DAY-04 リバイアサン "α"
相変わらず・・・、暑い! 湿度が高い!
カーニバル(謝肉祭)
その光景は祭りそのものであった。
轟音を撒き散らし飛び交うミサイル、空気を震わせる砲撃、鼓膜を連打する機関銃音、可視化されたレーザーが乱れ、レールガンが連射される、艦隊の上空では戦闘機ドックファイトを繰り広げ、海面上を高く水柱が吹き上がる。
そして飛び交う怒鳴り声と歓声。
轟音
爆音
閃光
火災
黒煙
全てが一体となりその海域を包み込んでいた。
狂宴・・・、或は狂乱、そんな言葉が当てはまる騒ぎと熱狂が全ての兵士を包み込む、一人の人間と一人の女神を除いて・・・。
「なんだこれは?」
アメリカ海軍の航空攻撃隊の隊長であるオーエンス中佐は困惑していた。
彼自身、二回の出撃を終え弾薬の補給と休息の為、空母に着艦した時、初めて周囲の違和感に気付いた。
まるで自分だけが別な世界に迷い込んだかのような感じがした、彼は甲板上をゆっくりと見回す。
「ありったけの弾薬を持って来い!」
「準備良し! GO!」
「邪魔だ! そのUCAVをさっさと退けろ!」
何時も冷静と慎重に事を運ぶ整備士とパイロット達が怒鳴り声を掛け合いながら大騒ぎで戦闘準備し、彼らの頭上を戦闘機同士がドックファイトを繰り返し、対空防御が引っ切り無しに鳴り響く、そんな中、突撃そんな言葉が似合うような勢いで部下達が離陸して行く。
甲板の端では海兵隊達が携帯式の滞空ミサイルだけでなく、アサルトライフルや汎用機関銃を連射し、何故か当たるはずの無い対戦車ロケットだけでなく、映画のワンシーンで主人公がする様に拳銃を空に向けて発砲していた。
「・・・・何をしているんだ?」
目が回る。
視界がぶれる。
誰かが耳元で喚いている。
整備士の発艦準備完了の声も耳から入り頭の中を素通りして抜けて行く。
苛立った整備士が彼の機体を勝手にカタパルトに運び、手の空いていたパイロットが乗り込み発進する。
発艦の噴射炎の衝撃を受け思わずよろめき、四つん這いになる。
周囲の者達は中佐を完全に無視して進んでいく。
もう誰も自分の事を見ていない。
彼だけが今の世界から孤立していた。
(何時からだ・・・、何時からこうなった?)
彼は今までの自らの行動を思い出す。
最初の違和感は二回目の出撃の時だ、最初の出撃の時は初戦の興奮で気付かなかったが、二回目の出撃の時は幾分、冷静に辺りの物事が見える様になっていた。
確かに対艦ミサイルや魚雷が命中した敵艦からは爆音と閃光が走り高い水柱が吹き上がる、数発命中した艦はゆっくりと波間に沈み込んでいくし、周囲を飛び交う小型機にミサイルや機銃弾を命中させた時は綺麗な放物線を描き海面に落下し、高い水飛沫を上げていた。
これだけの事を表面だけ捉えれば大戦果であるのだが・・・、それ故に彼は違和感を拭い去る事が出来なかったのである。
(何故? 何故、連中は一発も反撃しないのだ?)
確かに自艦に突っ込んで来るミサイルは時たま迎撃されるし、魚雷や砲撃に対してはゆっくりだが回避行動をする。
だが、敵である自分達に対しては反撃をせず、味方艦隊の被害は今の処
"ゼロ"
全く無いのである。
双方の艦の合計が200を超える戦闘艦が激突する海戦でこんな事は絶対に有り得ない。
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5時間前
百を超える戦闘を目的とした艦隊が太平洋を西進していた。
艦隊の中央には近年配備されたばかりの最新鋭の巨大な原子力空母が総旗艦として全体を統括していた。
原子力空母のブリッジ中央に位置する指揮席に腰かけていた一人の男が手元のディスプレイを感慨深く眺めていた。
「これ程の規模の艦隊は第二次世界大戦以来であろうな・・・」
全艦隊を統括するウェイン・オールドマン総司令は旗下の艦隊の俯瞰編成図を端末で確認しながら呟いた。
無論、返事を期待しない独り言であるが、直ぐ傍から返事が返された。
「ハワイ、グアム、西海岸と東海岸、そしてインド洋に展開する全ての艦を集結させています」
総司令は声のした方に視線を向けると、ケイリ―・モース参謀がタブレットを片手に彼の前に立っていた。
「申し訳ありません。 至急報告しなければならない事態が発生しましたので」
オールドマン総司令は端末を下げ鷹揚に頷く。
「いや、構わんよ、少々考え事をしていただけだ。 それより緊急事態なのか?」
モース参謀は困惑した表情で、少々歯切れの悪い返事を返した。
「緊急だと、思われるのですが・・・」
「如何した? ケイリ―。 何時もの君らしくも無い?」
「緊急事態と言っても差支えない事態ですが、切迫した事態ではありません」
「? それはどう言う事だ?」
「先ずはこれをご覧ください」
彼は手元のタブレットを操作し、データをウェインの端末に送信した。
総指令が端末に再び目を戻すと何の変哲も無い海面の画像が表示されていた、画像データに付けられたシリアル番号から偵察衛星の画像の様である。
「・・・・特に変わった所は無いようだが?」
「変わった所が無いのが問題なのです。 映し出されているのは今から一時間と少し前の艦隊の進行方向の定期撮影の画像です」
「それで・・・」
「そして・・・、次が今から約20分前の同地点の画像です」
表示されていた画面が切り替わり、今度は海上に整然と艦列を整えた艦隊が映し出された。
「なんだ! これは?」
オールドマン総司令は思わず驚愕の声をあげてしまった、ブリッジの要員がその声に驚き思わず彼らの方に視線を送る、彼はそんな視線の集中を無視してデータを食い入る様に凝視する。
情報分析官が異常を感知した為、観測データ量が増え、端末の画面に次々と映像が映し出される。
大きさは比較する物が無い為に不明だが、当艦以上の巨体の航空母艦に、前時代の遺物の戦艦、それに巡洋艦に駆逐艦が綺麗に円形陣を海上に築いていた。
モース参謀が説明を続ける。
「周辺の走査情報から当海域に一時間以内に移動できる規模の船団は存在しませんでした。 偽のデータが衛星から送られて来ているのでなければ、この艦隊は突然その海域に出現した事になります」
「距離は?」
「進路変更をしない現在の艦隊の移動速度から約2時間以内の距離です、通常交戦可能距離は既に割り込んでいます。 相手が発砲していないので・・・」
「なるほど。 緊急事態だが切迫していないと言う訳か・・・」
「はい」
彼は端末から顔を上げ参謀に視線を向ける。
「対策は?」
「UAVによる偵察と。 戦闘配備を進言します」
「リスクは?」
「相手に交戦の意思が無い場合、相手を刺激して最悪、戦闘に突入します」
「だが、何もしないわけにはいくまい。 責任は俺が取る。 一級戦闘配備を発令しろ! UAVを出せ!」
「ハッ!」
参謀がブリッジ要員に指示を飛ばす、そして艦隊放送が流れ、にわかに辺りが騒がしくなり始めた。
「UAVの映像が出ます!」
ブリッジに通信手の声が流れる、全員の眼がブリッジに据え付けられた大型モニターに集中する。
そして、騒然となる。
「所属不明艦隊は実在します! 繰り返します! 所属不明艦隊は実在します!」
モニターには現在地球に存在する如何なる国の様式にも一致しない装備や装飾された白亜の艦隊群、全ての艦は白く輝き、淵を金と白金色で装飾され、ステルスを全く考慮しない武骨さの欠片が一切なく、まるで高価な美術品の様な外観をした汚れやシミ一つない戦闘艦。
その映像を観ていた誰もが唖然とした表情でその艦隊を見入っていた。
そんな中、情報分析官は律儀に報告を続ける、もっとも誰か聞いている者が居るのか非常に怪しいのだが。
「全ての戦闘艦の外見は認識できません! 完全に所属不明です! UNKNOWNです!」
そんな事は観れば誰でも分かる、あんなド派手な外見の軍艦など中世ならともかく、現代で配備するのはよっぽどのアホな国家か、レーダーを知らない間抜けだけである。
突如、UAVからの映像が乱れ、映像を観ていた全員が現実に引き戻される。
「どうした!」
誰かが声を張り上げる。
「UAVの傍を所属不明艦隊の航空機が通り過ぎました!」
UAVに搭載されているカメラからの映像が次々と切り替わり、周囲の情報を伝えて来る。
「空母から航空機が次々と発艦しています!」
一つの映像がモニターに大写しになる、航空母艦から次々と戦闘機と思われる飛翔体が発進していた、甲板から加速しながら発艦する機体と垂直上昇する機体が映し出されていた。
「航空機の進行方向は!?」
「少し待ってください! ・・・・航空機は艦隊の上空を旋回中で・・・、 ん? なんだ?」
情報分析官の声が不自然に途切れる。
「何事だ?」
「状況変化! 所属不明艦から発光モールス!」
再び映像が切り替わり艦隊の俯瞰映像に切り替わる、白亜の艦隊が一斉に規則正しく猛スピードで発光していた、明らかにUAV、彼らに向けての信号であった。
「信号の内容は?」
信号の間隔が早すぎて人の動体視力で捉えるのは非常に困難であった。
「同じ文の繰り返しの様です。 少しお待ちください」
長い様で短い時間が過ぎる。
「内容は・・・・」
情報分析官は少々言いよどんでから、意を決して・・・。
「"全ての船から退艦して下さい。 好きな所に送り届けます♡"」
ブッチ!
誰もが何か切れる音を確かに聴いた。
上下に分れてしまった・・・(汗)
オーエンス中佐には素質があり、何か色々とレジストしました。
次回はDAY-04 リバイアサン "Ω"
バテ無ければ明日更新予定・・・・・・・・・(汗)




