DAY-03 黄金色の戦車
連続で投稿するよ!
日本 高速道路
二台の黒塗りで全ての窓ガラスを濃いスモッグに加工したリムジンとセダンが高速道路を時速120kmで疾走していた。
明らかに日本の法律をいくつも違反している車だが誰も止めようとはしない、"外交官ナンバー"日本において治外法権を許されている車両。
無論、乗っている者は正規の手続きを得てこのナンバーを習得したのではない、偽造ナンバーである、この車両に乗る者達も永遠に周囲を騙し通せるとは考えてはいない、目的を達成するまで車を停められなければ良いのである。
そう、一人の女性を彼らの母国に連れ帰るまでで良いのだ。
疾走する黒塗りのリムジンには5人の男女が乗っていた、運転席に一人、助手席に1人、そして後部座席には2人の男が女性を左右から挟み座っていた。
それにしても奇妙である、先ほどから女性は眠っている様に眼を閉じピクリとも動かない、その両手両足をワイヤーで縛られ拘束されている。
最初は警戒し無言で監視していた男達も、次第に緊張が緩み無駄口を叩くようになっていった、まだ道半ばで先は長い、緊張感を持続させる方が無理なのである。
まして、ここには五月蠅い監視や上司も居ない。
「それにして・・・、良い女だよな」
「ああ、思わず食べたくなるぜ」
「役得だな」
「おい! 手を付けるなよ!」
助手席座る男が仲間に警告する。
「別に良いだろ! 触るくらい!」
「起きたらどうするつもりだ?」
「心配するな、大量に睡眠導入剤を注射したんだ当分の間は起きる事はねえよ!」
男たちの手が足元や胸にゆっくりと伸ばされる、嫌らしい笑みを浮かべ自らの欲望を隠そうともしない。
「出来れば触るのは、遠慮して頂けませんか」
聞く事のない声、聴こえるはずの無い女性の声が社内に響く。
「?!」
「なっ!」
「こいつ! どうして?」
運転手は驚きの声こそ発しないが、明らかに驚愕しハンドル操作を若干間違え、車が微妙に左右にぶれる。
男たちに驚愕と緊張が伝播する、彼らが彼女に駐車した薬剤の量から、如何見積もってもあと半日はどうやっても目覚めない筈なのである。
「おい! 薬を間違えたのか?」
「いや! そんな筈は無い! 量の問題なのか・・・」
「バカ言え! あの量で間違えったわけ無いだろ!」
男たちが責任の擦り付け合いをしている間にも、女性の、アーリアの呑気な声が響く。
「いえ、単純にその手の薬が私には効果が無いだけですよ」
「「「? !!」」」
後ろを走るセダンから、蛇行運転に対する確認の無線が入るが誰も出る事が出来ない。
男たちは驚きのあまり絶句している間に、彼女は窓の外を後ろに流れて行く風景を眺めてから。
「そろそろ、車を停めて頂けませんか? ああ、出来れば広い場所が良いですよ」
男たちはその余りにも呑気な要求に、思わず怒鳴りがえす。
「何? なに寝ぼけた事言っているんだ、この女!」
「静かにしろ!」
「足、撃ち抜かれたいか! あ~!」
彼女の左隣に座る男が拳銃を抜き彼女の足に銃口を向け、脅しをかける。
「ふ~、仕方ありませんね」
処置なしとばかりに、アーリアはため息を一つつき頭を左右に振った。
「警告はしましたよ」
両手両足に、ほんの少し力を込めると、鈍い音を発してワイヤーがいとも簡単に弾ける。
「「「「・・・・・・」」」」
男たちが呆気にとられている間に、左手を右側に座る男の方に向けて、デコピンをする様に人差し指と親指で宙を弾く。
その瞬間、彼女の右側に座っていた男が車のドアごと車外に弾きだされ宙を舞う、男は吹き飛ばされるままに高速の中央分離帯に激突し僅かに進行方向を変えながら反対車線に落下した。
まだ息はあったがそこに大型トラックが男を遠慮なく跳ね飛ばす、息は当然のごとくしていない、男は彼女の警告を素直に聴いていれば命を失う事は無かったのである。
車内に急ブレーキの音が僅かに聞こえて来る。
「なっ?」
車に残っていた男たちは絶句して固まっていると、彼女は右手を左側に座る男の方に向けて、同じ様に宙を弾く。
男は同じように車のドアごと弾かれ短い空中浮遊の後、高架の外壁に激突、僅かに方向を変えながら高架の下に落下しビルの外壁に衝突、赤い染みとなる、当然の如く即死である。
助手席に座る男は反射的に銃を抜き、彼女に銃口を向けようとする。
「動くな!」
どれほど効果があるか不明だが、任務を遂行しようとする姿勢は実に勇敢である。
勿論、アーリアに遠慮する理由は1ミリグラムも存在しない、助手席シートの下に片足を突込み軽く上に跳ね上げる。
助手席に座る男は席ごと天板を突き破り、戦闘機の射出座席の様に真上に打ち上げられる、天板の突き破った時に頸椎が砕けていた為この時点で既に絶命していた。
リムジンを運転する男がバックミラー越しに遥か後方に落下する仲間の様子を最後まで観ていた、唖然としていた彼に彼女が声を掛ける。
「出来ればゆっくりと路肩で停止して欲しいのですが?」
その一言で現実に戻された男は、ミラー越しに彼女を見てその足が運転席の背に当てられているの見る、次いでスピードメーターを確認した、時速は120kmを指していた、彼はここで自分にできる唯一の武器を使う事にした。
「おっ! 俺をやればこの車は安全に停止できないぞ!」
「うん?」
ミラー越しに彼女は小首を傾げる、彼は若干余裕を取り戻しアクセルを踏み込み更に車を加速させる。
130km。
140km。
スピードは徐々に上がって行く、男は汗まみれになりながらも余裕の笑みを浮かべ勝利を確信する。
「大人しくしていろ! お互い事故で死にたくは無いだろ!」
彼の常識ではこの速度で事故ればお互い無事では済まないのだ、車が走っている間は自分の安全は揺るがないと感じていた、勝者の特権として女に話しかける。
「いいか・・・
「仕方ありませんね。 自分で止めますね」
「なっ! なに!?」
彼は頭が追いついていなかった、彼女の言っている言葉は理解出来たが、意味を理解する事が出来なかった。
「付かぬ事を伺いますが。 シートベルトはしておりますか?」
彼は命の危機を本能的に感じ自分の身体を慌てて確認する、無論そんな物はしていない、する必要も今まで感じなかった。
「ま~、今更たいして違いはありませんが、気休めにはなります。 では」
「まっ! 待て!!」
彼は慌てて女のしようとする事を止めようとするが若干だが遅かった。
アーリアは軽く反動を付けて、車内で立ち上がる。
両足は床を突き破って。
急ブレーキや逆噴射など生易しい衝撃が140kmで疾走するリムジンを襲う、1秒にも満たない刹那の間で時速140kmが0kmになる、つまり完全に停止したのである。
行き成り140kmで壁に激突した様なものである、車内で固定されていないモノは、慣性の法則に従い人だろうが物だろうがフロントガラスを突き破って前方に投げ出された。
当然、運転手の男も投げ出され、若干減速してから少し速度の遅い前方の車の後方に激突、全身の骨が砕かれ絶命した。
「・・・・邪魔ですね」
彼女は、そんな男の末路など気にも留める事なく、埃を払うようにリムジンを縦に引き裂き自由の身となる。
「そういえば・・・、確かもう一台いましたね」
その言葉と共に彼女は後ろを振り返ると、跳ね飛ばしたり打ち上げた男たちが原因で随分と見通しの良くなった高速道路を一台の車が迫って来た、もう一台のセダンである。
律儀な事に助手席の男は窓から身を乗り出しサブマシンガンを構えていた、セダンのドライバーも減速する気は無い様である。
「う~ん、ここで止めると話が聞けなくなりますね・・・・。 少し工夫しますか」
アーリアは若干考えてから、セダンの方にステップ。
《カッンー!》
フロントバンパーを下から軽く蹴り上げる。
車は水平方向に移動するベクトルを根こそぎ垂直方向に変えられ真上に打ち上げられる。
自動車のくせに空を飛んだ車は推進器を持たない為に加速を維持できず、万有引力の法則に従い、やがてその打ち上げ速度を緩め、頂点で今度はゆっくりと次第に速度をあげ落下を始める。
「さて、ここでもうひと工夫ですね」
《スッコンー!》
セダンのトランクが地面に接触する寸前、彼女は再び軽く蹴りを入れる、今度は打ち上げる為でなく回転させる為に。
車は地面の寸前で全ての法則を無視した運動を始めた、重力を無視してその場で縦方向に秒速五回転ほどの回転運動を始めたのだ。
彼女は回転のタイミングを観て今度は右手で車のボンネット押さえつける。
《ダッン!》
打撃音と共に、エンジンから煙を吹く車が彼女の手によって押さえつけられ、ようやく静止する。
中に乗っていた人間は当然、半生半死でグロッキー状態である。
「ふむ、何とか生け捕り出来ましたね」
もし此処で言葉を出せる者が居たら声を大にして言った事であろう。
「もう少し穏便に止めてくれ」と
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おまけ
同時刻、裏路地のマイヒメは・・・・・。
「なんだと!!」
・・・・・・・・・・・激怒していた。
この展開を予想できた人は居たかな?
次回 マイヒメ激怒の理由は?
次は二~三日開きます。




