DAY-04 リバイアサン"Ω"
くっ 首が、寝違えてしまった(汗)
何とかなった(ぐったり)
戦場に一時的な静寂が訪れ、双方の艦隊は動きを止めていた。
海面は水蒸気で覆われ、砲身は赤く焼き付き、ミサイルサイロは空と成り、銃身からは湯気が立ち上る。
直ぐ傍で誰かの息遣いが聞こえる、肩で息をする荒い呼吸が直ぐ傍で聞こえている、それは良く耳をすませば自分の呼吸音だと気が付いた。
銃撃音と爆音でバカになった耳には艦の音と、空を駆けるジェット機の音が微かに響く。
所属不明の敵艦隊は止まる事なく、最終的に目と鼻の先まで接近し最後は敵味方入り乱れての激戦・・となった。
砲身は水平に構えられ、直ぐ傍で爆発が視界を赤く染め、轟音が絶え間なく鳴り響いていた。
近年では他に例の無い戦闘艦による接近戦を演じたにも関わらず、味方の損害は軽微だった、弾薬庫が空になったこと以外これと言って損害は無い。
敵艦隊の残は大型戦艦二艦を含む10隻ほど、航空機は味方しか飛んでいない。
間違いなく、自分達は勝ったのだ。
あっちこっち徐々に歓声が上がる、やがてその声は大きくなり、うねりとなって海域を埋め尽くした。
自分達は勝った!
敵艦隊は壊滅した!
アメリカ軍は世界最強だと証明された!
おそらく、上層部では相手に対して降伏勧告をするだろう!
戦争は終わった!
いや!
俺達が終わらせたのだ!
歓声は何処までも木霊し、辺りに鳴り響いた。
突如、海面から気泡が複数湧きあがり周囲が緊張が走ったが、気泡の下から味方の原子力潜水艦が海面を突き破り現れた時、全ての兵士が勝利を確信し、兵士たちは感情を爆発させ更なる大きな歓声が沸き上がった。
そいて、緊急事態サイレンが鳴り響く。
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約五分前
海戦が行われていた海中では海軍所属の攻撃型原子力潜水艦6隻が海中を警戒していた。
原潜「フロリダ」の発令所ではようやくホッとした空気が流れていた。
「ソナー、周囲の状況はどうだ?」
艦長がセンサーで周囲の海域を監視する水測員に尋ね、水測員はヘッドホンを首にかけながら苦笑いを浮かべ皮肉交じりに答えた。
「戦闘の音がようやく落ち着いてきました。 海面上の歓声が此処まで響いていますよ」
そして、肩を竦めながら。
「もっとも、戦闘中は耳が壊れるかと思いましたがね」
たちまち発令所に笑いが起こる。
「如何やら・・・、我が軍が勝利したようだな。 沈んだ敵艦の様子は確認できたか?」
「不明です。 何せ、上の連中ときたら海中の事はお構いなしに打ちまくったものですから、ソナーを始めとしてセンサーの大部分が死んでいました。 よく沈んで来る船に当たらなかったものです。 我が艦は運が良いです」
艦長は部下の方を軽く叩きながら、労をねぎらった。
「フッ・・・、運も実力の内だ。 上の艦隊に祝電をうt
《ズドッン!》
突如、発令所が跳ね上がる。
シートに座って居なかった者は反動で床や壁面に叩きつけられた、シートに座って居た者も床に投げ出されない様にコンソールにかじり付かなければならなかった。
「何事だ!」
艦長が床の上で両手を付き、痛みに耐えながら状況を尋ねた。
「しっ 下から何かぶち当たりました! 船体に異常な力がかかっています!」
「機関最大!」
「! だっ ダメです! 動きません! 完全に力負けしています!」
「水中に留まれません! 浮上します!」
「何てことだ!」
「頭上の艦隊に緊急事態を宣言しろ! 戦闘は継続中だと!」
「りっ! 了解!」
艦長の目の前で深度計が海面を突き破る勢いでゼロに近づいていた。
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海面が盛り上がり。
海面が突き破られた。
彼らの目の前に、彼らが沈めた敵艦が無傷で浮上する。
勿論、浮上するだけでは無かった。
水滴を撒き散らしながら徐々に高度を上げ、一隻の例外も無くその白亜の巨体を空中に浮かべ始めた。
更に周辺の海面が爆発し無数の水柱が所狭しと沸き立つ。
それは、撃墜したはずの航空機だった、一機も欠ける事無く空中に飛び出したのだ。
撃墜したはずの航空機も空中に浮遊し、沈めたはずの敵艦と共に円陣ならぬ、海面を起点とした半球陣を形成し艦隊を包囲していた。
誰もが唖然とする中、いち早く行動を起こしたのは未だ着艦していない航空部隊のパイロット達であった、彼らは残弾が残り乏しい機関砲を使い(ミサイルは既に使い果たしていた)、ジェットを唸らせながら迎撃に向かった、それにUCAVも新たな指令を受信し追随する。
その時、包囲する艦隊から初めて攻撃が行われた。
無数の青白い光線が幾何学的な軌道を進み、戦闘機とUCAVを同時に四方八方から打ち抜く、その光景を観た誰もが撃ち抜かれた機体が爆散する光景を想像したが。
撃ち込まれた青い光は消えず、機体を空中に縫い止めていた。
それは、まるでリンゴの表面に無数の針を刺した様であった、そのあまりに現実離れした光景に誰もが声一つ出す事が出来なかった。
勿論、パイロットの意思で空中に留まって居るのではない、よく観るとジェットエンジンの噴射炎が上下したり出力を変えているし、方向舵の出鱈目に動いていたが機体は空中に縫い止められピクリとも動かなかった。
誰もが動けない中、オーエンス中佐は驚愕の中で妙に冷めた頭で納得もしていた。
(やはり、あの撃沈や撃墜は"FAKE"だったか・・・)
(すると狙いは・・・・、此方の弾薬を消費させる事か。 だとすると・・・)
彼は空中から甲板に視線を戻し周囲を見回した。
誰もが動きを止め脱力し、その表情は驚愕、恐怖、諦めなど様々な感情に彩られていた。
(・・・・此方の戦意を挫く事か)
思わず苦笑が漏れる。
(何とも、ま~、人道的で博愛精神に溢れた"敵"だこと・・・)
相手に全力を出させ、無傷な姿を曝す。
これ以上の戦意の挫き方は無いであろう。
無論、オーエンス中佐を始めとして艦隊の誰も知らなかった事だが、エレェリアの持つ"百の大剣"に法術属性も魔術も無い単純な物理攻撃など通用しない。
この石剣の刀身には攻撃を吸収しMPに変換する力がある、相手の力ですら自身の力に変てしまう能力。
当然、百の大剣を核として召喚された艦隊にもその能力は持つ。
ある意味アメリカ軍にとってエレェリアは戦うには相性が最悪の相手なのである。
彼らは戦う前から既に負けていたのである。
戦艦形態の「やまと」と「むさし」に護られた空間からエレェリアは包囲陣の中央、総旗艦の左舷側の空中に在りもしない足場を形成し着地した。
全ての視線とカメラが彼女の姿を捉え、全てのモニターとディスプレイに彼女の姿が映し出された。
そして、誰もが別の意味で息を呑む。
白金色の髪と碧眼、抜群のスタイル、ガラス細工の様な美貌。
純白のウェディングドレスに真珠の輝きを放つ篭手と足鎧、頭上には真珠のティアラを付け、右手には2m程の武骨な石剣を軽々と持ち上げていた。
エレェリアは空の一点を見詰め動かない。
原子力空母の装甲化されたCDC(戦闘指揮センター)ではオールドマン総司令が大型モニターに映し出されたエレェリアの姿を見て動けずにいた。
彼だけでなくCDCに居る全ての人員が動けずにいた。
戦闘中の熱狂も戦闘後の脱力感も無い、今あるのは・・・・
"畏怖"
天使、戦乙女、女神、その様な言葉では表現しきれない・・・・
"絶対者"
それが彼女に対する最も相応しい呼び名。
どれ程の間、見入っていたであろうかオールドマンはふっと疑問を持った、彼女は空の一点を見詰めたまま動かない、自分が指揮する旗下の艦隊に視線すら向けないでいる。
(何を見ている? 何かを待っているのか? 何を・・・)
そこで彼はようやくモニターの彼女から視線を移し、CDC内を見回した。
CDCに詰めている全ての兵士が男女区別なく、モニターやディスプレイに映し出された女性に見入っていた。
(・・・無理も無い)
彼は溜息を吐き諦めると、周囲に視線を這わせた。
(特に・・・、変わった処は・・・? なんだ?)
何も異常は無いと結論付け、別の何かを探そうとした時、視界の隅に奇妙な物を見付けた。
それは通信席のデータ通信用ディスプレイ、肝心の通信士は別のモニターを見入って視界に入っていない。
彼はデータ通信用ディスプレイから視線を外す事無く近寄る、間に居た人間は遠慮なく突き飛ばし道をこじ開ける。
後ろから正気に戻った人間の抗議の声や悲鳴を無視し、通信席に座る兵士を突き飛ばしディスプレイにかじり付く、突き飛ばされた兵士は悪態を付くが、彼を確認すると慌てて立ち上がり直立不動の敬礼をする。
後ろでざわめきが広がるがオールドマンはデータ通信用ディスプレイから視線を外さない、そこには暗号の自動解析が終了した新たな命令が表示されていた。
「・・・・おい、この通信文は何時届いた?」
「ハッ! 通信文でありますか?」
(ダメだ! こいつは意識だ飛んでいて参考にならない!)
視線をディスプレイのデータ欄に向ける、受信タイムは約15分前。
「クソッ!」
ざわめきが広がる。
「如何なさいましたか?」
後ろからモース参謀の声がかかる。
「本国から・・・」
後ろを振り返りながら、大声を張り上げる。
「本国から5基のICBMが発射された! 目標座標はここだ! この海域だ!」
驚愕と怒声がCDC内を包み込み、収集付かなくなる。
「鎮まれ!」
モース参謀が珍しく大声を張り上げ全員を黙らせると、オールドマンに肝心な事を確認する。
「指令! 核弾頭ですか?」
「いや! 弾頭の起爆装置は外された質量攻撃だそうだ!」
CDC内にホッとした空気が流れる。
「全艦に警報を出せ! 衝撃に備えよと! ぼけっと突っ立っていると薙ぎ倒されるぞ!」
モースの指示が飛ぶ。
「「Y! Yes sir!」」
その言葉と共にCDC内の全員が慌ただしく各部署に連絡や警報を発令する為に動き出した。
それを横目で見ながらモースはオールドマンにゆっくり近づき小声で尋ねる。
「格の起爆装置は間違いなく外されているのですか?」
「取り敢えず、不活性化はされていると説明されたが衝撃で・・・」
「爆発する事があると?」
「そう言う事だ。 爆発したら運が無かったと思い諦め、神に祈れ。 そうとしか言えん!」
おそらく国防総省の電気仕掛けのイスに座った若造が大統領の耳に在る事ない事吹き込んだに違いない、この海域にいるのが"主戦力"でこれを壊滅させる事が出来れば、艦隊を犠牲にしてもおつりがあり、証拠と証言者が居なければ何とでも言い訳が出来ると。
そして我らは勝利の為の殉教者として永く語り継がれると。
「ふっ、三流のシナリオですね。 爆心地から外れれば何人かは生き残れますかね?」
「戦略級の弾頭だぞ? 本当の運任せだな・・・」
「そうですか・・・、 この艦の乗員は貧乏くじを引きましたね・・・」
総旗艦は艦隊の中央に位置する、この場合、逃げ場など無い。
「あるいは、本当に神の奇跡を期待するか。 この場合は女神の加護かな・・・」
二人の視線は大型モニターに映し出された女性の姿に注がれた。
彼女は空の一点を見詰めたまま動かない。
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彼女の、エレェリアの眼は大気圏外を芋虫の様に空を這うICBMを捉えて離さない。
長距離走査情報により彼女は芋虫の弾頭が"生きている"のを知っていた。
彼女にとってそれは脅威では無い。
素の状態でさえ太陽の表面を鼻歌を歌いながら散歩が出来るほどの防御力を誇る彼女にとって、戦略級の核弾頭5発程度など・・・。
しかも、現在は百の大剣を展開中である。
エレェリアはこの機会を逃す気は無い、折角なので彼女は核弾頭の全エネルギーを喰う積りである、前菜の後でメインディッシュが勝手に降って来てくれたのだ、無駄にするには勿体ない。
彼女は視線を外す事無く走査範囲を海上に向けた、様々な人々の情報が彼女に飛び込んで来る。
神に祈る者。
伏せる者。
走り出す者。
何とか家族に連絡を取ろうとする者。
一つ一つに命が有り、それぞれに物語があった。
彼女は上空に上が開いた透明な半球状の力場結界を展開する。
「さテ。 これからの大仕事・・・の為ニ、少しばかし糧になってもらいますヨ」
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オールドマンは艦橋に昇り、誰も居ないブリッジの自らの席に腰を下ろした、艦橋に詰めていた兵士は衝撃に備え既に避難している。
彼は静かに目を閉じてみる、不思議と命の危機は感じなかった。
眼を開き手元の端末を操作しモニターに彼女の姿を映し出し、冗談の様な独り言を呟く。
「異界から降臨せし女神よ。 わが命を持って旗下の兵たちをお救い下さい・・・」
「・・・・・ふっ、ハリウッド映画ならこれで間違い無く艦隊は救われるな」
「シナリオは最悪ですが、主演男優賞のオスカーは取れるでしょう」
いつの間にかモース参謀がブリッジの入口に立っていた。
「!? ケイリ―、ここに居ても危険手当は出ないぞ」
彼は肩を竦めながら、ゆっくりと近づき。
「いえね。 私も死ぬにしろ生きるにしろ終末を観ておきたいんですよ。 この眼でね」
「なるほど。 それなら一つ訂正した方がいいぞ」
「何をですか?」
「主演は我々では無い、彼女だよ・・・」
「・・・・確かに」
その時、視界が閃光に包まれ、二人は思わず眼を閉じ両腕で眼を庇う。
上空に二つ目の太陽が出現した。
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核弾頭はほぼ同時に結界内に着弾、信管を作動させ爆発した。
刹那、彼女は結界を球状に変化させ爆発の全エネルギーを閉じ込める事に成功する。
そして結界を圧縮、爆発をソフトボール位の大きさまで縮め、結界を手元に移動させる。
強烈な光を放つ小型の太陽が胸下に掲げられた彼女の左手上に浮遊する。
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オーエンス中佐は空母の甲板で一部始終を目撃していた。
右手に石製の大剣を持ち、左手に太陽を抱く女神。
甲板上では頭こうべを垂れる者、祈る者があちらこちらで観られ、中には涙を流す者さえ居た。
「まっ 無理も無いか」
思わず自嘲気味に呟く。
この光景を記録した映像データが諸般の事情によりネット上に流出し、短期間で爆発的に世界中に広がり、やがて彼女を信仰する新興宗教にまで発展するのである。
(注・映像に対するコメントの中には「女神様!」とか「萌え~」と言うもの他に、何故か「ヒールで踏んでくれ!」と言うものがあったとか・・・。 なんでかね?)
後にこの宗教の実態を知ったエレェリアは、恥ずかしさのあまり部屋中のたうち回り、潰すために地球に行こうとして皆に止められ、三日間ほど自室でふて寝していた。
どれ程時間が過ぎたであろうか、彼女の左手の太陽が光を失い消えた時、全ての艦隊に掲げられていた全ての戦闘旗が静かに降ろされた。
それはこの海戦の終了とアメリカ海軍の敗北を意味していた。
その行為を確認してからエレェリアは静かに右手の大剣を宙に突き降ろした。
《パッン!》
オーエンス中佐は空気を震わす音を聴くと同時に空間に淡く青い光が徐々に満たしていくのを感じた、あちらこちらでざわめきが起こるがパニックにはならない、やがて視界が全て青色に満たされたと同時に彼は足元の異変を感じた。
そして視界が通常に戻った時、自分が艦の上でなく地面の上に立っているのを確認した。
彼は辺りを見回し現在位置を確認しようとしてそれが無駄な努力である事を知り思わず苦笑する。
「これは・・・、何とも親切な事で」
そこは彼にとって非常に見慣れた風景であった。
西海岸に在る彼の自宅の玄関前、彼はそこに転移されたのである、この分では艦隊の全ての兵士が自分達の帰るべき場所に送り届けられた事であろう。
足の後ろに何か当たる。
「?」
視線を向けてみると、そこには艦で使っていた彼の私物が無造作に固められ地面に置かれていた。
もはや、笑うしかない状態である。
「ここまでやってくれるなら鞄に詰めてくれても良いんじゃないのかい。 女神さまよ?」
彼は笑いながらゆっくりと腰を屈め荷物を纏め始めた。
異変を感じたのか彼の妻と娘が外を確認するために玄関から覗き見て、娘が驚きの声をあげる。
「あっ! パパ! いつ帰って来たの?」
六祖 その最初の一柱 大地に降り立つ
右手に石の大剣を掲げ
左手に白き太陽を抱く
天上に在りて 万の軍船を旗下に持ち 太陽を司る
相対する者の 命を刈り取る事 良しとせず
囚われの者は 全て在所に帰る事 赦される
慈悲深き軍神なり
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おまけ
「ああ~ やまと! エレェリアの姿が見えないが如何したんだ? そろそろお昼なんだが?」
「えれぇりあ様ハ、自室ノぷーる二テ"マッタリ"シテオイデデス」
「何があったんだ?」
「鹵獲シタ軍艦全テヲ、空間圧縮シテ停滞結界デ包ンデ小型・常態化シテ持ッテ来テぷーるニ浮カベテ、にやけてオリマシタ」
「・・・・そうか(汗)。 昼は必要ないな」
「後ホド部屋ニ運バセタ方ガ宜シイカト」
「そうだな」
「ソレヨリかずま様、先ホドさくら様・・・、奥様ガ探シテオリマシタガ?」
「・・・何でかな? 嫌な予感しかしないのだが(冷汗)」
次回は次の土曜日に更新予定・・・・。
タイトルは「フェアリー(仮)」
寝る・・・。




