DAY-03 悪魔の料理
ラルヴァが喧嘩を売る相手は・・・。
・・・・一番、敵にしたらヤバい相手です(ガクブル)
日本 東京近郊 森林公園
60代と思われる男が絶叫していた。
「ぬっああああああああああ!」
「ほら♪ 頑張って♪」
「くっ! がっああああ!!」
「ちょっと、火力が落ちてきたかな?」
「ぬっおおおおおおおおお!!」
「もっと! もっと! 貴方はやれば出来る子なんだから♪」
「いっぎぎぎぎぎぎ!!」
「ファイト♪ あと、もうちょっと!」
閑静な住宅街の一角に在る公園で、身体の奥底から絞り出したような男の絶叫と、それを応援する女性の声が響き渡っていたが。
男の手によって張られた、人を寄せ付けない為の人払いの結界と遮音障壁によって、その声は誰にも気付かれる事は無かった。
魔術を維持し続ける男、火のラルヴァの幾度目になる自問自答を繰り返していた。
(なっ 何故だ! 何故! こうなった? くっ!)
火のラルヴァは既に魔術を行使する精神力を使い果たし、生命力も枯渇し、今は最後に残った寿命を急速に使い、炎の魔術を行使していた。
既に30代の彼が60代に見えてしまうまで衰弱していた。
そう彼は術を維持する為に寿命を使っているのである、・・・己の意思と関係なく。
彼には理解出来なかった、術の行使中に攻撃対象者から術の術式を弄られ、術を止めるに止められなくなってしまったのだ。
彼に選べる選択肢は多くは無かった。
彼にできる事は対象者を焼き尽くすか。
寿命が尽きて衰弱死するか。
そして、サクラが料理・・を完成させるかの?、三択しかない。
そう、サクラは今、"翡翠の教団"の誇る最強の"九聖の剣"の一人、火のラルヴの炎の竜巻を使って料理中なのである。
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20分前
二人の男女が静寂に包まれた公園内で対峙していた。
「逃げもせずによくぞ参った・・・・」
30代のダークスーツの男、火のラルヴァが先ず声を掛ける。
「あれほどあからさまに街中で結界を展開されては無視するのもなんですし。 取り敢えず挨拶に参りました」
20代の普段着に買い物袋を手に持った女性、サクラが返事を返す。
その返事を聞き、彼は薄笑いを浮かべながら自らの名を高々と読み上げた。
「なるほど・・・。 短い付き合いになるが名乗らして貰おう。 我が名は至高なる魔導を極めし"翡翠の教団"の誇る最強の"九聖の剣"の一人・・・、火のラルヴァ」
それに対してサクラは何の気負いも計略も無く自ら名前を丁重に一礼して名乗る。
「これはこれはご丁寧に、私はアダマスのサブ・マスターでサクラ、藤代・さくらと申します」
(勝った!)
この返事を聞き、ラルヴァは内心で会心の笑みを浮かべていた。
魔術・魔導とは突き詰めれば、対象に対してその状態を変化させる行為をさす、状態を変化させるにはその物の真名まなを知る事が最も有効な手段なのである。
ゆえに、相手の真の名前を知る事が魔術を行使する者にとって最大のアドバンテージとなるのである。
そして"火のラルヴァ"、彼のこの名前も教団が彼に与えた仮の名でしかない。
(愚かな事よ・・・、魔導の初歩も知らない素人が、大きな力を持って増長したか)
彼は何も知らずに呑気に立つ、目の前の女性が急に哀れになった。
(・・・・・せめての慈悲だ、我が最大の術で葬ってやろうぞ)
火のラルヴァは己の両手に自らの精神力を集め、術を放つ為の準備をする。
そして、全ての準備が整ったの確認してから両手を相手に向け、力強く宣言する。
「世の秩序を乱す者よ、我が究極の魔導、鉄をも溶かす炎の竜巻によってその罪を償え!」
次の瞬間、サクラの足元から青白い光が乱舞し、光はやがて彼女を中心に渦を巻き、そして刹那の間に炎の竜巻へとその姿を変えた。
音も無く、20mの炎の竜巻は辺りを焦がす。
「フッハハハハハハハ!! クズが! 我が名を称えながら地獄へと落ちるが良い! ハハハハハ!」
人気ひとけの無い公園にラルヴァの哄笑が響き渡る。
一方、炎の竜巻の中心ではサクラが本当に困惑していた。
(・・・・・・さて、これでどうやって地獄に落ちるのでしょうか?)
炎は彼女が常時展開させている日常用の簡易障壁の第一層も突破出来ずに、障壁の表面を焦がしてもいないのである。
彼女は如何するべきか迷った末に炎の竜巻の術式を冷静に観察する事にした。
(・・・・なるほど、対象を燃やし尽くすと自動で消える、初歩の自立型の術式ですか)
(それにしても幼稚な術ですね。 術式が丸見えです、偽装はともかくとして、術に自己修復も保護も組まれていません。 術を書き換えられたらどうするのでしょうか?)
相手に術を行使するという事は、相手からもその術が観えると同じ事である。『見ているという事は、見られていると同じ事である』と同じ理屈である。
故に、術にはそれなりの防護措置を施すのが一般的なのだが・・・。
もっとも鉄の融解温度1,538°Cの攻撃を喰らって、内部から術式を解析できる者は滅多に、否、この世界に今まで居なかったのである。
・・・・・・今までは。(注・現在は100人以上はいます、シーズのメイドもそれくらい片手でします)
彼女の頭にとあるアイデアが生まれる、良く有る電球が灯ると言うやつである。
手を打ち鳴らしながら。
「そうです! 折角ですんで!」
サクラは早速、喜々として術を弄り始める。
「あれをこれして・・・、精神力をギリギリ残して生命力にスイッチ! え~と生命力を使い果たしたら・・・。 そうですね! これを使いましょう! そしてこっちを繋いで・・・・」
暫く、術の構造を魔改造に没頭。
「出来ました♪」
そして、会心の笑み。
「早速! 準備しなければ♡」
彼女は自らのアイテムボックスに入れていた、鍋やフライパン、菜箸さいばしとフライ返しに包丁を取り出し、買い物袋から出した食材と共に空中に並べていった。
「待っていてくださいあ・な・た♡ 新妻の手料理を今、お作りしますね♪」
そして、虚空に向けて力強く宣言するのであった。(同時刻、カズマが寒気に襲われたかは定かではない)
そして彼女は簡易障壁の第一層に意図的に穴を開けた。
「それでは、始動!」
「おかしい・・・、何故、炎が消えぬ?」
対象を焼き尽くせば自動で止まる術が、いまだに炎を吹き出し続けている。
最初は相手も魔導を使う者の端くれで無意味な抵抗を続けているものと思っていたが、それにしては長すぎる。
ラルヴァは自らの精神力を酷使し続けたのを自覚して、一旦、術の行使を強制的に終わらせようとした時、ようやく異変に気付いた。
「何! 術が止まらん! どう言う事だ!」
彼は慌てて術を観た瞬間、あまりの事に絶句するのであった。
「? 何だと!!」
彼の観た術式は彼の知っている式では無かった、それは余りにも複雑に組み合わさり、何重にも保護され、ご丁寧に偽装まで掛けられていたのである。
「くっ! どうなっている!」
突如、炎の竜巻が一変する、小さく収束し小さな火種にその姿を変えた、そのくせ精神力の使用量は対して変化しないのである。
そして、炎の中から無傷で出現したサクラが満面の笑みで宣言する。
「うん! 上手くいきました♪」
そして、上着の袖を腕捲りをして、虚空より取り出したエプロンを身に着けると。
「それでは始めますか♪」
彼の目の前で料理を始めるのであった。
「くっ はあっ はあっ うっ! ああっ うっああああああ・・・」
彼のあらゆる能力値を消費して。
ラルヴァにしてみたらとんでもない事であるが、サクラにして見れば対した事は無いのである、彼女は生命力と精神力の自動回復を持っているので消費するより供給する方が圧倒的に多い為、ラルヴァの苦痛には考えが及んでいないのである。
彼は精神力(MP)を気絶寸前まで搾り取られたら、
生命力(HP)を瀕死寸前まで採取されて、
能力値ステータスがガリガリ削られている状態なのである、ある意味寿命ダメージを抵抗の余地なく喰らっているのである。
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そして、今に至る。
「ルンタッタ♪ ルンルン♪」
「あっ がっ がっ がっ・・・・・」
彼女は鼻歌を歌いながら、料理をするなら手際よく、ラルヴァにして見たら亀の様な歩みで料理を作っていた。
そして・・・・・。
《ぼっひ》
ついに、火が消えた。
「あら?」
「・・・・・・・・・・・」
「ちょっと! なに! 勝手に使い果たして干からびているのいるのよ! 下ごしらえしか出来ないじゃないの!」
「・・・・・・・・・・・」
返事が無い。
「ね~! 聞いているの!」
「・・・・・・・・・・・」
ラルヴァの現在の状態を数値的に説明すると。
ありとあらゆる状態異常 バットステータスを喰らい、能力値は全てゼロ、HPとMPが辛うじて1あるだけ、霊体も霊魂も全て消費尽くされ、ほっといても勝手に死ぬが何かの弾みで倒れた瞬間にバラバラに砕け砂になってしますのである。
つまり、返事を期待するだけ無駄なのである。
「折角、旦那様の為に手料理を頑張っていたのに・・・・」
そんな事はお構いなく枯れ枝のラルヴァに向けて愚痴りまくるサクラのなのだが・・・。
そんな中、彼女は自分の言葉に行き成り照れて、今更、顔を赤くするのであった。
「・・・・旦那様」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・はっ! いやだ~! 何言わせるのよ~!」
因みに彼は何も言ってはいない。
というか、言える状態では無い。
照れ隠しの為、そっぽを向いて手を軽くふるが、力加減を若干だが間違えて豪風を起こしてしまう。
当然の如く、吹っ飛ぶ枯れ枝のラルヴァは木々の間に消えていった。
そして、木に激突して砕ける枯れ枝ラルヴァ。
炎のラルヴァ死亡確定、つまりフラットラインである。
ぶちぶち文句を言いながら家路を急ぐサクラ。
公園には主のいなくなったダークスーツ一式だけが残された。
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ヨーロッパ オーストリア ウィーン某所 同時刻
豪華に装飾がなされながら落ち着いた室内では、宗主と呼ばれている壮年の男が静かに読書をしながらラルヴァの吉報を待っていた。
壁の全ての面を古い本で埋め尽くされた室内において奇妙な物が部屋に置かれていた、その壁際の一角には小さな円卓が置かれ、その天板に九本の様々な形の短剣が突き刺さり、鈍い色を発していた。
《ピッシ!》
静かな室内に金属の割れる音が響く。
「なに!」
宗主は驚き手元の本を閉じ、壁際の円卓にその視線を移す。
前触れも無く、その内の一本がいきなりひび割れ。
砕けた。
「・・・・・」
宗主は暫く、その光景に釘付けになっていたが、やがて視線を外し長考する。
「・・・・ラルヴァが討たれたのだな」
暫し瞑目。
「しかし、相手も無傷ではあるまい・・・・」
「戦力の逐次投入は愚策よの・・・」
本を静かに元の場所に戻しながら独り言。
「全ての戦力を投入し、一気に勝負を決してくれよう」
宗主は静かに部屋を後にする。
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日本 東京近郊 森林公園
「誰だか知らないが勿体ない事をするな・・・」
人払いの結界と遮音障壁が解除された公園に一人のホームレスが木々の間にダークスーツ一式を見つける。
「・・・ちょっと汚れているが良い造りだ」
偶然にも男の服のサイズとスーツのサイズに大した違いは無かった。
「誰だか知らんが、ほんの少しお借りいたします」
ホームレスは丁重にスーツを紙袋に入れると、一礼をしてその場を去っていった。
後にこのホームレスは、ダークスーツを着てある中堅企業の面接を受け、偶然にも合格、あれよあれよと言う間にとんとん拍子に出世し10年後に企業のトップに納まるのである。
しかも、そこから企業は大躍進、男の引退間近には世界的なコングロマリットに成長するのであった。
男が有名メディアのインタビューを受けた時、大切に保管していたダークスーツ一式を前にして。
「出来ればお礼を言って、家族や係累が居れば援助したかったのですが・・・。 手を尽くしたのですが、私はこのスーツの主を見つける事が出来ませんでした」
と語ったと言う。
因みにラルヴァには係累は居ないのだが・・・。
次回は日本でクーデター勃発!(予定)
もしかすると次の次になるかも・・・・。




