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LIVE.23 帝国に住むタヌキと狐

「琴子さん。

 昼間、上から正式に軍の増員を募集する、と通達があったそうです」

 光揮は、神妙な顔つきで言う。

 待ってましたといわんばかりの勢いでエイナが乗っかる。


「私もさっき知ったの!

 増やさないと足りないもん。

 このままじゃ、異人の殲滅なんて、とてもじゃないけど無理だよ!」


 エイナはやや興奮した様子で喚く。


「上もやっきにもなる、か」


 琴子は、からん、とボウルにフォークを放ると頬杖をつき、


「募集したトコで、帝国のセカンドフロアで、のうのうと暮らしてる軍人たちが、今更戦場に出てくるかしらねぇ」


 侮蔑にも似た色が宿して、皮肉を言う。


「そんな身も蓋もない」


 光揮が情けない声を出す。


「だってさ、どうせ死んじゃうのは変わらんのんよ?」


 琴子は言いながら、天井を仰ぎ背伸びをした。

「死んでしまうんだから。

 うちら現場軍人ソウルシーカーズも、

 セカンドフロアで鉄やらクリスタルやらを作ってくれてる労働軍人たちも、

 蘇生装置をつけられた人間は、みーんな、きっちり10年後にぽっくり、よ。

 闘う理由もないのに、

 自ら進んで痛い思いは、したくはないでしょーよ」


 そう言って、項垂れた琴子は、自分の左手首に装着している十字架をトントンと叩いた。


 クリスタル製の十字架の中には、蘇生装置がはめ込まれている。


 見た目は、赤い美しい宝玉である。


 このクリスタルの十字架と赤い宝玉こそ、帝国が強大な軍事力を保持している最大の理由だ。


 赤い宝玉は、クリスタルの十字架の中でゆらゆらとその命の光を燃やしている。

 ああ、綺麗だな、と琴子は思った。



「だいぶ、噂になってきてるし、あの話」

 エイナがボソリと零す。


「なんの話?」

 琴子は、十字架から視線を外さぬままに聞き返す。


「『次元の扉』の崩壊リミットまで、一年を切ってるって。

 さすがに焦っちゃうよ」


「その噂、本当なんですか? 琴子さん」

 エイナの言葉をうけて、光揮まで不安そうに問うた。


「らしいねぇ。

 まだ正式に発表されとらんけど」

 琴子は、あくまで冷静に振る舞う。


「俺も不安です。

 どうなるんでしょうか。

『次元の扉』を解放する『鍵』も見つかっていないのに」


「『鍵』ってあの?」


 エイナが、胡散臭そうに上目遣いをした。


「そうさ、『次元の扉』の解放に必要な『神剣 神楽』の継承者だよ。

 4年前からずっと行方不明のままなんだ。

 神楽も、霊人様の後継者も、そろってね」


 光揮は答えて、琴子に「そうですよね?」と言った。


「俺たちがいくら頑張っても、このままじゃ、異人を地球から追い出す事ができるのかどうか」


「ちょっと二人とも!

 なぁに辛気臭い顔してんの!

 幸先悪くなるからやめんさい!」


「はは、琴子さんは、強いですね」


「ちょっと光揮君、弱気は損気よ!

 大丈夫、そんな簡単に扉は壊されんよ。それに、もしかしたらー」


「ですよね!すみません、俺、変に落ち込んじゃって」


 琴子の台詞は光揮に遮られた。

 琴子は口から出かけたそれを飲み込む。


「琴ちゃん?

 何か言いかけてたけど」


「何でもない。どっちにしたって、扉が解放されるまでは、異人から、地球人を守ってあげんと!

 うちらもさ、一回死んでるってのに、また魂を懸けて戦ってる甲斐がないってもんよ!」


 琴子はそう言ってから、2人にガッツポーズをしてみせる。


「琴ちゃんの言う通りっ!

 地球から異人を殲滅させてなくちゃ!ぶちのめしてやる!

 ぶっとばす!!」


 エイナは、アイドル顔負けの可憐で愛らしい顔をしているのに、発言が過激な所がある。琴子は、やれやれと頬を掻く。


「よお、琴っち。みんな揃って作戦会議か?」


「一式隊長、お疲れ様」


 ミーティングが終わったのか、隊長の一式が挨拶に来た。


「ここ、座ってもええ?」


「勿論」


 琴子が席を勧めると、一式は、四人席テーブルの空いている椅子に座った。

 琴子と同期の一式は、「どーも」と言って、人懐っこくニカっと歯を見せた。

 日焼けした肌がよく似合っている。


「第二部隊は、いつでも楽しそうじゃね」


「基本やで。楽しゅうないと、部下もついてこぉへんからな!」


 がははは、と豪快に笑うと、ズイ、と身を乗り出して、


「なぁ琴っち、最近の異人の動き、おかしゅうないか?」


 と、真顔で聞いてきた。


「藪から棒やね。

 今、それを話していたトコ。

 確かに異常ではあるんよね。

 何か、あったんかもしれん。

 異人たちが活動を活発にする要因が」



 そう言って、琴子はデザートの大福を口に放り込んだ。


「発言よろしいですか」と、光揮が右手を上げた。一式が「どうぞどうぞ」促す。


「ロード・トワの統治によって、異人たちの生活圏が、連邦に保証される今日、

 定期的に地球人は襲われているものの、いたずらに大量虐殺をする理由はないはず。

 ですが、明らかにこの異人の襲撃数は異常です。何か起こっているとしか思えません」


 光揮は、一式に緊張しながらも、冷静な意見を展開した。


「ふぁー、ほーはるはよねぇぇ」


「こ、琴ちゃん?」


 エイナは、琴子にカップを差し出した。

 琴子は、ごくんと大福を飲み下し、お茶をすする。


「ふー。おいし。

 光揮君の言うとおりっ!

 市民権を得た異人は、連邦の中枢、白のドウムがある第0地区ヴァンキルに多く居住しとって、そこで何不自由ない、贅沢な暮らしを送っとるけぇね」


 琴子のセリフを、一式が受ける。


「せや。相変わらず、虐殺した死体を回収しやがるが、その件数も年々減少しとったし」


「やっぱり前は、多かったんですか?」


 光揮は、姿勢を正して一式に問うた。


「ああ、そりゃあもう、ぎょうさんおったで?

 捕まった地球人は、慰みものにされた上、

 その場で解剖されてな。


 地球人の魂と身体を回収するソウルシーカーズの数も足りんで、おおごとやった」


「懐かしいわね。あの頃は昼も夜もなく、魂を回収して飛び回ってたっけね」


「玄鉄隊長は、人使い悪うないやろ?」


 一式が懐かしそうに笑うと、

 頬にエクボができた。


「玄鉄隊長が無茶するけん、結局、皆も現場に向かっちゃうってワケ」


「はは、なるほど。玄鉄さんらしいな」


「今も変わらず、地球人が襲撃されれば、あの白のドウムに収容されるわ」


 琴子は、ギリと歯ぎしりをした。


「収容されたが最後、ソウルシーカーズでさえ、回収に行くことは不可能じゃ」


 四人の上に沈黙が横たわる。


「許せない!絶対!許せない!」


 エイナが勢い良く立ち上がり、息をまいた。


「ぶちのめす!ぶちころす!!」


 叫びながら、空中でパンチを繰り出してみせる。


「分かった! 分かったから。席つけ、エイナ」


 光揮が必死でなだめる。


「ふむ。やっぱり、さっきの玄鉄隊長と叉爾の話は、それ関係な色が濃厚ね。

 怪しさプンプン丸じゃ」


 琴子は言ってから、親指をかじる。

 ほう、と一式が目を光らせた。


「後で、叉爾さんを吐かせなきゃですねッ!」


 エイナが拳を作るのを横目に、一式は席を立つ。


「さすが玄鉄隊は、おっかないなあ。じゃあ、この辺で、俺は失礼するわ。ほな」


 食堂を後にする一式を見送って、光揮はカップに口をつける。


「ーーそういえば、今日の回収で、66式の予備銃弾も刃のカートリッジもギリギリでした。

 エイナとユエに合流してなかったら、どうなっていたか」


 光揮は、そう言って、エイナを愛おしそうに見た。


 この二人は、生前付き合っていたそうだ。

 恋人と揃って入隊するのは、最近では珍しくない。

 琴子は、二人をぼんやりと眺めてから、のそりと席を立つ。



「明日、同じような状況にならないとは考えにくいわね。

 玄鉄隊長に、66式の銃弾数とカートリッジの携帯量を増やすように進言せんと」


「ですね、よろしくお願いします」

「琴ちゃん、ありがと!」


 琴子につられて、光揮とエイナも席を立った。

 光揮とエイナが、食器を戻しに向かっていると、横に琴子の姿がなかった。


「あれ? 琴ちゃん??」


 振り向けば、まだ彼女はテーブルにいて、立ち上がったままフリーズしている。


「なんかあったの?」


 エイナが声をかけると「ああ、ううん、なんでもない」と我に返った琴子は作り笑いをして、二人に追いついた。


「琴ちゃん? 部屋、戻っちゃう?」


「キッチンに寄るわ。叉爾のバカに夜食作ってく。先、帰ってて」


「叉爾さん、朝から何も食べてないですもんね」


 光揮は言いながら、エイナのお盆を取り上げて片付けた。


「本当、琴子さんは叉爾さんのこと好きですよね」


 光揮は、デリカシーを母親のお腹の中に忘れてきているクチだ。

 悪気がないので始末が悪い。


「ちょっと光揮君、バカ言わないで!

 さっさと部屋に戻りんさい!

 このリア充めが!」


 琴子はしっしっと猫でも追っ払うかのように手を振り、二人を見送った後で、食堂から出る。


「『鍵』か。こうしちゃいられないわっ!」



 一人ごちると、琴子は玄鉄の執務室に向かった。


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