LIVE.28 大国 戒人現るっ!
魅子を起こしたメイは、藍統に導かれて大国神社敷地内にある地下街を訪れていた。
地下街では目立つので疾風は使わずに、歩きで移動する。
朝の市場には、多くの地球人が往来していた。
ブタの骨を煮詰める臭いに、メイは「うっぷ」と呻く。
「この地下街のどこかに、
本当に、霊人の一人息子、大国神社の跡取り、
『神剣 神楽』の正統継承者の戒人がいるんですか?」
メイは言うだけで顎が痛くなるセリフを吐いてから、大きくため息をついた。
「ぐるるるる」
続けて彼のお腹が豪快に鳴る。
「まったく、行儀が悪いやつだな。響はどんな教育をしているんだ」
藍統は先頭を歩きながら、鼻で笑った。
「すんまっせん」
メイは長身を折り曲げてすまなそうに頭をかいた。
「ここに、偽名で住んでいる。
霊人の式神たちとともにね」
藍統の言葉に、メイは瑠璃色の瞳をキラキラ輝かせた。
「じゃあ! 白狐や玄武もいるのか!!」
魅子は、メイの頭に犬の耳と、尻に犬の尻尾がはえている錯覚を見た。
「犬ね、完全に」
「魅子も嬉しいだろ?! 玄武だ!
玄武に会える!」
「確かにね、元気かな……」
「あんまり騒ぐな、往来だぞ」
「すんまっせん!」
瞬時にメイは半分に折れる。
「まったく……、
戒人は、2320年からずっと地下街に住んでる。
会えば分かるが……、まあ、変な男だ。
ああいうのを、天才というのかもしれんな」
藍統は「まあ、お前たちも相当だがな」と続けた。
「魅子は、戒人を見たことはあるの?」
と、メイは尋ねる。
「いや、会ったことはないわ」
ひらり、と赤いスカートが舞う。
長い脚は歪みのない脚線美を描いている。
ついつい、メイの視線は魅子の足に向く。
「コレコレ、鼻の下っ!」
すぱぁん!
メイの頭に、見事にハリセンが決まった。
「!?」
魅子は目を見開いて驚く。
メイは頭を抱えて座り込んだ。
「この痛み、この的確なはたき技……覚えてるぞ!これはっっ!」
メイは頭をさすりながら人差し指をおっ立てた。
「いってぇじゃねぇの! 朱雀姐さん!」
メイの指の先には、ロングスカートに割烹着を来た美女が佇んでいた。
三角巾をして、手にぶら下がっているスーパーの袋からは、大根がのぞいている。
「はぁい♥︎ マイハニー、メイ!
元気してたぁん?」
ねとっとした色気むんむんの声で、
朱雀は一度メイに投げキッスをした。
「四年ぶりかしら? 藍統さん、連れてきてくれたのね」
「今日は昭和テイストですか、レディ」
恭しくこうべを垂れ、藍統は朱雀に挨拶をした。
藍統だけ切り取ると、中世ヨーロッパの舞踏会である。
こういう冗談みたいな行動をサラサラっとこなす。
なかなかニクイおっさんである。
「まぁねーん。似合うでしょ?
あ、玄武は今、戒人様とチェスをやっているところよ」
「「玄武がチェス??」」
魅子とメイは驚いてオウム返しにした。
「失礼ねェ、できるわよ。
0勝31.402敗で、戒人様の圧勝だけどね」
「ねぇ、それ勝負してんの?」
メイはついツッコミを入れてしまう。
「いらっしゃい、ようこそ」
そういって、朱雀が招いてくれたのは、地下街にどこでもある平屋の小さな家であった。
表に、「イソノ」と表札がかけてあった。
「イソノ?」
メイは目をひそめる。
「偽名よ」
と、朱雀。
「なんでも、日本で一番有名でそこそこな上流階級の一家の名前だからいいんじゃないかって、戒人様が」
「へ、へぇ……?」
メイは、自分の中にある戒人のイメージが音を立てて崩れていっているのを感じている。
家の中は、その「イソノ」という一族が好んで内装にしていたという昔ながらの日本家屋だった。
外観から内装まで、戒人がこだわりぬいたのだと朱雀は言う。
「ん、んん?? あれ、なんか思ってたのと違うかも……」
首を捻るメイに、藍統は耳元で、
「パンドラの箱の中身はここからが本番だよ」
と囁き、ふぅっと息を吹きかけた。
「ぎゃひん?!」
「いい犬っぷりだ」
「なんか、いやぁな予感が……」
朱雀は、廊下の先にある部屋の襖に手をーー、
ばたぁぁあん!
べしむっ!
ーーかけようとしたが、それが朱雀によって開けられることは二度となかった。
一行の頭の上を真っ二つになった襖が飛んでいった。
同時、メイの顔に丸い厚紙がめり込む。
メイは、それをベリッと、剥ぎ取る。
アニメのイラストが書いてある厚紙だった。
「……(あ、これあかんやつや)」
メイの心の声が漏れた。
部屋の中から男のハリの良い声がしてきた。
メイと魅子は怖いもの見たさで部屋を覗く。
「はっはっはっは!
そんな腕前で僕に勝とうなんて一億とんで365年早いよッ!
出直してきたまえ!」
「な! 戒人っ! 今お前、ズルしただろっ!」
「していないとも!
負けを認めるのだ、玄武!」
部屋の中で、白い学ランを来た青年と、縞模様の浴衣を着たちっこいおっさんが、メンコを囲んで喚いている。
メイの手の中にあったのは、大きめのメンコであった。
しゅうう、と煙が立っている。アニメか。
「戒人様、お客様よぉん♥︎」
朱雀はおかまいなしに部屋に入ると、メイたちに中に入るように促す。
「おお!?客人か!これは珍しい!
けん玉は好きかい?
双六は?
コマ回しもあるぞ!楽しんでくれたまえ!」
ものすごい歯切れのいい発音で、一行を向かいいれたのは、
他の誰でもない大国 戒人だった。
170センチほどの身長に、銀髪を長めにのばしていた。
琥珀色の瞳が印象的だ。
どーみたって、カタギにはみえない。
「なんか、とんでもない奴きた……」
メイは頭を抱える。
「言っただろう、なかなかの天才だぞ」
藍統は、ものすごく楽しそうに唇を釣り上げた。




