旅立ち2
「いや、ユリ待たせて悪かったな。怒ってる?」
ユリを忘れてたことをなかったことにすべく、俺は片手を上げながら近づき遅れた謝罪をする。
これによって話はこっちに傾くはず!
「……怒ってない。」
「ほっ、なら良かっ……」
「……私を忘れてたことを怒ってる。」
「えっ?」
やべえ、ユリがガチおこだわ。
目が鋭くこっち見てるし、両手に短剣握ってるしおまけに…。
「お、落ち着けユリ。と、とりあえず短剣を懐にしまえ。あと尻尾と耳をそんな逆立てるな。」
「……私のこと2度と忘れない?」
「忘れない!忘れないから!(多分)」
「……ならいい。」
俺の言葉に納得できたのか、短剣を懐にしまってくれた。
それと同時に尻尾はいつも通り垂れて、黒髪から出てる獣耳もピコピコ動いている。
た、助かった。
「……じゃあ頭。」
「うん?ああ、撫でればいいのか。」
「……それで許す。」
言葉足らずだがユリとは10歳の頃から一緒の為、この程度のことは分かる。
要するに『頭撫でないと短剣刺すぞ』ということだ……自分で言ってて訳分からん。
いや、やるけども。刺されたくないし。
「これでいいのか?」
「……ん。」
ちょうど腕を少し上げた場所にある頭を軽く撫でるのはいいんだが。
撫でる度に尻尾がブンブン振るえてまるで犬みたいだな。いや正確には狼か。
だってユリは狼の獣人だもんな。
獣人。書いて字の通りの獣と人が合わさった様な姿をしている種族だ。
全員、外見は人型であるが耳は人とは違く獣のもので、人にはない尻尾が生えている。
それ以外は人と一緒。
ただ、身体能力がこの世界にいる種族のなかでもベスト3に入るうえに、獣の特性により音や匂いにも敏感なのだ。
そして尻尾はモフモフだ。
ここ重要な、テストに出るぞ!
ちなみに俺と母さんは普通の人。前世の地球人と一緒。
獣人と違い身体能力は全種族中、中の下であるが魔法に必要な魔力が多く存在している。
その為、戦士や剣士よりも魔術師になる人の方が多い。
「……ジルそろそろ。」
「そうだな、行くか!」
ユリの頭から手を離して村の出口まで2人で歩いて行く。
途中で会った村の人達と別れの挨拶をしながら一番近い都市バージョへと続く街道へと着き、その道を進んで行く。
バージョまでのこの道は整備されているから魔物が現れることはほぼ無い。
「バージョについたら役所に行かないとな。」
「……そこで冒険者登録。」
「うん。最初は最低級モンスターの討伐か簡単な材料採取程度で、対して難しくはないけど報酬が高くないから数こなさないとなぁ。」
歩きながらも今後のことを考える。
この世界では冒険者となる為に、まず都市の役所に行き登録をする。
そして最低級と呼ばれる、1番危険性が低い依頼を受けられるランクから、冒険者として生活を開始するのだが。
いかんせん報酬が安い。
一般人でも可能な最低級モンスター討伐や材料採取には、それほどの報酬がつかないのだ。
手持ちの金も無いことはないがゆっくりとしている程の余裕もない。
……今日中に1つくらい依頼受けたいな。でも着くのは夜頃になりそうだし。
うーん……あっ、そうだユリがいるじゃん!
「ユリ!早く着いて依頼受けたいから魔法使って。」
「……使うのはいい。けど…。」
「けど?」
「……早くても昼過ぎにしか着かないし、私がすごい疲れる。」
あ〜。確かにあれ魔力の消費がハンパないって言ってたな。
魔法を使いすぎて魔力が尽きてくると疲労感に襲われる。
ユリは獣人の中では魔力が多い方だし体力も凄いけど、多分途中で休憩いれないといけなくなる。
「じゃあ適度に使って行ったら大丈夫?」
「……少し着くの遅れるけど。」
「それで良いよ頼んだ。」
「……ん、じゃあ手。」
「おう!」
ユリの手を握る。
次の瞬間、周りの景色が変わり後ろに村が小さくもまだ見えていたのに……消えた。
「相変わらずだな、ユリの瞬間移動魔法は。」
「……でも魔力消費多い。」
ユリは少し疲れたように言った。
瞬間移動魔法は目に見えている範囲に移動または、見えている範囲の物を移動する魔法だ。
はっきり言ってチートだよ!
だってユリと模擬戦した時、ドーム型にバリア張って防御完璧だと思ったら、瞬間移動してバリア突破されて首元に短剣突きつけられたよ!
その時のユリはさ『バリア?それがなに?』みたいな顔してるし……。畜生‼︎
「……ジル?」
「あ、ああなんでもない。とりあえずもうしばらく行こっか。」
「……うん。」
途中で休憩を挟みながらそのまま瞬間移動を行って、昼も大分過ぎバージョまでもう少しで着くという時に魔物が現れた。
……ファ⁉︎なんで?
「魔物が街道に出てるのに遭遇するとかどんな確率だよ!」
「……落ち着いて、あっちは戦う気。」
確かに目の前の魔物達を見ると、棍棒や剣を振り上げてこっちに向かってきてる。
正直、逃げるのもありだけどそれだとここを通る一般人に被害がでるかもしれないし。
仕方ない。やるか!
覚悟を決め魔物と戦うことを決める。初めての対魔物戦だ。
と言っても俺のすることは防御なんだけどね、攻撃はユリがやってくれます。
頑張れ〜!ユリ〜!




