表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/19

第07話 「凹レンズ」

 ジョブ取得アプリ【モノリス】を起動させ、アプリの使用方法を調べ、謎のポイント【MG】を消費して必要最低限のジョブを取得していた俺に、突然のラッキースケベイベントが襲いかかる。


 動揺した俺は予想だにしないジョブを取得してしまったのだった。


 百歩譲って合気道と水泳はいいよ! いつか使えそうだから! でも「ひも」って!

「ひも」って職業か!?


 と、とにかく特性スキルの確認だ!

 絶対ありえないが、物凄く使えるスキルが付いてくるかもしれないじゃないか!


 ☆特性スキル

  湾曲術:Lv6

  演算術:Lv6

  交渉術:Lv2

  剣術:Lv2

  槍術:Lv1

  斧術:Lv1

  鞭:Lv1

  指導術:Lv1

  性欲:Lv1

  合気術Lv1

  呼吸術Lv2

  水耐性Lv1


「めっちゃ増えてるーー!?」


 最初2個しかなかった特性スキルが一気に12個になっていた!

 剣術、槍術、斧術は戦士のジョブに付いてきたのだろうか。

 並びからすると、鞭術と指導術が教師のジョブに……なんで鞭なんが覚えてんだよ……。

 なら下の性欲ってのが「ひも」のスキルに……なるのか? え? これだけ? ってか、さっきのラッキースケベからやたらモンモンするのはこれのせいなんじゃ?


 とりあえず、オフ。


 少し心が落ち着いた気がした……。


「つかえねーーーー!!」


 オンにしてみた。


 少しムラムラした。


「マジつかえねーーーー!!」


 こんな物は永久にオフだ!


 いくら使えなくともやってしまった物は仕方ない……いつまで悔やんでいても前に進まないので、気を取り直して残りのスキルに意識を向けていく。


 合気術が合気道か、すごいまんまだな。呼吸術と水耐性が水泳ってことになるのかな?


 だが、よくよく見るとLvが既に上がっている物もある。

 さっきまでLv5だった湾曲術がLv6になっているのはオプトメトリスト取得の影響だろうか。

 そう考えると、ジョブによって重複する特性スキルが有り、それは重複すると考えた方がいいのかもしれない。


 なら、既にLvの上がっている交渉術、剣術、呼吸術は何かしらのジョブで重複していると言う事なのだろう。


 一番最初に取得したのがオプトメトリストだから、交渉術はオプトメトリストなのかな? で、Lvが2と言うことは……教師か「ひも」に付いてきたって事なのだろう。教師は鞭術がそうだろうから、数的に考えて……。

 いや、「ひも」が交渉してどうすんの……普通は魅了とか誘惑とかだろ? なんで扶養をお願いしちゃってるんだ。 


 残るは剣術と呼吸術か……イメージとして呼吸術は合気道について来た気がする。


 剣術は……うん。


 わからん。


 これ以上考えても結論は出ないだろう。

 なら、とっとと諦めて最後の特殊スキルに移る事にする。


「特殊スキル……フォトン・レーザーがあった所だよな。正直、あれさえ有れば戦闘ジョブとか全く必要ない気がするのは俺だけだろうか……」


 ★特殊スキル

  フォトン・レーザー(100)

  短距離ワープ(10)

  中距離ワープ(50)

  多次元収納BOX【小】(10)

  多次元収納BOX【中】(50)

  スラッシュ(1)

  他者経験増加(10)

  一回だけ!(1万)

  先見(10)

  水中呼吸(10)

  救済完了(20億)


「え~っと……」


 どこから突っ込めば良いんだ? 上からか? 上から順番にか?


「すぅ~……はぁ~……、すぅ~~……」


 俺は深い深呼吸をすると、最後、大きく息を吸い込む。


 せーのっ


「なんでフォトン・レーザー未取得なんだよ!? もしかして消耗型なのか!? そうなのか!? 取得後一回使うと消えちゃうってやつなのか!? レーザー一発に100使って獲得33とか割に合わねーよ!? ワープとかBOXとかどこのネトゲだよ!! スラッシュやっす! スラッシュやっっす!! でも戦闘中に一々取得していられないからね! あ、今スラッシュ使いて~、とか思ってスマホ出してたら攻撃されちゃうからね!? 他者かよ! 自分増えないのかよ! ってか経験とか目に見えないから! 実感出来ないからこれ!! 一回だけって!! これ絶対ひものスキルだろ! なんだよ一回だけ何をお願いするつもりなんだよ!! しかも1万ポイントって! 妙にリアル過ぎるわ!! この流れで先見と水中呼吸がやたら優秀に見えてくる! 怪我の巧妙!? 実は当たりジョブなの!? そして最後に救済完了(20億)ってなんだーーーー!! 20! 億!? なに? 帰れるの? ポイント20億稼いだら帰ってもいいの!? わけわかんねーよ!!」


 ここまで一息!! 驚くは呼吸術の効果だ!!


 そして静寂が戻った部屋に、又も悲鳴が響き渡る!


 ダワー!?


 慌てて部屋の入口を向くと、ドタドタと階段を駆け上がる音がする。


「てんどんかよ!!」


 幸い、服を着てくれていたお陰で俺は一命を取り留めることが出来た。


 本気でメガネ作らないとやばいと思った瞬間だった。


■◇■◇■


「これ、スファレが作ったって本当なのか?」


 俺の手にはガラスのコップが握られている。

 元いた世界の物と比べると形は多少いびつだが、テーブルに置いて安定し、中の液体が漏れ出さないのなら問題ない。


「あ、はい。おばあちゃんの仕事を手伝いたくって。――どうぞ」


 俺に朝食後の白湯を振る舞いながらスファレが頷く。


「歳のせいかどうも薬の色が見分け辛くなってね、スファレに相談したら何とかしてみるって言うんでお願いしたんだよ。――はい、ありがとう」


 ダワーも俺が受け取った物と同じ、陶器のコップを受け取りながらスファレに礼を言う。 


「今までは、こんな器で薬草を煮てたんだけどね」


「容器が透明だったら薬の色も見やすいんじゃないかって思って、頑張ってみたんです」


 白湯(さゆ)を配り終わり、少し恥ずかしそうな表情をして俺の隣に座った。

 昨日のラッキースケベの事もあって俺も若干気恥ずかしい。


「小さくて細いのは上手に作れるのにね~。大きくなるとどうしても変な形になるみたいなんだよ」


 それでも十分助かったけどね。と窓際に飾られる捻じ曲がった花瓶を指差しす。


 つまり試験管は作れるがフラスコは苦戦していたと言う事なのだろう。


「もう! しかたないじゃない、目で見ながら整形しなきゃいけないんだから!」


「へ~……スファレって凄いんだな~……」


「そ、そんな! 先生の方がずっと凄いですよ!」


 俺が素直に感心していると、そんな返事が帰ってきた。

 結構恥ずかしい。褒めてもレーザーはもう出せないぞ?


「いや、十分凄いよ。普通はある物で間に合わせようとするのに、それを1から作るんだから、なかなか出来る事じゃない」


「せ、先生だって! 誰も考えつかないような方法で私の目を見えるようにしたじゃないですか!」


「いやいや、俺のは既に先人がいるから。そのぶんスファレは誰かに教わったわけじゃないのに――」


「そんなこと無いです、先生だって!――」


「いやいや――」


「そんな――」


「うぉほん!」


「あ」「……~~」


 ダワーがジト目で俺達を見ていた。


「そ、それでスファレ! それってどんな形でも作れる?」


 そう、これが本題なのだ。別にお互いを褒めあって擬似バカップルを楽しみたかった訳ではないのだ。

 どんどん赤くなるスファレを見るのは楽しかったけど。


「はい、ちゃんとイメージ出来て、その上で出来上がりを見て調整しながらですけど」


「へ~……なら、ちょっとゴメンネ。こんなのも作れるのかな?」


 俺はスファレの検眼枠から、左のレンズを取り出して聞いた。


「あうっ。先生、突然ひどいですよ~! もぉ~……多分出来ると思いますけど、どうしてですか?」


「いや、恥ずかしながら、俺にはレンズ(これ)が作れないんだよ。だからスファレがもし作れるならスファレに新しいメガネが作れるのになと思ってね」


「メガネって作れるんですか!?」


「作れるんです」


 眼鏡士をなんだと思ってるんだ。

 あ、見えるようにする人って教えたのは俺か。

 とにかく、昨日のこともあるから早急に取り掛かりたいのだ。

 ダワーの下着を見ないためにも早急に!


「が、がんばります! あ、先生。コップ(それ)かしてもらえますか?」


「ん? はい、どうするんだ?」


 俺はさっきまで持っていたガラスのコップをスファレに渡す。

 受け取ったコップを自分の正面に置くと、俺の持つレンズを穴の空くほど観察してそっと瞳を閉じ――


 静かに口を開いた。


デメテルリブート(かみさま、おねがい)


 スファレの回りを優しい空気が満たしていく。

 そっと開いた瞳は、薄ぼんやりと前方の虚空を見つめている。


集え純粋なる石精の囀キレイなイシよアツマッテ


 コップがキラキラとした粉となって崩れる。

 その輝く粒子は、スファレの正面に渦を巻いて集まっていく。


「アーティクリスタル」


「お~……‼」


 俺の口から思わず感嘆の声が漏れる。


 結晶化が進む独特の、石の擦れる音が耳に気持ちいい。


 コップが半分ほど消滅した頃、スファレの手の中に一枚のレンズが乗っかっていた。

 検眼用レンズを真似たのだろう。それはとても小さい円盤だった。


「どうでしょう? 上手くいったでしょうか!?」


「見せてもらうね――」


 こんな簡単に出来てしまうのかと、驚きながらレンズを受け取り、覗きこむ。 


「う~ん……」


「……どうでしょう?」


「もう少し……かな?」


「そうですか……」


 明らかにションボリするスファレ。


 でも、仕方ない。渡されたガラスはとても凹レンズと呼べるような出来では無かったのだ。

 ただ丸く薄いガラスの板……凹み具合を意識して作られてるが、覗いた先はグニャグニャに歪んでいた。


「まあ、少しずつ練習していこう」


「はい……」


 まずは光学か……理屈が理解できれば魔法にも影響するのだろうか?

 その当たりも色々試す必要があるだろう。


 メガネ作りの先は長い。

挿絵(By みてみん)

次回、冒険者ギルドで冒険者に――

あれを一息で言えた人は呼吸術の使い手です。


◆凹レンズ

マイナスレンズとも呼ばれます。

中央が薄く、外に行くに連れて厚みが増す形状をしています。

平行光線を発散する作用があります。

メガネでは近視矯正用に使われるレンズです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ