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LIVE.11 帝国軍中継ベース「CROSS GATE」

 叉爾とメイは、カンカンと鉄製の階段を降りていく。

 螺旋階段は、結構深いところまで続いているようだ。

 ズンズンと階段を降りていく叉爾に、

「さっきのおっさんたち、知り合いなら教えてくれよ〜」

 と、メイは抗議した。


「顔見知りではあるが、俺が知り合いと気安く言えるような方々ではない」

 と、叉爾は答える。


「ふぅん?」


 メイは緊張感のカケラもない気のない返事をした。


「ねぇ、特務兵が迎えに来るって話じゃなかった?」

 続け様にメイは問いかける。


「ああ、特務の魅子みこなら、

 ハナからアテにしていない。

 あいつが約束を守ったことはないからな」

 淡々と返す叉爾。


「うへぇ」


 螺旋階段には等間隔で燭台が設置されており、

 ゆらゆらと蝋燭が足場を照らしていた。蝋燭の燭台は地下深くから“はえて”きているようだった。

 どこからか甘いバニラの匂いがした。


「なんか、思ってた地下街と違うなぁあ」

 メイは、地下街に入るのは人生初だった。


 彼は、地下街は下水臭く、ネズミや虫の類がはびこっている不衛生なイメージを抱いていた。


 だがしかし。


 ここまでの道のりは、清潔すぎるくらいだった。

 ゴミひとつ落ちてはいない。


 ただ、地下深くではあるため、日光は全く差し込まない。

 それをメイは少し残念に思った。


 螺旋階段を下り切ったところで、

 深いワイン色の扉が二人を待ち構えていた。

 ドアノブはいぶし銀で、獅子の彫刻が施してある。


「着いたぞ。帝国軍中継ベースだ。

 ここに、帝国軍幹部の一人、

 鬼道きどう 藍統あいと氏がいらっしゃる」


「なんかオシャレだね……」


「表向きはバーになっているからな。

 まあ、軍人の社交場だな。

 鬼道 藍統氏は、2305年からここで情報屋を営んでスパイ活動をしていた。

 ここは、その名残だ。

 今だに、ここで分からない情報はないな」


「なんかわかんないけど、すげぇ〜」


 獅子のノブには、ブリキで出来た簡素なウェルカムボードが引っ掛けてある。


 黒いブリキ板に、

 白で「CROSS GATE」と書かれていた。


「クロスゲート?」

「そうだ。

 メイ、心の準備はいいか?」

「モチのロンっ!」

「上等」

 叉爾は、扉を押し開けた。


 かろんかろんかろん、と小気味よいドアベルが鳴るのに、メイはびくりと反応してしまう。


 続けて、ドアが開かれた隙間から、低音のジャズの音が二人の鼓膜に滑り込んできた。


 目の前に突如広がった豪華絢爛な内装に、メイは呆然とする。


「おい、メイ。さっさと来いよ」

 叉爾は、メイを顎でうながした。


 今まで、18年生きてきて、大国神社の敷地内と帝国しか知らないメイである。

 こんなあからさまな娯楽施設は初めてだったのだ。

 ジャズの音色は、メイの心を踊らせたし、

 雰囲気の良いエメラルドの間接照明や薄暗い店内は、

 彼をワクワクさせた。


 メイはそうっと中の様子を伺った。


 店内の壁面の棚にはびっしり酒が並んでおり、

 カウンターが奥まで続いていた。


 カウンターの椅子は6個程度、

 奥にテーブル席が二つあった。

 そんなに広い店という訳ではない。

 ここが社交場になるのか、とメイは疑問を抱く。


 そんなメイを察してか、

「奥の別室にカジノがあるんだ。

 俺が新兵の頃はよく連れてきてもらってたもんだよ」

 と、叉爾はメイに教えた。


 どこか得意そうな叉爾に、メイはなんだかおかしくて笑そうになる。


 メイは、一番奥のカウンター席に、人影をひとつ見つけた。


 人影は叉爾とメイに気づいているようだった。


 二人の視線を感じたのか、

 その身体をドアの方向に向けた。

 二人は、その人影に歩み寄っていく。


 エメラルドグリーンのランプのみの照明が、

 妖しい雰囲気を醸し出している。


 店内には、他に人の気配はなかった。


「来たか」


 穏やかなテノールだ。


「第一部隊、叉爾です。

 第一部隊所属 薙杜なぎもりメイを連れてきました」

「ご苦労だったね、一杯やってくかい?」

「マジですか? やったぁ!」

「おい! メイッッ!」

 喜ぶメイの後頭部を、叉爾は思い切りはたく。

「いってぇ!?」

「職務中だろうがっ」

「かたいこと言うなよ、叉爾〜」

「お前は脳みそがやわらかすぎる!」

「失礼だからそれ!」


「ぷっ……ははは、噂通りのコンビだな」

 二人のやり取りを見ていた男は、軽く吹き出して笑った。


「こ、これは失礼しましたっ!」

 叉爾は、我に返ると、きっちり90度頭を下げて謝った。


「顔を上げろ、叉爾。

 その様子だと、魅子とは会わなかったようだな」


「ええ、残念ながら」


「叉爾がナビゲーターをしてくれていて正解だったな。

 あいつは食事中というところか」


「食事中? 地下街にも飲食店はあるんですね」

 と、メイが問う。


「恐らく、な。

 最近異人が大人しいから、つまらなそうにしているよ」

「?……そうなんですね……?」


 メイは、藍統と会話が噛み合っていない気がしたが、

 とりあえずは気にしないことにした。


「改めて、ようこそ、バー『CROSS GATE』へ。

 鬼のモリビトの鬼道 藍統だ」


 言って、藍統は手を差し出し、握手を求めた。


「薙杜 メイです」


 メイは、丁寧にお辞儀をしてから握手をした。


「ほう、本当に右手に十字架、なんだね」


 藍統の視線は、メイの右手首に向けられていた。

 帝国の住人たちは、延命装置を左手首に装着されているが、メイは右手首にしている。


「はい」


 メイは、向けられた声が予想外の柔らかいものだったのに、拍子抜けしていた。


 メイは、鬼のモリビト 鬼道 藍統については噂に聞いていた。


 メイが聞いた噂は二つだった。


 2310年から2320年までの間に勃発した『第一次異次元戦争』通称 十年戦争で、

 異人殲滅のため暗躍していた英雄三人の『御三家』の一人であること。


 そして、当時は仮面を身につけており、その正体は誰も知らなかったことから、『仮面マスク殺戮者スレイヤー』と呼ばれていたということ。


 響大将の執務室で、よく彼が話題に出す一人だったので、

 メイは彼と会うのが楽しみだった。


 藍統と呼ばれたその男は、

 ぞっとするほど血の気のない顔をした美貌の持ち主だった。


 見たところ、三十半ばくらいの中年男で、

 エメラルド色で染まった店内に、真っ白な貌が浮かび上がらせている。


 少し長めの黒髪をオールバックにして、

 フチなしの線の細いメガネをかけていた。


 長い黒いコートを着ている。

 それは、程よく筋肉のついた身体によくフィットしていた。


 首元に血の色をした宝玉をあしらった装飾具をつけているのが印象的だった。

 鬼血石キケッセキだろうとメイはあたりをつける。

 玉子大の大ぶりのそれは、ヌラヌラと妖しく輝いていた。


 鬼血石は、“世界の目”と言う別名を持つ高級宝石である。

 かなり高価なものだ。

 権力と財力の象徴である。


 藍統は、すらりとした長い足を組んで、メイに微笑んだ。


「帝国軍に来て四年だそうだが、

 連邦に来ての実戦は、

 最近デビューしたばかりだそうだな」


 少し訛りのある優しさを孕んだ声色に、メイはすっかり絆され、


「はい! でも玄鉄隊長は翼の操作許可を出してくれないので、いつも叉爾にお世話になっています」

 と明るく答えた。


「ははは、そうか。

 俺も翼の操作は好きではないんだ」


「そうなんですね」


「うん。自力で飛ぶ方が楽だからね」


「……んん?」


 メイはやはり会話が噛み合わないと思い、

 藍統の顔を見つめた。


 藍統は、相変わらず、ニコニコと微笑んでいる。

「あ、あの、……からかってますか?」

 メイはおずおずと尋ねた。


「おやおや、心外だね。

 俺は事実しか言わないよ。

 情報屋は、嘘はついてはいけない」


 いけしゃあしゃあと藍統は答えた。


「藍統さん、その辺にしといてやってください」


 と、叉爾が口をはさむ。


「ははは、ピュアっていいねぇ。

 壊したくなるな」


 メイはその時見せた藍統の笑みに、本能的にゾクリとした。


「藍統さん!! 心模様がダダ漏れです!」


 叉爾は慌ててツッコミを入れる。


「はっはっは」


 黒ずくめの眼鏡男は、愉快そうに笑った。

 メイはそんな二人を見て「あ、これヤバイとこ来たかもしんない」と今更思った。


 もちろん、時、既に遅し。



「さて、冗談はこのくらいにして、本題に入ろうか」

 と、藍統は涼しい顔で話題を変える。

 叉爾は誰にも聞こえない位のボリュームで安堵のため息をついた。


「薙杜メイ、今回のミッションは理解しているかい?」

「はい、一応、ですが」

 メイは自信なさそうに返す。


「ふむ、では大丈夫かな」


 顎に手をやり、考える風にした藍統は、あっけらかんと言った。


「アバウトです!藍統さんっ!」

 叉爾が焦ってツッコミを入れる。


 メイは、「なるほど、この人天然なのか」と叉爾に同情した。


「新人教育には、オン・ザ・ジョブが一番というだろう?」

 にこ、とわざとらしいほど爽やかな笑顔で藍統は言うと、立ち上がった。

「勘弁してください……」

 と、叉爾は今度は大きくため息をついた。


 藍統は、長身の男だった。

 メイが190センチあるのに対して、さほど変わらない身長である。


 そう、つまり。


 この藍統という男、

 スタイルが、ムカつくほどいいのだ。


「そろそろ魅子も帰ってくるだろうし、『神剣 神楽』の守護処しゅごどころにご案内しよう。

 ついておいで」


 そう言って、スイッと二人の間を抜けると、扉を開けて外に出て行った。


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