DAY-01 決別
何か色々と動いている人たちがいますよ・・・。
都心のほど近く、周囲を高層ビルに囲まれながらほかのビルより低いこの建物の屋上には森が存在する。
この高級マンションの屋上は、濃い緑に包まれた主のいない庭園があった。
その庭園の中には、明かりのない一戸の家屋が、もう戻る事のないであろう主の帰りを静かに待ち続けていた。
今は樹木や花々の世話をする者が無く、荒れ果て薄汚れているが、計算されつくされた庭道や樹木の配置から、その庭園はかつて美しい景観であったことは容易に想像する事ができた。
庭園の中心にある家屋も荒れ果て、室内は窓のガラスは割られ、金目の物は他全て運び出され、そこはガランとし空虚な空間を形成していた。
今の廃墟の様な姿から誰が想像できるであろうか、かつてその室内には見事な家具が所狭しと並んでいたことに、そこに住まう主人が仲間たちと共に楽しく過ごしていた事に。
《パリッ》
誰もいないはずの室内に割れたガラスを踏みしめる足音が静かに響く。
薄暗くて良く見えないが、その人物は身長は160cm位で眼鏡をかけていた。
ベージュのコートに身に包み男女の判別も困難などの人物は、眼鏡をかけた眼で周囲を見まわしてから、足元に落ちていた、薄汚れガラスの割れた写真立てをゆっくりと手に取り、静かに息を吹きかけ埃を払う。
額の中では、6人の男女がそれを手に取った者に何時までも笑いかけていた。
若干和んだ雰囲気が辺りを包み、コート人物から女性の声が洩れる。
「見事に・・・、何も無しね」
その場に他の人物が居たのなら、その声でようやくその人物が女性であると判断できた事であろう。
「愛されて要るとは考えていなかったけど・・・・」
独り言を呟くその声には諦めと、ほんの少しの悲しみが含まれていた。
その女性の名は桜井サクライ・舞子マイコ、いやマイヒメと言った方が良いだろうか、この荒れ果て薄汚れた庭園と家屋の主である。
舞子は両親を小学生低学年の時に事故で亡くし、それ以降、親戚の家を転々としながら中学校を卒業するまで過ごす。
彼女の両親は莫大な遺産を彼女に残していた為、それを狙った自称・親戚が彼女を引き取りその遺産を横取りしようとしたが、遺言により彼女は成人するまでその資産を自由に出来ないと知ると、舌打ちと共に他の親類に彼女を押し付けるのであった。
今すぐ大金が入る訳でもなく養育費の掛かる子供など、養っていても無駄なだけであったのだ、その為、彼女は高校は奨学金を使い全寮制の高校に入り大学に進学、成人するとともに全額返済し、卒業するとともに押しかけて来る親戚から姿を眩ましたのであった。
彼女はネット上の株取引で大儲けし、高級マンション屋上のペントハウスに引き籠ったのである。
だが、そんな生活もこの世界から彼女が転移すると共に名義上の親権を持つ親類ども押しかけ、全ての資産と金目の物を根こそぎ持って行ったのである。
彼女は色あせ汚れた写真を懐かしそうに時を忘れ何時までも見続けていた。
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マイヒメの辺りは闇に包まれ、いつの間にか時刻は夜になっていた。
彼女以外に存在しない廃墟の中で、マイヒメの背後に二つの人影が生まれる。
一人は身長170cm程の宮廷洋装を身に着けた貴人、その手には薄汚れた熊のぬいぐるみを丁重に持ち、彼女に声をかけようか迷っている様に見えた。
もう一人は身長は150cmほど、ずんぐりとした筋肉質の体型のドワーフだ、床にどっかりと腰を下ろし瞑目している。
貴人の女性、アーリアが若干の躊躇の後に、意を決して主の声をかける。
「マイヒメ・・・、いえ舞子様・・・」
彼女も主の事をどう呼んでいいのか戸惑っているようである。
その様子が可笑しいのかマイヒメは少し苦笑いを浮かべながら振り向く。
「マイヒメでいいわよ」
主の眼に涙の後は無かった事に心からホッとするアーリアとオヤカタであった、二人とも自らの主が悲しみ涙を流す姿など見たくないのだ。
マイヒメはゆっくりと扉が取り外された玄関の方に歩き出す、オヤカタはその筋肉質の体型からは考えられない身軽さで立ち上がりアーリアと共に彼女の後に続く。
「主よ、この後は如何するのですかな?」
オヤカタがその体系に相応しいバリトンの声で彼女に今後の方針を尋ねる、咎人とがびとに報復・・するのか、排除・・するのかを。
無抵抗の平和主義や、演説だけの理想主義など彼らの辞書には存在しなかった、倍返しや十倍返しなど生ぬるい、生まれてきた事を骨の髄から細胞の一欠けらまで後悔させるのだ。
「そうね・・・」
マイヒメは木々に覆われた庭を歩きながら考えを纏め、優しい笑みを浮かべながら後ろを振り返りドワーフの職人に頼む。
「オヤカタ、この庭と家をシーズに運んでくださる?」
「承知した、我が主よ! 立派に修繕し整え、更により良い物にしましょうぞ!」
オヤカタもこの提案に嬉しそうに笑いながら答える、大工職人である彼もこのような荒れ果てた主の作品など見ていたくないのである。
「では!」
その掛け声と共に、地面に手を打ち付ける。
《パッン!》
その響き渡る音と共に、高級マンションの屋上全体がガラスの様な青い光に包まれた。
風に揺れていた樹木の葉や草が凍りついた様に動きを止め、青いガラス細工の様な色合いと質感に染まった、それはまるで熟練の職人の手によって精巧なガラスで造られた庭園の様に変化したのだ。
そしてオヤカタが地面から手を離すと共に、庭園も家屋も掻き消え、その代りにオヤカタの手の中に一辺3cm位のガラスで出来た様な立方体が出現したのである。
その立方体を近くでよく見る事が出来れば、そのガラスの中に庭園と家屋の精巧なミニチュアを見る事が出来たであろう、オヤカタは屋上全体を空間と時間を圧縮し立方体に収めてしまったのである。
「それでは主よ、わしはこの地では目立ちますゆえ一足先にシーズに戻っております」
地球の技術では逆立ちしても不可能な事を本当に片手間で片づけ、音も光も無く空間転移で船に戻るオヤカタ。
「お願いね」
「此方はお任せください」
驚きもせず、当たり前の様に送り出すマイヒメとアーリア。
アーリアはすっきりとした屋上で、風にスカートなびかせながら主に尋ねる。
「マイヒメ様、この後は如何いたしますか?」
「アーリア、盗人には罰が必要よね?」
右手を目の前に。
「はい」
「では”決して許されることない罰を”を授けましょう」
その声と共にマイヒメの手の中に直径10cmの淡い青白い光を放つ球形魔法陣が出現する。
「”咎人に、正しき持ち主に戻さねば解けない呪いを。 決して満たされる事のない喪失感を・・・”」
そして球形魔法陣を握りつぶす。
「”授けましょう”」
淡い光が周囲にゆっくりと広がり、静かに消えた。
この日より、舞子の親類の中で彼女の資産を略奪した者は、次々と自暴自棄になり破滅していくのである。
そして、彼女の造った家具は、手に入れた者に不幸が訪れるとして『六祖の呪いの家具』として持ち主を転々とするのである、壊そうとする者もいたがそれをなす事が出来た者は一人としていなかった。
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周囲の高層ビルの一室から高級マンションの屋上を密かに監視し続ける者達が居た、彼らは一年にも及ぶ監視の末ようやく上層部に有益な報告を上げる事が出来た事に満足していた。
高倍率の暗視装置付きの監視機材のモニターを眺めながら二人の東洋的な男たちが屋上で行われた行為を彼らの国に送信していた。
「噂は本当だったな・・・」
「ああ、最初はバカな命令と考えていたが・・」
「『95 people lost』(消失の95人)が帰って来たと言うやつだろ?」
「ああ・・・」
それ以降、その衝撃的な現象を観たせいで言葉が無く脱力していた。
どれくらい呆けていただろうか、背後のドアが開き3人目の東洋的な男が姿を現した。
「おい! 作戦が決まったぞ!」
二人は驚いて身体ごと背後を振り返りながら。
「本当か?」
「何時だ?」
「明後日だ! 既に準備は整っている」
「どっちだ?」
「ドレスを着ている方だ。 街中で誘い出し、船で我が本国に送る」
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「マイヒメ様・・・」
「物騒な話をしているわね」
「排除しますか?」
「今はまだ・・・」
「はい」
マイヒメは意外と怖いです。




