DAY-01 蠢動
世界は動き出す。
アメリカ合衆国 ホワイトハウス
会議室には数々の資料が並べられ、手元の端末には更に多くの情報が映し出されていた。
VRMMO[ワールド]クエスト「天城の滅界」の情報と資料。
アダマスの6人の情報。
ニューヨークに出現した球体『Sphere』
太平洋上に出現した大型客船の映像。
大型客船の船名のアップ。
「すると・・・、君はこの一連の事柄が全て関連していると言うのかね?」
大統領は今まで専門家から説明されていたことに対して確認を取っていた。
「はい、大統領閣下。 お手元の資料に在る通り、全てが繋がっていると考え動くべきです。 それと例のNYに出現した『Sphere』も何らかの関係があると思われます」
「ふむ・・・・」
大統領は端末を片手に思考に沈んでいると、同席していた軍服の人物が気に成っていた事に対して質問する。
「アダムス長官、この『アダマス』と言った連中は何時頃から注目していたのだ」
「我々CIAは約一年前のの事件、ここではあえて事件とさせていただきますが『『95 people lost』の時には既にそれぞれの人員を配置し監視をしておりました」
壁際の大型ディスプレイには6人の若者の顔写真が映し出される。
「なぜ、この6人の係累の監視をし始めたのかね?」
「それは、この事件がVRMMO[ワールド]の運営初の公式クエスト「天城の滅界」クリア時と同時に発生し、そしてこの6人が「天城の滅界」クリアした事により発生しました」
「つまり・・・、この若者たちが何らかの事態の引き金を引いた、もしくは引き起こしたという訳か・・・」
今度は大型客船の上空からの映像と各種データ、更に航空機の無線データの数々が映し出される。
「はい、そして今朝、太平洋上で発生した事態と、彼らの係累の元にこの6人が現れたのが確認された事を合わせて考えますと・・・」
「・・・・彼らが全ての中心にいると」
「はい」
「ふむ・・・」
軍服の男性が思考に沈み、会議室は沈黙に覆われる。
《トン、トン・・・・
机を指で叩く音が静かに響く、それは大統領が考えを纏める時の癖である事は、ここに参加した人物は誰もが知っている事であった。
「では、諸君。 我が国の取るべき方針はどの様なモノがあるかね? 利用すべきか、無視すべきか。 敵対するか、味方になるか」
「閣下、我々、軍は彼らの持つであろう技術は何としても手に入れたいと考えております」
「将軍、何故だね?」
「彼らの船と思わしき物と接触した偵察機のクルーの証言と報告書から、彼らは高度なステルス技術と光学迷彩、そして重力制御の技術を有していると思われます」
会議室がにわかに騒めく、ほぼ全員が資料や手元の端末を操作し、その情報を探そうとする。
「重力制御?」
大統領は資料に記載されていない事柄を聞き思わず聞き返した。
「将軍、その様な事柄は報告書には記載されていないわよ? まさか情報を秘蔵したのですか!」
ざわめきの中でスーツ姿の女性が将軍を厳しい口調で詰問する、その事をある程度予想していたのか、軍服の男性が慌てる事無く国務長官の発言を訂正する。
「国務長官、それは誤解です。 この報告書は先ほどの休憩中に私の元に届けられた物です。 お手元の端末情報の記載時刻もつい先ほどの筈です」
スーツ姿の女性が端末の情報から資料を探し出し。
「・・・確かに。 将軍、この件に関しては謝罪しましょう。 私の早とちりでした」
「いえ、それでは改めて私のと言うよりは軍の意見としては、彼らが他国と接触する前に我が国で保護・・すべきと考えます」
「なるほど・・・、国務長官はどの様に考えているかね?」
大統領は彼女に今後の対応方針を尋ねる。
「そうですね・・・、私としては彼らが日本・・に居るのは非常に危険であると考えます」
「確かに、あの国は何をするにしても遅おそすぎる」
「はい、彼らの安全・・を確保するためには、多少、強引・・な事も必要ではないかと・・・」
再び会議室に静寂が訪れる。
《トン、トン・・・・
「なるほどな・・・、日本に事前の説明は必要かね?」
「閣下、それは非常に危険です。 あの国の情報管理は非常に杜撰・・です。 我々が外交チャンネルを開いた途端、次の日の新聞のトップを飾る事を保証しましょう」
「では、全て秘密裏に動く必要があるな・・・・。 将軍、長官、今すぐ動かせる最精鋭の部隊は何かね?」
この発言で会議に参加していた全員が大統領が決断した事を知り、再びざわめきが辺りを包む。
「すでに、デルタとフォース・リーコンそしてチーム6が何時でも動かせます。 24時間以内に現地で作戦行動可能です」
「現地ではCIAの対外チームの6チームが実働体制にあります、すでに予備段階です」
「それと、閣下」
「? 如何したのかね、将軍?」
「これは公式の部隊では無いのですが『自由に戦士』も動かせます」
大統領は将軍の発言に思わず身を乗り出す。
「ほ~う、あの部隊がかね?」
「はい」
「実力は?」
「通常兵力の20倍に匹敵するかと」
『自由の戦士』アメリカ軍が、いや、アメリカ政府が威信をかけて開発した、次世代を超えた新世代の兵士、非対称戦争を対象とした機能義体である。
「なるほど・・・・」
《トン、トン・・・・
「では、GOだ! 48時間以内に作戦を始めろ!」
「了解しました!」
「はい!」
そして、会議に参加していた全員が動き出す。
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日本 東京某所倉庫
「いいか! 我々の目標はこの女だ! 一人になった所を確実に捕まえろ! もし一人じゃなくても良い! その場に居た関係者全員を拉致しろ!」
「「ハイ!」」
「劉隊長、車と船の手配が完了しました」
「よし! 小日本の高速道を使い一気に我が内海に面した港まで走るぞ! 周辺の工作班も動かせ! 道を通り易くするのだ渋滞などもってのほかだぞ!」
「お任せください!」
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新ロシア連邦 モスクワ クレムリン
宮殿の一際豪華な部屋の中、二人の男が薄暗い中で話し合っていた。
「中国とアメリカが動いているか・・・・」
「はい、大統領」
「そうか・・・、我が国の方針は何かね?」
一人の男が立ち上がり窓際にゆっくりと歩いていく。
「残念な事に出遅れた事は否めません。 ですが、既に手は打って有ります」
「フム・・・、それで」
大統領と呼ばれた男が窓際に立ちカーテンを開ける、日の光が室内に入る。
「日本ヤポンの警察にそれと無く情報を流しました。 あの国は拉致に対して非常にナーバスな面が有ります」
「我が国から直接かな?」
「いえ、あの白馬の将軍の国を利用しました」
「フン! あの無能者か・・・」
「ある意味、使い道はそれくらいしかありません」
「確かにな・・・。 もし、その連中が本当に例の技術を持っているのならば、ヤポンスキーに北方四島くらいは返してやっても構うまい」
「国内の支持率が落ちるのではないのですか?」
「フン! そんな事は些細な問題だ、我が大ロシアが世界を総べるのに比べたらな」
「ハイ、大統領閣下」
「それに、必要になったら取り返せばいい。 日本に預けるのだ、インフラと言う利子が付いてくることだろう」
「おそらく、あの国は遺憾の意で終わるでしょう」
「そう言う事だ」
大統領は無言で片手を振り側近に退室を促す、やがて室内には大統領だけが残された。
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日本 東京 首相官邸 廊下
「全く! 話にならんな!」
青い制服に身に着けた壮年の男が、怒りに肩を震わせながら首相官邸の廊下を足早に歩いていた。
「あの! 弱腰総理め!」
顔を赤く染め、まるで地獄の鬼の様な形相である。
「総監! それ以上は・・。 不味いですよ・・・」
傍に控えていた警視の一人が、上司を思いやり小声で注意を促す。
「かまうものか! アメリカだけでなくロシアに中国も何やら動き出しているのに! あの野郎! ”何もするな”とぬかしおった」
周りの者達が思わず絶句する、それは犯罪を見つけても何もするなと言う、警察官の存在理由を疑うような言葉であった。
「! ・・・それは」
「高度な政治的判断なのだと! どうせ! 捕らぬ狸の皮算用でもしているのだろうよ!」
「しかし・・・、それではどうするのですか? 此方が先に動き彼らを拘束しますか?」
「どんな理由を付けるのだ? 行方不明になってたと言っても。 彼らは犯罪を犯した訳では無いのだぞ?」
「それにそう簡単に礼状は取れんぞ!」
歩きながらも取り巻きたちから様々な意見が飛び出す。
「我々は警察官だ! 犯罪者は捕まえる! ただそれだけだ!」
警視総監が強引に議論を打ち切る。
「しかし、それでは政府の方針と・・・」
総監は人の悪い笑い顔をしながら。
「フン! 簡単の事だ、CIAやSVRが名札を付けている訳ではあるまい。 日本の法律を犯したバカな外国人が大量に捕まえても、それは通常の仕事の内だ! 誰にも文句は言わせん!」
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アメリカ合衆国 ホワイトハウス 大統領執務室
大統領は一人、執務室の椅子に無造作に腰かけていた。
警備の為の護衛にはしばらくの間、場を離れてもらっている。
彼はしばらく思案してから無造作に机の引き出しから一冊の分厚い書類の束を取り出す。
そして、誰に聞かせる訳でもなく独り言を呟く。
「ジョーカーを切らせないでくれよ・・・。 この札は強力だが、最後まで持っている事は負けを意味するのだから・・・」
その言葉、誰に向けて発せられたのかは、大統領自身にもわからなかった。
自分自身か。
部下か。
国民か。
日本に向けてなのか。
世界に向けてなのか。
神に向けてなのか。
あるいはアダマスに向けてか・・・。
その書類の見出しには以下の文名が記されていた。
『日本再占領計画』
そろそろDAY-01が終わりますよ。




