旅立ち1
俺は日本に住む普通の高校生だった。
いつもと同じように学校への電車を列に並びながら待っていた。
そしてちょうど電車が見えた時だった。
背中を誰かに押された。
「えっ?」
突然の出来事に列の一番前に居た俺は、体制が前に崩れて線路に落ちた。
そこからの記憶は無い。
なぜなら死んだのだから。
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と言う風に前世の俺はあえなく死んでしまったわけだ。
ちくしょう!誰だよ後ろから押した奴!今でも恨んでるからな!
あっ、でも少しだけ感謝はしてます。なぜなら……。
「剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わらせてくれたんだから。」
電車に轢かれてグッバイした後、気がつけば赤ん坊になってました。
最初は何がなんだか分からなかったが、成長して情報を集めていくと。
自分が生まれ変わったこと。そしてこの世界が魔法あり、魔物あり、異種族ありのファンタジーだと判明した。
その瞬間、舞い上がる程嬉しくて、本当に舞い上がったら母さんにゲンコツを喰らった。
しかも、強化魔法使った拳で。
何もそこまでしなくてもいいじゃんと、頭抱えて当時の俺は悶えていた。
あれは本当に痛かった……。
ま、まぁ。そんなこんなでせっかくだから魔法を試したいと思ったが、そもそも魔法ってどう使うの?となり。
急いで母さんに聞きに言ったら。
「魔法が使いたい?10歳前後になったら自然と自分が使える魔法が現れるから待ってな。」
絶望した。なんだよ!10歳までお預けかよ!後5、6年はあるじゃねぇか!
あまりの長さにショックを隠せず叫んだらまたゲンコツを喰らった。
これも大分痛かった……。
そんなゲンコツの痛みに耐えて、魔法が発現してから6年がたった。
魔法についてはほとんど独学ではあったが、基本的なことは母さんが教えてくれた。
①魔法は魔力により発生させる。魔力が無ければ魔法は使えない。(魔力は魔法を使っていくことで増えていく。)
②魔法は1人1つの種類しか使えない。これは選べずどんな魔法が使えるかは、10歳前後になるまでわからない。
③魔法は魔力量により発生時の威力が変わる。多くの魔力をこめれば、その魔法の威力は高いものになる。
この3つである。このことを気にかけながら苦節、16歳の今日まで魔法を極めてきたのだが……。
(なんで発現した魔法が防御魔法なんだよ〜⁉︎)
10歳の時、どんな魔法が使えるかワクワクしてた。
火、水、風などの自然系、強化や付与などのサポート系などを想像していたら、これである。
別に需要が無いわけではない。特に戦争時は敵の攻撃から味方を守るのに有益だが……。
自分から攻撃ができねぇ!
せいぜい出来て、相手を防御結界の中に閉じ込める程度だよ!
「魔法で魔物をぶっ飛ばすのが夢だったのに出来ねぇじゃねぇか‼︎」
「うっさいよ!馬鹿ムスコ!これから旅に行く時くらい静かにしな!」
叫んだら怒号と共にあのゲンコツが飛んできた。かつて俺の頭を何度も痛めつけたあれが。
だがしかし、今の俺はかつてとは違う!
即座に防御魔法を頭上に発動させる。丸い半透明の板が現れ、母さんの拳を受け止める。
やった!勝った!
「甘い‼︎」
「ぐへっ⁉︎」
もう片方の拳のストレートが俺の腹に突き刺さり、体が軽く飛んだと思うと床に叩きつけられた。
それは反則だろ…!
「ふん。防御するなら全身に防御をかけろといつも言ってただろ?」
「だ、だからって…おごご!腹が。」
強化魔法を使わずに殴ってくれたのか、いつもより痛さは少ないが、痛いもんは痛い!
それでもなんとか立ち上がり母さんに向き直る。
「これから旅立つ息子の腹にパンチはないだろ、パンチは…!」
「なんだ文句があるなら、もう一回くらいやるかい。」
「すんませんした〜!」
ギラリと光った目と振り上げられた手を前に、俺は速攻で土下座した。
いや、だってこれ以上殴られでもしたら。
ようやく冒険者として旅立つことを許されたのに、旅立つ前に死んじゃうよ。
「反省してるんならさっさと行きな。玄関でユリはもう待ってんだよ。」
「やっべ!そうだった。」
実は興奮のあまり昨夜寝つけず、朝起きると出発の10分前だったのだ。
急いで準備するも……たった10分で旅支度ができるわけもなく、もう30分も遅れてしまっている。
ユリの奴、怒ってるかな?
「じゃあ俺、ジル・シンフォード並びにユリ・ピリシアは冒険者として旅立ちます!」
「おう、死ぬんじゃないよ。死んだって聞いたらあの世まで行ってゲンコツ喰らわせてやる。」
「まじかよ⁉︎」
母さんが言うと案外できそうだから困る。
こりゃあ簡単には死ねないな。いや、死ぬつもりは毛頭ないけど。
「じゃあ母さん行ってきます!」
「行ってきな。そして、その小さな目でデケェ世界を焼きつけて帰って来い。」
玄関の扉に手をかけ開く。
開いた先には村と恐らく暫く待っていた為、不機嫌な顔をしてるユリが見える。
いつも見てる光景だ。でも、これからは違う!
未知の土地や人、魔物やダンジョンが俺を待っている。く〜!ワクワクしてきた。
「俺の冒険はこれからだ‼︎」
扉を閉め片手あげて意気揚々と叫ぶと。
「……私は?」
ユリのそんな声が聞こえた。
うん、ゴメン。顔見えてたのに一瞬忘れてた。




