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DAY-02 雲海上のプレリュード

お笑い四人組のお話(笑)

日本近海 公海上


 太陽がその全体をようやく水平線より曝け出し、静かに一日の始まりを告げた時。

 その静寂を破り、黒い巨大な鋼鉄の鳥の群れがジェット・エンジンの鋭い金属音を響かせて、海上を低空で飛行する。

 近年開発された最新鋭の垂直離着陸輸送機の編隊である、機体には目立たぬ色でマークが描かれ、彼らがアメリカ陸軍所属の部隊である事を言葉よりも雄弁に物語っていた。

 彼らが向かう先には、小さな島と見間違えそうな巨大な客船が海上に浮かんでいた。

 その船体は白亜に輝き、船首には自らの名を誇るように


『アダマス・オブ・ザ・シーズ』


 と見事な意匠化された文字で描かれていた。


 突如、見事な編隊機動をしていた輸送機が編隊を解き、客船の周囲をそれぞれ独自の機動で円を描くように飛行を始めた、まるで自らの力を誇示するように。

 あるいは、何かを警戒する様に。

 あるいは、囮として注意を惹きつける様に・・・

 だが、彼らの努力を嘲笑うかのように客船は何も反応を示さない、まるで彼らの行ないに評価する価値が無いと言わんばかりに。


 鋼鉄の鳥達の円舞は突然、終演を迎える。

 輸送機が主翼の両端に搭載したジェットエンジンを垂直に回転させ急制動を掛けたのだ。

 空中でドリフトターンの様な軌道、空中分解寸前の強引な軌道変更、尾翼の方を船体に向けて空中を滑るように急激に距離を詰める。

 十分接近した所で空中に静止、ジェットの排気炎が海上の水を沸騰させ客船と輸送機の周囲を人工的な濃霧が覆う。

 人工濃霧を煙幕代わりにして、いつの間にか解放されていた後部ハッチから軽い圧縮空気の破裂音と共に、客船の中間層に位置するデッキに向けて複数のワイヤーロープが撃ち込まれる。

 ワイヤーロープの先端はトリモチ状になっており、短時間であれば如何なる物にもロープを固定できる形状をしていた、そして、そのロープを伝い複数の人が船体の方に滑る様に降りて行く。

 ワイヤーロープ上を移動する物体が無くなったのを確認してから、輸送機の方から軽い爆破音と共にロープを切断。

 エンジン出力上昇。

 今まで以上の轟音と共に垂直上昇に移行、十分上昇した所でエンジンブロックを今度は水平に戻し、巡航形態に可変、客船から離脱。

 その一糸乱れぬ一連の行動は、よく訓練された軍のデモンストレーションの様であった。

 もし此処に何も知らない観客が居れば、惜しみない拍手と声援を送った事であろう、もっとも、この場に居た観客は拍手も声援も決して送る事は無かったが。




 徐々に薄くなる人工的な濃霧がたちこめる海上が突如盛り上がり黒い人影が空と目の前にそびえる壁の様な船体を交互に眺め、正直な感想を一つ漏らす。

「どうやら・・・ 上手くいった様だな・・・」

 半水没式の潜入用ゾディアックの上には既に一人しかいない、彼の部下たちは既に仕事を始めていた。

 船体の方に眼を向けると部下の一人が垂直登攀機具を使いまるでヤモリの様に船体を登っていた。

 彼も周囲に波一つたてずに静かに海中に身を沈める、既に海の中に入っている部下の一人が彼に報告する。

「隊長。 予定通りです」

「DLデータリンクは?」

「完了しております。 今回は音声と位置情報の共有化のみです。 不測の事態を想定して回線に負担を掛ける映像記録の様な大容量データはSSDに保存と司令部に転送する様に命令を受けています」

「よし」

 部隊長は部下が命令内容を正しく理解している事に満足した、そこに別の部下が報告してきた。

「登攀完了、ロープ設置しました。 何時でも行けます」

 部隊長は改めて命令を伝える。

「訓練通り行け。 警戒を怠るな」

「「Yes sir」」


 命令も静かな声なら、諒承の返答も静かな声。


 彼らの声は波間も音に紛れて決して外部に漏れる事は無い・・・


 と思われていた。



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 アダマス・オブ・ザ・シーズ船内 中央指令室


 明るいヨーロッパの一流ホテルのラウンジを思わされる室内で空中に投影されたスクリーンを見上げながらシーズの責任者である自動人形のメイドリーダーのエレシアは、優雅に紅茶を飲んでいた。(注・彼女達ほど高性能の自動人形は既に人間と変わらない機能を有する)

「空中より4人編成12チーム。 海上より6人編成4チーム。 高空より10人降下中、推定で2人編成5チーム」

 オペレーター・メイドから次々と最新の報告がもたらされる、彼女たちの周囲には同じように作業する者の他に、地上で仕入れた(いつの間に?)恋愛小説や漫画にドップリ浸かる者から、紅茶やケーキを食べる者とお菓子を造る者、おしゃべりに興じる者など様々であった。

 はっきり言って緊張感とは全く無縁である。


「そして・・・、遠方より弾道飛行で六つの飛翔体・・・。 これで全てですね?」

「はい。 更に遠方に囲むように船舶が在りますがこれは無視して良いかと。 成層圏外の衛星に関しては・・・」

 エレシアはシャンデリアの飾られた天井を見上げ。

「直接的な脅威は無いと・・」

「はい」

 紅茶を一口飲み。

「迎撃には?」

「各チームに1名ずつあたる予定です。 弾道飛行の者にはまだ決めていません」

 投影スクリーンの一つを手元に引き寄せ、迎撃に向かう部下の顔写真を表示、当然の様にどの顔も絶世の美女・美少女ばかりである。

「人選の選定基準は?」

「共通記憶を切ってのジャンケン大会です」

 共通記憶を検索、一瞬で不正の有無を確認、問題無し。

「・・・許容範囲ですね」

「はい」

「弾道飛行の者には私自らが歓迎します」

 オペレーターが目を見張る、共通記憶に駆け回る情報。

「!!」

 共通記憶から静かなブーイングの嵐、それを無視して。

「不満ですか?」

「いえ・・・。 欲求不満が溜まっている者が多いものですから・・・」

 共通記憶から賛同の声が多数。

「溢れ者には主様方のサポートを優先して与えます」 

 共通記憶の隅で喝采が聞こえた様な気がする。

「では、ここは任せますよ」

 彼女は言葉と共に席を立つ。

「はい。 お気を付けて」

 メイドの一人が代表して立ち上がり一礼して見送る。

「それと、彼らの通信は妨害してなりませんよ。 後方でふんぞり返っている愚か者にしっかりと教育が必要ですから」

「心得ております」



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 アダマス・オブ・ザ・シーズ船内 何処か?


 ロバート達、グリーベレー・チーム4の四人が船内を探索中に最初にした事は、上層部から自信満々に渡されたオアシスクラスの船内図を破り捨てる事であった。

「まったく何が! "外見同様に内部もそう変化は無い" だ!」

 彼らの場合は物理的・・・に音声を切っていたが、DLの音声通話は必要ない時は切る事が可能だ、作戦中に現場を知らない電気仕掛けに座った若造にあーだこーだと行動に介入されるのは誰もが御免被りたいのである。

 これがまだ野外であればUAVによる地上監視で役に立ったであろうが、生憎とここは屋内であり、まして今は特殊作戦中である、はっきり言って邪魔であった。

「デビット、そう愚痴るな」

 ロバートは背中合わせでお互いの死角をカバーしながら廊下を進む相棒を宥める。

 現在、彼らは2X2の警戒移動の最中である、ペアが前後を警戒している間にもう一つのペアが先に進み移動先の安全を確保し警戒態勢をとってからハンドサインを送り最初のペアが移動、この繰り返しである。

 もっとも、果たしてこの移動法が適切なのかと彼らに問うた場合、肯定の返事はしないであろう、彼ら自身が無駄だと思っているからである、それでもこの移動を繰り返すのは司令部でこの様子を監視している者達のためである。


 彼らはついていなかった、この船に乗り込んだこと自体ついていないと考えれば突入チーム全部に運が無い事になるのだが、彼らは自分たちが取り分け運が無いと思っていた。

 しかし、後で回想してた時、彼らこそ一番に運の有ったチームであった。


 最初の躓きは、最初に発見した木製ドアを隊長のアルフレッドが蹴破ろうとして、見事に跳ね返されスっ転んだ事であろう、アルは受け身を取り損ねたがフカフカな絨毯のお蔭で怪我一つ負わなかったが、心には致命傷を負ったのは間違い無かった。

 ならばと銃弾を叩き込んだが傷一つ付かず、ショットガンの散弾は跳ね返り逆に危険であった。

 プラスチック爆弾(C-4)で吹き飛ばそうかと検討する事になったが、先の事を考えるとリソースをあまり使うべきではないので散々悩んでいたが、良い処の出身のエリックが壁の標語を何となく眺めていて、ふと思い付いた事を実行すると、呆気なくドアの鍵が外れたのである。


《ドアを開ける前に必ずノックをする事》


 彼らチーム4の四人は一分ほど鍵の外れたドアの前で思い思いの姿勢で人生について回想する事になる、因みに一分で復帰できたのは彼らが最精鋭の特殊部隊だったからで、並の兵士なら三分はかかった事であろう。

 気を取り直した彼らが慎重に開けた扉の先に広がるのは。


 砂漠地帯。


 念の為もう一度、砂漠地帯である。

 国民的人気漫画の青い某猫型ロボットの○ャララチャチャ~ン『○こでも△ア』でドア開けた先に広がる砂漠の風景を想像すると非常に分かり易いはずである。


 それはそれとして。


 チーム4は五回ほどドアを開けたり閉めたりを繰り返してそれが幻覚では無い事を確認した、無線からは部屋の安全を確保せよと喚いているが、ハッキリ言って無理である。

 ドアの先は見渡す限り砂漠である、他の出口は在る事はあったが・・・。

 約500m先の地上10mに浮かぶ木製の扉・・・、ドアの先に行くのはまず不可能である、彼らに出来た事は他のチームがあの扉から落ちない事を神に祈るだけである。(注・祈りは通じませんでした)


 更に、次に開けた扉の先には(無論ノックをして開けた)極寒の氷の世界。

 彼らは、異世界から来た者が空間を如何にかするのは出来て当然な事を学習した。


 次に開けた扉の先で待っていた者は、森の中で何やら真剣な様子で家屋や家具を修復するドワーフの職人、彼らがその場所に踏み込んだ時には物理的な力が有ると思われる眼で睨まれた。(注・実際に物理的な力は有ります。 運が良かったですね)

 全員、直立不動。

 腰を九十度に折って声を揃えて謝罪、耳元で"排除"だとか"確保"だとか喚く声は当然、無視、ハッキリ言って命の方が惜しかった。

 ドワーフは無言でクルリと指で円を描き入って来た扉を指さす、言わんとする事は当然察する事が出来た"回れ右で、とっとと出ていけ"である。

 四人は訓練通りの息の合った動作で回れ右、一直線に整列してドアの外に行進、扉を閉めてから盛大にへたり込んだ事は言うまでも無い。


 その次に開けた扉の先は一見して長閑な草原、穏やかに微風が吹き、太陽が暖かく、昼寝をするには良い場所である、草原の真ん中で全高5mの金属製の人馬ケンタウロスが模擬戦をしていなければ・・・。

 デビットは速攻で扉を閉めた、耳元で"突撃"と言う声が聞こえた時には、既に無線機の線を全員が物理的・・・に切断・・していた。

 そして現在に至る、デビットはまだ愚痴っていた。

「第一、あんなのに突撃するなど正気の沙汰でね~よ! 対戦車装備だって持ってないのによっ!」

 彼らの装備は潜入を前提とした軽装である、当然、かさばる対戦車ロケットなどは携帯していない。

「持っていたら突撃したか?」

「冗談! 重い物は捨てて、とっとと逃げるね!」

「・・・・当然だな。 それに通じるとは思えんしな・・・」

 隊長のアルは、非常に疲れた声で返事を返す。

 一瞬、観た感じ巨体のくせに地球上のどの動物より俊敏であったし、力も凄まじい物があったのである、チョット動いただけで衝撃波が発生し、地面が抉れ、空気が鳴動していた。

 あれと戦闘するなど自殺行為とすら呼べない、まだパンイチで戦車に突撃する方がまだ勝率は高かった。

 あれから左右に並ぶ扉には指先すら触れていない、次に開けた先で見た物次第では精神が壊れる可能性が否定出来なかったからである。


「・・・如何やら、おしゃべりは終わりだ」

 やっと魔の廊下が終わりホールに辿り着いたのだ、誰もがホッとしていた、状況の変化は誰にとっても歓迎すべき事態である。

 警戒しながらホールに足を踏み入れると・・・。


「ようこそ。 アメリカ陸軍グリーベレー・チーム4の皆様」

 絶世の美人メイドが優雅に一礼し彼らを迎える。

 思わず絶句してしまい、隊長などは用意していた降伏勧告を言い忘れてしまうほどである、そんな四人の様子を 気にも掛けずに笑顔で言葉を続けるメイド。

「我が主達より皆様を歓迎するように命じられております」


「難しい言い回しを要約して、主様風に意訳するなら・・・」


「"パンツ一枚で土下座が嫌なら、大人しくしろ"です」


 返答の代わりに、四丁のアサルトライフルからの銃弾の雨と射撃音がメイドに降り注ぐ。



 




あ~あ、やっちゃった・・・。

南無・・・・。

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