LIVE.10 地獄への扉を開けて
炎のモリビト 炎 玄鉄から下りた辞令を受けた翌日は、
よく晴れた日だった。
「ふぁぁぁぁあ」
メイは、思い切り伸びをする。
「メイはよく伸びてるよな」
叉爾は特攻飛行兵器 翼から地上に降り立つ。
「おい、メイ。先方がお待ちかねだ。
はやく降りろ」
と無表情に言って叉爾は、マントについたシワをパンパンと伸ばした。
十字架をモチーフにしている漆黒のマントは、胸に大きめの宝玉があしらわれている。
その宝玉の色で階級がわかるようになっているのだ。
ヒラ隊員ならオニキス、
班長クラスはルビー、
幹部クラスになるとラリマーである。
メイは、ヒラ(新兵)なのでオニキス、叉爾はルビーだ。
叉爾は、この宝玉を磨くのが好きらしい。
暇があれば、丁寧に磨いている。
「機体の中が狭すぎるんだよ!
エコノミー症候群になったら労災おりるのかな……」
メイは小さくため息をつく。
「労災なんて申請したら、即退役させられるだろうな」
「なんという即戦力主義ッ!」
ゴキリと肩を鳴らして、メイは空を見上げた。
雲ひとつない晴天である。
二人は、ミッション遂行のために、第二世界連邦 第六区 ガルナフに来ていた。
叉爾が付き添いに選ばれたのは、
メイが翼の運転を許されてないからである(メイは、訓練中に空中で曲芸のような飛行を見せ、玄鉄から運転を禁止されている)。
「それにしても。
なんで、こんなミッションが下りたんだろう……?
響大将は、ここで俺の心残りに会えるって言ってたけど……」
うーん、とメイは首を捻った。
「心残り?」
メイの大きな独り言に、ちゃんと相手をする叉爾。
器のデカイ青年である。
「うん、心残り」
犬のように、きょとんとするメイ。
「響大将が仰ったのか?」
厄介そうに叉爾は眉間にシワを作る。
「おう」
と、メイはウインクして答えた。
「なあ、叉爾、それにしてもさ。
前に来た時も思ったけど、
第六区って、ひどいトコだね。
ここ、本当にかつての連邦の首都なの?」
「ああ。俺もよく知らないんだが、資料で見る限りは、そうらしいな」
叉爾は、「念のために66式も装備しておくか」と、十字剣銃をメイに投げた。
二人はそれを揃って腰のホルダーに装備する。
第六区 ガルナフは、
かつては大国神社を中心に栄えていた。
第二世界連邦が、まだ第一世界連邦と呼ばれていた頃は、
ここが連邦の首都であった。
今、その名残は全く見られない。
繁華街は、廃墟と化し、地上には人はほとんどいない。
地球人は、大多数が地下街に住んでいる。地上にいるものは、地下を追われた者(犯罪者や孤児が多い)や、異人の奴隷である。
メイは、二度目のガルナフを、どこか懐かしいと感じた。
実際、メイは大国神社の敷地内にずっと軟禁されるように暮らしていたので、
ガルナフの街は全く知らないのだが。
「メイは、変な奴だよな」
叉爾は、唐突に呟く。
「へ?」
メイは、目をぱちくりさせた。
「響大将とまともに会話できる奴なんて、
帝国幹部のモリビトたちくらいだ。
確か、お前、死ぬ時、響大将に拾われたんだろ?」
二人は、第六区駐在の特務兵と落ち合うために、ぽくぽくと歩き始める。
待ち合わせ場所は、帝国軍の中継ベース入り口だ。
第六区ガルナフには、大国神社と帝国の中継ベースがある。
帝国軍にとって、地球人にとって、カナメになる街だ。
待ち合わせ場所は、
叉爾が知っているというので、
メイは何も考えずに叉爾についていく。
「うん、そうだぜ」
メイはあっけらかんと答える。
「本当だったら、お前は、水のモリビトの神殿に鎮魂される予定だったんだって、玄鉄隊長から聞いたよ」
「らしいねぇ」
ティルナノーグ帝国軍で、軍人として認められるのは、
“死んだ時に、蘇生さえすれば軍人として働ける状態にある者”だ。
酷い損傷があったり、
生前重い病気を患っている者に関しては、蘇生は行われない。
死後48時間以内に蘇生を行うと、
生前と変わらず“生き延びる”ことができる。
ーーそのタイムリミットは10年。
10年経てば、事切れる。
苦しみも痛みもないという。
蘇生をされないものに関しては、
その魂は、水のモリビトによって鎮魂され、
その肉体は48時間以降に、
帝国軍が“しかるべき処理”をする。
「響大将にワガママ言った分、やらなきゃね〜」
呑気にそうごちると、メイはポキポキと拳を鳴らした。
「本当神経太過ぎだ、メイ」
「よく言われるよ。
叉爾こそ、真面目すぎるぜ、ハゲるぞ?」
「余計な世話だ……ついたぞ、あそこだ」
叉爾が足を止めた。
指差した先に、ボロいドアがあった。
玄鉄隊長から下ったミッションは、
【『神剣 神楽』の守護処の警備及び、周辺の異人の殲滅】だ。
ボロいドアの両端に、イカツイおっさんが二人いた。
一人はガラの悪そうな40代のガチムチなチンピラがウンコ座りをしてタバコを吸っている。
スキンヘッドに、後頭部全体に三つの頭を持った獅子の刺青をしている。
黒のタンクトップに、カーキのダボダボのボトムスを着ていた。
もう一人は、30代くらいで、
壁に持たれて立っている。
俯いてガムを噛んでいるようだ。
これまたガチムチで、パーカーを深く被っている。怪しさプンプンである。
どう頑張って贔屓目に見ても、
地下街の違法ドラッグのバイヤーか、
人身売買してる悪人にしか見えない。
クロかシロで言うなら、真っ黒だ。
メイは、
「ぎょぎょ……、なぁ、叉爾、本当にここなの?」
と、あからさまにビビった。
「ああ」
と短く答え、叉爾は顔色ひとつ変えずに、
ガラの悪そうな(というよりガラが劣悪な)おっさん二人に歩み寄る。
「ティルナノーグ帝国軍 第一部隊の叉爾だ。
鬼のモリビト 鬼道 藍統氏にお目通し願いたい」
叉爾が、胸を張って滑舌よく告げる。
二人のおっさんは一度叉爾を見た後で、
「おう、叉爾坊。
相変わらず糞真面目だな」
と、龍の刺青をした男がニカリと歯をみせて笑った。
そして、ゴツゴツした手でドアをあけた。
「話は聞いてるよ、入りな」
と、今度はパーカーのガチムチ男がくい、と親指で地下を指した。
ガチャガチャした声だなとメイは思う。
「ありがとうございます。
ケール殿、ベロス殿」
叉爾は、測ったように30度の会釈をしてから、スタスタと階段を降りていく。
「わ、ちょ、待てよ!」
置いてきぼりをくらいそうになったメイは、叉爾に続いて二人のおっさんに頭をさげてから、階段をおりていった。




