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篩に掛ける  作者: 相沢信機
1/10

色褪せぬ紫蘭色の思い出

「私達、別れよう?」


 ……は?


 無意識に間抜けな声が漏れた。遠くで落ちた雷の音を聞く時と同じぐらいのタイムラグを経て、今の状況を飲み込んだ。


 俺は彼女に振られた。僅か3週間という、あまりにも儚い幸せが終わりを告げたのであった。


 よりにもよって、校門前で、だ。


「別れようって……何でだよ?」


 折角この手で掴み取ったんだ。

「はいそうですか。分かりました」

なんて風に承諾してくれると考えるほど馬鹿じゃないと、お前は解ってるだろ、蘭子。


 お前は童顔だが美人で大人っぽくて、文武両道で、何より自分の気持ちを隠さずストレートに言う。俺はそこに惹かれた。


 だからこそその衝撃はでかかった。


「やっぱり勉強の方が大事だから」


 視線と共にそう訴えかけてきた。天気は空気を読まなかったが、紅く色付いた空が演出に買って出た。


 これから薔薇色だった日々が明日には燃えカスになるだろう。いや、灰色に埋もれても、まだ火種は尽きちゃいない!


「待てよ!」


 だから食い下がる。刻々と落日が迫っているが、まだ時間はある!


 それに対し蘭子は溜息を漏らして踵を返そうとする。

もういい加減にしてよ、しつこいし。


言葉に変換するとこんなところだろう。

 そういうお前はあっさりしすぎだ。俺の気持ちはどうなるっていうんだ?


「ほんっと……男って馬鹿ね」


「なんだと……」


 そっくりそのまま返された。


 蘭子の顔から失望と軽蔑の色が見て取れた。


 或いは、それらを通り越して憐れみの色かも知れない。


「あんたの方こそ、私の気持ちを考えた事があるわけ?」


「……!!」


 彼女への執着心。それに致命傷を与えるには十分な詰問だ。


 これが「ぐうの音も出ない」というやつか。


 虚を突かれ、胸を貫かれ、今の俺は目を大きく見開いている。物理的にそうされたように。


 俺は何も解っていなかった。


 紫香楽蘭子しがらきらんこを自分の都合のいいように作り替えて、それが実在する彼女だと錯覚していた。


「だからね、振井くん。私決めたから」


 やめろ、そんな冷たい目で俺を見るな。


 告げられたのは火の消えたような俺への駄目押しであり、彼女の確固たる決意の表明であった。


「男なんかに頼らないで生きるって」


 ああ、もう……誰にも止められない。


 まして俺にはそんな筋合いも気力も残されてはいなかった。


 あいつの足取りは淀み無かった。俺を断ち切って、赤黒く彩られた景色へ進む。


 数日後、あいつは県外の高校へ転校していき。蘭子が再び俺の前に現れる事は2度と無かった。

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