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第03話 「検眼用仮枠」☆

【パパパパッ、パッパッパー レベルが1上がった 体力が上がった】


 何十回目かのファンファーレが脳内で鳴り響いき、次のファンファーレが鳴らないのにようやく安堵のため息をつく。


 このまま一生鳴り止まなかったらどうしようと考えると同時に、しまった数数えて無かったと後悔した。


「ああ、スファレごめん。ようやく終わったみたい」


 側で腰を下ろす桃色髪の少女へと声をかける。

 ファンファーレが鳴り響く間は全く会話にならないので暫くの間黙っていてくれていたのだ。


「その……改めまして、ありがとうございました!」


 そう言うと深々と頭を下げる。


「いや、良いんだって。俺も助けれて良かったよ」


 本当に心からそう思う。

 色々重なって、正直かなりテンパっていたけども、スファレを見捨てる選択をしなくて良かった。


「あ、あの! もし良ければ、私の家で食事でも!」


 本当に良かった!!


 顔を真赤にしながら、そう提案してくれるスファレ。

 かなり緊張しているのだろう。その目が少し潤んで感じるのはきっと夕日のせいだけじゃないはずだ。


「ああ、喜んで。正直何のあても無かったから助かるよ」


「よ、よかった。お口にあうか分かりませんが頑張りますね!」


 そう言うと両手でガッツポーズを作っている。

 ああ、何かに似てると思ったらトイプードルか……ピンクのトイプードル。ローブも顔も夕日で染まってるからなおのこと。

 きっと尻尾があったらなら、今頃めいっぱい振り回していそうだ。


「あ、村に行く前に――スファレ、見えなくなったのっていつから?」


「え? 何が……ですか?」


 突然の話題変更に、一体何の話をふられたのか全く想像が付かないようだ。


「目だよ、さっき叫んでたろ? 見えないですもん! って」


「あっ――あれは!! すみません……取り乱してしまっていて……」


 自分の豹変ぶりを思い出して恥ずかしくなったのか、スファレの顔がさらに赤く染まる。


「いや、あれは仕方ないよ。俺もテンパってたし。で、目が見辛いなと感じだしたのは何歳からなのかな?」


「今みたいに……見えなくなったのは数年前からだと思います」


「小さかった頃はよく見えてたの?」


「はい、10歳の頃までは少し見辛いなって位で、不自由を感じたことが無かったのですが、徐々に遠くが見えなくなって来て、15歳の時には全てボンヤリとしか……」


 なら視力の成長自体には、問題無い可能性が高いか……。


「なるほど……あ、因みに今何歳?」


 レディーに年を聞くのは若干躊躇したが、流石に俺より上って事は無いだろし、大切なことだから聞いておく。


 「今年で17歳です……」


 人間の視力(見る力)は9歳までにほぼ確定する。その時期までに目を見える状態にしていないと視力が出ない場合が有るのだ。

 そして、スファレの回答から、第二次成長期と同時に視力低下が起きたと推測できる。その場合、近視の主の原因である、眼球の長さ、眼軸がんじくが、正視より長く成長したケースが多い。


「あの、私の目がどうかしたんでしょうか?」


 突然の質問攻めで不安を感じたのか、スファレの表情が若干曇る。


「いや、ごめん。不安にさせるつもりはなかったんだけどね。ほら、暗くなると視力測定できなくなるし」


「視力測定……? って何ですか?」


 そうか、通じないか……。

 やはりメガネに関する全般的な常識は通じないというのを改めて確信する。


「そうだな~……ま、とりあえずやりながら説明するよ」


 百聞は一見とも言うしね。と

 大きな革鞄を開け、検眼セット確認した。

 取り敢えず今必要な物を素早く取り出す。


 近方視力表、物差し(メガネ用スケール)、検眼用仮枠


「スファレ、今から眼鏡士の力を見せる。だからまず遠くの方を見ててくれる?」


 変な言い回しなのは、先のフォトン・レーザーの件もあり、眼鏡士が何か凄いと思ってくれている今なら、そう言ったほうが従ってくれやすいと考えたからだ。

 それに、今から俺がすることは、やったは良いがかんばしくない事も有り得るので、無闇に期待させない為も有る。


「? は、はい……」


 良く分からないながらも従ってくれたスファレは、今は森のほうをボンヤリと眺めてくれている。


 俺は軽く礼と断りを言うと、物差しを目の下、鼻の上辺りにあてがった。


「あの……なにを!?」


「ん、目を動かさないで。今瞳孔間距離(P・D)を測ってるから」


「どうこ……なんですか?」


「瞳孔間距離、目と目の幅なんだけどね、これが大事なんだよ……っと。それじゃあ、次はこれを掛けてもらえるかな?」


 素早く瞳孔間距離を測った後、手渡したのは検眼用仮枠と呼ばれる、検眼レンズを着脱出来るように作られたフレームだ。

 丸い形のフレームで、レンズの入る位置には金属の爪が付いており、それでレンズを固定するように作られている。


「次は、この本に書いてある、円に切れ目が有るの……見える?」


 近方視力表を渡しながら問いかける。

 視力表にはランドルト環(Cに良く似たマーク)とひらがなが、視力に合わせて縦に並んでいる。


 まずはスファレの手に持ってもらい、目から40センチ位の距離を離して聞いてみた。


「いえ……円が有る事も言われないと分からないくらいです……」


「なら、次はどんどん目に近づけていって、その円が一番綺麗に見える所で止めてくれるかな?」


 スファレは言われると、まるで体が覚えているかのように、一番見やすいと思う位置まで直ぐに視力表を移動させた。


「ここだと綺麗に見えます」


 その距離、約眼前8センチ。

 相当なド近眼だとは思ってたけど……こりゃ相当だ。

 だが、綺麗に見える場所が有るってわかって安心した。これが無い場合は難易度が格段に変化するからだ。


「おーけー有難う。じゃあ次は片方の目をこの黒い板で塞ぐからね」


 左目側に遮蔽板をはめ込むと、視力表を改めて40センチの距離まで離させる。


 さて、まずはこの位(-6.00D)からかな。


 俺が仮枠にレンズをはめ込むと、スファレの瞳が驚きに見開かれ、俺の方を向こうとする。


「え? これ……?」


「おっと、まだ視力表を見ててね。今ギリギリ見えるのはどの円の切れ目かな?」


「すみません。えっと……これです」


 どうやら3番目に大きいランドルト環は認識できるようだ。


「スファレ、今から視力表の見え方が二種類変化するんだけど、前の見え方と後の見え方、どっちが綺麗に見えたか応えてくれるかな?」


「え? はい……わかりました」


 そして俺は、スファレの返答を聞いきながら徐々にその度数を調整していった。

 スファレは終始「え?」だの「なんで?」だのと呟いていたが、俺の「いいから、いいから」という言葉に誤魔化されて、左目の度数調整まで終わらせてもらった。


 さて、眼前45センチでの矯正度数が左右とも出そろった。本来は遠方に設置した視力表で矯正するものなのだが、あいにく持ち合わせていないので、40センチ距離の度数に遠方距離分の度数(-2.50D)を加え事にする。

 少し弱めにしている事と、丁度夕日で赤色の世界なのだ、過矯正って事にはならないだろう。


 最後のレンズを入れ替える前スファレには目をつむってもらった。折角なのだからスファレの驚いた顔を見たかったから。

 測定が後半になるにつれて、口数が減ってたから、もしかしたら予想されてるかも知れないけれど……まあ、その時は仕方ない。


「スファレ、終わったよ。さ、目を開けてみて?」


 俺の言葉にスファレが恐る恐る目を開ける。


「え? ――え?」

挿絵(By みてみん)

 大きく目を見開き、俺の方を何度も振り向き、村の方を向き、森を向き、夕日の沈む山並みを見た。


「目、痛くない?」


「痛く……無いです……」


 口元に両の手あて、言葉を絞り出す。


「目頭の方が重い感じとか無い?」


 ゆっくり、小さく……スファレは首を降る。


「――見える?」


「みえっ……ます……!」


 再び俺の方を振り向いたスファレは、静かに泣いていた。


「みえ、ます! 見えます! 木も草も、村も山も! ――夕日も! こんなにも……綺麗だったの……忘れてました」


「そっか、なら良かった」


 良かった。笑顔を見るつもりが泣かせちゃったけど……これはまたこれで良いですよね?

『眼鏡士は笑顔を作る』が口癖の、元の世界の恩師を思い浮かべる。


「でも、なんで……? ヒカルさんはマジックグラス職人様じゃ無いって……」


「うん、違う。俺は眼鏡士、さっきはレーザーとか出してたけど、本当はこうやって人の目を見えるようにするのが仕事なんだ」


「そんな事が……出来るんですか? どんな……魔法なんですか?」


「魔法とは違うんだけどね……これは光学ってのがベースに有る科学ってやつ。学べば誰でも出来る事だよ」


「……誰でも?」


「そう、誰でも」


 恐らくは俺の言葉の半分以上理解できていないだろう。光学だの科学だの、この世界で普通に生活してたら馴染みの無いものなのだろうから。


「私も……」


「ん?」


「私にも……。出来ますか?」


 なるほどそう来たか……。

 眼鏡士としての進路を選ぶ人間にも色々あるが、その中でも、自分がメガネを必要だからこの道を選ぶ、といった人間も少なからずいるのだ。

 元より、マジックグラスに興味を持ち、いずれは手に入れようと考えていたスファレなのだ。

 誰にでも出来ると言われれば、飛びつくのも仕方のない事だろう。


 だが、この世界でのメガネをどうやって作るかなど皆目見当が付かない。

 その上、俺がこの世界にいる意味すら見つけていない。もしかしたら、眼鏡士としてのノウハウを教えている時間など無いかも知れない……。


 でも――。


 ほんの少し位いいよね? 


 可愛い子にお願いされたら男は断れないよね?(今は検眼枠仕様だけど)


 だから俺は、スファレの希望のまなざしを見据えて告げた。


「道は険しいぞ? それでも良いのか?」


「はい! よろしくおねがいします! 先生!」


 勢い良く頭を下げ、上げた時に仮枠が鼻先までずり落ちる。

 テヘッと舌を出し、両手でかけ直すスファレは、とてもいい笑顔をしていた。

 可愛いからバッカモーン師匠と呼べーー! は無しにしといてあげよう。



 異世界に来た初日、少女に踏まれ、オーガに襲われ、変態を殴り……。


 その日、俺はスファレの先生となった。

挿絵(By みてみん)

やっと眼鏡士らしいことが出来ました。

次は実際にメガネを作るために色々……の前に。


◆検眼用仮枠

瞳孔間距離に合わせ、各種サイズ分けされた物や

左右別々に瞳孔間距離を調整出来るものなど有ります。

小児用検眼仮枠などはテンプルの長さも変えれます。

片眼3~4枚の検眼レンズを入れることが出来、重い時は50グラムを超えます。

すぐ鼻に跡が付きます。まだまだ改良の余地ありですね。

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