DAY-03 始まりに星あり
やっぱりクーデターまで一話延びてしまった・・・
色々と謎が解けてきたかな?
今回はちょっと難しい話です。
「皆、席を外してくれ、しばらく一人になりたり」
会議は上席に座る一人の男の発言で終了となった。
誰もが静かに一礼をして会議室から出ていく、まだ色々と討議をしなければいけない案件が数多く有ったが、緊急性の案件は既に結論が出され動き出している。
それに、これから色々と背負う者の気持ちを思うとこの願いを無下にはする事は出来ない、おそらくこの男にとってこれが最後の休息になるのだから。
今まで色々な案件が討議されていた会議室にようやく静寂が訪れた。
空調の唸るような音と時計の音だけが響き、防音されている室内にあって部屋の外の人の気配が伝わって来る。
「・・・・・・・・」
壮年の男、矢吹・圭二は静かに瞑目していた。
彼は全てに思いをはせていた、今まで色々な事が有り、これからも色々な事が去来する、そして、何故か"今"一人にならなければならなければ気がしていたのである。
予感。
或は運命。
現実主義者である彼が何かそう言った言葉に表せない""何か"を感じていたのだ。
暫くし、彼はある異変を感じた。
今まで聞こえていた空調と時計の音が、いつの間にか止んでいたのだ。
そして、目の前に"人"でありながら、明らかに"人"とは違う気配を感じた。
(・・・・・やはり来たか)
矢吹は静かに目を開ける。
楕円形の円卓の端に、彼と丁度反対側に一人の青年が静かに腰を下ろしていた。
資料で何度も観て、決して見間違う事の無い顔が目の前にあった。
だが、雰囲気は違う、虚ろで有りながら、何故か非常に密度の有る、神社の様な神域の静寂に似た、まるで神と対峙している様な感覚。
眼を少し動かし時計を観る、秒針は完全に止まっていた。
「時間は気にしなくて良い。 この時間は一秒の間に起こった事だ」
その声を聴いても驚きは無い、当然の事の様にその事実を受け止める。
「それでも時間は惜しいな。 さて・・・・、君の事を何と呼べば良いのかな? アダマスのギルドマスター"カズマ" それとも藤代・数磨君かな?」
「今は唯の"カズマ"それで良い。 "矢吹"さん・・・」
「・・・・なるほど。 此処に来たと言う事は、何か聞きたい事があるのだろ? それとも既に記憶を覗いたかな?」
「対等の関係にその様な無粋な事はしないよ」
対等、これ程皮肉の効いた言葉も無い。
「対等か・・・・・」
矢吹は苦笑を浮かべながら、自嘲する。
「失礼、話を戻そう。 私に答えられる範囲でなら答えよう」
「感謝する」
「何を聴きたいのだ?」
「行動の素早さと、実行の稚拙さ。 その違いについて」
カズマの謎かけの様な言葉と。
「なるほど・・・」
その問いを理解する矢吹。
"行動の素早さ"帰還した彼らの周囲に張り巡らされた監視の網の事、"実行の稚拙さ"彼らに対する干渉の力の無さ。
「・・・・・確かに、私はその問いに対して答えを知っている。 だが何故、私の所に来ようと考えたのか?」
「全ての情報は貴方の所から拡散し消えている。 そして肝心な処は意図的に消されている様に思われた」
断片的な情報を遡るとある一点で痕跡が消えており、それが全て彼"矢吹"の周辺に集中していた。
「肝心な情報は記録には残されていない。 私も前任者から受け継いだのは口伝のみだ」
「口伝のみ?」
「そうだ、全ての情報は記録から消され、情報は前任者の指名でたった一人だけに口頭で受け継がれる。 受け継がれるその者が役人か私人か政治家は問われない、全て前任者の一存で決まる。 唯一の制約は政府の中枢にある程度の影響力が有る事、この一点だけだ」
「危ういシステムだな、現に貴方は排除された」
「確かに、私の代は計算外だ。 まさか首相があそこまで無能だとは思わなかった」
「・・・・・その話は良いだろ。 聴かせてくれ」
「わかった。 さて、何から話そうか・・・。 切っ掛けはおそらく30年以上前だ、正確な日付は不明だその情報も意図的に消され口伝でも伝えられていない。 ・・・・・・だが推測は出来る、それはVRMMOがこの世界に出現する以前だ・・・・・
その三人の男女が出現したのは偶然だったのか必然だったのかは今現在も判明していない、おそらく必然だったと思われている。
場所は何重にも隔離され重要な軍事技術の政府直轄の実験場、夢や外部からの侵入者で無い事は、出現した瞬間を幾重にも張り巡らされたセンサーと記録から証明されている。
もっとも、その全記録は即座に破棄されていて現存する物は存在しない、関係者には厳重な緘口令が引かれ違反しようとした者は適切な処置が施されたとされている。
三人は厳重な監視下の下、調書が行われた。
彼らは自らをVRMMO[ワールド]から異世界に飛ばされそこから帰還した者だと証言した。
最初はその事実を受け入れようとはしなかった関係者も、彼らが唯一、異世界から持ち帰った物を調べるにつれ、その考えを改める様になっていった。
彼らが持ち込んだ金属はオリハルコン。
「オリハルコン」
「そう君達の居る世界で精神感応金属と呼ばれている物質だ。 そしてここからが肝心な処だが、帰還者は君達に会ったと証言したのだ」
「・・・・・・・・向こうの世界でVRMMO[ワールド]の出身者に会った記憶は無いが?」
「当然だろう、彼らは約500年後の君たちに会ったと証言したのだから」
「500年後?」
「ああ、彼らに対して君たちは元の世界に500年は帰っていないと言っていたそうだ。 そして・・・
そして、三人に対して君たちは持っていた"能力"を元の世界では混乱の原因になると言って封印し、多少の時間軸のズレを説明した後に送り返したそうだ。
三人のその後については伝わっていない、口伝でも適切な処理がなされたとしか伝わっていないのだ、或は未来の君たちが干渉したのかもしれないな、私はその可能性が最も高いと考えている。
この異世界の情報はオリハルコンの欠片と共にアメリカにもたらされ、そこからイギリスに伝えられ、EU各国に流れ、ロシアの情報機関に、そして中国といった感じに各国の一部の者に拡散していったが、政府のトップには極秘とされた。
推測になるが首脳陣に伝える事によって情報が無制限に拡散し世界規模の混乱を恐れたからであろう。
各国に広がった情報も正確性に欠き、中途半端な情報として伝えられた痕跡がある、推測だがオリハルコンの事が誇張されたのだろう。
そして今回の騒ぎも中途半端な情報をトップに伝え、上手く誘導するつもりが逆に騒ぎを大きくしてしまったのだ。
この情報の漏洩に危機を憶えた当時の責任者は、情報の全てを破棄、口伝のみで後継者に情報を伝えていったオリハルコンの欠片と共に。
時にはメディアに嗅ぎ付けられる事もあったが、上手く煽り、正確な情報と間違った情報を拡散させてメディアの追及を自壊させたとされている。
当時のメディア記録を見れば正確な情報も徐々に意味のなさない情報に汚染され、やがて人々の関心も新しい話題性のある物に移って行った事が伺われる。
「・・・なるほど、それで今回の騒動というわけか・・・」
「そうだ、"帰還者は無力な一般人"この不正確な情報だけが独り歩きし、情報を握っている者が政府を煽った、その結果だ」
「オリハルコンにそれほどの価値があるのか?」
「・・・・・現在ある最新技術の根源、そう言ってもいい。 オリハルコンを研究する過程で偶然、発見された性質だが・・・・・・・
オリハルコンには、プラチナを主とするある種の合金を傍に置いておけば、まるで磁石の傍に鉄などを置けば鉄に磁界が発生する様に、その性質が合金に受け継がれる事が発見された。
勿論、その性質はオリジナルのオリハルコンの性質に及ばないが、十分、実用範囲に収まる物だったと言われている。
オリハルコン、精神感応金属を使い今まで不可能であった技術が可能となった、普通の手足と変わらない義手・義足、今までより小型なニューロ・インターフェース、最新鋭の兵器の思考制御システム。
今まで複数センサーを使い、各個人の脳波情報を集積し実験室レベルでしか使えなかった"考えるだけで操作できるシステム"をオリハルコンを使う事によって非常にコンパクトにする事が可能となったのだ。
そして、その集大成と言える物が、仮想現実大規模多人数オンライン(Virtual Reality Massively Multiplayer Online)すなわちVRMMOのヘッドギアであろう。
人の思考などのあらゆる情報を、ある意味"別な世界"で再現する、その夢の技術の根源・・・。
そして、VRMMO[ワールド]においての『95 people lost』(消失の95人)が起き、各国は慌てて、情報を元に君達の家族を監視していたわけだ・・・・
「鶏が先か、卵が先か・・・・。 ある意味、君たちは自分達を自ら出現させたとも取れるな・・・・」
「・・・・未来を知っていれば、この事態を防げたのでは?」
「未来は常に虚ろうモノだ、・・・・・あるいは君達が干渉したのかもしれない・・・・」
「・・・・・」
「最後の口伝になるが最初の責任者の身元は現在も不明だ。 私は君達の誰か・・・、或は手の者だと考えているよ」
「・・・・・」
カズマは静かに瞑目していた。
どれ程、時間が経過したであろうか、彼は突如、立ち上がり壁に向かって歩き始めた。
そして、ただ一言。
「世話になった。 情報の提供に感謝する」
矢吹は肩を竦めながら。
「推測だが、私はただのメッセンジャーだよ。 "未来の君達"の」
「・・・・・」
カズマは振り返らない、ゆっくりと壁に向かって歩いて行く。
会談は終わったのだ。
「最後に、『The birth of a new world, the demise of the old world』三人が残した言葉だ」
カズマはほんの少し彼の方を観て、矢吹の前から消えた。
空調の唸るような音と時計の音、部屋の外の人の気配が伝わって来る。
室内に音が戻る。
「絶対者に中道は有り得ない、服従するか、抵抗するか・・・・。 誰の言葉だったかな?」
突如、インターフォンのブザーの音が鳴り響く、矢吹は手元のスイッチを操作し、マイクに話しかける。
「どうした?」
「失礼します。 首相が記者会見を開きます、発表は予定通りの内容です。 恐れ入りますが・・・」
「分かった、すぐに行く。 それぞれも予定通り行動しろ」
「はい!」
彼は勢いよく椅子から立ち上がり、会議室か出ていった。
この日の夜、日本を、世界を二重の衝撃が襲う。
ひとつは、総理の記者会見。
もう一つが、クーデターである。
かなり、ガラガラドシャン!な話でした。
次回はようやくクーデターが勃発!




