表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/39

LIVE.9 そして、薙杜 メイは死んだ。

 メイの左腕を、激痛が襲った。


「ぐぁぁぁぁあっ!?」

「メイっ!?」


 メイは、うずくまり顔を歪めた。


 銃撃にあったのだと理解するのに時間がかかった。


 玄武は狙撃してきた方向を見る。

 どこからかは分からなかった。


 白と赤のまだらな死の壁は、

 また二人に迫ってきていた。


「大丈夫か!?」


 ドクッンッ


 玄武が声をかけてくるが、メイはそれをどこか遠くに感じていた。


 身体の異変にメイは叫んだ。


「玄武さん、変だ、痛いとかじゃない、熱いッ!!」


「は?」


 メイは、被弾した場所からブワリと広がる熱に、異常を感じた。


「なんだ、これ、玄武さんッ!

 腕が、脈打ってる!

 生き物みたいにッッ!?

 なんなんだよ、コレッ!?」


 見ると、左腕の傷口から、波を打つように血管が蠢いている。


 玄武も、大きな瞳をさらに開かせた。


 ドクッン……ッ


「ぅああっ?!」


 メイは跳ね上がり、痛みに耐えた。

 自分の左腕が別の生き物のように感じた。


 身体に爆弾がしかけられたような感覚だった。

 底知れない恐ろしさに襲われ、

 メイの血の気が一気に引いた。


「熱い、燃えちまうッ」


 痛みにメイの顔は歪む。


「異人は、今まで銃撃などして来なかった……、新兵器なのか?」


 呟く玄武は、額に大粒の汗をかいていた。


「見せてみろ!」


 玄武はメイの左腕に触れる。


 じゅうっ!


あつッッ?!」



 ボコ、ボコボコボコッ



 メイの血管は、見てわかるくらい激しく脈打っている。


 左腕だけだ。

 物凄い高温である。

 激しい脈動は、移動するように腕の付け根に向けて上がってきている。


 身体全体を侵食するように。


「……いかんっっ!」


「ぐぁあッ、熱い、腕がっっァァッ」


「メイ、許せ……!」


 玄武は、一度硬く目をつむる。

 そして、錫杖を振り上げ、メイの腕の付け根目掛けて振り下ろしたッ!


「あああああっ!?」


 メイの左腕は切り落とされる。

 玄武が錫杖で切断したからだ。

 これには、メイも何が起こったのか全くわからない。


「耐えてくれ、メイッ」


 ごとり、と自分の左腕が落ちる。

 左腕は、しゅうしゅうと蒸気をあげて、発熱している。


「俺の、腕が……?!」


「触るなっ! 火傷やけどではすまないぞ!」

 玄武は、左腕に触れようとしたメイに一喝する。


 切り落とされた左腕の切断部分から、ボコボコと血液が流れ出る。

 しゅうしゅうと蒸気があがる。


 みるみると肌がしぼんでいき、シワだらけになると、あっという間に動きがなくなった。


 左腕の肌は、まるで、老人の肌のようになっている。


「これは……ッ??」


 玄武は、穴があくほど左腕を見つめた。

 そして、合点がてんがいったのか、

「まさか、あいつら……、そんな、」

 と呟く。


 鬼気迫った顔に、メイは訳がわからないまま、ただ玄武を見る。


 ぼたぼたぼたっ


 メイの左腕から、流血が止まらない。

 玄武は、自らの式服を破り、止血を施した。


「あの熱が、身体に広がればどうなるかわからんかった……。許してくれ」


 玄武は、口をへの字にして詫びた。



「メイ、おそらく、予想が正しければ、

 異人どもはとんでもない兵器を開発しやがった事になる……」


「玄武さん、それは一体どういうこと……?」


「まだ、わからん」


 片腕をなくしたメイは、ヨロヨロと立ち上がる。

 ぐっと前を見据えて右手で鎌を構えた。


「こんなとこで、終われるかよッ」


 ブルブルと震える両足は、メイが普通の14歳の少年である証拠だった。


 すでに、二人は再び異人たちに取り囲まれていた。


 銃を持っている様子はない。

 全員、鎌を持っている。


「数がいすぎる、宮仕えは皆、やられちまったのか……!?」


 とメイは、悔しそうに吐き捨てた。


 二人は鉄の扉を背に、異人たちと対峙した。


「メイ、地下へ降りろ。

 ここは、俺がなんとかする」


 玄武は異人を睨みつけたまま、メイに言う。


「絶体絶命ってトコかな?」


 この状況下でも、メイは場違いに明るい声を出した。

 これにはさすがの玄武も驚き、メイに振り返る。


「メイ?」


「玄武さんには、ガキの頃世話んなった。

 今も、命を助けてもらった!

 だから、見捨てない!

 置いていかない!

 俺たちは二人とも死なないっ。

 二人とも、なんとかしてみせる!」



 メイは、脂汗あぶらあせをかきながら、啖呵たんかを切る。


「っははは、恐れ入ったよ、闇の眷族。

 立派になりやがって……ッ!」


 玄武の声が震えているのを聞いて、

 メイはフハッと吹き出す。


「な!? 笑やがったのか?」


「いやぁ、だってさぁ」


 痛みでこみ上げた涙をメイはグイと拭った。


『ピギィィィイ』

『ブヒィィィィィムムム』

『ペギッムギッ……ペミミミミ』


「一丁、行きますか」

「ふん、マセガキが偉そうに」


 玄武は、メイに嫌味を垂れた。

 メイは、


「揃いも揃って、個性のない面構えだなっ!」


 と叫ぶと同時、鎌の刃部分を柄から取り外して、異人たちの足元目掛けて投げつけた!


 ブーメランのようにクルクルと回転する刃は、

 次々と彼らの足首を切断していく。


 バラバラと地に崩れる異人。


「滅せよっ!」


 続けて、玄武が魔法陣を展開した!

 エメラルドの蛇は、血の雨を降らせる!


『ガビィィィィィイ!』

『ヂヂヂィィィ』

『ガッ……ガッ……』



「やった!」

「まだだっ!! 来るぞ、眷族!」


 倒せば、また次の白と赤の壁が現れる。

 キリがなかった。


「ハーッハーッハーッッッ、クソッ」


 メイの顔色は土の色になっている。

 普通なら、出血のショックで昏倒しててもおかしくない。


 それでも。


「負けるかぁ!!」


 叫び、メイは異人の懐に入り込むと、鎌を振り上げた!


 ずばんっ!


 異人の胸板を切り裂く一撃が決まる。

 そこで、メイは一度たたらを踏む。


 玄武の瞳は、メイに襲いかかる異人をとらえた!


「メイッッ」


 錫杖や式神術では間に合わない。

 玄武は、メイを弾き飛ばし、身代わりに鎌を受ける!


 鎌の一撃は、玄武の背中を深く抉る。


「ぐむっ!」


「な!? 玄武さん!玄武さんっ!?」


 さすがの玄武も、一度膝をついたが、座り込むことなく、鉄の扉まで飛んで戻る。


「無事か、メイ」

「玄武さん、大丈夫?! ごめんなさいっ!」


 メイは、立ち上がろうとする玄武を支える。


「イケてただろ?

 参ったな、回復まで時間が、かかるッ……ッ」


 式神である玄武の傷口は、ぽう、っと光を帯びている。

 その光は、少しずつではあるが、玄武の傷を塞いでいく。


「畜生ッ!」

 メイは異人を睨みつけた。


 ひゅんっ



 再び、異人から鎌が繰り出される!


 ざしゅうっ!


「いっっっっ!?」

 よけ切れず、メイの左太ももにザックリと切り込みが入った。


 ガクリとメイは崩れそうになるが、鉄の扉にもたれてなんとかしのぐ。


「まずいっ」


 ぞろぞろと、異人たちは増殖する一方だった。


 メイは、一度大きく深呼吸をする。


 そして、

「……玄武さん、お願いがあるんだ」

 と切り出した。



 がちゃりと、メイは後ろ手で地下への扉を開く。

「俺が、時間、稼ぐから」


 にっこりと微笑むメイ。

「…………」

 玄武は、言葉を紡ぐことができない。


「ね? 俺はできるよ。

 だから、姫巫女を頼む」


 子供のようなあどけない微笑みに、玄武は、ここが戦場であることを忘れてしまいそうになる。


「メイ」


 玄武にもう一度だけ微笑んだ後、

 メイは玄武の背中をドンと押した。


 玄武は、階段をゴロゴロと落ちていく。


 ガチャンッッッ



 それに構わず、メイは鉄の扉を閉めた。


「お願いだ、玄武さん。頼むぜ」


 か細い声で祈るように言う。


 そして、ぐ、と顔を上げた。


 ゆらゆらと不気味な動きの異人たちは、メイに迫ってきている。


 よろめきながらも、メイは鎌を構えた。


 左腕と左足からの出血は止まらない。


 痙攣もはじまっていた。

 喉の奥は、鉄の味がしている。


 それでも、メイは歯を食いしばり、前を見据えた。




「さあ、来いよ! 死体愛好者ども!

 この世で一番の諦めの悪さ、見せてやんよッッ!」



 ぶわりっ!



 異人たちは、一斉にメイに襲いかかる!!



「ーーーー!!!」


 どうん、どうん、どうん、どうん!!


 銃声が轟いた。


 メイは、瞼をとじて耐えるーー、が、その襲い来るはずの痛みは一向に訪れなかった。


 その代わり、無数の異人たちの悲鳴がメイの鼓膜をつんざく。


「なーー?」


「第二射撃! 撃てーーーー!!」


 男の声だった。


 響きと威圧感のある圧倒的な声だった。

 メイの頭上から聞こえる。




 どうんっどうんっどぅんっどうんどうんどうん!!



 メイは朦朧とする意識の中、なんとか見上げた。


 祭壇の上には、大勢の漆黒のマントを身に纏った軍人たちが銃を構えて異人に射撃している。


 軍旗がはためいているのをメイの瑠璃色の瞳がとらえる。


 ダイヤモンドに、翼がはえている。

 漆黒と血の色の軍旗だ。


 その旗に、メイは見覚えがなかった。


 メイの前に、ふわり、と一人の軍人が降り立つ。


「大丈夫か?」


 深い群青色のロングマントに、地球色をした軍帽を深く被っている男だった。

 軍帽の奥には、鋭い光を放つ眼があった。


 さきほどの、射撃命令を出した声と同じだとメイは思う。


 メイが膝からガクリと崩れると、

 群青の軍服の男はメイを抱きかかえて横たえた。


 メイは、左腕と左足からドクドクと血液が流れ出るのと、体温が急激に下がって行っているのを遠くに感じていた。


「あなたは?」


 血だらけの手をのばすと、黒い革手袋はあたたかく握り返してくれた。


「ティルナノーグ帝国の大地だいちひびきだ」


 静かに答えてくれるその声に、メイは何故だか涙が溢れてくる。


 男はそれだけ告げると、何も言わなくなった。


「ティルナ、ノー……」


 メイは、霊人れいと様から、聞いた話を思い出す。



 第二世界連邦から海を越えたところに、反連邦組織があること。


 そして、彼らが、地下に住む地球人を守るために戦っていることをーー。


「響、さん……」

 メイは、小さな声で絞り出すように言う。


「なんだ?」


 響と呼ばれた男は、二つの瑠璃色の宝石からとめどなく溢れてくる涙を拭ってやる。


「お願いがあります……」


 メイは、最後の力を振り絞った。



「俺を、軍人にしてください」




 ーーそれが、薙杜 メイの最後の言葉だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ