LIVE.5 風のモリビト 大地 響
神風博士に呼び出されたメイは、博士との面談を終えた後で、ヨロヨロと屯所の廊下を歩いていた。
「ううう、コッテリ絞られたぜ。
勘弁してくれよなぁ、あの変態オカッパ科学オタク野郎……、
立ちっぱなしで足が痛ぇよぅ……」
そうごちると、メイは疾風のローラーをゴルルルっといたずらに回転させた。
無駄にデカイ図体に全くそぐわないなんとも情けない声である。
「ま、新しいメンテツール貰ったし、いいとするか」
ふふふ、と笑ってから、手に持ったドライバーを顔の前にもっていくメイ。
立ち直りが、起き上がり小法師並みだ。
クリスタルで出来たそれは、日光を受けてキラキラと輝いている。
帝国では、Mエナジーによる火力エネルギーによって、特殊硬質ガラス、通称 クリスタルを生産している。
ダイヤモンドよりも強く、一級品の防弾ガラスよりも耐熱性、耐薬品性に優れている。
ロケット砲を浴びても砕けることはない。
「美しいなぁ、お前♩」
恍惚とドライバーを眺め、愛おしそうに撫でる。
お気づきだろうが、メイは重度のメカ愛好者である。
帝国軍内では、武器のメンテナンスも請け負うほどの腕前で、道具屋のメイとして重宝されている。
完全に趣味を仕事にしてしまうタイプである。
さて、このクリスタルであるが、勿論、帝国軍の神風工廠産だ。
クリスタルは、帝国のあらゆるところで使われている。
建築物はもちろん、神風工廠産十字剣銃66式(通称 66式)、特攻飛行兵器 翼、神風工廠産電動移動兵器 疾風のバッテリーの保護装具、調度や食器にも利用される。
ソウルシーカーズの蘇生装置保護にアタッチメントされている十字架も、このクリスタルだ。
例え、ソウルシーカーズが爆弾で吹っ飛ばされたとしても、この十字架は残る。
メイは、やっと解放されて気が抜けたのか、廊下に響き渡るほど大きな声で、あくびをした。
「ふあああああああぁぁぅじゅ」
「なんだ、その間抜けなあくびは」
海の底から引き上げられたようなローテンションな声に、メイは一度ビクリと体を奮わせた。
「響大将!! お疲れ様です!」
と、目の前で腕組みをする声の持ち主の男に敬礼をする。
響大将はフンと笑ってから、
「いいから敬礼を解け、わざとらしい」
と吐き捨てた。
ソウルシーカーズの隊服とは違う、上位階級軍人が纏う軍服に身を包んだ、やや小柄な男である。
ストレートの長めの前髪は中央で分けられており頬にかかってサラリと揺れる。
軍帽からは鋭い三白眼が覗いている。
メイは、「群青の軍服が、地球の色に似ているなぁ」と呑気に思う。
「メイよ、なかなか暴れてくれているようだな」
帝国軍の軍服に身を包んで不敵に笑う、中年の男。
がっちりと鍛えあげられた筋肉は分厚い軍服の生地の上からもはっきりと分かる。
軍服と同じ深い群青の軍帽を深く被る響大将の顔色は、長身のメイからは伺うことが出来ない。
性格に言えば、メイからは響大将の帽子しか見えていない。
「いえいえッそういう事実は一切ありません、断じて!
すこぶる順調に新人としての責務を果たさせていただきまいりまシテオリマス……ッ」
「ほう?」
響大将は、嗜虐心が滲み出る笑みでもってメイを見上げ、フンと鼻で笑う。
「勘弁してくださいぃ、響大将……」
泣きそうになるメイに、ドS大将は、
「行ってきたんだろう? 第六区」
と問いかけた。
「えぇ、行って………あ! はい、行ってきました!」
メイは、取っ付きにくいと有名な響大将を、そこまで怖い人間とは思っていない。
普通の軍人であれば、響大将に睨まれるだけで、すくみ上がり口もきけない。
メイはヘラリと笑って、うなじあたりを搔く。
「フン、懐かしいもんだ。もう四年前になるのか」
「ええ。響大将が、あの時俺を回収していなかったら、俺はここにはいません」
メイは、ぽんぽんと自分の左腕を叩く。
「フン、今も後悔している」
「またまた〜!」
メイは、眉をへの字にして声をあげた。
響大将は、時にラフ過ぎるメイの態度を咎めることはなく、むしろこの男との会話を楽しんでいた。
「手がかりは掴めたのか? “あの一族の住処”について?」
と、響大将が問う。
メイは、
「えっと、情けないことに、叉爾隊長補佐と別れてしまいまして、
それどころじゃなかったです」
とバツが悪そうに答えた。
「ツメの甘い野郎だな」
「うッ、手痛いご指摘……」
「貴様、どこに向かっている?」
「えっと、屯所の自室に戻るところでした」
「玄鉄からは、明日以降のミッションについては聞いたのか?」
響大将がメイの進行方向に向かって歩き始めたので、二人は自然と屯所に向かうことになる。
「辞令は先程いただきました。
大国の土地での警備だと」
「……、まだ聞いてないのか?」
響大将は、ぼそりと呟く。
「え? 何をです?」
キョトンとするメイに、響大将は小さいため息をし、
「せいぜい励めよ」
と、肩を叩いた。
「ありがとうございます」
響大将なりの激励に、メイは内心大いに喜んだ。
しばらく沈黙が続いていたが、二人が屯所についた時に、響大将はゆっくりと口火を切った。
「メイよ、ひとつ教えてやろう」
「なんですか?」
「明日、貴様の心残りとやらに会えるだろう」
はっきりと通る声で、響大将は告げた。
予言めいた物言いに、メイはタレ目をパチクリしてから、
「心残り、って……あ?!」
告げられた言葉の意味をゆっくりと咀嚼し、瑠璃色の目を見開いた。
「貴様が死ぬ時に、『自分が守るべき運命にある女』だと言った女だ、メカオタク野郎」
ニィと笑うと、響大将は疾風を起動させて去って行った。
メイは、「あのミッション、関係してるのか……」と呟いてから、自身が命を落とした四年前を思い出していた。
そう、あれは四年前ーー。
夕日が血のように紅く燃え、
月が赤黒く輝いていた、
地球が異次元との扉を封鎖したあの日をーー。




