LIVE.19 嗚呼、愛しの姫巫女殿どうして貴女は姫巫女なの
「まだ、おわんないのかな……」
メイは、朱雀門の前で座り込んで魅子を待っていた。
叉爾は、メイの横に直立不動で立っている。
「噂には聞いていたが、本当だったとはな」
叉爾がぼそりと言う。
「特務兵の魅子は、異人を喰う」
叉爾のセリフは、今まさに目の前にある現実そのものだった。
「藍統さん、俺のチームメイトだって言ってたけど」
「あのお方がそういうのならば、それが事実で現実だな」
「う、うまくやっていけるのかなぁ……未知すぎるし、すでに俺のメンタルは豆腐並みに柔くなってるぜ……」
「いい機会だ。
そのお天気主義を鍛え直してもらえばいいじゃないか」
叉爾は、ふん、と笑う。
「他人事だと思って!」
「他人事だからな」
「ふええええぇ」
メイは情けない声をあげた。
190の筋肉質な男の泣き言は、あまり直視できるものではないかもしれない。
メイは、先ほどの戦闘の残骸、もとい、異人の死体を喰う魅子に視線を移した。
さっきから半刻ほどほど経つが、ずっと彼女は食事をしている。
彼女の直属の上司(という言い方でいいのかは不明)である鬼のモリビト 鬼道 藍統は、木の上でスヤスヤと昼寝を始めていた。
呑気なものである。
「そもそも、あの人なんでいるんだろう」と、メイの心に一瞬疑問がわいたのだが、追求してはいけない類のものだと思い、思考回路から消した。
「久々にゆっくり食べれるわー」
魅子は、しゃぶりつくした異人を、ぺい、とゴミでも放り投げるように、地面に捨てた。
二体目、三体目と、次々に飽きることなく、その女は異人の喉にむしゃぶりついていく。
魅子は、ある程度血液を飲んだら、侮蔑の眼差しを向けて手を離した。
離された白の化物は、骨抜きになったように、ぐしゃりと地面に潰れる。
異人の首には、必ず同じチョーカーがあった。
首にぴったりと巻きついたそれに埋め込まれた真っ黒い石が、日光を受けて鈍く光った。
「くぅあーっ!まっずい!
やっぱり不味い!
なに食べて生きてんのかしら、こいつらは!
最近、また味が落ちてるわ、チッ」
ぶつぶつと言いながら、魅子はかれこれ15体目の異人の首筋から唇を離した。
ぷっくりと厚い唇に、なんだかエロいなぁとメイは思う。
「なぁに、見てんのよぅ?」
魅子は、視線を異人の真っ赤に染まった首筋から外さないまま、メイに声をかけて来た。
「ぴっ!?」
これに、メイはびっくりして背筋を伸ばした。
まるで蛇を怖がる犬っころである。
「いえ、なんでもないよ」
「ふーん」
どしゃり、と異人を地面に落とすと、魅子はメイたちのそばにやってきた。
疾風を使いこなせている。メイたちの前にくると、疾風は機動停止した。
止まり方が堂に入っている。
まるで彼女の身体の一部のようだとメイは思った。
同時に、美脚が目に毒だ、とも。
「もういいの?」
メイは魅子に尋ねる。
「流石に、お腹いっぱいよ」
「異人を食べるなんて、驚いたよ」
素直に感想を口にするメイ。
これが嫌味にならないのは、彼の人徳である。
「あたしも、いつのまにか、こうなってた」
言って、魅子はメイの横に並んで手頃な石に腰掛けた。
メイは、何を話したらいいのかわからなかったが、気にせずぽやんとすることにした。
しばらく沈黙が続く。
「あんたさ、何でソウルシーカーズやってんの?」
問いかけたのは、魅子だった。
地面に生えた野生のスミレをいじりながらメイに問いかける。
「俺? 俺はーー、姫巫女を探しているんだ。俺の家系は宮仕えで、代々姫巫女を守っていたと聞いてる。
どこにいるのかわからないけど、
会ったこともないけど……」
「ふーん」
魅子は、気のない相槌を打つ。
「なんで、そんなことを聞くの?」
今度はメイが問いかけた。
「興味があるんだ。ソウルシーカーズに」
魅子は答える。
「なんで、死んでまでわざわざこんな地獄で戦うんだろうってさ。
あたしは帝国に行ったことないし、子供の頃から、藍統のところに来る今まで、このガルナフから出たことはないの。
帝国に行けば、穏やかな暮らしができるって聞いたわ。
だったら何故ーー」
「確かに、そうかもしれないね」
メイは魅子に同意した。
「でも、例え10年だって、できることがあるならやりたいんだ」
「そう」
魅子は、そよ風が吹くのを、心地よいと感じた。
自分の隣で、前を真っ直ぐに見据えて笑う少年の空気が心地いいと思ってしまう。
「それにさーぁ」
メイは続ける。
「?」
「その姫巫女ってのが、
すっごいかわい子ちゃんだったら役得じゃん?」
会話の行方を見守っていた叉爾は、人知れず内心で大きなため息をついた。
メイは瑠璃色の瞳をキラッキラさせて、
「絶対、美人だと思うんだよなぁ、だって姫巫女、姫☆巫☆女だぜ?
ナイスバディなボインちゃんでさ!
きっと、庇護欲そそられるような儚い感じのっ!
こう、綺麗な湖のほとりに咲く一輪のバラのような!!」
恍惚と語るメイ。
もう誰にも止められない。
「迎えに来たよって、俺が言うと、可憐な彼女は頬を染めながらこう、瞳をうるうるさせながら、ね!
『待ってたの!あたしの運命の人っ!』って抱きついてくるわけ!
ザ・ハッピーエンド!だよ!
たまんねぇなぁぁあ」
言いながら、エア姫巫女を抱きしめるメイ。
「夢見てると痛い目合うわよ?」
これに水をさしたのは魅子だ。
「えぇ?」
「そんなうまい話があるわけないでしょ?
どうせ、ブスでデブで性格の悪い救い用のない甘えた女子よ!
寝言は寝ていってほしいわ」
「な!!なんで魅子にそんなこと言われなきゃなんないんだよ!」
逆上するメイ。
「本当のことじゃないっ!
だいたい姫巫女なんて呼び名が恥ずかしいわっ!
夢見ちゃってバッカみたいっ」
二人の言い争いはさらにヒートアップするばかりだ。
叉爾は、表情を変えずに見守っているだけだ。
「もし、姫巫女に会ったとしても、魅子には紹介してやんねーからなっ」
「ご遠慮するわ!
頼まれたって紹介されるもんですか!」
「あーあ! 本当、世の中って不公平だよね、こんな性格の悪い女がチームメイトだなんて!
早く姫巫女と会いたいもんだよ!
ラブラブファンタジーしたいっ!」
「それはこっちのセリフよ!
あんたみたいな三流ソウルシーカーズ! 藍統から言われなければ絶対に絶対にバックれてた!
姫巫女に心の底から同情するわよ!」
「なんだよ!!」
「なによ!!」
ぐるるるるるる
お互い睨み合ったまま、一線も譲らない。
「まぁまぁ、それ以上行くと傷に塩を塗るハメになるぞ、ふたりとも」
一触即発の状態に、割って入ったのは鬼のモリビト 鬼道 藍統だ。
「昼寝してたんじゃねぇのかよ」と叉爾は地味に突っ込んだが、関わらないことにした。
「だって、藍統っ!」
「だって、藍統さんっ!」
「はっはっは、息ぴったりじゃないか」
パンパン、とロングコートについた枝葉を払い落としながら笑う三十路男。
「藍統さん、からかわないでくださいっ!
俺は、姫巫女を探さなきゃなんないんです!」
「あー、かわいそうね!
こんなヘタレに守護される女の顔を見てみたいわっ!」
「なんだとー!?」
「ーー目の前にいるだろう」
とっくみあいを始めた二人を俯瞰しつつ、藍統は告げた。
とんでもない時限爆弾が、
あっさり爆発する。
「「はあ?」」
髪をひっぱり、ほっぺをひっぱりしていたメイと魅子の手が止まる。
そして、鬼のモリビトは、至極幸福そうな顔をして言った。
「紹介しよう。メイ
彼女が、闇喰 魅子。
大国神社に代々仕えて来た闇喰家唯一の生き残り。
君が探している姫巫女だ」
ーーーー…………。
はたりと見つめ合うメイと魅子。
「「でぇええええええええええええ!?!」」
二人の絶叫は、ガルナフの隅々まで響き渡る。
遠くでカラスがカァカァと鳴いた。




