第06話 「検眼用レンズ」
同じ内容とは言ったがそっくりそのままと言う意味ではない。
画面のサイズに合わせて簡略化されており、各種項目をタッチすることで詳細が表示されるようになっているよだ。
とりあえず、ベッドに横になって詳しく見ることにする。
「あれ? ポイントが増えてる」
画面右上。最後に見た時はたしか100MGだったはずだが、現在は133MGとなっていた。
「オーガを倒した分のポイントって考えるのが無難なのか?」
一匹11ポイントか。などと考えながら取りあえず他を見る事にする。
見出しはこうだ。
★ジョブ
☆特性スキル
★特殊スキル
※ヘルプ
「普通ならワクワクしながらジョブをタッチするよな~……」
そんなことを呟きながら俺はヘルプにタッチする。
俺は堅実な一面も持っているのだ。(断じて捻くれている訳ではない)
現れたのは画面をびっしりと埋め尽くすほどの文字、文字、文字……。
これを考えたやつは絶対に読む人間の事とか考えてないだろう! と言いたくなるほど硬く、かさ増しされた文章だった。
『以後甲と呼ぶ』とか、『甲は乙に対する責任』うんちゃら、『乙は救済』なんちゃらを義務かんたらと。
長ったらしいので要約すると――。
神は貴方を助ける義務が有るのでこのモノリスが有ります。
貴方は神の救済目的を達成する義務が有ります。
モノリスは各種ジョブ、特殊スキルの取得。特性スキルのオンオフが可能です。
特性スキル、特殊スキルはジョブの取得によって発生します。
使用されたMGは返却されません。
上記は神の一存により、貴方の許可なく変更、消去が行えるものとします。
必要そうな情報としたらこんなところだろう。
俺が気になっていたのは変態妖精も言っていた【ジョブ取得方式】だ。
本来ジョブとは1人に1つ、転職はすれど複数持つものでは無い事が多い。しかし、この説明には【選択】ではなく【取得】で話が進んでいくのだ。
つまり複数の職業を全て自身の職業として設定できると言うこと。
全ての職業の特性を全て同時に発動できると言うことなのだ。
半信半疑だったが、おいおい確認していくしかないだろう。
もし本当なら結構なチートなのかもしれない。
スクロールすればまだまだ説明は続いてるようだが、当面必要そうな情報は手に入れたので一度『戻る』のボタンを押す。
さ~次はジョブ~……では無く特性スキルを押す。(断じて捻くれているわけではない)
「はい?」
☆特性スキル
湾曲術Lv5
演算術Lv5
2個しか無い。しかも湾曲術ってなんだ? 聞いたこと無いぞ?
オーガから逃げるさい、やたら計算が早かったのは演算術のせいなんだろうか?
タッチしてみると、文字が灰色になったり白色になったりする。これがオン、オフって事なのだろう。
数回オンオフを繰り返し、裏ワザなどが無いことを確認してから『戻る』のボタンを押した。
いや、100回繰り返したら金色に輝くとかLvがバグるとか期待したんだよ! 良いだろこれくらい!
そして待ちに待ったジョブを押す。
「うげ……なんじゃこりゃ……」
映しだされたのは余りにも膨大な……多種多様の職業だった。
★ジョブ
・取得済
眼鏡士:LvMAX
└オプトメトリスト:Lv0(50)
・未取得
戦士(10)
猟師(10)
盗賊(10)
魔物使い(10)
・
・
・
科学者(10)
医者(10)
教師(10)
大工(10)
ジョッキー(10)
サラリーマン(10)
学生(10)
ひも(10)
・
・
・
剣道(10)
弓道(10)
柔道(10)
合気道(10)
水泳(10)
「ジョブって!! 最後の方とか殆ど学生の部活じゃん!?」
余りにも膨大な量のジョブに驚くよりも、後半に行くにつれジョブ自体がいいかげんになっていることに驚いてしまった。
なんだよサラリーマンって。24時間戦えるとでも言いたいのか。
とりあえず、これを見て分かったことはジョブには上位ジョブが存在するということ。
おそらく、カッコの中のポイントで取得できるだろうということ。
そして、上位ジョブは初期のジョブよりポイントが多く必要となることだった。
なぜかわからないが魔法職は無い。
ちなみに上位職となっているオプトメトリストと言うのは眼鏡士の海外版だ。
眼鏡士が日本の社団法人認定資格なのに対して、オプトメトリストは国家資格である。
眼鏡士以上に目に対する知識や、フレームに対する技術など求められる完全上位互換といって間違いないだろう。
「魔法職が無いのが腹立つが……とりあえず、これは取得っと……」
俺はオプトメトリストを迷わず取得する。
だって眼鏡士にとって、ある種憧れというか目標だぜ? それが50ポイントとか破格すぎるだろ!?
オプトメトリストをタッチした瞬間、画面右上の133MGが83MGへと現象した。
「おい……確認とか無いのかよ……」
うっかりポケットの中で誤作動とかしてしまったら大変なことになってしまいそうだ。
ポイントの減少意外、体が光ったとか、レベルアップの時のようなファンファーレなどは聞こえてこない。
「後は~……う~ん……魔法職がないのは……どこかの上位職なのか? 仕方ないから無難な戦士をとっておくか……後スファレに眼鏡士を教えるのに使えるかもしれないから教師っと……」
ミスタッチしないように慎重に戦士と教師を取得する。
MGの減少を確認して、他にめぼしい物が無いかスクロールするなか――静かな部屋に、突然の悲鳴が響き渡った。
スファレ!?
慌てて上体をおこし、部屋の入口へ体をむける。
それとほぼ同時、ドタドタと階段を駆け上がる音がしたと思うと勢い良くドアが開かれた。
「先せぇ~~い! メガネがぁ! メガネがぁ~~!」
「どうしたん……だ、ってお前その格好!!」
ドアを開け俺の方に駆け寄るスファレは、何と半べそ下着姿だった。
スポーツブラに良く似たゆったり目の布で大きな膨らみを隠し、下はなんと紐パンだ。
「す、スファレ! 脱ぐと凄っ……いや、ま、まずは落ち着け!」
その豊かに育った体は、ややポッチャリ気味ではあったがとても健康的な魅力に溢れていた。
日頃からローブに隠されているであろう肌は白く、大きな2つの膨らみはメロンほどの大きさが! くびれなど今どき時代遅れだと言いたげな、健康的なお腹はとても柔らかそうで、フニフニといつまでも触っていたい! 申し訳程度に大切な場所を隠す紐パン……それを支えるのはモッチリとした太ももだ、ミニスカートをはいて座ったとしても、 ▽ ゾーンが隠れて見えなくなりそうな健康的肉厚! 総合して見ても、ややポチャという言葉で済ますにはもったいない程の母性と抱擁力を感じさせる! なんという破壊力! なんという抱擁の暴力!!
「落ち着くのは俺だった!!」
慌てて目を閉じ腕で覆うと、ベッドのシーツをはいでスファレの頭からかぶせる。
「スファレ! いいからこれ! で、一体どうしたの?」
かぶされたシーツから頭を出し、床にペタンと座り込むと俺に検眼枠を差し出してきた。
「メガネが……壊れちゃいました! グスッ……ゴメンナサイ!」
そう言うと検眼枠を差し出したまま、今にも泣き出しそうなスファレ。
俺はそれを見てまたオロオロ。
急ぎ、検眼枠を受け取るとレンズが一つ外れていることにすぐ気付く。
あ~……これは……。
「スファレ? 怒らないから教えて欲しいんだけど……この状態になった時、スファレは何をしてたのかな?」
「グスッ……はい……。お風呂に、入ろうかと思って……服をぬいだら……」
「レンズが外れたと……」
頷くスファレ。
ようは、メガネを掛けたまま服を脱ごうとして引っ掛けたわけか。
「で、外れたレンズは?」
オドオドと差し出す手には、スファレの検眼枠に入っていたレンズが一枚。
良かった、割れてない。
基本検眼用レンズはガラスで作られているため、落とすと割れる危険性がある。
俺は受け取ったレンズをすぐに検眼枠に装着し、そのままの流れでペタンと座るスファレの顔に掛けてあげた。
こんなにも早く直るのかと、スファレは驚きの表情を見せる。
そんなスファレに、子供を諭すような落ち着いた声でゆっくり話した。
「スファレ、いいかい? メガネはね、とてもデリケートなんだ。だから今から言うことはメガネをかける上で守ってくれないか?」
「は、はい! 絶対守ります!」
驚きの表情はそのまま、スファレはコクコクと頭を振り、目をかがやかせ、メガネがずれる。
「ひとつ、めがねを置く時は必ずレンズを上にする事、レンズに傷が付くからね?」
スファレの前に人差し指を一本立てて示す。次に中指を立てながら――。
「ふたつ、メガネ拭き意外の物でメガネのレンズを拭かない事、これもレンズを守る大切なこと」
ポケットから小さなメガネ拭きを出してスファレに渡す。
「みっつ、メガネに負担がかかる事をする時はメガネを外すこと……といっても難しいか。簡単に言うと、寝る時、お風呂の中、服を脱ぐ時、顔に何かぶつかる危険の有る時とかかな」
他にも上げようと思えば……。
お湯で洗わない、洗剤原液で洗わない。
表面に汚れが付いてたら直接拭かない。
暑い所に置かない。
なども有るが、基本プラスチックレンズに該当する注意事項だから説明は必要になった時でいいだろう。
「置かない、拭かない、外す時は外す……」
スファレは真剣に小さな声で何度も復唱していた。
まあ、検眼枠もレンズも余程のことがない限り壊れるってことはないけども……。
ただ、いつまでも検眼枠って訳にはいかないだろうから、早めにメガネをどうにかしなきゃいけないようだ。
「そのみっつ、まずは気をつけてね。それじゃ、風邪ひかない内にお風呂に入った方が良いんじゃないかな?」
「は、はい! ……~~! すみません! 有難うございました!」
今更になって自分の格好が恥ずかしくなったのか、シーツに頭までくるまって、一瞬見せた顔を真赤に染めて部屋から出て行った。
部屋を出るさい、律儀に頭を下げてたが、そこまでする必要ないのにと苦笑してしまう。機会があったら言っておこう。メガネがずれるから。
「いや~……それにしても……」
俺は大きく伸びをしながらベッドに倒れこむ。
「これが伝説のラッキースケベイベントか~……」
お約束と言えばお約束なのだが……実際に起こると何の心の準備も出来ないんだな……。
「まあ、じっくり堪能させて貰ったけどね!」
あの柔らかな体を思い出しては、顔がにやけていくのが自分でも分かる。
フラグはバリバリに立っているはず、今後の展開次第ではもしかしたらもしかするんじゃ無いかと、そんな妄想ばかりしてしまう。
「と、しまった。モノリスの確認してる途中だった……ゲッ!!」
思い出し、慌ててスマホを確認した俺は目を疑った。
「残り33MGって……! あの時の動揺でミスタッチしたって事!?」
無自覚にやってしまった事を確認していく。
そしてすぐ目を覆いたい気持ちになる。
「あちゃ~~……やっちまった……」
★ジョブ
・取得済
眼鏡士:LvMAX
└オプトメトリスト:Lv1
戦士:Lv1
教師:Lv1
ひも:Lv1
合気道:Lv1
水泳:Lv1
百歩譲って合気道と水泳はいいよ! いつか使えそうだから! でも「ひも」って!
「ひも」って職業か!?
◆検眼用レンズ
プラス(凸)レンズ、マイナス(凹)レンズ、乱視レンズ、特殊レンズが有ります。
ガラス素材で作られており、非常に重たいです。
検眼レンズ自体が機械と一体化したレフラクターと呼ばれる検眼機なども一般化してきました。