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LIVE.20 魅子とメイ、まさかのベッドイン?!の巻

 2324年1月31日21時



 ロード・トワが連邦の元帥になって、来年で5年目に突入しようとしていた。

 地球人は、人口のカウントさえもされていない。

 最後に、地球人の人口が発表されたのは、2320年だった。


 十年戦争が勃発する2310年時点で、2億人と言われていた地球人は、2320年には、1億に満たない9867万人に激減していた。

 約300年前の2015年には、地球人は、72億人であったのに、だ。


 それほどに、地球人を取り巻く環境は劣悪であった。


 連邦第六区 ガルナフにあるバー『CROSS GATE』の裏口を出ると、一本の抜け道があった。


 その狭い道は、藍統と魅子の住処に続いていた。

 けして広い訳ではないが、手狭でもない、二人が住むにはちょうどよい広さだ。


 個室が2つにリビングが1つ。

 備え付けのキッチンにバスルームとレストルーム。

 一見すると、同棲している恋人同士が住むような間取りである。


「あの、俺、ここで寝るの?」

 メイは、魅子の部屋の中でボー然としている。


 藍統はいつの間にか自室に入っている。

 叉爾は、リビングのソファですでに就寝していた。仮眠をとって帝国に戻ると言っていた。


「あんた、あたしのこと守るんでしょ?」


 答えるやいなや、がばりと魅子は着ている服を脱き始める。


「わ、うわぁあ?!」


 室内の灯りは蝋燭の火しかない。

 けして明るくはないが、メイはぎょっとして両手で両目を覆う。


「なによ、いちいちうるさいなぁ。

 童貞でもないでしょ」


「ダイレクト下品っ!アウトだよ! ひぃ、もう勘弁してくれぇ」


 魅子は全く躊躇する事なく帯のコルセットをほどいていく。


「ちょ、っと、いくらなんでも」

「なんでも、何よ?

 これ着たままだと苦しいんだもの」


 目を逸らして固まるしかないメイの耳に、しゅる、と紐が解かれる音が届く。

 続いてぱさりと赤いスカートの衣擦れの音がした。

 床にぺしゃりと落ちる赤。


 メイは、自分の顔面の温度が急上昇しているのが分かって、余計に恥ずかしくなる。


「本当に! 勘弁してくれ!」

 羞恥心に耐え切れずに、メイは叫んだ。

「だったら布団にもぐって寝てなよ」


 面白がって、魅子はからからと笑う。


「あんた、ほんと、女なのかよ!」

「ウブなのね、メイって。面白い……」

「ほんとう性格悪いっ!」


 ごそごそと着替える気配がしていたが、暫くすると何も聞こえなくなった。


「?」


 メイはそっと指の間から覗き見る。

 同時に、頭から、ばさりと布を被された。


「な?」


 メイは何も見えなくなった原因を掴む。

 手にとって広げて見れば、部屋着だと分かる。


「それ、着てなよ。隊服じゃ寝れないでしょ」


 魅子は、シンプルな白地のワンピースに着替えていた。

 闇の中に細い体が浮かび上がる様に見惚れる。


 あんなに嫌味を吐かれて散々な思いをしたというのに、

 何故かメイは彼女を憎めないでいる。


「あ、ありがとう」


 素直に礼を言うと、魅子は一度、メイに視線を寄越す。


 じいっと見つめられて、メイはたじろいだ。

「メイって、よく見るとイケメンなのね」

「はぁ?」

「そうだ!」


 魅子は、何かを思いついたようにタンスの中をまさぐり始める。

 引き出しから、一枚布を引っつかんで取り出し、メイの前まで来ると、


「床で寝ろってわけにはいかないから、一緒に寝るわ」


 次の瞬間には、

 どん、とベッドに向かってメイは押し倒されてしまう。


「いってぇ」


「さっさと着替えてよ」


 見下ろしてくる魅子に、メイは絶句した。


「っイヤイヤイヤ、これで着替えろって方が無理だろッ?」


 なんだか色々と美味しい状況にはなっているが、

 魅子はあくまでメイをからかっているだけである。

 下手に動けず、メイは魅子を見上げた。


 二人は、じっとお互いを見つめている。


 昼間に初めて会った時、大げんかから始まって、

 今、なぜか同じベッドの上にいる。


 このよくわからない展開の速さに、メイは頭がぐるぐるしている。


 ただ、メイは魅子から目を逸らすことはしなかった。


 二つのアメジストのなかで、蝋燭の炎が静かに揺れているのをメイは見た。


 あの大国神社の本尊下にあった牢獄、そこに魅子がいたんだと思うと、メイは胸が苦しくなった。


 しばらく、二人は見つめあっていた。


「あんたが、薙杜の末裔だったなんてね」

 静かに魅子はつぶやいた。

「あんたが、闇喰の姫巫女だったなんてな」

 魅子の声を受けて、メイもつぶやく。



「なんか、不思議。

 はじめてではない気がするの」


 魅子はそういって、そのままメイに体重をかけた。

 メイは、じり、と後ずさると、手首がシーツを滑ってバランスを崩す。

「ッ?!」


 魅子は、クスリと笑って、メイの心臓の上あたりを、トンと人差指で押した。


 たったそれだけで、メイはぽすんと枕に埋まってしまう。

 慣れた仕草で魅子は、メイに重なってきた。

 彼女の背中越しに蝋燭の灯りが見えた。


「ちょっと待てッて!」


 流されまいと、反射的に顔を逸らすメイ。


「待たない」


 魅子の黒髪が頬にかかってくすぐったいとメイは思う。

 ストレートの髪の毛からは香の匂いがした。

 魅子は、メイは首筋に頬を寄せると、クスクスと細かく笑った。

 メイはゾクゾクして身を竦めた。



「メイの血は、美味しいのかな」

 恍惚とした声が、耳の裏で囁かれる。

「うまいわけないだろ、まずいよ」

 メイは、なんとか身を起こしてベッドに腰掛けた。


「まったく、からかうなよな」

「悪くないでしょ?」

 形の良いぷっくりした唇が三日月になる。


「俺は、あんたを守るんだ。

 こんなことするのはよくない。

 あんたの価値にこんな事はいらない」


 きっぱり言うと、魅子は目を一瞬見開いた。

 そして、なぜか嬉しそうにくすぐったそうに微笑んだ。


 メイは流されそうになった自分になんとかブレーキをかけてため息をつく。

 そして、改めて思う。

「この女は危険だ」と。


 だって、メイだって男の子である。

 察してやってほしい。

 もう一度言っておく。

 メイだって男の子だ。


「なぁ、魅子」

 魅子は、ベッドに横になって、

「なによ、ウスノロ」

 と言った。

 その反応に慣れてきた自分に対してメイは笑った。


「異人ってうまいの?」

「うまくはないわよ。

 でも、血液を飲まないと喉がカラカラになって動けなくなるの」

 魅子は息をするみたいにため息をつく。

「闇喰って、吸血鬼の一族だったってこと?」


 蝋燭がジジっと鳴いた。


「そうだといえば、そうだし、そうじゃないといえばそうじゃないわね」

「え?」


「あたしは、もともと血液を摂取しなくても生きていけたの。人間と同じようにね。

 闇喰の一族は、代々、人間の負の感情を吸い取って浄化する力を持っていたの。

 あたしがこんな風になっているのは、血のせいだけじゃないわ」


「ごめん、なんか言いにくいこと言わせてる?」

「ううん? 他人に話すことなんてなかっただけよ。

 かまわないわ。

 ーー4年前、あたしが14歳だった時に、大国神社が燃えて、

 あたしは玄武と一緒に地下街に逃げたんだけど、はぐれてしまったの。


 それから、死に物狂いで地下街で生きのびたわ。

 地上に行くことも出来ず、

 身寄りもなかったから、なんでもした。

 その時にーー」


 魅子は、右の掌をメイに向けて開く。


 くぱぁ


「いつのまにか、こいつがあたしの掌に住み着いてた。

 異人の血液を飲むようになったのは、この時からよ」


「こいつはーー」


 メイは、魅子の右の掌を凝視した。

 そこには、目玉があった。

 直径7センチほどの人の目玉だった。



 キュルン


 と音を立てて、その目玉はメイを見ていた。

「闇喰の血が呼んだのかはわからない、だけど、こいつが言うの。

『神剣 神楽』の元に連れて行けと」


「『神剣 神楽』ーーじゃあ?!」


「こいつ、あたしは手の目って呼んでるんだけど、手の目と一緒にいるようになってしばらくして、藍統があたしを見つけてくれたの。


 それから、あたしは今までずっと、特務兵 魅子として異人を殲滅してきたってこと」


「そうだったのか」

「こいつのためにも、そしてあたし自身のためにも、

 あたしは『神剣 神楽』の元に行かなきゃいけないの」


 そう言った魅子の瞳は、紫に燃えていた。


 夜も更けた地下は想像以上に冷え込んだ。

 寒い、とメイがシーツに潜り込むと、予定調和で魅子も招き入れることになった。


「藍統は、地下街で娼婦をしていたあたしを拾ってくれた。

 ーーーー恩人なんだ」


 魅子は、ごそりとメイの隣に寝転んで、身をよじった。


「ずっと、あたしは一人で生きてきた」


 横目に盗み見た彼女の表情には、なんの色もなかった。


「こんな話聞いても楽しくないわね」

「いいよ、聞かせて」

「メイは変わってるのね」


 メイの方をまじまじと見た後で、

 魅子は短い息を吐いて、

 天上を見上げた。


「地下街には、あそこには時間に価値がない。だから、時間がないの。


 ただ生き抜くために必死だったわ。

 盗みだってウリだって、物乞いだって、なんだってやった。

 ただただ、食いつなぐことで頭がいっぱいだったから。

 あたしがその日生き残れたら、正義だったから」


 魅子は天井に向かって右手をかざした。

 部屋着がだらりとめくれて、腕のやけどの跡が蝋燭の火に照らされた。


 メイは、ずくん、と胸が痛んだ。


「ふふ、喋りすぎちゃった」

「今まで、喋れなかったんだろ、いいよ。これくらい」

 メイは柔らかく微笑む。

 魅子は安心したように微笑み返した。


 そして、メイはさっきの着替えの時、魅子の足に無数の古傷が覗いたのを、思い出す。

 とっさの事だったので、その時は慌てて目をそらしてしまったが、彼女の身体は、そこら中、傷だらけだった。

 今までの彼女の生きてきた時間を思うと、言葉につまった。

 あのとき、俺がもっと強ければ、としても仕方のない自責の念がわいた。


「玄武には、会った?」

「ううん、会ってないわ」

「そっか、会いたいな、あのカメ面……」

「メイってば、口が悪ぃ……」


 そして、二人はどちらともなく深い眠りについた。

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