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第01話 「ウェリントン型一つ枠」

序幕のあらすじ。

開業寸前だった眼鏡士の光。ゼウスによって異世界へ送られちゃった。

「ヒカル様は〝がんきょうし〟様なのですね?」

「うん、その様ってのこそばゆいから、無しにしてくれるかな?」


 言葉の問題は無いようで安心した。

 まずはお互い、膝を突き合わせて自己紹介を済ませたところだ。

 俺が異世界に来て初めて出会ったのは、桃色の髪がゆるくウェーブした中学生位の少女だった。


■◇■◇■


 異世界に跳ばされて、辿り着いたのはだだっ広い草原のど真ん中。


「転生って言っておきながら着の身着のままじゃないか」


 自身の状態を軽く確認し、不思議に思いつつも周囲へと視線を向ける。

 遠くの方に大きな森と、反対側には大きな村が見えた。

 これでも(自分で矯正して)遠方視力1.5に合わせているのだ。眼鏡士は伊達じゃない。

 とりあえず村に行こう。誰もがそう思うだろう。俺もそう思った。だが、こんな広大な草原、元の世界じゃなかなかお目にかかれない――だろ?


 だから、とりあえず寝転んでみる事にした。


 これが想像以上に気持ちよかった。


 草がチクチクとワイシャツを突き抜けてくるが、それすらも気持ちいい位のポカポカとした日差し。元の世界では、やれ紫外線だ~、やれ黄砂だ~、やれ外来種毒グモだ~と屋外で寝転ぶことなど出来ない分、この大自然に包まれる感覚は何ともいえないものが有った。そんな安心感の中……俺は大きく深呼吸をして――待っていた。


 なにを? そんなもの決まっている。


 異世界物の定番! 定石! お約束!


 異世界最初のイベントだ!!


 俺のしってる異世界物ではそうだった! だからきっと〝何か〟が起こる。俺はそう信じて待っているのだ。

 女性の悲鳴が聞こえてくるか? それともモンスターに襲われる? はたまた美しい女性との出会い? もしかしたら秘められた力が目覚めちゃう?

 などなど、いったい何が起こるのかと内心ドキドキしながら――――待つこと――――数時間。


「……」


 俺を照らしていた暖かな太陽は、空を茜色に染めはじめ。柔らかく包んでくれた大地は、俺の体温を奪いだしたんじゃないかという現状……寒いよ~。ひもじいよ~。


 おい! どうなってるんだ! 責任者を呼べー! と、さっさと諦めて村へ向かおうかと思った、その時。

 遠くの方、草を踏み鳴らしながら歩く音が聞こえたのだ。


 俺はすかさず半目を開けてモンスターだとコワイから確認。人間である事と、特に武装していない(トウゾクとかコワイ)のを確認すると、狸寝入りを続行した。


 待ってました! と言うか待ちくたびれた……。結局は定番の出会イベントだったな~。あ~早く暖かい食事とベッドにありつきたい。


 足音が近づいてくるのが聞こえる。女性かな? 男性かな? 女性だといいな~……出来れば可愛い子が!


 もうすぐ……もうすぐ……すぐそこ……まよこ……まよこ?


「フッグフェッ!?」

「? ――っきゃあ!」


■◇■◇■


 出会った――と言うか踏まれた。

 これでもかと言う勢いで踏み抜かれた。いや本とめっちゃ痛かった。

 実はまだお腹痛い。


 俺に潰れたカエルのような声を上げさせた少女は、何度も謝りながら頭を下げた。まあ、地べたに横になっていたのも悪いので、そこは怒る訳にはいかないんだが。

 せっかくの出会いイベント、とにかく話を進めようと、俺がまずは名前と職業を伝えた。それを聞いた少女は自分のことをスファレと名乗った。

 スファレ・シュヴァイク。少し大きめのローブのような服を着たスファレは、俺の職業が何をするのか、聞き返してきた。


「ヒカル様は〝がんきょうし〟様なのですね?」

「うん、その様ってのこそばゆいから、無しにしてくれるかな?」


 人差し指を立てた両手を、自身のこめかみにあてがいながら。

頑強牛(がんきょうウシ)ですか?」

「うん、音は同じだね。でも、それ人間のなる職業じゃないよね?」

 亞人がいるならミノタウロスとか該当しそう! モーとか言ってる、チョット可愛い。


 人差し指、中指で真っ直ぐ俺を指し、片目をつむって。

銃教師(ガン・きょうし)?」

「凄い格好いい! なれるならなってみたい! ってかこの世界に銃あるのかよ!」

 銃があっちゃマズイだろ! 世界観的に! ズビューンって……え? 何その効果音怖い!


 両手を胸の前で組んで、祈るように……。

願教死(がんキョウし)……?」

「死んでねーよ! ほら、足付いてるし! さっき踏んだじゃん!? 神に命捧げるほど信心深く無いよ!!」

 ゼウス様的には死んでるのかも知れないけど! 俺の中ではノーカンだから!! ってか、急に青ざめて目をウルウルさせないで! 怖いなら言うなよ! 面白いなこの子!


「あー、もぅ! 眼鏡士! メガネ作る専門職!」

「メガネ……とは何ですか?」

 キョトン顔で聞かれてしまった。そうだった、メガネの無い世界に来てるんだった……。


「ほら、俺の顔にくっついてるでしょ? これがメガネって言うの。ちなみに、このメガネはウェリントン型一つ枠(ひとつわく)って言うんだよ」

 説明し、俺の掛けているメガネを指さしながら言う。

 今掛けているメガネは、台形をひっくり返した形のレンズを、セルフレームで囲み、セルフレーム同士を金属のブリッチで繋いだ特徴的なフレームで俺の今年一押しだ。


「すみません――失礼します」

 そう断ったのはスファレだ。一瞬の思案の後、ズイズイと俺との距離を詰めてくる。

 どんどん、どんどん近づいてくる。 ="= (いとのように)こんな(ほそめた)目で。


「な――ん、なはんですか?」

 クッ――緊張の余りに声が上ずってしまった。童貞なめんな! 女の子とか、少し前に手を繋いだのだって幼稚園以来だわ! 一本背負いだったけど! あ、言ってて辛くなってきた――。

 更に近づくスファレ――肩で切りそろえてある髪から、甘い香りが……すると思いきや、酸味をおびた苦い香り!?


 匂いに混乱する俺など気にも止めず、鼻先が触れるほどの距離まで近づいたスファレは、大きく目を見開くとすごい勢いで離れていった。


「すみません! 有難うございます――マジックグラス職人の先生様だったとは! このような身分の高いお方に! 先程は失礼いたしました!」

 言うが早いか深々と頭を下げるスファレ。この世界にも有るのか、その形は見事な土下座だった。


「え――っちょっと! 良いから、気にしてないから! とにかく頭を上げて!」

「そんな訳にはまいりません! 数々のご無礼どうかお許し下さい!」


 慌ててスファレの肩をつかんで起き上がらせる、とても柔らかい、女の子の肩ってコンナニヤワラ――ちがーう!!


「スファレ? 俺はそのマジックグラスの先生じゃないし。頭を上げてくれ!」

「違う……のですか?」

「うん、俺はマジックグラスなんて知らないんだ。教えてくれるかな?」


 スファレを引き起こしながら聞きなれない単語の詳細を教えてもらう。

 許してもらった事に安心したのか、マジックグラス職人じゃなかったことに安心したのか、スファレの口はとても滑らかにマジックグラス職人について教えてくれた。

 何となく予想は出来たが、マジックグラスとは魔法で作ったメガネだそうだ。メガネあるんかーーい!! と突っ込みそうになったが、どうも本質がかなり異なるらしい。


 透明度の高い魔晶石を使用した、特殊用途にのみ活躍する高級品なんだとか。魔晶石って何ぞや、と聞きたかったがまずはその特殊用途を聞く事にした。


 受けた説明を簡単に言うと、マジックグラスは魔力を通す事で、暗視、鑑定、遠見、幻覚耐性など、その魔晶石に刻まれた効果を得られる、一種の簡易魔眼のような物らしい。他にも用途は様々存在しているらしい。スファレはやたら詳しく教えてくるのだが俺の心中はそれどころでは無かった。


 キタ! 魔眼! 中二のロマン、ベスト5に入るであろうファンタジーのお約束!


 そんな、妙にテンションの上がる俺を置いて(こんなにも高揚している俺を放置して)スファレの話は職人の地位についての説明に移行していった。


「その作成技術には、とても高度な魔力操作と、とても貴重な魔晶石が必要で、そのため、作られるマジックグラスはとても高価な物なんだそうです。それを作れる職人様は、貴族様にも匹敵する地位を用意されるのだとか……」

「マジか。凄いなマジックグラス職人」


 思ったことがそのまま口に出るほど驚いてしまった。


「で、俺のメガネがマジックグラスに似てると」

「いえ……私も話にしか聞いたことが無いので……こんな感じなのかな~と……あはは」

 照れ笑いで誤魔化されてしまった。つまり、よく見たことは無いって事ね。


「ありがとうスファレ。そのマジックグラスはどこに行ったら見られるかな? 後いくら位するんだろ? って俺金持ってなかったか……」

「すみません、私の住む村では持っている人を知らないんです。王都や学院になら持っておられる貴族様が居るかもしれませんが……あ、でも金額は分かります!」

「金額は分かるんだね……」

 そして俺が無一文なのは軽くスルーっと。


「はい! 安い物で金貨200枚位だそうです!」

 スファレが鼻息荒く教えてくれた金額は……。


 価値分からね~~!


 この世界の物価が分からない俺にはサッパリ伝わらなかった。もっと、こう、大卒生の初任給数カ月分とか、コーヒー何千杯分とか、そんな言い方してもらわないと! でもまあ、まずはこの世界のお金が貨幣だって事がわかっただけでも収穫か……。


 とにかく、元の世界で生き返る為、俺はこの世界を救わなきゃいけないわけだけども……一体なにをすれば良いのやら……。


「マジックグラスはひとまず置いとくとして……とにかく村に行ってみるしかないか……」

 村の方を向きながら嘆息混じりりにぼやく。


「村にごようなのですか?」

 独り言を拾われてしまった。少し恥ずかしい。


「ああ、とりあえずは日が落ちそうだしね。この先どうするかは明日考えるつもりだ」

「そうですか。なら、一緒に戻りましょうか」

「お、助かるよ。ついでに一泊させてくれると嬉しいな」

「えっと、それはちょっと~……」


 ですよね~~。

 やんわりと断られてしまった。

 今晩どうしよう?


 俺が村へと向けて歩き始めると、スファレは鼻をスンッと鳴らしてから付いてきた。


 最悪、馬小屋ででも寝かせてもらうしか無いか……とネガティブな考えを巡らせていると――不意に腕を引かれる感覚が。


 スファレだった。

 村へ向かって歩き出した俺の袖を、スファレが指先で摘んでいるのだ。


 これは! 噂に聞くフラグってやつではないのか!? 俺、いつの間にかルート入りしてたって事!?


「スファレさん――ん?」

 後ろを歩く、うつむき加減のスフィアに、なんだい? 一人は怖いのかい? と続けようとした俺の視界に――見慣れないものが写り込んだ。

 遠くの森の方、木々を押し分けるように巨体が姿を表したのだ。しかも3体。


「スファレさんや、この辺りにはモンスターが出るのかい?」

「モンスター……魔物でしたらゴブリンなどがたまに」

 魔物って言うのか。おじいさん、さっき出てきたばかりでしょう? と続かなかったのが残念、ワールドギャップと言うやつか。


「それって怖い?」

「いえ、脅かせば逃げてく位なので、怖くはないですよ?」


 今森から出てくる巨体は5メートル近くに見える。あれがゴブリンだとして、それを脅して逃げさせるって、どんな脅し方をしているんだ。


「ゴブリンってでかい?」

「え? 大きくても人間の子供位……え?」


 俺の反応に異常を察知したのか、俺の向く森のほうをスファレも振り向き、スンッと鼻を一つ鳴らした。


「風向きが悪い――。ヒカルさん! 魔物の特徴を教えて下さい!」

 さっきまでの柔らかな雰囲気とは違う、覇気すら感じる強い語勢。


 あれ? これって出会いイベントだけじゃ終わらないフラグ?

挿絵(By みてみん)

◆ウェリントン型一つ枠

ウェリントンとは逆台形の玉型を言います。

芸能人の方が多く掛けてます。


一つ枠とはセル素材を、金属のブリッチで繋いだ形状のメガネを指します。

昔から有るデザインで、今再びブームが訪れるかも?と、囁かれています。


両方共、名前の由来がはっきりしないのも特徴です。

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