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LIVE.24 ソウルシーカーズ!

 *


 2320年以降、地上で、死を迎えた人間は、その死後48時間以内に、ソウルシーカーズによって身体を回収され、帝国に運ばれるようになった。


 そこで、生前の身体がまだ使えるものは、細胞分裂を再開するための蘇生手術が施される。




 手術を終えると、左手首に、

 中央に赤い宝玉をあしらった十字架が装着された状態になる。

 十字架は、クリスタル製であり、内部保護のためだ。


 赤い宝玉に仕掛けがある。


 この赤い宝玉は二部構成になっている。


 体外にある部分には、GPS機能とオーナーの脈感知機が搭載されている。


 万が一、ソウルシーカーズが行方不明になったとしても、

 生きているか死んでいるかは一目でわかる。

 彼らの居場所は、すべて帝国のメインコンピュータで管理しているので、何かあった時には即座の遺体回収が可能である。


 体内に埋め込まれている部分が蘇生装置だ。


 これが、電気信号を送ることで人間の蘇生をし、延命を可能にしている。


 ミトコンドリアを強制的に活性化することで細胞分裂を操作し、

 テロメア細胞を再構築することで蘇生と延命を同時に叶える。


 この科学技術を、テロメアテクノロジーという。



 帝国で細胞分裂を再開し、息を吹き返した人間は、不老不死ではない。


 睡眠も食事も必要だし、排泄もする。

 生きている人間とまるで変わらない。


 戦場に行って死ねば、十字架のみが回収され、帝国で埋葬される。


 また、細胞分裂の延長期間は、10年までとリミットが決まっている。

 これが科学の限界だと、

 神風工廠のトップである風のモリビト 神風かみかぜ たくみは語る。



 帝国の住人は皆、『次元の扉』の開放まで、帝国で生きながらえた後に、死界へ旅立つ未来が待っている。


 帝国に運ばれてきた人間は皆、死人であるから、


 帝国にいる人間は皆、等しく蘇生後10年に死を迎える。


『完全なる死』を待つ者たちなのだ。




 ティルナノーグ帝国 

 フロントエリア 帝国軍本部

 ソウルシーカーズ屯所

 玄鉄隊長執務室




 琴子の退室を見送った後、

 しばらくしてから、叉爾は玄鉄に声をかけた。


「何かあったんですか?玄鉄隊長」

「休憩からでいい?」


 ぱたぱた、とタバコのボックスを机の上で回転させる玄鉄。


「いいですよ。火、いります?」


「持ってる。そこ、かけていいから」


 身体をくつろげた上官は、顎で執務室のソファを指す。


「いえ、このままで大丈夫です」


 叉爾は、玄鉄の執務机の前で直立している。律儀な男だ。


「異人どものおかげで、今日は司令本部に缶詰だったよ。おとーさん疲れちゃった」


 タバコの煙をくゆらせて、玄鉄は背中を丸めた。


「いつ子供、作ったんですか」

「二次元で」

「まさかの異次元婚ですか」

「仕上げてきましたー」

「勘弁してください、隊長」


 部下と、たわいのない会話のキャッチボールを楽しむのは、

 玄鉄流のコミュニケーション法である。


「響大将はね、戦略会議が長引けば長引くほど、何も喋らなくなるし」

「大将らしいですね」


「時々、本気で寝てるからな。

 主に神風博士の講釈の時にな。

 誤魔化すの、俺なんだぞ?

 布施中将も我関せずだし、

 ほんと中間管理職って損だよな」


「はは、皇帝とか怒ったりされないんです?」


「皇帝の席なんて見れねぇよ!

 死ぬより怖い、いや、死ぬ」


 きっと怖い、と玄鉄はぶつぶつ言う。

 まるで子供のような拗ね方に、叉爾は苦笑した。

 玄鉄は、気を許す部下だけが相手になると、途端に気を許して、デフォルトの威厳を完全に放棄する癖がある。


「それは、俺には想像できないです」


「代わってくれよ、叉爾、楽しいぞ!」


「謹んで、全力で拒絶します」


 ちえっと口を尖らせてむくれて見せた後に、玄鉄は、一度息を深く吸い込んでから、時間をかけて吐き出す。

 酷いクマができている両目を、左手の平で覆ってからゴシゴシとこすった。

 その左手首には、叉爾たちのそれのように、十字架が装着されてはいない。

 彼がモリビトだからである。


「そういえば、メイの奴はーー」

 と、玄鉄が言った時。


 こんこん


 室内に硬質なノック音が響いた。


「はい」


 ドアに向かって玄鉄隊長が声を投げる。


「俺だが」


 返答に、玄鉄隊長は仰天した様子を見せ、


「響大将!!」


 慌てて扉に駆け寄り、それを開けて、佇む軍服姿の男に敬礼をする。


 叉爾は、背筋を限界まで真っ直ぐ伸ばして敬礼をする。


 男は、玄鉄より小柄ではあるが、

 布の厚い軍服の上からも分かる程に筋肉質で、

 がっちりとした体格である。


 軍帽と胸元には、軍の大将を示すバッチが付けられていた。三白眼の鋭い目つきを、さらにしかめて、


「いちいち大袈裟にするな。他人行儀は、好きじゃない」


 と言うと、玄鉄の肩をぽんと叩き、部屋に入ってきた。


「いや、そういう訳には!」


「休んでいた所にすまないが、少しいいか?」


「無論です!」

「悪い」


 低く落ち着いた声に、やや高めの玄鉄の声が対照的だなと、叉爾は思った。


「異人たちのご活発な襲撃数についてだ。データが出たんでな」


 響は、執務机に一枚の地図を広げた。

 第二世界連邦のものだ。

 叉爾が身を乗り出した。


「まず、これを見ろ。

 昨日から今までの異人の襲撃ポイントだ。第六区、それに隣接する第三区に集中している」

「ここは」

 玄鉄が、響に目配せをした。


「そうだ。かつての日本があった場所だ。

 第六区は、日本の東京の位置にあたる。

 度重なる天変地異の被害を全く受けていない、愉快な土地だ」


「今は、その名残もあって、東洋系の地球人の生き残りたちが多く居住していますね」

 玄鉄が補足説明をする。


「そして、これを見てくれ」


 響は、さらにもう一枚の紙を、執務机に置いた。


 記されていたのは、幾つものグラフであった。


「これは、地区別の異人の出現数ですか?

 襲撃目的に絞ったもので、2320年以降のものですね」

 叉爾は、グラフの内容を即座に掌握した。

 響は、叉爾の藍色の目を凝視して、一度、玄鉄に視線を送る。


「叉爾君といったな?なかなか察しがはやい」


「ありがとうございます!」


 帝国軍の大将である響からの思いがけない言葉に、叉爾は耳を赤くして一礼をした。


 玄鉄は、叉爾に気づかれないようにそっと執務机から後退する。


 唇を結び響大将に目線を送り、頷いて見せる。



「第六区ガルナフは、4年前から今までの間、異人の襲撃数が極端に少なかった」


 グラフによると、異人の一日の襲撃数は、2320年が2000、2321年から2324年の1月までは50から100あたりをウロウロとしており、1月から、その数は急速に多くなった。

 2324年の1月31日に一気に3000を超えていた。


「軍内では有名な話ですよね。

 大国神社の社跡がある神域だからとか。

 ここの神主が、かの有名な、『次元の扉』を封鎖した大国 霊人氏なんですよね?」


「そうだ。霊人の結界のおかげで、第六区は、空中庭園から異人が降りようとすると、結界が阻んでいたほどの強烈な結界が張られていたんだ。


 他地区からの侵入も同様にな。

 だから、異人が、ガルナフに足を踏み入れる事自体、困難だったんだ」


「それにしても、これだけ襲撃件数が違うと、絶句します」


 叉爾は言ってから、他地区との数値を指で追って見比べた。

 第五区オルゲシュッドは、2320年は3000から4000と多いものの、それ以降は一日に500から1000と落ち着き、2323年を過ぎると100以下になっている。今年の1月終わりあたりからは50以下だ。


 連邦は、第0地区から第十三地区まで存在するが、第六区ガルナフと第三区以外の地区は、オルゲシュッドと似たようなデータだ。

 一目見て、異常事態だとわかる。


「確か、この辺でしたよね、大国神社跡は」


 叉爾が、ガルナフの中心部を指差した。


「うむ。今は全焼して、神社らしいもんは大国の御神木以外は特に何もないがな。

 敷地内の地上はびっしりスラム街だ。


 土地の守護が弱まったにしても、この数は異常だ。

 1月終わりあたりから、じわじわと数は増え、1月31日午後から爆発的に増えている。


 布施中将を頭にして、第十一部隊から十五部隊までは、全てガルナフに向かわせていたが、さっきも援軍要請が来ていたから、今夜は山だな」


 と響が言った。


「その原因は、何か分かったんですか?」


 叉爾は、響の表情の曇りに、ぴんと思い当たるものがあった。


「大国の姫巫女とメイが邂逅している。明朝に戒人と会う」


 響はそう言うと、まっすぐに地図を指差した。

 そのポイントは、ガルナフの大国神社跡だ。



「まさか、メイは……?!」

 叉爾が思わず声を荒げる。

 玄鉄が口を挟み、

薙杜なぎもりという、大国に縁深い一族の末裔なんだ。

 あいつは。

 大国の敷地内で囲われていた眷族だったんだ」

 と言った。

「そんな、そんなこと全然聞いてないですよ」

 叉爾の様子に、玄鉄は、

「あいつも悔しい思いをして死んでいるからな、言いたくないこともある」

 とフォローをした。

「……水臭いな」

 俯く叉爾。

 玄鉄は、

「『神剣 神楽』の『鍵』は、あの三人だ。

 大国の跡継ぎ 戒人、特務兵 魅子、そしてメイ。 

 今日、叉爾も会っただろう?」

「魅子、が、大国の姫巫女だったんですか?」

 叉爾は、驚いて、口で手を覆った。

「ああ、そうだ」

「戒人の居場所は、われてるんですか?」

 叉爾の声は上ずっている。

 玄鉄が、

「公式では、行方不明と言われているが、

 戒人の居場所は、ずっと帝国軍が把握していたんだ」

 と、叉爾に教えてやる。心なしか、声がやわらかい。


「そうなんですか……」


 沈黙を切るように響は口を開き、

「明日、三人が邂逅するのは、第六区大国神社跡の地下街だ。

 なんとしても、今日から明日にかけては、

 第六区への異人の侵入は防がねばならん。

 今日、前乗りでヴァーリャン部隊を行かせたんだが、ほぼ壊滅した」

 と告げた。

「リャンの隊がですか!?

 対人戦闘ではトップクラスの奴しかいない、あの?!」


 玄鉄が、後ろで沈痛な表情をして舌打ちをした。


「とりあえず、戒人は安全な所にいるから安心しろ」


 そう言って響は、一度瞼を伏せた。


「でも、よくそんなところで四年も見つからなかったものですね。地下街でしょう?」


 叉爾が響に疑問を投げかけた。


 玄鉄は、沈黙を保ったまま二人の会話を聞いている。


「戒人が18歳になるまでは、『神剣 神楽』の継承も出来んからな。

 特務で監視して、時を待っていたんだ」


「そんな危ない所に、よく居ましたよね。スラム街でしょう?この辺は」


「息子の戒人は、15の頃から、ここの近くの『東京』という居酒屋で働いていたそうだ」


「3年も⁈」


「最初に、働いているという報告を受けた時は、流石に俺も驚いたが。

 まあ、しかし、元々この第六地区は、空中庭園を中心に富裕層の異人が住んでいる場所で、治安もそこまで悪くはない。

 戒人が働いていた理由は、憲法第9条だ。

 第二世界連邦国憲法では、15才以上の全ての地球人は、異人居住区での労働が義務づけられているからな。

 うまくなりすましていたようだぜ」


「強制労働って、言ったら異人の召使いでしょう︎」


 叉爾が驚愕する。


「兎に角だ。第六区への異人の大量出現と、

 今までの結界が何らかの原因で薄れちまっているのは事実だ。

 となると、早急に、戒人を帝国に連れてくる必要がある」


「よく今まで、分からなかったもんですね」


 叉爾がぼやくと、玄鉄が口を挟み、


「異人どもだって、世界中を血眼になって探してたんだぜ。

『神剣 神楽』と霊人の息子を、な。

 けど、霊人氏は、戒人が生まれてから一度たりとも社の外に出した事がなかった。だから、誰も戒人の顔を知らなかったんだ」


 と説明してやる。

 そのセリフを受けて、響は腕を組んでから、


「本人の知らない所ではあるが、帝国軍も監視していたしな」


 と言って、執務机に凭れて足を組んだ。


「それにしたって、凄い度胸ですよ。大国の後継者と知られたが最後、どうなるか分からなかったろうに」


「あの霊人の息子だからな。

 血は争えねぇんだろ。中々人気のあるボーイだったそうだ」


 ふ、と響が、柔らかい笑みを漏らした。叉爾は、その思いがけない表情に、内心驚く。


「で、でもですよ︎、そんな危険を冒してまで、なぜそこにいる必要があったんですか?

 帝国で保護する訳にはいかなかったんでしょうか?」


 矢継ぎ早の質問に、響大将は、にやりと唇を吊り上げた。


 叉爾からの反応を心から楽しんでいる。

 その響の様子を、玄鉄はじっと見守っている。



「身体はガキでも、霊人がいない今は、大国の土地を守る土地神であることに変わりはない。あの社の地下に封印されている『空の神楽』の霊気を隠す為に、戒人は、あそこから離れてはいけなかったんだそうだ」


「なんか、やっぱ、すごい人だな」


 叉爾は、溜息をついて、二度瞬きをした。


「人間なんて、そう大して変わらねえ。元は皆、人の子だ」


「会ってみたいです」


「そうか。おい、テツ、面白い部下をもったな」

「ええ、自慢の仲間です」


 玄鉄の親バカな返事を受けた後で、響は、「はっ」と笑った。

 この短い時間で、叉爾の中の響大将像が激変していた。

 彼は、今まで、響とまともに話した事がなかった。

 響と言えば、軍のトップであり、ティル軍が出来る前から、反連邦組織の中心人物として、第一線で異人と戦ってきた戦士だ。


 旧世界連邦の司令長官という経歴をもつ生粋の軍師である。

 目にも留まらぬ速さで大量の異人を薙ぎ倒す様から、人は彼を、異人無双と呼び、敬愛しており、心酔するものも少なくない。



 地球人で彼の名前を知らぬ者はいないほどの、カリスマ的存在である。


 叉爾は、先輩らから、話すだけでチビる、とか、皇帝の次に恐ろしい冷血漢軍師だ、などと散々聞かされていた。


 その響の人間味のある表情に、叉爾は素直に親近感を持った。



「叉爾、な。覚えたぞ。好奇心旺盛で、物怖じしない、悪ガキだった頃の誰かさんにそっくりだ」


「勘弁してください、響大将」


 響にタジタジになる玄鉄を見て、叉爾は目を丸くしてから、

「すみません! 喋りすぎました!」

 自分の出過ぎた態度を振り返り、恐縮する。

「構わない。“それを聞きにきた”のだから」


 そう言って、響は満足そうにしてから、軍帽を被り直した。

「え、あの?」

 叉爾が戸惑うが、響は気に留めない。叉爾は思いの行き所を見失い、視線を玄鉄に泳がせた。玄鉄は、満足そうにニヤニヤしている。

「ああ、そうだ。テツよ」

「はい、なんでしょうか」

「布施中将からの報告によると、第六区近くで奇天烈な色をした鳥をよく見かける、とのことだぞ」


 響は、さっきの表情から一転して、不気味までの薄笑いをした。


 叉爾にはこの笑みの意味が分からない。

「それは、まさかあの?」


 玄鉄が、動揺の色を浮かべた。


「鬼が出るか蛇が出るか、面白くなってきたなぁ?」


「響大将、また変な事に首突っ込まないで下さいよ?」


 玄鉄が、困ったような情けない声を出した。


「俺の予想があっているのなら、いきなり第六地区に、異人が大量出没出来たのにも、頷ける。

 ただ、かなり厄介だ。

 そして、気がかりな事がひとつ増えちまう」


「というと?」


 玄鉄が問う。


「容易に人から答えを貰おうとするんじゃねぇ。てめぇで考えろ」


「す、すみません!」


「ここ最近の異人の出没原因は、間違いなく戒人だ。

 戒人は、『次元の扉』の封鎖を解く鍵である『神剣 神楽』を唯一継承できる。

 異人の狙いは、戒人を捕獲し、『次元の扉』を支配する事だ」


「そんな事になれば!」


 叉爾は、ドン、と執務机に拳を叩きつけた。


「ああ、異人どもが扉の開放権を得てしまえば、仲間を好きなだけ呼び寄せられる。

 異界から、わんさかと地球に襲撃してくるだろう。

 第一次異次元戦争以上の最悪な事態になるだろうな。

 地球人は皆殺しにされる。帝国も滅ぼされるだろう」



「戒人さんは、いつこちらに来るんですか?」

「早くて明朝だ。俺の馴染みと来る予定なんだが」

 と言って、響大将はふっと笑う。

「だから最近ずっといなかったんだ、あの鬼畜」

 玄鉄は一人で納得して呟く。


 直属の上官の合点がいった様子を見て、叉爾は、話を合わせてそれ以上問い詰めない事にした。


「明日には、全軍の70%を第六地区に送って、異人と戦闘させる。


 テツ、お前に戒人の迎えを頼みたい。

 分かっているだろうが、この任務は我が帝国、ひいては、全地球人にとって、最も重要なものだ」


「わかりました」


 玄鉄は、背中にじわりと汗が浮かぶのを感じた。


「追って連絡をする。暫く通信機を24時間体制でオンにしておけ。

 あの夜行動物め、こっちの要求を聞きゃしねぇ。

 引き渡しの時刻が決まり次第知らせるから、その時は迎えを頼む」


「了解です!」

 玄鉄と叉爾は、響に敬礼をした。


「叉爾よ」と、響の色素の薄い灰色の瞳が、叉爾を捕らえる。


「何故、お前はソウルシーカーズにいるんだ?」


「俺は、・・・誰かが戦ってる時に、自分だけ平和に死を待てなかったからです」

「そうか」


 響大将はもう一度、玄鉄を見やる。玄鉄は、響の目を見て沈黙のまま軽く頷いた。


「頼むぞ」


 そう言って、響大将は部屋を後にした。

 ぱたん、と扉が閉まって、数秒経った頃に、玄鉄と叉爾は大きく息を吐いた。


「っはー、緊張した」


 玄鉄が応接用のソファに仰向けにダイブした。

 叉爾はその場にしゃがみこんで息を整える。

 それほどに、響大将の放つオーラは凄まじく、息の詰まるものだったのだ。


「あれが、異人無双の御三家、響大将か」


 叉爾は手の甲で額の汗をぬぐった。


「痺れ上がるよなぁ」


 ソファからうつ伏せのまま、玄鉄はくぐもった声を投げる。


「俺、ここに居る理由を聞かれた時、心臓とまるかと思いましたよ」


「いいジョークだな!

 響大将でそんな緊張してたら、皇帝の前に行くだけで過呼吸になっちまうぜ?」


「なる自信は、すこぶるありますね」


 叉爾は立ち上がり、響大将が置いていった資料を手に取った。

 達筆な走り書きがびっしりと書き込まれている。


「凄い、俺、響大将と話しちまった」


「あの人があんなに走ってんだ、こりゃあ暫くは寝れそうにねぇな」



 ごちる叉爾の後ろで、玄鉄がぼやく。

「隊長、無理しないでくださいよ?」



「無茶はしない、無理はする」

「屁理屈を」

「それはそうと、叉爾、疲弊してる所にすまないが、昼間の会議内容を落とし込んでもいいか?」



「疲れも、ここまで振り切ったらどこまでいっても同じです」

 玄鉄はのそのそ起き上がり、ソファにどっかと腰かけた。


 そして、一度瞬きをすると、すでにスイッチが切り替わり、炎のモリビト 炎 玄鉄の顔になっていた。


 叉爾は、この瞬間を見るのが好きだと思う。

「叉爾、ソウルシーカーズの蘇生装置がいきなり爆発するという事件が、立て続けに起こっているのは知っているよな?」

「ええ」


「蘇生装置は、お前らの魂そのものだ。

 科学部を上げて、その爆発の原因を調べているんだが」


「原因不明と言われて、もう二ヶ月が経ちますよね」

「報告書によると、戦士が事切れた直後に、蘇生装置が爆発するそうだ」

「なぜ……」

「わからねぇんだそうだ、今の所。

 あの超天才科学者でも、な」


 玄鉄は、やけに嫌味ったらしい言い方をする。

「科学部の長、風のモリビトの事ですか?」

「人類史上最高の超天才科学者 神風かみかぜ たくみ

 早口でまくし立てるように言い放つ玄鉄。

「知ってますって!」

「その、かの御高名な匠博士が、爆破した十字架の回収に成功したんだそうだ。

 今日は、その原因究明についての報告だったんだが」


「はい、どうだったんです?」

「ああ、その超天才科学者の匠博士が研究されあそばした結果なんだがな」


「玄鉄隊長、なんか嫌な事、あったんです?」

 ねちっこいセリフに、叉爾が根を上げた。


「べっつにー、あの、はっつけた笑顔のペテン師、俺がちょっと質問したら、揚げ足を取りやがって、その後、2時間がっつり『テロメア』について講釈垂れやがった。嫌味としか思えねぇ。どっか気に食わないんだよな」


「それは、災難でしたね」

 くっくっと叉爾は苦笑した。

「全くだ」

「まあまあ。それで、原因はなんだったんです?」

「それが―――」


 じりりりりりりり


『緊急警報 緊急警報 第三地区パラドンナ 異人が地球人を襲撃 Vダビに壊滅的被害 第一から第三部隊は至急現場に出動せよ 繰り返すーー』

 放送を聞いている叉爾の顔が、明らかに青ざめていく。玄鉄はその様子が気にかかった。

「チッ、タイミング悪ぃな」

「早くいきましょう!」

 玄鉄隊長は、右手親指にはめた通信機を叩く。


「こちら玄鉄、第一部隊、玄鉄班フルメンで現場に急行する!」


 《オッケー、玄鉄隊長ッ!特攻飛行兵器 翼、六機のスタンバイはできてるぜっ!》


 通信機から、バカに明るい声がする。司令部のキセキだ。


「ありがとう、キセキ。今日も仕事が早いな。

 ーー叉爾、疾風ハヤテの充電は問題ないな?」


「はい!ポートでM電池を取り替えればなんとか!」


「よし、いくぜ!」

 叉爾と玄鉄の二人は、ローラースケート型の神風工廠産電動移動兵器 『疾風』を起動させた。


 フィィィという独特な音を立て、執務室の扉を勢い良く開け放った二人は、フロントエリアのポートに向かって駆け出した。

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