梓の憂鬱
十一月二週目。私の名前は梓。三崎梓です。
最近の悩みは本気の恋が出来ない事です。
え?ふざけてる?真面目ですよぉ。
でも私って冷めやすいっていうか、好きな人ができても皆苦笑いするんだもん。
「三崎さん。今週の週末どこか行かない?」
「え?えーと、ごめん部活だから」
この人は確か生徒会でサッカー部のキャプテン?だっけ。
「梓!ちょっと来なさい!」
「え?なーに真紀ちゃん?」
「いいから!」
少しごめんねと言いその場をあとにする。
私は親友の真紀ちゃんの席まで引っ張られて座らせられた。
「梓さぁ。あの人分かるでしょう?」
「えーと生徒会の………」
「生徒会長よ!それに成績優秀に結髪風姿の生徒会長よ!」
「け、けっぱつ?」
「結髪風姿。爽やかで凛々しいの意味。勿体無いよ!」
「な、何が?」
「あれ、デートのお誘いよ。デート」
「まさかぁ」
「わざわざ二年生のこのクラスの梓に話掛ける?」
「………」
「行って来なさい!絶対梓の好きになった人よりは数倍良いから」
「う、うーん」
「焦れったい!行くよ」
「あ、ちょっと!?」
豪快な真紀ちゃんの行動に反論するタイミングを逃し、その生徒会長の人の所まで連れて行かれた。
てか、名前分からないんだけど………。
「どうですか?」
その生徒会長の笑顔と、真紀ちゃんの圧力と周囲の視線に堪えられないので、お断り出来ない雰囲気が出来上がっていた。
「だ、大丈夫です………」
「良かったです。これ、携帯番号です。休み時間に失礼しました」
恭しいお辞儀をして教室から出ていった。
「きゃー!一条和馬先輩と三崎梓のビックカップルの誕生ね!」
「お赤飯ねぇ」
周囲からはそんな声がちらほら出ているが、私は付き合うつもりは微塵もない。
「しっかりね!部活は任せて」
「いや、ねぇ………」
真紀ちゃんと私は同じ野球のマネージャーなので、逃げられないことを悟った。
「うぅ………。どうしよう?これ」
手には携帯番号の紙が握られていた。
◆
「う、うぅ…………」
自分のスマホには携帯番号は押してある画面が開かれており、通話ボタンを押せばすぐにでも繋がるようになっていた。
「だ、大体………どうして携帯番号なのよ」
メアド等にしといてくれれば、文面だけの会話なのに、そこに声が入るとなると躊躇せざるをえなかった。
しかし、同時に何故自分がそこまで躊躇するのがいまいち分からなかった。
「仕方ないか………」
指に力を込めてコールのボタンを押す。
『もしもし?』
ワンコールで出た生徒会長に狼狽する。
「あ、あの………こんばんは………」
『三崎さんですね。ありがとうございます』
「い、いえ………」
『それで先の話ですが、ショッピングでも良いかと』
男性がショッピングとか言って、様になるのが凄いと思う。
この辺あるに大きなショッピングモールの事を言っているみたいだ。
「はい」
『来週の日曜日に。都合は大丈夫ですか?』
「は、はい」
『では、日曜日に。楽しみにしていますね』
「…………」
『おやすみなさい』
簡潔な会話。もっと長くなるかと思っていただけに拍子抜けだった。
「…………はぁ」
通話終了の画面を見ながらぐったりする私だった。
だ、だるぅ………。