LIVE13. 兵士になった俺が4年ぶりに故郷に戻ってみた。
トンネルを抜けると、太陽の光が眩しくて、叉爾とメイは目を細めた。
「先にあのじゃじゃ馬娘が来ているといいんだが」
藍統さんは腰をトントンと叩き、
「やはり、中腰での移動には無理があるな」と不平を言った。
抜けたところで、入り口と同じくらいのソウルシーカーズが、5、6人で出迎えてくれた。
そこでも、藍統のモテようは異常なほどで、
藍統は穏やかに皆に挨拶をした。
「あ! 藍統さん!」
という一声を合図に、皆が一斉に藍統に駆け寄った。
「お久しぶりです。最近はめっきり見ないので、どちらにバカンスに行かれたのかと」
ビシリ、と敬礼して男性のソウルシーカーズは白い歯を見せた。
「はは、老人は引退させてもらうよ」
続けて、今度は隣のひょろりとした男が
「特務兵の魅子さんの噂、聞きました!
本当に素晴らしい戦闘力をお持ちですね」
と落ち着きなく声をかける。
「君たちに迷惑をかけてなければいいのだがね」
「とんでもないっ!」
次から次へと質問の雨が降るのを、聖徳太子よろしく丁寧に答える藍統。
もうこんな対応は日常茶飯事といった具合だ。
女性のソウルシーカーズは、頬を紅潮させて一生懸命に話しかけている。
メイは、なんだかその様子がくすぐったかった。
「藍統さん藍統さんっ!
今度はいつ帝国軍にお戻りなのですか?」
「あぁ、しばらくは戻る予定はないがね。
大分隊務には慣れたようだな。
第二部隊の隊長は元気にしているか?」
「はい! 今、ちょうどパトロールに回っています。藍統さんから話が出たことを聞いたら喜びますよ」
「そうか。よろしく伝えてくれたまえ」
「もちろんです!」
とまぁ、口々に好き勝手に藍統に話しかけ、会話が成立したら大仰に喜ぶ。
あっという間に藍統の周りには、
黒いマントの人だかりができた。
胸元の宝玉を見る限り、みんなオニキスだ。
新兵ばかりなのだから、この対応も責められないなぁとメイは思う。
嫌な顔ひとつせずに、藍統は対応している。
メイは、そんな藍統の大人の対応に憧れを抱く。
メイと叉爾は置いてきぼりをくらって突っ立っていた。
ぽつねん。
「……やっぱ、鬼のモリビトってすごいなぁ」
「なんだ、メイ。
何をそんな当たり前のことを言ってる?」
ぶっきらぼうな叉爾の答えに、
「まあ、そりゃあそうなんだけどさ」
「モリビトと言えば、帝国の幹部であり、カリスマだ。
話せば光栄に思うし、
人によっては涙して喜ぶものもいる。
お前みたく気さくに話せる人間はいない。
緊張感がまるで欠如しているからな」
「何それ、褒めてんの?けなしてんの?」
メイは唇をとがらせた。
「わからん。だが、羨ましいとは思うな」
「叉爾のそーゆーとこ、好き」
「はぁ? 気色が悪い。忘れろ」
「へーへー」
叉爾は、糞真面目な性格ではあるが、捻くれたところがない。
とにかく真っ直ぐで、
とにかく口下手で不器用な男だ。
すぐにおちゃらけてしまうメイは、
叉爾のそういう人間臭いところに好感を持てた。
「俺、これでもあんたが世話みてくれて、感謝してるんだぜ?」
と、メイが言うと、叉爾はすっかりいつも通りのポーカーフェイスに戻って、
「言ってろ。
後な、俺はメイの世話係ではない」
と、皮肉を垂れ、
「お前はお前で、帝国軍の中では
十分有名人だろ、ある意味な」
と「何が不服なんだ」とばかりに視線を送った後で、ぷい、とメイから離れ、藍統に近づいていく。
「むう」
取り残されたメイは、一人むくれたのだった。
★ ☆
地上には、ひと気はなかった。
地下街の入り口には、ソウルシーカーズたちがベースキャンプを作り、日々警護に当たっている。
そうは言っても、ソウルシーカーズの数にも限界があり、
すべての集落を守れているというわけではない。
地球人の中には地上で異人の奴隷として生きているものもいる。
そういう人たちは、地上のスラム街に住んでいた。
藍統を先頭にして、叉爾とメイの一行は、スラム街を抜けて行く。
三人は、神風工廠産電動移動兵器 疾風で、時速20kmのスピードでもって走行している。
メイは、藍統の無駄のない走行フォームにまた、感動して叉爾に小突かれた。
「ここを抜ければ、大国神社跡地がある。
今は、全焼してしまって、
本尊跡と御神木を囲ってあるだけだ。
それを包囲するように、地球人スラム街がある」
叉爾はそういって、前方の御神木を指差した。
巨大な樹は、青々と緑が繁っている。
スラム街の大通りまで出ると、娼婦たちの集団とすれ違った。
鼻がひん曲がりそうなキツイ香水と、白粉の匂いは、かなり離れたところまで漂っていた。
「……」
メイは、無言で突っ切って行く。
大国神社は、地球に存在する最古にして最大の神社であった。
だがそれも、2320年に異人によって焼き払われてしまった。
メイの命日でもある、2320年1月1日のことだった。
今ではその広大な敷地には、
本尊跡と御神木を塀で囲って保護してある。
広大な境内跡には、ところせましと無法地帯のスラム街が広がっている。
地球人の住処になっている理由として、
敷地内は、霊人の式神たちの土地に張られた結界が展開しているため、
異人からは攻撃を受けにくくなっているからだという説がある。
実際、2320年の大国神社の陥落以降、異人の侵入を許してはいない。
その話を聞くたびに、メイは、自分の教育係だった玄武や青龍、白虎に朱雀を思い出して、郷愁にかられた。
まだ、彼らに会っていないメイは、
自分の家族といってもいい四人の式神を思い出して、ぎゅっと胸が苦しくなった。
「最近、大国神社跡に、異人が侵入しようとしたらしい。未遂には終わったが」
と、叉爾は言う。
続けて、
「御神木には『神剣 神楽』が封印されている。
2320年に『次元の扉』の鍵としてその力を発動されたあとは、
ずっとここに納められてきたんだ」
と説明すると、藍統の顔を見た。
藍統は、一度頷いてみせる。
「ふぅん」
メイは、「そんな話、お袋から聞いていたなー」程度に話を受け流していた。
話が身に入っていない理由はカンタン。
腹が減っているからである。
すでに、先ほどの差し入れは、彼のエネルギーに変わったいた。
薙杜 メイ、驚きの燃費の悪さである。
叉爾は気のないメイに構わず続ける。
「式神の結界が弱まっているのは確かなんだ。
異人の狙いは『神剣 神楽』だ。
これを霊人の一人息子である戒人に継承させるまでは、油断はできない」
言い終わってから、叉爾は神妙な面持ちになり、空を見上げた。
彼の視線の先には、大国神社の御神木があった。
巨大な樹である。
第六区のみならず、隣接する区からもこの御神木は見られる。
「なあ、叉爾。『神剣 神楽』が異人の手に渡っちまったらどうなるんだ?」
メイは問いかける。
叉爾は、
「異人の目的が、この地球の制圧なのであれば、
『神剣 神楽』を手に入れることで、『次元の扉』を解放し、異人をこちらに呼び入れるだろうな」
と答えた。
「それは、困るね」
ふむ、とメイは頷く。
叉爾は、
「ああ、あと、玄鉄隊長から聞いた話だが、
『神剣 神楽』を戒人が無事に継承し、地球の秩序を戻すことができれば、
異次元から来たものは全て【あるべき次元】に強制送還されるんだ」
と説明した。
「そっか! それなら早く戒人に継承してもらえばいいじゃん!」
メイは「してやったり!」とドヤ顔で言い放った。
「それが出来ればいいんだがね」
答えたのは、藍統だった。
「戒人が『神剣 神楽』を継承するためためには、
いくつかの条件があるんだ。
ひとつは、戒人が18歳以上であること。
魂が神剣の力に耐えられないからね。
そして、闇喰の姫巫女の力が必要となる。
闇喰の末裔の力が、な」
藍統はそう言うと、眼鏡をくい、とあげた。
相変わらず、その美貌は蝋人形のように白い。
「戒人は今、何歳なの?」
「今年の2月11日で18歳になるな」
と、藍統。
「だから、異人たちがやっきになっているんだよ。
なんとか、『神剣 神楽』を強奪しようとしている。
最近、この辺りで異人がよく出没しているのは、このせいだ」
叉爾が淡々と答えた。
「あれ、今日って何日だっけ?」
とメイ。
「1月31日だ」
叉爾は、キビキビと答える。
「なるほど、タイムリミットまであとちょいってところなんだな」
藍統が、
「戒人については、今は素性を隠して暮らしている」
と言うと、間髪入れずに
「会えるの?」
と、メイは声を荒げた。
「ああ、いずれはな」
藍統は含みを持たせて答えてから、
疾風のスピードを緩めて、大きな鉄の門の前で足を止めた。
鉄の門の両サイドには、5メートル近い鉄製の塀がそびえていた。
この中に、大国神社の本尊跡と御神木があるのだ。
「……ではソウルシーカーズのお二人さん。
状況を把握していただいたところで、ミッション遂行と行こうか」
「「了解」」
二人は勢い良く答える。
「ここが、大国神社の南、朱雀門だ」
穏やかなテノールの眼鏡の奥は、日光が反射して伺うことができない。
「大国、神社……」
メイは、四年前の地獄のような光景をフラッシュバックし、めまいを感じたが、すぐさま立て直した。
あの日以来はじめて、メイは大国神社に足を踏み入れることになる。
「四年ぶり、か。
待たせたなーー、
もう、あの頃とは違うぜ」
メイはそう独り言を言って、左拳をぎゅっと握りしめた。




