理想的な駄作
「今どきシューティングゲームねぇ」
エル氏の試作品を前に、部長は渋い顔をした。
「ただのシューティングゲームではありません。飛行機を操り、相手の攻撃を避けながら敵地に侵入し、パルスビーム攻撃するという、フライトシミュレーションと戦略的要素を兼ね備えたゲームです。」
「でも、この飛行機って、かなり急角度に曲がったり、ものすごいGで加速したりするんでしょ。こんなの現実的じゃないよね。」
「そこがゲームの腕の見せ所なんです。今どきの若者は、反射神経が発達しているから、これくらい急激な操作ができる方が上達の楽しみがあるはずです。」
「じゃぁ、試作品としてアーケードに並べて、お客の反応を見て見よう。」
エル氏の開発したゲームは、アーケードゲームの試作品として、とあるゲームセンターの隅におかれることになった。
「おっ、新しいゲームがある。」
若い男が早速そのゲーム機を見つけ、ゲームを始めた。しかし、操作が難しく、すぐにゲームオーバーになった。
「なんだよこれ、飛び方が無茶苦茶じゃん。ひでぇなぁ。」
そう言い捨てて、去って行った。
次にOL風の女性が仏頂面でゲームを始めたが、これもすぐにゲームオーバーになった。
「何これ、ばかにしてんじゃねぇよ」
女性は、鬼のような怖い顔でゲーム機を睨んで、暴言を吐いて去って行った。
その次に、強面の中年男がゲームを始めた。が、これもすぐにゲームオーバーになった。
『ぐゎん!』
男は何も言わず、ゲーム機を蹴飛ばして去って行った。
その後も、何人かゲームをしたが、皆すぐにゲームオーバーになって、機嫌を悪くして去っていき、二度とプレイしようとしなかった。
物陰から、どきどきしながら見ていたエル氏は、この様子を見てがっかりした。
高度なテクニックを求めすぎて、操作が難しくなり過ぎたようだ。
やはり、もう少し性能を落とすべきか。
そんなことを考えていたところ、ふと、外国人風の男が熱心にゲームを続けているのに気が付いた。
その男は、真剣な眼差しで延々とゲームを続け、なんとラスボスを攻撃して、ゲームクリアしてしまった。
感動したエル氏は、その男に近づいて言った。
「素晴らしい腕前ですね。どうですかそのゲームは」
「オオ、コノゲーム、リソウテキデス。ゼヒユズッテホシイデス。イクラデウリマスカ」
「このゲーム機は売り物ではないのですが」
「ソウイワズ、ゼヒウッテクダサイ。ナンダイデモカイマス」
これはすごい商談になったと思い、エル氏は慌てて部長に連絡を入れた。
「君の作ったシューティングゲームが、あんなに高値で売れるとは驚いたよ。いったいどこの国の人なのかね」
「それが、私にも詳しいことは教えてもらえなかったのです。」
「なんにせよ、そのおかげで我が社の今期の売り上げは黒字になった。君のおかげだ」
エル氏が部長とそんな会話をしていると、部屋のテレビにニュース速報が流れた。
『臨時ニュースです。米国の国防総省が何者かに攻撃されているようです。』
テレビでは、現地の映像が映し出された。そこでは、謎の円盤型飛行物体が、かなり急角度に曲がったり、ものすごいGで加速したりしながら、パルスビーム砲を連射していた。