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LIVE.16 皇帝が生まれた日と英雄の命日は同じ。

 

 ぶわり


 二人を中心にして、風が起こると、金色と銀色の光が螺旋を描いて天空に向かって柱を作る。


「さあ、後は任せたよ。

 リラ、そしてーー」


 光の中心から、霊人は祭壇の下に控える男を見た。


 男は、初めて見る霊人の狂気を帯びた表情に目を奪われていた。


 銀髪はゆらりと舞い上がり、

 黄金の瞳がその奥から光を放っている。

 ゆったりとした式服は、

 風を含んで優雅に舞い上がる。


 あまりの神々しさに、男は霊人に向かって跪いた。


 霊人は、神楽を天空に掲げ、喉仏を震わせた。


「『神剣 神楽』をもてーー

『封印の儀』を執り行わん。


 この後、『次元の扉』は封鎖となる。

 地球のあちこちに出現している『時空の歪み』も消滅するであろう。

 異次元からの干渉もまた、消える」



 絶界の果てまで届きそうな声だった。


「『時空の歪み』までも!?」


 隻眼の男は、前髪で隠れた左目を大きく開けて、驚愕した。


「そうだ。だが、それは長くはもたない。

 もって、10年。

 同志たちと共に力を合わせ、

 必ずや、この地球から異人を滅殺せよ。

 そして、息子の戒人に『神剣 神楽』を継承させ、

『次元の扉』開放すべし」


「相分かった」


「ーーリラと共に。

 お前が全地球人を導くんだ。

 二度と、異人の侵略を受けないように、

 地球の礎を再確立させねばならない。

 この地球を、もう一度、我々の手に取り還す!!!」



「我が魂の限りに遂行しよう!」



 軍服の男は、渾身の力を込めて叫んだ。

 その男は、武者震いしていた。

 目の前の神主のことを、人の皮を被った神だと感じた。


「じゃあな」


 霊人の短く言い切る口ぶりに、いつもの柔らかさはなかった。


 迷いも執着もない、まっすぐで純粋な意志。


 隻眼の軍服男は、何故だか激しい焦燥にかられた。


「霊人、俺はーーっ!」


「さようなら」


 霊人は、軍服の言葉を途中で切り、ふわりと微笑んだ。


 祭壇に『神剣 神楽』を翳す。


「さあ、始めようか、我が女神」


 リラが、祭壇を挟んで霊人に向かい合う。


 霊人は、錫杖を高くかざして、口の中で『神の言葉』を紡ぐ。


 それに呼応して、白い光が現れた。


 その光は、ゆっくりと霊人を包んでゆく。


 ばりばりっ



 霊人は、刀身の根元に巻きつけてあった護符を剥ぎ取った。


 黄金色の巨大な光の玉が現れ、

 霊人はそれに同化していく。


 光の中で、神剣使いが咆哮した。




「『神剣 神楽』よ!

 うつし世と常世とこよを裁く正義の秘剣ひけんよ!


 我が意志に応えよ!

 ここに叶えよ!


 万物を導く光

 闇を許さぬ万能の力よ


 我が意志とともにあれ


 美しきこの地球を護り給え」


 霊人を包む光はどんどんと大きくなっていく。

 豪風が巻き起こり、地震が起こる。大理石はガタガタとはげて、空中に浮かんでいる。


 霊人は、刮目して叫んだ!


「時は来たり!!


 今ここに 我が魂の全てをもって

 汝の力を開放せん!




 神楽かぐら


 光の秘鑰ひやくとなりて




『次元の扉』を封鎖せんッ!!」





 ドォォォォォォォォォォンッッッ





 衝撃音と共に、地面はさらに大きく揺れた。

 霊人を包む激しい光が一層強くなり、辺りに光が満ちる。


 隻眼の男は目を開けている事がかなわずに、ぎゅうときつく両目を閉じた。

 その鍛え上げた身体をもってしても、地震と衝撃波の中では立っているのもやっとだった。


「クッ!」


 隻眼の男は、とうとう耐えられず、大理石に這いつくばった。


 純白の光が『次元の扉』を包み込む。

 瞼を焼き尽くすような閃光をまともに食らって、男は暫く眼を開けることができなかった。










 どれだけ時が経ったのかわからない。

 ようやく、男が世界を取り戻した時、リラが祭壇で泣き崩れているのをみとめた。


「霊人は・・・?」


 やっとで絞り出した軍服男の声は、

 驚く程不安定な音階だった。


 自分の声に驚いて、その男は2、3度咳払いをした。


 祭壇を見る。

 先程まであったそれは、ボロボロに崩れてしまっていた。


「祭壇が……、神楽は……どこに?」


 軍服男が祭壇に近づく。


 コロコロ、と祭壇を形成していた石が男の足元に転がってきた。


 どこを探しても、『神剣 神楽』も見当たらなかった。


 ズウウゥゥウン


 重く空気が鳴るのを聞き、空を見上げた。


「あ・・・」


『次元の扉』は、封鎖されていた。



 頭上高くを見上げると、『次元の扉』の歪みは全くなくなっていた。


 そして辺りは不気味なほど無音である。


「リラ殿……」

 男は、恐る恐る声をかけた。


「いかれて、しまいまし、た」


 うなじを晒したまま、はらはらと涙を流す女神を、

 その男はぼんやり眺める。


 なすすべが思いつかない様子で、ただ、女神を見ていた。



「霊人、様・・・ッ」


 唇を噛み締めて、リラは号泣している。


 ーーこの男は知っていた。


 異人無双の神剣遣いと『次元の扉』のモリビトの二人が、

 互いに惹かれ合っていた事を。


 そして、二人が最後まで結ばれなかったことをーー。


「…………」


 男は霊人が最後に立っていた場所に立つ。


 そして、絶界を見渡した。


 何もない、果てのない、暗闇に続く聖域を見渡した。


 そして、重い口を開いた。

 この男には、計画していたシナリオがあった。


「時空のモリビト、リラ・クロノス」


 軍服男は、今までとは全く異なる声色で、女神の名前を呼んだ。


 威圧感のある重低音は、欲望の色を強く放って隠さない。


「あなた……?」



 リラは、その違和感に、泣くのをやめて、男を凝視した。

 その立ち姿とオーラ、声色、放つ眼光、その全てが、彼女の知る男とは異なっていた。


 隻眼の男のペルソナの仮面が、割れた瞬間であった。


「我輩が、神になるのだ」


 同時に、それは一人の男の無謀な挑戦が始まった瞬間でもあった。


 凄まじい殺気を放つその男は、リラに手を差し伸べて抱き起こす。


 男は、立ったままの姿勢でリラの甲を自分の口元に持って行くと、唇を落とした。


 先刻まで、おどおどと戸惑いを見せていたというのに。


「あなた、まさか最初から……?」


 ユリの顔色は、より深い絶望の色に染まる。


「霊人の遺言どおりにしようではないか、リラよ」


 その荘厳な有様に、圧倒されるリラ。

 先ほどまでの面影は、全く見られない変貌ぶりに、開いた口が塞がらないようだった。


 時空のモリビトは、自分が見ている光景が信じられずに、男の腕の中で言葉を失っている。


 男は、魂の奥から渇望している欲を、瞳に宿している。


「只今より、帝国ティルナノーグをかりそめの死界とする。

 我輩は、ティルナノーグの皇帝である。

 時空を統べる女神に約束しよう。


 我輩は必ず、この地球を異人より、取り還してみせる」


 全人類に宣言をする王の演説のごとく皇帝は言い放った。


 禍々しいほどの笑みを女神に見せつけた。





 2320年1月1日ーー、

 大国神社全焼。


 多くの宮仕えのものたちは、異人によって命を奪われた。



 この日を境に、帝国ティルナノーグの存在するG大陸は、地図上からその姿を消す。



 かりそめの死界、

 帝国ティルナノーグの誕生である。

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