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第09話 「ゴブリン級冒険者」◆

 ヒュプノスさんに冒険者認定試験を受けさせてもらった俺達は、見事クリアし、ラビアン級冒険者となることが出来た。


 ちなみにこの階級制度、単独勝利が昇級の条件らしい。

 つまり、その階級の冒険者は名称の魔物より確実に強いと言う証明でも有るようだ。

 ラビアンから始まり、コボルト、ウルフ、ゴブリン、オーク、と事細かに分類されており、その階級に合った依頼を受けれるシステムとなっている。

 因みに最上級はドラゴン級だそうで、歴史上数人しかいないんだとか……。


「聞かせてもらおうか? 昨日、平原で何が有ったのかを」

 

 今のゴザレスはフルプレートを脱ぎ、今はチェインシャツ1枚だ。

 首から銀色のプレートを下げており、そのプレートにはオーガのモチーフだと思える彫り込みがされている。


 ゴンザレス単体でオーガ並みの戦力だと!?


 怒らせるような事はしないのが得策なようだ……が、現状を理解できないのは俺も同じだし……。

 やはり当初の目的通り、元来た世界の事などを隠しつつ、出来るだけ相手の情報を聞き出す作戦でいこう。


 スファレには俺に任せ、基本黙っているように言ってある。

 場合によっては話を上手にはぐらかす必要も出てくるだろうし、特にあのフォトン・レーザーの件は知隠した方がいいだろう。


 この世界での基準はよくわからないが、力を持っている事がばれると、それを利用する者が現れる。

 加えて、今後いつ使えるかも検討が付かないとなると、その力をあてにされた時、お互いが困る事になるのは明白だ。


「なにと言いましても……昨日の話では見張りの方が全て見ていたんじゃないですか?」


 相手のプレートを見たせいか、変な丁寧語になってしまう……俺のチキンハートもっと頑張れ!


「ああ、報告は受けている。だが、それ意外に、その場にいた人間だからこそ分かることが有るんじゃないか?」


 意外と頭が回るのか、向こうも自分の手札は見せずに俺から情報を聞き出すような方針のようだ。

 実際、俺の事を全く信用していないというのが大きいのだろうが……。

 やはり、ゴンザレスはただの脳筋では無いのだろう。


 まずは……怒らせない程度にとぼけてみるか。


「俺達は、ただオーガに追われていただけですよ。逃げて、もう駄目だって時に光がオーガ達を突き抜けていったんです」


「そうだな、見張りからもそう聞いている。だが、あの平原までオーガが出てくる事など聖戦後、今まで一度も観測されていない」


 聖戦と言うのはダワーの話にあった勇者の冒険の事だろうか。


「そうですか。俺も旅の途中だったんで、そのあたり全くわからないんですよ」


「ほう、旅だと? お前はどこから来たんだ? アグロスを通過した訳じゃないんだろう?」


 とぼけを続行していたつもりが墓穴を掘ってしまったかな?

 オーガや光についてよりも、俺の素性が本命だったのだろうか。

 ゴンザレスの口角が上がる。攻め手を見つけた……そんな顔だ。


「ええ、アグロスは通りませんでした」


「冒険者でも無いお前が、たった1人か?」


「そうですね、今までは冒険者になる必要が無かったので」


「ドクルの森を抜けて来たと言うんじゃないだろうな?」


 そんな名前の森だったのか。踏み入るとバッドステータスになりそうな名前だな。


 さて、ゲームなら一旦ここでセーブしたくなる質問だ。

 森から来た、森から来なかった、両方の反応を見て、自分の有利な選択を選びたいところだ。


 だが、これはゲームではない。だ。


 となると……出番だ! 俺のラノベ脳!


「いえ、森を抜けてきましたよ?」


 俺の意外な答えに、ゴンザレスが、スファレが驚愕する。


「おいおい、冗談はよせよ。お前は今日ラビアン級になったばかりのヒヨッコだろう。そんなお前がどうやってあの危険な森を抜けることが出来るんだ」


 ゴンザレスが破顔しながら、俺のプレートを指さす。


「だいいちだ、今朝方、有志を募って偵察に行った限り、森の危険度は跳ね上がっていた。本来ゴブリンやコボルトが集落を作っている森の入口に、トロールやオークが幅を効かせていたんだ。そんな危険な状態を、単身で抜けるだと? はっ、馬鹿は休み休み言えよ」


 午前中はそんな事をしてたのかよ。実に仕事熱心だ、その辺は尊敬できる。


 しかし、よほど有り得ない事なのか、完璧に冗談だと決めつけられてしまった。

 昨日スファレが言っていた。本来ゴブリン位しか出ないのだと……そこにオーガが現れるには、それなりの理由が有るはずなのだ。


 そして、ゴンザレスもその理由を求めている……と。


 正直、ゴンザレスがその理由を知っているかと思ったんだが、今の様子だと見当違いだったか。

 

 なら、この選択は間違いじゃないか、と思われそうだが……ところがどっこいぎっちょんちょん。


「そうですね、1人では到底無理だったと思います」


「なんだと? さっき1人で来たと言っただろ」


 ゴンザレスの表情が目に見えて険しくなる。

 この人は頭も回るし、力も強いのだろうが、どうやら外交事(騙し合い)には向かないようだ。


 顔に出さないのは交渉の初歩だよゴンザレス。


 別に冒険者になる必要が無かったと言う回答をしただけだから、1人だったなんて一言もいっていないのだが……屁理屈と取られても嫌だし、早く帰ってスファレとお勉強をしなくちゃいけないんで手早く終わらせてもらおう。


「ええ、あれは人では有りませんでしたからね」


「人じゃない? お前はテイマーだとでも言うのか?」


 ことの成り行きが分からなくなったのか、スファレが心配そうにこちらを見ているが……とりあえずこんな時はウィンクしておけば良いのだ。こら、なぜ頬を赤らめる。ちゃんとこっち見ろ。先生からのサインだぞ。


「そんなまさか、俺にそんな力ありませんよ。たまたま出会った妖精に案内してもらったんです」


「妖精に案内……妖精が……見えると言うのか?」


 おや、ゴンザレスとスファレの顔が驚きに変わってしまった。


「今まで妖精が見えたのは、神の祝福を受けた勇者か妖精と存在の近い種族くらいだ。お前はそのどちらかだとでも言うのか?」


 おっと、これは明らかに見えたらマズイパターンだった。


「落ち着いてください、俺は普通の人間ですよ。向こうが妖精だと名乗っただけで俺は直接目にした訳じゃないんです」 


「向こうが妖精だと? そんな話が信用出来るとでも思っているのか?」


「信用もなにも事実です、妖精はルガシコインと名乗ってましたが?」


 俺の返しに、一瞬目を見開くも、ゴンザレスは直ぐに大笑いを始めた。


「フッ、フッハッハ、ハハハハハハ! なおの事信用できんな! 言うに事欠いて妖精王エロイシーズの名を出すとは! おい! 今どき子供でも信じんぞ!!」


 あの変態が王様? 妖精の国大丈夫なのかよ……


「確かにドクルの森を抜け、北の山脈を超えれば妖精国が有ると言われる世界樹の樹海だ。森に妖精が迷い込むのも有り得ない事ではないだろう。しかしな、それが妖精王となれば話は別だ」


 世界樹とか……こんど世界地図でも見せてもらいたいな。

 とにかく、後は妖精王の証明をすれば全て辻褄が合う。


 予想外の事もあったが、大筋狙い通りだ。


「あの〝光〟がその妖精王のしわざだとしてもですか?」


「――なに?」



 作戦名「全部ルガシコインのせいにする!」だ!!


 俺の素性を隠すなら、俺は町を通過していない方が良い。検問、税関、この世界の町の出入りに何があるのかまだわからないからだ。

 なら森から来たか、森から来なかったか、どちらを選んでも問題なさそうだが、より人の少ない方を選ぶのが無難だろう。

 あの森からオーガが出てきたのだ、人が平和に暮らせているはずがない。


 妖精が視認されにくい事や、ルガシコインが妖精王だったアクシデントは有ったが、こちらが妖精を証明してしまえば、相手はそれを覆す事が出来なくなる。


 と、なると……言ってしまえば後は何でも有り状態となる!


「俺達を襲ったオーガを貫いた、あの不思議な光。それを行ったのがその妖精王なんですよ」


「その言葉を信じろと言うのか? 昨日、森からやってきたお前のその言葉を?」


「証拠になるかは分かりませんが、その妖精がこれを置いていきました」


 俺はポケットから一枚の紙片を取り出し、ゴンザレスに差し出した。


「これは……ふむ……」


「書いてある文字が読めますか?」


「いいや、俺には読めん――が、然るべき研究者に渡せば解読可能だろう。この紙切れは預かっても構わないか?」


 そんなに重要なものだとは思わないが……まあ、元よりわたしても良いと思って提出したんだ。


 俺はルガシコンから渡された、〝フォトン・レーザーの呪文〟をゴンザレスに預けることにした。


「これで、大体の納得はできましたか?」


「いや、お前の話が本当かどうかは一時保留といった所だ。この紙切れが一体なんなのか、それが妖精の物だとはっきりするまではな」


 その点は問題ないだろう、ルガシコインから受け取ったことは本当なのだから。


 ならば、作戦完了ミッションコンプリート!……かな?


「そうですか。……ならもう帰っても?」


「ちょっとまで。そう言えば名前を聞いていなかった」


 今更、と思わなくもないが……正体不明の来訪者の段階では名前を聞くどころではなかったのだろう。


白金しろがねひかるといいます。ヒカルと呼んでください」


「俺はゴンザレス・アルクスだ。呼び方は好きに呼んでくれて構わない。支所長をしているが出張る事が多い、用事があるならヒュプノスに伝えておいてくれ」


「分かりました、それでは失礼します」


「状況が変わったらまた呼び出すかも知れない、しばらくはこの村から出るんじゃないぞ」


 俺は軽くお辞儀をし、スファレの手を持って立たせると部屋から退出した。


 その後、ヒュプノスさんに頼んで昇格試験を受けさせてもらい、俺だけゴブリン級まで昇格しておく。

 自分の生活のために金が必要となるだろうから早い内に上げておいて、受けれる依頼を増やしておくのが得策と判断したからだ。


 先に戦った大型ラビアンと比べて、全てが圧倒的に弱かったのには驚いた。

 2ランクアップとか絶対に嘘だ。


 当初の用事が終わった俺達は、ひん曲がったショートーソードを片手に、スファレの家に帰るのだった。


■◇■◇■


「妖精王エロイシーズか……」


 ヒカルと名乗った正体不明の男から受け取ったメモを眺めながら、ゴンザレスは椅子に深々ともたれ掛かる。


 ポーカーフェイスを維持し続けたヒカルの真意までは見抜けないが、明確な悪意によってアグロスに居るのでは無いと、長年の勘が告げていた。


「しかし、こちらの一喜一憂に口の滑りを良くするなど……よほど平和な国からやってきたのだな」


 交渉の上で表情を読まれないなどは初歩の初歩だ。相手を出し抜こうと思うならば表情も、感情も偽って相手に話しやすい空気を作るものなのだから。

 その点、ヒカルは経験の浅さや騙され慣れていないところから、生まれがよほど治安の良いところなのだとうかがい知れた。


「しかし、そのおかげで幾つかの嘘の中に重要な真実の残していった……ヒュプノス、聞いていたんだろ?」


 そう言うと、部屋の隅、乱雑に積まれた書類の山がモゾリと動きを見せた。

 中から出てきたのは手のひらサイズのラビアンだ。


「あらー、ばれてましたかー」


「この異常事態だ、必ず興味を示すとおもっていたよ」


 魔物が喋ったことに対し驚きもせず、ピョコピョコと跳ね寄ってきたラビアンに先ほどのメモを見せる。


「おやー? 勇者文字ですかー。懐かしいですねー」


「やはりか……あれ(ヒカル)は勇者だと思うか?」


「さー? どうでしょうー。 力は普通でしたよー」


「仮に勇者だったとして、魔王が復活したと言う噂は無いのだろ?」


「そうですねー。私達の間ではまだ耳にしていませんねー」


「なら、他に変わったところは気づかなかったか? 一緒にいたスファレが妙なものを顔に付けていたが」


「あれはー……何なんでしょうねー? でも、あれをくっつけているスファレちゃんとは目が合いましたねー」


「わからないか……妖精王は何をしようとしているんだか……ん? まて、目が合ったのか?」


「はいー、こんな事初めてですねー」


 スファレの目が見えないのはこの村では有名だ。冒険者の殆どが知っており、有事の際にはお手伝いをするスファレ養護組合(ファンクラブ)が非公認で作られているくらいに。

 職業柄、祖母であるダワーには、みな日頃世話になっているためである。

 ダワー自身は殆ど表に出ないため、感謝の気持はスファレへと集中した。


「スファレの目が見えるようになったと言うことか?」


「戦闘には不参加でしたよー?」


「お前の力で〝あれ(顔に付いていた物)〟について調べれないか?」


「無理ですー。だってシュヴァイク邸にいるんですよー?」


薬香結界(やっこうけっかい)か……」


 強力な退魔香の力で人間すらも寄せ付けないシュヴァイク邸の独自結界だ。

 ヒュプノスの使役する魔物など建物に近づくことすら出来ない。


「それにー、ダワーさんにバレたらどーなるかー」


「そうだな……機嫌を損ねて薬の供給が止まれば困るのは俺達だ。仕方ない……警戒はしつつヒカルの事はしばらく泳がせる事としよう」


「それが良いですー、ダワーさんを信じましょうー」


 もしもの時はダワー自身が解決してしまう可能性もある。老いたとは言え、元ワイバーン級冒険者だったのだから。


「では、本題だ――妖精王のしでかした事とされる、あの光。一体どこまで届いていたか……確認できたか? 森の異常と直接関係はありそうか?」


「それがー……そのー……」


「なんだ、はっきり言わないか」


「森を抜けた処までは確認したんですがー」


「確認したが?」


「山脈の入り口でー、何者かに魔物を落とされてしまいましたーテヘッ」


「居眠り運転でもしていたのか?」


「そんなーまっさかー。まっさかー」


 兎が吹けもしない口笛を吹こうとしている。


「居眠り運転していたのか……」


「私を誰だと思ってるんですかー? 眠りながらでも油断なんかしませんよー」


 そう言うと手乗りラビアンがスタンピングをして抗議を表現した。


 ゴンザレスは逆ギレじゃねーかと言いたかったが、ぐっと堪える。ヒュプノスが言っている事ももっともだからだ。


「そうだな、お前は眠っていても能力は多分変わらない」


「多分ってなんですかー。睡魔をなめると眠らしますよー?」


 凄んでも手のひらサイズの兎の言うこと、ゴンザレスにはどこ吹く風だ。


「で、何に落とされたんだ」


「もー……。分かりませんー、ただ……かなりやばーい感じでしたねー」


「やばい感じ?」


「そーですー。あの光ー、山脈でかなり〝やばい物〟でも貫いちゃったんじゃないですかねー?」


「何だそれは」


「私達の噂でー、あの山脈にはー、聖戦時に封印された死の王が眠るとかー」


「ハッ、そんな――馬鹿な。おどき話だろう?」


「あー、信じてませんねー? 私達の噂は人間達の噂より信憑性高いんですからー」


「いや、すまん。これは謝ろう。とにかく情報の裏が欲しい、お前たちの仲間にも協力を仰げないか?」


「これはってー……。んー……私達は気まぐれですからねー。声だけはかけてみますー。でもー」


「ありがたい。でも、なんだ?」


「魔族はお高くつきますよー?」


「いたしかたない」


 返事をしながらも、ゴンザレスは経費の請求先を模索し始めるのであった。

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