LIVE.25 黒ずくめの情報屋とヘタレの俺がエンカウントしたら。
2324年2月1日
翌朝、メイは、やけに目覚めが良かった。
壁時計は、午前6時を告げている。
「今日も朱雀門に行くんだっけ……」
メイは、派手な欠伸を一つして、隊服に着替えた。
あたりを見渡すと、部屋の奥につけられた通風孔と壁の隙間から、陽の光が差し込んでいた。
地上から差し込んでいるのだろう。
メイは、サイドテーブルに置かれた燭台の蝋燭に火を灯す。
地球人居住区には、電気が通っていない。
大体、照明には、カンテラや蝋燭を使う。
マッチの残骸に火を灯して、燭台の淵で焼いてやる。
魅子の部屋は、純和風の内装だった。
綺麗に片付いており、木製の箪笥からは、ヒノキの匂いがした。
床には、今では滅多にお目にかからなくなった畳が敷き詰められている。
メイは、子供の頃を思い出す。
今はなき自宅の雰囲気に、似ていると思う。
ベッドには、すうすうと規則的に寝息を立てる魅子がいた。
僅かな朝日を受けて、長い睫毛がその顔に細い影を落としている。
何度見ても、人形みたいに整った顔立ちだと思う。
これで、あの性格でなければいいのに、と思った自分が、メイはなんだか可笑しかった。
そっと部屋から出て、リビングに向かう。
「おなか空いたァ……」
朝といっても、夜と部屋の様子は変わらなかった。
魅子の部屋以外、太陽の光は差し込んでいなかった。
全ての地下に設置されている施設・住居には、“日光口”という日光が差し込む用の小窓や吹き抜けを設置するものなのだが、このうちには、それらしきものは見当たらない。
さすがは無法地帯だなと思う。
「恐らく、藍統さんの趣味だろう」とメイはあたりをつけた。
ここは、四六時中、蝋燭が灯っているようだ。
室内は、不気味というよりはムードがあった。
メイはこういう雰囲気は、好みであった。
「おはようございます」
リビングで一人、コーヒーを飲んでいる藍統を見つけて、メイは丁寧に挨拶をした。
藍統の手元には古文書が置かれていた。
何が書いてあるのかは、さっぱり分からない。
メイは座学が苦手である。
「起きたか。早起きだな」
寝起きのせいだろうか、少し鼻にかかった声を向ける情報屋は、朝から、黒いコートに黒手袋をぴっちりと着込んでいる。
もし、この部屋に爽やかな朝日なんぞ入ろうものならば、これほどアンマッチなモノはない。
「貞操は無事だったようだな」
藍統さんの視線を感じて、メイは赤面した。
「理解しました。藍統さんは、見た目を裏切らないドSなんですね」
とメイが言うと、
「響ほどではないさ」
と、面白そうに笑う。
再び古文書に視線を落とす黒ずくめの情報屋を前に、
メイは手持ち無沙汰になってしまう。
「ね、寝てないんですか?」
とりあえず、何か喋らねばと思い、テーブル上の灰皿にタバコの吸殻が山盛りになっているのを見て、メイは尋ねた。
「ああ、俺は夜型なんでね。
真昼間に、他人が働く間、眠りにつくのは至極気分がいい」
「は、はは、なんてサディスティックな行動指針……」
から笑いしかでないメイ。
そういえば、と、メイは思い返す。
彼が経営するのは、バーである。
バーというからには、開店も夜間なのだろう。
それなら、夜型になるのも仕方ない。
「支度をしたら、戒人に会いに行く。
『空の神楽』を取りに行こう。
戒人と魅子を、帝国軍に預ける」
藍統は、拳を口に添えて、隠すように欠伸をした。
それから「水ならそこのグラスを使え」と、グラスを指でさす。
「からのかぐら?
『神剣 神楽』ってのと、関係があるんですか?」
メイはキッチンからグラスを拝借して水を汲む。
藍統が座ったままで、コーヒーの場所を教えてくれた。
「そのへんにあるパンを食べていいぞ」
と、紙袋を指差した。
メイは水を飲み干した後で、グラスに氷を満たして、アイスコーヒーを作る。
濃い目に作ったそれは、寝起きの頭に、良い刺激をくれた。
「まあ、神楽そのものではあるんだが、神剣としては機能していない。
言ってしまえば、ただの鉄屑だな」
「て、鉄屑」
そんな言われをされてしまうと、いくら伝説の神剣も形無しだとメイは苦笑した。




