LIVE.22 玄鉄班のお仕事イロイロ
「何よっ!あからさまにっ!」
琴子は不平を垂れながら、回廊を歩いていると、
バタバタとポートに向かうソウルシーカーズたちとすれ違う。
司令本部の面々だった。
琴子は、中肉中背の顔見知りを呼び止める。
「キセキ? なんかあったの?」
「あ、琴子!今夜一杯は異人出血大サービスだよ」
「ねぇ? それって、やっぱり『鍵』と関係あるん?」
キセキは目を見開いた。
嘘をつけない彼の性分を琴子はよく知っている。
「参ったね、さすがティル軍内屈指の情報通だ。
なんとも言えないけど、今夜は寝かせねぇぞ!」
ばん、と銃を撃つジェスチャーをして、キセキは走り去っていく。
「やっぱり、動き始めたんじゃね、『鍵』が……」
にししし、と下品な笑いを浮かべて、琴子は宿舎の食堂の観音扉を開けた。
キッチンからすぐ側のテーブルでは、
同じく玄鉄隊のエイナと光揮が、夕ご飯を食べている。
「琴ちゃん!こっちこっち!」
ツインテールが目印のエイナがぶんぶんと手を振っている。
琴子は、「すぐ行く」と、二人に声をかけてから、
急ぎ足でキッチンに向かい、適当に食料を見繕ってテーブルについた。
奥の方で、第二部隊のソウルシーカーズたちが打ち合わせをしている。
第二部隊長の一式が、琴子に気づいて軽く手を振った。
いつ見ても爽やかな奴だ、と琴子は思う。
子供と見紛うほどの背の低い男だが、ソウルシーカーズの中で一等陽気な異人潰しだ。
いつでも8カウントを刻んでいて、暇があれば戦略会議をしている戦略厨だ。
軍内でも支持者が多く、少しワルが入っている所が人気の秘密らしい。
生前はダンサーだったらしく、
彼の部隊のメンバーたちと、
よくセカンドフロアのダンスバーに飲みに繰り出している。
琴子は、手を振り返してから、エイナたちが待つテーブルに急いだ。
「お疲れ様です、琴子さん」
琴子がテーブルにつくと、光揮があたたかいお茶を差し出した。
「ありがと、光揮君。
いやー、今日は疲れたわ。
食うぞー!いただきまーっす!!」
「あれ、琴ちゃん、叉爾さんは?」
エイナが無邪気に小首をかしげる。
「あー、ね。
あいつなら、玄鉄隊長と執務室におるよ、ひそひそ話中、よっっ!」
琴子は、ぶすっと頬を膨らませてふて腐れてみせ、
ぶっきらぼうに答えた。
それから、ザクザク、と葉野菜にフォークをさして、勢い良く口に入れて咀嚼する。
仲間外れを食らったものだから、
琴子の機嫌はあまり穏やかではない。
加えて、キッチンにサラダに振りかけるパルメザンチーズが切れており、
得意ではないフレンチドレッシングをかける羽目になったのも、
さらに琴子の機嫌を損ねさせていた。
「叉爾さん、凄いな。
私なんて玄鉄隊長と二人きりとか、緊張して心臓が持ちませんもん」
「あの二人、仲良しやけんね。
あー、ムシャクシャする!
エイナッなんか歌って!
あんたの歌聴いたら怒りが鎮まるけん!」
「琴ちゃん、無茶ぶりすぎだよぅ」
琴子は、感情的になると、出生地のなまりがより一層強く出る。
しまいには、何を言っているのかがわからなくなるほどだ。
「そうそう、光揮君さ、
今日のパトロール全部周り切ることってできたん?」
「なんとか終わらせましたが、ギリギリでしたね」
光揮は、記録帳を取り出して琴子に見せた。
リマインダーのチェックは全てつけられている。
「さっすが!ソウルシーカーズ期待の新星ね」
「やめてくださいよ。
それにしても、今日の地球人居住区の異人の出現件数は多すぎました。とても周り切らないですよ。
叉爾さんが途中合流してくれて助かりましたよ。
特に、今日の第六区ガルナフは、我々の想定を軽く超えていました。
なんとか地下街までいくのは食い止められましたが、ギリギリのバトルでしたし。
第一次異次元戦争並みだと司令部でも大騒ぎですよ。
襲撃件数が、爆発的に増えてます。
ソウルシーカーズも、100人単位で回収されてます。
異人にやられた人間たちに加えて内輪の人間を回収しなきゃいけない。
とてもじゃないけど手が足りません」
「棺組も手が回らないそうよ、……酷いわね」
と琴子は言って、沈痛な表情を浮かべた。
エイナがテーブルの上で拳を悔しそうに握りこむ。
「こんな事、俺たちが任務につき始めてから初めてです」
ティルナノーグ帝国軍は、侵略した異人の殲滅と、地球の治安維持のために作られた反連邦組織である。
その中でも、エリートのみが在籍許可を得られる特殊部隊ソウルシーカーズは、主に携わる任務が違う。
彼らは、『次元の扉』の封鎖によって、死界に行けなくなった地球人の遺体の回収を、メインミッションにしているのだ。
「ほんとに、なんとかなるのかな……ちきゅー……」
と、エイナはつっぷした。
「何よ、エイナ、らしくない」
と琴子はエイナを覗き込んだ。
「エイナの奴、不安がってるんですよ。
俺たちの頭数があまりに足りなすぎるって。
さっきも、そこの第二部隊の連中と話していたんです」
「簡単になれるものでもないからね。帝国軍人になるだけなら、『疾風』や66式の操作ができるようになれば可能だけど」
そういって、琴子は大口をあけて人工肉で出来た肉団子を頬袋におさめた。




