてこうエグいのだろうか。話は嬉々として続く。
「そもそも、魔物と戦うパーティを女だけで組む辺りあり得ない。私ファイター枠だよ?肉弾戦だよ?男の方が圧倒的に向いてるに決まってんじゃん。ウエイトもパワーも、男には勝てないっつの」
「確かに。私より魔法がうまいエルフだっているのに、私に言い寄ってくるんだもの。……おっさんエルフだから嫌だったのかしら。私、枯専だから渋いオジ様が勇者だったらまだ我慢出来たわ」
「あら、あたしなんて踊り子よぉ?戦いもしないでみんなのそばで踊ってるなんて、本当に虚しいんだからぁ。それだったら付与魔法使いのおっさんに声かければ良かったのよぉ」
「確かに戦える女の子増えてるけど、あくまで戦闘における主要員は男よ。なのにこんだけ女の子侍らせてるなんて、頭がおめでたい証拠だわ。何度あの頭をぶち抜いてやろうと思った事か」
畳み掛けるウナと、それにうんうんと頷く3人。
ここでエスメラルダが、声を潜めて3人に話しかけた。
「ねえ、なんであの人が選ばれたか知ってるぅ?」
「え、召喚されたからじゃないの?」
「あの人、選ばれて召喚されてるのよぉ」
「何それ初耳」
「本人には絶対内緒よ? あのねぇ、姫様を攫った魔物ね、そいつがスゴい要求してるのよ。お姫様を返してほしくば、って。その要求聞いた時笑い出しそうだったわぁ」
「焦らさないで教えてよー」
エスメラルダの話に聞き入る3人の目は好奇心に溢れている。
「姫様攫った魔物の姿覚えてるぅ?」
「実際見たわけじゃないけど、筋骨隆々の男の魔族なんでしょう?角生えたり翼生えたりしてるって話だけど」
「そうそう、そいつ。ムキムキの男。そいつの要求はね、若くて可愛くてちょっとおバカな、お と こ の こ ♡ だったのぉ」
「「「……はあー!?」」」
思わず身を乗り出す3人。
「ちょっと声大きい」
「ちょ、え?じゃあ何?この旅って……」
「そう、魔物好みの男の子を、姫様と交換する旅。しかも、宮廷の魔法使いが、魔物相手にだけ発動する『魅惑』の魔法を付与してるらしいわぁ」
「わぁー……不憫……」
「でも、あんがい上手くいくかもよ?魔物と勇者のカップル。……だめだ、笑える!」
「そういえば、あいつの名前何だっけ?」
「興味ないから知らなーい。勇者様って呼んどけば、あいつご機嫌だもん」
「確かに」
「わー、ひどーい!あはは!」
女は役者とは誰が言ったものだったか。これが世の女の本音なのだろうか。彼女達の嬉々とした声は、湯気と一緒に消えていったのだった。
◇
やあ、ワラ・エネーノの救世主・翔太だよ!
俺の愛しの仲間たちはゆっくり風呂に入れたのか、スベスベ艶々している。何だかとっても元気そうだ。良かったね。
「じゃあ、お腹も減った事だし、みんなでご飯でも食べようか」
アンジェリカ、ロジーナ、エスメラルダ、ウナの湯上りの顔が何とも色っぽい。みんなにこりと笑った。
「「「「はぁい、勇者様♡」」」」
ああ、その微笑みは反則だぜ。
やっぱ最高に可愛いね、俺の女神達。
ハーレム万歳!
夢がぶち壊れですね。すいません(; ・`ω・´)笑
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