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LIVE.1 新米だってのに、いきなり前線で放置プレイなう。

 じとじととした、梅雨の時期である。

 ティルナノーグ帝国軍 第一部隊である玄鉄くろがね班に配属されたてホヤホヤの薙杜ナギモリメイは、鼻歌まじりに昼間の花街を滑る。花街と言っても、今は人間の気配はない。


 帝国の神風工廠産かみかぜこうしょうさんの電動移動兵器、疾風はやては、時速30キロというスピードで道路に直線を引く。帝国軍では、15キロ以上出す事は禁じらている。

玄鉄班くろがねはん、応答せよ」

 メイの左耳につけた無線機から、地方訛りのある男の声がした。声色はつとめて冷静だ。

 メイは、追い風に背中を押されながら、

「ちぇ、もう散歩はおしまいか」

 とゴチると、おもむろに立ち止まり、

「帰るには早すぎるぜ? 一式イッシキ第二部隊長」

 右肩に担いだ66式十字剣銃を正面に構えてから、咆哮させた。


「ギェエェェェイ」


 野獣のような雄叫びがした。

 メイの進行方向からだ。

 66式十字剣銃のバレルからは、名前通り十字に四枚の刃が展開している。

 刃は、太陽の光を受けてキラキラと細かい光を帯びて輝く。

「綺麗だなぁ、お前」

 恍惚と呟くと、メイは重心を下げて続けて二発を打つ。

 続く、野獣の悲鳴が二つ。

「やっぱ、いいな、神風工廠産はヤベェ。マジヤベェ」

 加えて、メイは、隊服の漆黒のマントがはためく様を心から楽しんでいた。


「安定の呑気ぶりやなぁ? 薙杜メイ」

 無線機から、一式が少し苛立った声を寄越す。

「どうせ耳元で囁かれるなら、エロ可愛いオネェちゃんがいいだろ?」

 その苛立ちは、メイにはノミの爪の垢ほども届かない。

「失礼した、一式第二部隊長。こちら玄鉄班の叉爾さじだ」

 割り込んで来たのは、第一部隊長補佐の叉爾である。生真面目を音にしたらこんな声になるだろう。カチカチした発声を全面に押し出して会話に入る。

「助かったわぃ、叉爾よぉ」

「第三区は片付いた。問題ないだろう」

「ゴクローサン。そんなあんさんに吉報やで。第六地区ガルナフの 防衛線が突破された。地球人殺戮スレイヤーレヴェルは2」

「それはとびきりのイイシラセだな、一式部隊長」

 メイは言って舌打ちをし、大地を蹴る。奇しくも、彼の進行方向先は、第六地区だ。


「一式、不謹慎だ。棺組ひつぎぐみの手配は?」

 叉爾の声が少し高くなったのは、彼が疾風で移動を開始したからだ。

「もう手配済みや。先着の八部隊が迎撃開始しとる。自分も後で合流するわ。ぎょーさん仕留めぇ」

「感謝する」

 礼を言い、叉爾は一式との無線を切る。

「おい、メイ、第六地区の時計塔で落ち合うぞ」

「イェッサー! 180秒で滑り込んでやんよ」

「来れなかったら連れて帰らねぇから、覚悟しとけよ」

 と、叉爾はびしゃりと言い切り、回線を切った。

「そう言われると燃えちゃうタチなんだけど♪」

メイは、グンと体を前に倒しさらに加速した。



 ここは2324年の地球。

 世界は三つの大陸から成る。

 一番大きな大陸は、第二世界連邦という。

 カンタンに言うと、異人によって侵略された元地球人領地である。


 第二世界連邦からはるか東に、帝国ティルナノーグがある。

 これも、カンタンに言うと、元々反政府組織だった有志の軍人が立ち上げた異人殲滅を目的とする死人による国家である。


 ーーえ?

「なんか今、サラッと凄いこと言いましたよね?」って?

 ややこしいことは、次回以降で小出しにされますので、そこんとこよしなに頼みますよ、旦那。


 ーーさて。


 そうこうしていると、メイは第六地区ガルナフに到着した。


 メイは鼻歌を歌いやめて、辺りを見回した。

異人による侵略が比較的少ないこの地区は、少し平和ボケをしているようで、あちこちで地球人の悲鳴が響いている。地下に逃げ遅れた輩だろう。

 待ち合わせの時計塔に着くと、メイは、長めの天然パーマの髪を書き上げた。色素の薄い猫っ毛だ。


「もう、あらかた誘拐されちまってるじゃねぇか……」

 予想外の惨状に、メイは嫌な汗をかいているのを背中に感じる。

異人は、集団行動を好む。

 地球人を襲い、殺戮し、その遺体を彼らの住処である第二世界連邦中枢の【白のドゥム】に持ち帰る。

「悪趣味にもほどがあるぜ」

 全員が純白の軍服に身を包み、頭部全体を白のマスクで覆っている。手足も、ご丁寧に白い手袋と白ブーツを装着し、肌は一切見えない。

 ただ、純白ならいいものの、マスクと手足の白は、血の色をしたまだら模様で不気味な仕様になっている。


「おい、叉爾!着いたぜ? どこだよぉ?!」

 メイは、自分の左30度の方角で異人の群れを認めつつ叫ぶ。応答はない。


「カートリッジが、もうないんだってばよーぅ」

 情けない声を上げながら、メイはため息ひとつ、異人の群れとの距離を詰める。


 66式からダラリと下がっている銃弾を無意味に弄び、

「か弱い新兵を一人ぼっちにするなんて、職務怠慢だっちゅーの」


 だぁん!


 言って、純白の塊に銃弾をぶち込んだ。


 だぁん!だぁん!だぁん!


 群れは、異人で出来た人の山だ。

 軽く50はいる。うじゃうじゃと無言で蠢く。

 気味が悪くて仕方がない。

 命中した銃弾に、悲鳴が答える。

「拉致があかねぇな」

 舌打ちをして、メイは66式を一振りする。鍛えられたガッチリとした四肢は、まだ全く戦い足りていないようだ。

 突然の異人の奇襲に驚いたのだろう。街路には、路面店で売られていた野菜やら果物やらがバラまかれている。


「いとしの故郷だってのになぁ」


 メイは、地球人の生活の匂いがする地区だと思う。

 懐かしの、生まれ育った街。約四年ぶりの故里は、相変わらずヘドロとすえた匂いがする。

 かつては、地球人で賑わい、流行を発信していた繁華街だというのに。


「メイ!」

 呼ばれてメイは我にかえる。

「叉爾、おっせーよ」

「単独行動をするなと!」

「へぇへぇ」

「配属3日にして勝手な行動をしていると、響大将に厳罰を食らうぞ。ただでさえお前は特例なんだ」

 叉爾は、メイの背中をドンと押した。

「特別扱いは気持ちいいぜ、叉爾」

「俺はお前のツラの厚さが心底羨ましいぜ」

 言いながら、叉爾は66式の刃のカートリッジを銃口に押し当ててバレルに装填した。

 66式の十字刃は、着脱可能のものだ。四枚の極薄な長方形の刃は、三段階に収納されている。銃口からバレルに通すことで、収納された刃は押し出されバレルを包む。

 まあつまり、十字刃を展開しなければ、ただの長い銃である。

カチリと音をさせて、ブン、と振るうと十字の刃が展開した。

 なんと、この刃は、遠心力を加えることで柄の溝に沿って十字に展開する仕組みになっている。

 スイッチポンすれば、カンタンに銃と四枚の刃はバラすことができる。

 メイは、第一部隊に配属されたすぐの頃、66式をひたすらバラし、上司のソウルシーカーズ隊長である玄鉄にこっぴどく叱られている。もちろん、メイは懲りていない。


「状況は? 隊長補佐殿?」

 メイが地面を蹴ると、叉爾も続いた。

「撤退命令はすでに出ている。あらかた片付いた」

 嫌味げに言ったのに相手にされずに、メイは少しむくれた。


「早すぎるだろ? まだ遊び足りないよ」

「言ってろ。特務が来たんだ」

 叉爾は長い腕を真っ直ぐに伸ばした。

 その先に、白い山がある。

 近くまで行って、二人は疾風を止めた。


「ひゅうー、何アレ」

 言って、メイは口笛を吹いた。

「異人の山だな。あいつは、やることが派手なんだ」

 叉爾のセリフそのままである。

 異人が積み重ねられて山を作っていた。

 先ほどのそれとは違い、山に動きは見られない。

 死体の山だった。ざっと数えても100はゆうに越えている。

 メイはゾクゾクした。

 その様子を俯瞰した叉爾は、ふんと笑いながら、

「特務が来たっつっただろ、メイ。お前の耳はシリコン製か?」

 と、からかった。

「残念、まだ人の皮だ。特務ってなんだ?」

「ああ、お前、知らないんだっけ。それはすまなかった。第六地区は、帝国の中継地でもある。そこで警護をしている幹部がいるんだ。そのお抱えが、特務兵だ」

「強いのか?」

 問いながら、メイは、白い山に向かって目を凝らす。

 何かが動いている。白い軍服ではない、何か。

「強いの弱いのの問題じゃねぇ。チートだ。ありゃあ」

「もうちょっとオブラートにくるめよ」

「一騎当千ってとこだな」

「一騎当千ーー」

 メイが言いかけたところで、二人に影がさした。

 メイが振り向くと、自分の身長より一回り大きな白い軍服が二人、大きな鎌を振り上げていた。

「しまったーー!」

 咄嗟に66式を構えるが間に合わない。

 顔のない赤いまだらがゆるりと二人を見下ろしている。

 叉爾がひゅう、と喉で息をしたその時、


 バシィ!


「?!」


 二本の鎌は、鋭く弾かれた!

 あまりの速さに、叉爾とメイは状況が理解できない。


「あなたの兵器は飾りなの? 地球人ヲ回収スル者ソウルシーカーズ

 斜め上から人を見下すような女の声が聞こえた。

「な?」

 メイは声の主を追う、ーーより前に、


 びゅん!


 と風が鳴ると二本の鞭がそれぞれ異人の首に鞭が巻きつく!


「イッちまいなァ!」

 女が小気味良く叫ぶと同時に、ギリ、と鞭がしなり、


 パァン、パァァアン!


 破裂音がして、異人二体は木っ端微塵となった。この間、3秒である。


「す、げぇ、」

 メイは瞬きを忘れて身震いした。

「あんたはーー?」

 メイが呼びかけると、叉爾が前に進んで、敬礼をした。


 ひらりと二人の前に一人の女が舞い降りた。

 長い黒髪に、右耳のあたりを一房、赤い紐で結わえている。珍妙な髪型だとメイは思った。

 両手に鞭を持っている。


「鬼のモリビト鬼道藍統キドウアイト直属、特務の魅子ミコ


 艷のある声の主は、メイの脳裏に覚えのある顔であった。

 かつて彼は、紫の瞳の女に見惚れたことがあったのだ。


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