LIVE.34 『神剣 神楽』
御神木の真ん中には、小さな祠があった。
『大国神社 神楽奉納処』と書いた木札が掲げられている。
神木も整えられているし、お神酒には酒と生ごめが祀ってあった。
「霊人の式神達が、いつも綺麗にしていたようだな」
と藍統が言った。
「この祠は、何年前から、ここにあったんだろうか?」
戒人は尋ねた。
「これ事態は“もうずっと昔からあった”が。ーー剣は扱えるか?」
「青龍の勧めで、ずっと剣道はやっているぞ」
「よろしい。では後は、神楽が教えてくれる」
「神楽がかい?」
「普通の剣ではないからな。
持つ者の潜在能力を、半ば強制的に引き出してくれる。
気に入られればな」
「なんだか、人みたいな言い方だ」
「はは、そうだな」
はぐらかされたような、妙な言い方をされるのに、戒人は座りの悪さを感じた。
「全ては、お前の気持ち次第だ。
神楽は意志を反映するものだ」
「意味がわからん」
「戒人の殺意が強ければ、殺傷能力が上がる」
「なるほどね……」
戒人は、緊張感でか、親指の内側の筋が引きつった。
「不安か?」
「そうでもない」
「心強いな。悪いが、そんな悠長にはできないのでね」
「わかった、努力しよう 」
その剣は、横置きに祀ってあった。
鞘に入れられ、柄からは、装飾が垂れ下がっている。
組紐の先端に、銀色の装飾具がついていた。
「手に取れ、戒人」
「平気かい?」
「ああ、食われはしないさ」
かたん
「大きいな!」
「ーーだろうな」
戒人の自身の身長よりも、顔一つ分は長い日本刀だ。
鞘から抜いてやると、その刀身には、びっしりと梵字が刻まれていて、戒人の顔がくっきりと映った。
鞘の部分には精巧な細工が施してある。
「そして軽いぞ……」
「そうらしいな」
予定調和に、ぶん、と地面に向かって振り下ろすと、
藍統の垂れた前髪とロングコートの裾が舞い上がった。
言いようもない高揚感に、戒人は心が突き動かされる。
「……ほう」
「なかなか、良いようだな」
「興奮するものだと思う。
これで、親父が戦ったのか」
滾る感情を抑えられないまま、ちゃきり、と目の前に神楽を翳す戒人。
美しい刃だった。
刃こぼれ一つない。
「そうだな。今は、術が切れて、ただの日本刀の形状だが、神楽は継承されるとその形を大きく変えて、刀身は透明になる。
霊人が持っていた時は、随分変な形をしていた」
「ふむ」
「霊人は、立派な人間だった」
藍統は、霊人が死んだような言い方をした。
戒人は、勝手に切なくなる。
せめて、息子に挨拶くらいしてくれたってよかったじゃないかと思った。
「親父……」
神楽に向かって、絞り出すように叫ぶ。
<戒人>
男の声が聞こえた戒人は、驚いて辺りを見渡したが、誰もいない。
戒人の焦った様子に、藍統は目をぱちくりとさせた。
<戒人>
「どうした?戒人?」
「誰だい?」
戒人は、空間に呼びかける。
<冷たいな。呼ばれたから出て来たのに。
自分の親父の声も、わからないのかい?>
戒人は耳を疑った。
やたら尺の長い日本刀を凝視してやる。まさか。
「神楽が、喋っているんだ、」
「なんだと?」
すぐに、戒人は霊人の声だと確信した。
<邂逅を喜びたいけど、時間がない。
戒人、この剣で異人と戦うんだ>
「わ、わかったが、手段がわからない」
強引に会話を展開され、戒人は神楽の柄を握り直す。
<異人の弱点は、首元のチョーカーについている黒い石。
叩き割れば、奴らは消える>
「ふむ」
<すまないが、情報がない。実地で学べるかい?>
「それだけ分かれば、なんとかするよ」
「戒人︎、霊人なのか︎」
肩を抱かれて、藍統に振り返る。
その表情にはいつもの落ち着きがない。
「……ああ、そのようだ」
<戒人、神楽と魅子を『次元の扉』に導いてくれ>
「神楽と、魅子を?」
<時間切れだ。“こっちでは”もう無理だな>
「僕はこれからどうしたら︎いいんだい?」
<ティルナノーグだ>
「え?」
<G大陸、帝国ティルナノーグに行け>
「待ってくれ︎」
<継承には、ーーが必要だ。
いい、な、必ず、魅子を、リラの元に、つれていって、神楽を>
所々で聞こえなくなる言葉に、
戒人の中で苛立ちと焦りが沸き上がる。
「親父︎!!」
<ーーを神楽に、ーーモリをーー頼む、ーーを、救っ、てくれ、>
「何だって⁈ 聞こえないよ︎」
<すまない、すま、ない、かい、と、>
「…………ッ」
叫ぶが、もう二度と脳に声が響いてこなかった。
戒人は、畜生、と地面を踏みつける。
さっきまで冷たい鉄だった神楽が、じんわりと熱をもっていた。




