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DAY-01 日常

さくらの母親。

この娘で、この親あり。

 サクラは、その場所に腰かけ街を眺めていた。

 此処まで一緒に来てくれたカズマは既にいない、従妹のミウを連れて家族の元に向かった。

 他の仲間もそれぞれ家族に会いに各地に散らばって行った。


 人はこの光景をどの様に観ているのだろうか、眼下を流れる人や自動車がまるでおもちゃの様に観える、神の視点とはこんな感じかもしれない。


 東京スカイツリー、現在の東京に在って最大の高さを誇る建物。

 彼女は今、この世界の普通の観光客が入れる、第2展望台の天望回廊の更に上、高さ634m スカイツリーの頂上に座り、下界を眺めていた。

 彼女の両隣を二頭の巨大な灰色の毛並みの狼が下面に力場を展開して寄り添い守る。


 もし彼女の姿を見れば大騒ぎになるが、認識阻害の結界に包まれている彼女をこの世界の人間に見つける事は出来ないので騒がれる事も無い。


「この世界は・・・、私たちが居なくても変わらず流れ続けるのね・・・」

 彼女の口から誰にも聞かせない想いが。ほんの少しこぼれる。

「不思議ね・・・、何故か寂しくない・・・、むしろ懐かしさを感じる・・・」

 二頭の狼の毛並みを優しく撫でる、二頭は嬉しそうに目を細め気持ち良さそうにする。


 ゆっくりと想いと共に刻ときだけが流れていく。


 やがて、日の光が地平線に近づき、辺りを赤く染め始める。


 サクラは一旦目を閉じ、次に眼を妙にスッキリした表情でその場に立ち上がる。

「さて。 私もこの世界の家と家族に会って来るわ。 ライオンちゃん、タイガーちゃんは如何する?」

 彼女は二頭の狼に向けて話しかける。

 視線と視線が合わさる、普通の人には聴こえない念話による会話を交わす。

「うん。 でも、イタズラしちゃダメよ」

 どうやら、二頭の狼はこの場に残るようである。

「それじゃ、行って来るね」

 そう言い残すと、彼女は両腕を広げ、その場でクルリと反転し背中から身を投げ出す、真っ逆さまに頭から落下して行く。

 見る人が見ればまるで投身自殺であり、余りの自然な動作で有る為、人が見ていても止める事は先ず不可能であったであろう、それでも唯一の目撃者である二頭の狼は慌てない、欠伸をするほど余裕がある。


《座標固定》


《空間跳躍》


 力ある思考と共に、サクラは誰にも気づかれる事無く落下途中で彼女の姿が突然掻き消える、何処かにに跳んだ。


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 東京近郊の閑静な高級住宅街の一角、東京では珍しい比較的大きな庭の片隅、木々に視線が遮られる緑の中に一人の女性が突如、空間を割って出現する。

 体重が無いかのように軽やかな足どりで邸宅の方にゆっくりと、そしてしっかりとした足取りで歩いていく。

 そいて、庭に面しているダイニングの扉を無造作に開け、一言。

「ただいま帰りました」

 あまりに自然な口調の言葉に知人が見れば絶句する事であろう、一年あまり行方不明になっていたひとり娘が帰った最初の一言にしては不適切の何ものでもないからだが。

 返って来た言葉も輪をかけて飛んでも無い物であった。

「帰って来るなら帰って来ると連絡位するのが礼儀でしょ!」

 サクラの母親の京子のもっともな一言。

「まあまあ~。 奥様、そう怒るものではありませんよ~」

 お手伝いの澄江の、のんびりとした一言。

「ですがね! 澄江さん、私は世間の一般常識としてですね!」

「あらあら。 奥様も若い時はかなり、やんちゃしたではありませんか」

 どうにも、母も二十以上歳の離れた澄江さんには分が悪い様である。

「!! それとこれとは!」

「同じですよ」

 サクラをほっといて漫才を始める二人、半分あきれながらも自分のお腹をさすり、いい加減何かを食べたいと思いキッチンに二人に一言、言ってから向かうサクラ。

「何か適当に食べているね~」

「?! ちょっと待ちなさい! 手洗いとうがいを先にしなさい!」

「は~い」

「まったく! 誰が作ると思っているのよ!」

「奥様でないのは確かですよ。 この点だけが似なかったのは幸いですね」

 料理が下手、自ら有名デザイン会社の社長を務める有能な敏腕社長の京子の唯一の欠点がそれであった。

 彼女にべた惚れの大企業の重役である旦那ですら、彼女の手料理をして『コンクリートは食べた事ないが、おそらくこんな味であろう』と言ってトイレに駈け込んだほどである。

「!! おっ! お湯くらい沸かせられるわよ!」

「何故かそこから先が行かないんですよね」

「ゆで卵が電子レンジで作れないと知っただけでも大きな進歩でしょう!」

「はい、はい~」

 二人の良い争いはエンドレスに続き、二人の頭からサクラの食事の事はすっかり忘れられ、彼女が溜息と共にキッチンで自分で作る羽目になるのである。

「ふ~。 ねえ、この状態、貴方はどう思う?」

 キッチンで食事を準備しながら、明後日の方向に向かって声をかける、無論、返事は期待していないので直ぐに視線を外して食事の支度をする。


 もっとも、この家を盗聴していた者達はスピーカーから流れる彼女の声に驚愕するのである。


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 ヨーロッパ オーストリア ウィーン某所


 その場所は薄暗く、地面に六芒星が描かれ六つの燭台が六芒星の頂点に置かれ、燭台の蝋燭の光だけが辺りを照らしていた。

 天井は半球のドーム型で星座を象った天球が描かれ、六芒星の中心にはローブに身を包んだ一人の人物が立ち周囲には十数人の人物が正円に座していた。

 そんな規則正しい同心円を乱すように、方陣の外側に同じくローブに身を包んだ一人の人物が立っていた。

 中心で唯一立っていた人物が唐突に言葉を紡ぐ。

「星が乱れています・・・・」

 その声は男とも女とも、幼いとも年老いた声にも聞こえる何とも不気味な声であった、まるで複数の人物が全く同じタイミングで喋っているかの様に感じられた。

「何処で?」

 問いただした声は壮年の男性の者であった。

「遥か東夷の島国にて・・・」

「日本か・・・」

「御意」

「・・・・・・」

 暫しの沈黙の後。

「我々以外に真理・・に辿り着いた者が現れたか?」

「その者はこれまで常世に存在すらしていませんでした・・・・」

「常世に?」

「然り、突如、出現した大きな星・・・」

 壮年の男は暫く考えた後、この部屋から出る為に出口の扉に向かって足早に歩き始めた。

「・・・・星を読み続けよ」

「御意」

 再び場に静寂が訪れる。


 壮年の男が廊下を歩いていると、いつの間にか周囲に複数のローブに身を包んだ人物達が出現し彼の後に続く。

「宗主、星読み共は何と?」

 集団の代表が宗主と呼ぶ、壮年の男に問いかける。

「日本において秩序を乱す者どもが現れたと」

 宗主は歩きながら普段通りの口調で淡々と異常事態を語り、後に続く者はその事を理解すると、思わず絶句するのであった。

「「?・・・、!!」」

 集団の代表がいち早く復帰し、重苦しい言葉を吐く。

「それは・・・、看破出来ませぬな・・・」

「うむ、我らが遥か過去から守護してきたこの世界の真理! 魔導・・を無制限にばら撒く者は我ら『翡翠の教団』が掣肘せねばならぬ!」

 宗主と教団の考えでは、この世界が魔導を受け入れるには、余りにも未熟で未完成なのだ、この世界が成熟するまでこの不可思議な力は厳重に管理し後世に伝えなければならない。

 無制限にばら撒けばかつて起こった様な凄惨な魔女狩りが横行する事を恐れているのである。

 この世界において、魔導とも神の奇跡とも呼ばれる呪術を、世界から秘蔵し世界を混乱と混沌から守って来たと自負する組織の長は、その禁を破る者共は何人であろうとも許容する事は出来なかった。

「宗主! この私めに、御命じ下さい! 『世界の秩序を乱す者を征せよ』と・・」

 後ろに続く集団の中から一人の男が声を上げる。

「我が教団が誇る『九聖の剣』が自ら動くか?」

『九聖の剣』、教団が誇る九人の最強の魔導士に与えられる称号、これまで歴代の剣は数々の偉業を成してきた教団の切り札である。

「戦力の逐次投入は愚策と心得ます」

「ふむ、良いだろう! 私、自ら命じる九聖の剣・第四席『火のラルヴァ』よ東夷の地にて世の秩序を乱す者共を掣肘せよ」

「御意」

 火のラルヴァと呼ばれた男が声と共に何処かに消える。


 廊下を歩き続ける内に、いつの間にか一人になった宗主は独り言を呟く。

「ふむ。 我らより力を有する存在など、この現世にはいないのだ。 九聖の剣を動かしたのは早計であったやもしれぬな・・・」

 その言葉には絶大な自信が垣間見えていた。


火のラルヴァね・・・

Lv20に届くかね?

ふっ 所詮、雑魚よ。

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