始まりの終わり 終わりの始まり(裏)
不条理で、自重なし。
誰が?
「里帰り?」
サクラが夕食後のラウンジ思い思いに寛いでいた仲間に向かった、突然そんな事を言い出した。
「そう、里帰り!」
他の面々はお互いに顔を見合わせて首を捻る、今までそのような事を言い出す者は居なかったのだ。
ましてや、里心を持つ繊細な精神を持つ、可愛げの有るやわな精神構造とは無縁の面々だからである。
「何か不都合でもあったか?」
その場に居た全員の気持ちを代弁してカズマが尋ねる、自然とその様な結論が簡単に導き出せる。
「不都合と言えば不都合だけど・・・」
サクラは困った様な表情で、何とも歯切れの悪い返事を返す。
「??」
「どうしたの?」
「エレェリアがね、ゲームとの接続が最近、切れたみたいて言っているのよ」
全員が今、席を外している仲間の事を考えた。
「エレェ姉が?」
床に座っていたミウが、ミラとのゲームを中断し身体の向きを変える
「ゲームに何か起きたという事か」
チヒロが読みかけの本を閉じ身を乗り出す。
「多分、詳しい事はエレェリアに説明してもらうけど、私達の身体って何か向こうに存在しないみたいなのよ」
「「!?」」
咄嗟に、言っている意味が理解できない一同に対して、何とか説明しようとするサクラだが、本人もよく状況を理解していないようである。
「つまり・・・、召喚とは言っているけど身体を分解してこちらの世界で再構成したと言うの本当の所だろうって・・」
「そう言う風に、エレェリアが言っていの?」
マイヒメがティーカップをテーブルに戻し尋ねる。
「そう。 ゲームを介してこちらの世界に召喚されて、その際ゲームのステータスが反映されたんじゃないかって・・・」
世界で一番、否、おそらく全次元で一番の召喚士の言葉である、憶測だけではないのだろう。
「そうなると・・・、あたし達の身体って向こうに戻るとどうなるの?」
「え~とね・・・」
「おそらク、ゲームが運営されていれバ、時間経過を無視するとして何事も無く部屋で目を覚ますはずですガ」
ラウンジのドアが自動人形のメイドの手によって、音も無く開かれエレェリアが室内に入って来た。
「!?」
「エレェ姉!」
「遅くなりましタ」
ゆっくり室内に入って来て、ソファーに腰を下ろす。
メイドが湯呑の緑茶を差し出す。
「いや、それは良いんだけど。 それじゃあゲームが閉鎖された場合どうなる? もしくはおれ達のゲーム端末が切れている場合は?」
チヒロが一つ一つ確認するように疑問点を挙げていく。
「ゲームが何事も無く運営されていテ、私達のゲーム端末が切れている時ハ、おそらくゲーム内のNPCみたいな存在になると思いまス」
「・・・帰る道が途中で消えて、ゲーム内で引っかかってそこに留まる感じか?」
カズマが今までの話を要約する。
「そんな感じでス」
彼女は一口、お茶を飲み肯定する。
マイヒメが軽く手を挙げ質問する。
「それじゃあ、[ワールド]が閉鎖されている場合は?」
「帰る道自体が消えてしまいますのデ、新しい道を創って現実に帰還する事になると思いまス」
「・・・座標的にはどうなるんだ? 宇宙空間や土の中に出る可能性はあるのか?」
普通に考えれば大問題だが、質問する側もされる側もせいぜい旅先のトイレは水洗かそうでないか程度の感覚しか持ち合わせていなかった。
「わたし達の向こうの世界との繋がりを利用しますのデ、極端なずれは無いと思いますガ、時間と空間のズレを同期させるため二、事前に何か目印を送り込む必要があると思いまス」
「それくらいなら・・・、大した問題じゃないな」
一般常識としては、それだけでも大事おおごとである。
「実はもう用意していまス」
空間から20cmほどの半透明の球体を二つ取り出す。
サクラが宙に浮く球体を観察しながら。
「ふ~ん、ずいぶん前から用意していたの?」
「いエ、夕食後の食器をさげる時に造りましタ」
片手間に造れる物では断じてないが。
「あっそ」
当然のごとく、誰も驚いていない。
カズマが基本的な事を質問する。
「どういった機能があるんだ?」
「片方を地球に送リ、6時間毎に周囲100kmを走査しその情報をこちらの球に送ってきまス。 その情報からこちらの世界と地球の空間と時間を同期させテ、空間跳躍の座標を決めるのに利用するのでス」
何となく理解したのか、していないのか曖昧な表情を浮かべる一同。
「なるほどな・・・。 転送した先にほかの物体があった場合はどうなるんだ?」
人間の体内に直径20cmの球体が出現すれば、流血の即死確定である。
「向こうに出現する時ハ、約十数分かけて空間にエネルギーを蓄積シ、その場にある有機物を外に押し出しまス。 無機物であれば出現空間に五分の三がかぶっている場合に限り物質の密度の薄い方に出現ポイントを移動シ、それ以下であれば分解しまス」
カズマは、良く分からないがしっかり考えているようなので。
「良いんじゃないのか。 さっさと転送しちゃえ」
「そうね・・・。 特に反対する理由は無いわね」
まるでデザートを注文するように、サクラも軽く許可する。
「そうですネ。 それじゃア・・・」
右手でクッキーを掴みながら、左手で宙に浮いた球体の片方に触れ多重積層魔法陣を展開し。
《パチッ!》
指を鳴らすと、僅かな光を発して半透明の球体が掻き消える。
もしこの場に一流の宮廷魔術師が居れば、一発で心臓発作を起こして倒れていた事を、本当に片手間・・・でやってのけたのである。
暫くしてから、ミウが軽く手を挙げ。
「エレェ姉、あたし達の今の能力てどうなるの?」
彼女が根本的な問題を指摘する、その場に居た全員が思わず意表を突かれる。
「推測ですガ、向こうの世界でも問題なく使用できるかト」
「なぜ? ! そうか! こちらの世界でもステータスのウィンドウやアイテムボックスが問題なく使用できるな・・・」
チヒロが自ら回答を導き出す。
「そうでス! おそらく向こうの世界の仕組みに上書きされるみたいになリ、問題なく使う事が出来てしまうと考えられまス」
規格外の連中が出現する事に決定。
「まあ・・・、それも大した問題ではないわね」
「そうね・・・」
結論が出たので、食後の各々の趣味に没頭する面々。
ある意味、大問題な話し合いがおこなわれていたのだが、まるでレストランにサラダ・バーが有るか無いか程度の認識しかない一同なのである。
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24時間後
ラウンジの中には、はまるで本物の光景をそのまま小さくしたような正確な地表の一部が表示されていた。
某検索サイト・〇ースを三次元表示にして、更に高画質にしたモノが映し出されていた。
「ここどこ?」
ミウは、球体から空間に映し出された三次元情報を見ながら、首を傾げる。
「ちょっト、待ってくださいネ」
エレェリアが球体に片手を当てて、指先をスライドさせると、一部分が拡大される。
そこには・・・、
『Los Alamos』
「ろす・あらもす・・? ロスアラモス!」
マイヒメが思わず変な声を上げる。
「アメリカのど真ん中だな・・・。 ニューメキシコの北側か」
カズマが冷静に突っ込む。
「走査情報によるト・・・。 最初ハ・・・・、ニューヨークに出現したようでス」
「それが、どうして?」
サクラの短い疑問は、その場に居る全員の疑問を代弁していた。
どうして、砂漠のど真ん中に移動されたのか、しかも、物騒な物を研究している世界一の場所に移されたのかと。
球体をいろいろ操作していたエレェリアがようやく答えを見つけた。
「えーとですネ・・・。 出現した時に自由の女神の台座を豪快に抉った様でス」
「「・・・・・」」
暫くの間、沈黙する面々。
「それは・・・、俺でも隔離するな・・・」
「・・・・そうね」
何とか言葉をひねり出すカズマと、肯定するサクラ。
間違いなく、アメリカ軍の警戒レベルは最高に引き上げられている事であろう。
「この場所に出るのはリスク高くないか?」
「そうね・・・、わたし達の中でアメリカ出身は誰一人も居ないから全然メリット無いわよ」
チヒロの最もな意見と、その意見を補完するマイヒメ。
「もう一個、送って新しい場所を探すの?」
ミウがエレェリアに尋ねる。
「いエ、もう空間の座標は把握しましたのデ、もう地球の地表であれば好きな所に転移できまス。 もっとも出現場所の事前調査の為、もう一つ送る必要はありますガ」
「何処がいいかしら」
「陸に出ると色々とめんどくさいな」
「海の上ね」
自重を素っ飛ばす秒読み開始。
「だな」
「日本海は?」
「内海は止めよう、色々と周辺国が面倒だ」
「太平洋ですネ」
「ハワイより西側の何処かだな・・・」
「ハワイ観光しないの?」
「それは後、予定に組んでおくから」
「了解!」
「・・・船を造っておくべきか・・・」
エレェリアに燃料、投下
「良いですネ! 造りましょウ♪ 造りましょウ♪」
「頼んでいいか?」
この一言が余計であった。
「お任せくださイ♫」
更に、マイヒメの余計な一言。
「ある程度、大きな船をお願いね」
「勿論です♬」
エレェリアは少し考えてから。
「それでハ・・・。 大和を造りますネ!」
「「・・・・・・」」
大和、大日本帝国海軍が建造した史上最大の戦艦、全長263m。
エレェリア サブジョブ 造船家。
趣味 ミリタリー・オタク。
「いや、いや、いや、いや」
チヒロが手を振り再考を促す。
「アメリカに喧嘩売るわけじゃないから」
カズマ、説得開始。
「わたし、明日の用意があるから」
マイヒメ、敵前逃亡。
「明日も早いわね」
サクラ、戦線離脱。
「あたし、お風呂行くね」
ミウ、ナチュラルに無視。
この後、カズマとチヒロの説得がエンドレスに続くのであった。
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「ビスマルク!」
ドイツ海軍が第二次世界大戦中に竣工させた超弩級戦艦。
「却下!」
チヒロ、半秒で却下。
「う~ン、ミズーリ!」
アイオワ級戦艦三番艦。
「戦艦から離れよう! な!」
カズマ、軌道修正を試みる。
「それじゃア・・・、エンタープライズ!」
原子力空母。
「空母で何をしろと?」
「ニミッツでハ?」
ニミッツ級航空母艦
「大きくしてどうするよ!」
「それじゃア・・・・」
「それはもういいから・・・」
「ですかラ・・・・」
「それは・・・」
「なラ・・・」
「それ・・」
以下、エンドレス。
説得開始から一時間後。
戦闘艦を上げ続けるエレェリアと、却下し続けるカズマとチヒロの間で一つの妥協が成立した。
『目に見える武器の付いていない船ならOK』
「それなラ、・・・・・・これでいいのネ?」
まだ、元気なエレェリアと。
「ああ、それでいい・・・」
「そうだ、それだ・・・・」
精根尽き果てて、テーブルに突っ伏すカズマとチヒロ。
すでに、何を言われているか理解している様子は無い。
「それじゃア、準備しますね」
「頼む・・・・」
「おれ達は寝る・・・・」
元気に駈け出して行くエレェリアと、足を引きずり自室に向かう二人、非常に対照的な光景である。
ちなみに誰も居なくなったラウンジでメイド達が淡々と後片づけをするのであった。
翌朝、生簀と言う名の直径20kmの円形の内海に一艘の船が浮かぶ事になる。
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内海に浮かぶのそれは、
全長361m
幅64.9m
高さ72m(水面から)
満載排水量約十万トン
総客室数は2706室
二十一世紀初頭の巨大客船オアシスクラス客船
「オアシス・オブ・ザ・シーズ」(アダマスバージョン)
エレェリア命名
「アダマス・オブ・ザ・シーズ」
エレェリア曰く
「大砲が無いのが不満ですのネ・・・」
妥協して、妥協して、この程度です。
次回 地球に帰還?
アメリカ軍デフコン1(完全な戦争準備態勢)




