始まりの終わり 終わりの始まり
フィナーレであり、プロローグでもあります。
「ねぇ。 カズ兄、ここでいいの?」
「ミウ・・・。 ここだからいいのよ」
「そうですヨ! ここが一番なのですヨ!」
「・・・・サクラ姉。 ・・・・エレェ姉」
「これは、わたし達からの贈り物・・・。 いえ、災いかしらね?」
「マイヒメ・・・、それを選択するのは彼らだ」
「チヒロ兄・・・」
「幸福か、不幸か。 贈り物か、災いか・・・・」
「・・・カズ兄」
「でも・・、だから残して行こう。 僕たちから故郷へ・・・」
「祝福と呪詛を」
「贈り物と災いヲ」
「平和と争いを」
「幸福と不幸を」
「繁栄と滅亡を」
「新しい世界の誕生と、古い世界の終焉を」
(The birth of a new world, the demise of the old world)
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北緯40度41分21秒 西経74度2分40秒、アメリカ合衆国ニューヨーク州リバティ島。
現地時間AM2:36
その日のその場所は風も無く波も穏やかな、静かな夜だった。
もっとも対岸にある摩天楼は、この時間になっても夜を照らす明かりが夜を駆逐する勢いで、放たれ続けているが、自由の女神が鎮座するリバティ島はそんな喧騒から隔絶されている様であった。
百年以上もの間、そんな光景を横目で見続けた彼女は何を思っているのかを、考える人は少ないであろう。
その日の夜もあの「9・11」以外に変わる事のない光景が繰り返されるはずであった、その時間になるまでは・・・。
その光景を直接、目撃する者がいれば、例え注意深く観察しても気のせいとして無視するくらい微かな変化であった。
ほんの少しずつゆっくりと空間に陽炎が満たしていき、約十分もの時間をかけて直径10mの白い霧の球塊を形成した。
その白霧の球は僅かに吹く風にも流される事無く、女神の足元の台座に3分の1程食い込むように存在していた。
どれくらい時間が経過したであろうか、永い様でいて短い時間の末、その球塊が突如、何の前触れもなく食い込んでいた台座を綺麗に削り取り、音も光も無く消失した。
削り取られた表面は、まるで鏡の様に滑らかに仕上がり、光を反射して輝いていた。
球塊が消失した時、僅かな金属音が辺りに響いた、それは金属の塊を高い所から落とした様な反響音を響かせながら生じ、そして、再び静寂が訪れた。
自由の女神の台座が残骸も無く抉られ、その付近に直径20cmほどの半透明の美しい球体が転がっていた。
勿論、自然に生じた物ではない、ましてや人の作り出せる物でもない、何故ならその球体は地表から10cmの所に完全に浮遊しているのである。
翌日の早朝、リバティ島はアメリカ政府が軍を出動させ完全に閉鎖する事となる。
この事件のニュースは全世界を駆け巡り、インターネットやソーシャルメディアの上で様々な憶測が囁かれ世界を賑わす事となるが、真実を言い当てた者は誰一人として存在しなかったのである。
半透明の球体は軍の手によって回収され、ロスアラモス国立研究所に送られ調査される事になるのである。
しかし、それらの事は夜が明けてからの事であり、今、現在は自由の女神の足元は抉られているが、彼女を支えるのに何の不都合も無く支え続けていた。
未だ、リバティ島と女神は夜の静寂の中で佇んでいた。
現地時間AM2:53
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ロスアラモス国立研究所で、その場所の存在を知る者はそれ程多くは無い、場所の存在自体が正式な案合図にも、公式の設計図にも載っていないからである。
しかも、その場所には名前すらも付けられていない、その場所を知っている者しか来る事が無く、知らない者は来る事が無い為、場所を知らせる固有名は不要なのだ。
その場所内にあるその部屋にもやはり名前は無かったが便宜上その部屋は来る者によって[会議室]と呼ばれていた。
この日、その会議室では十人前後の人、が薄暗い室内でモニター越しに重苦しい会話を交わしていた。
もし、外部の人間がこの場面を目撃したら失笑は堪えられないか、総じて首を捻る事であろう、何故ならそのモニターは暗黒と数文字の白い文字を映すだけなのだから。
『SOUND ONLY』
いい年をした男たちが汗を拭う事をせず、黒いモニターの先に居る人物に必死に説明をしているのである。
「・・・以上です」
今まで報告を読み上げていた研究者の代表であり、この場所の責任者である主任は緊張の連続であった。
下手な態度を取る事は出来ない、こちらからは観る事は出来ないが、モニターの向こうからは全て観る事が出来ているであろうから。
『すまないが、最後の所をもう一度言ってくれるかね』
モニター越しから、頼みごとをする声が聞こえて来たが、勿論、それは紛れもない命令であった。
「はい! 現状では如何なる検査機器を使用しても、この球体『Sphere』を調査するのは不可能です」
モニターから何か小声の話声が洩れて来る、おそらく数人の人物が居るのであろう。
『CTを使ってもダメなのかね?』
「残念ですが結果は芳しくありません。 お手元のデータ152を観てください」
会議室にも同じ画像が連続して拡大して表示される、おそらくモニター越しでも観る事が出来るはずである。
「その画像はこの場所で研究中の次世代の高密度CTスキャンで調査した画像です」
そこには真っ黒な円盤が次々と映し出されるだけであった。
何も映さないモニター越しからでも、驚愕の感情を読み取る事が出来る。
「ご覧の通り、何も映す事はありませんでした。 その他にもあらゆる波長の光線を使いましたが、何も反応はありません」
『材質の分析はどの程度進んでいるかね?』
姿は見えないのに、声の調子から期待はしていないが取り敢えず聴いておくかと言った考えが透けて見える様であった。
「残念ですが、全く進んでおりません。 表面を触った感触からは水晶の様に思われますが、どんなに叩いても、熱しても傷一つつける事は出来ませんでした」
「密かに調達した日本製の超合金のドリルを試しましたがダメでした」
『まさか! 外部に漏らしたのか!』
思わず詰問が飛ぶ。
「いっ いえ! 以前に調査の為に外部団体を通じて購入した物です! あの国は機密保持にはルーズです。 まして、我が国に対しては特に」
モニター越しに安堵の雰囲気が伝わってくる。
『そうか・・・、あの国は・・』
モニターから苦笑が洩れてくる。
「では、続けさせていただきます」
『うむ・・・』
「現状では何も判っていません、『Sphere』からは何も発せず、何も取り出せていないのです。 なのにこの球体は相対的な地面に対して10cm空中に浮遊しています」
『相対的な?』
「はい。 地下だろうが、海抜0mの地面だろうが、その場所から浮遊しているのです」
『マッターホルンの頂上でもかね?』
軽いジョークが飛び、周りから笑いが漏れる。
「はい。 ベットの上でも犬の背中でも同じです」
冗談に冗談で返し、少し場の雰囲気が和む。
少し間を置いてからモニターから決定的な質問が飛んだ。
『・・・、率直な意見を聴きたい。 これは何だと考えているかね?』
主任は周囲の視線が自分に集中するのを感じながら、務めて冷静な声で。
「こことは別の世界の産物と考えております」
『なぜ?』
「これは、私見ですがこの球体『Sphere』は、この世界の物理法則の外に存在している様に思えるのです」
『・・・宇宙から来たとは考えられんか、・・・異星人の手によって・・・』
ある意味、現実的な回答が発せられる。
「その可能性はありますが、我々に観測できないエネルギーが果たしてあるのかと言う疑問があります。 現状で我々に造り出せないだけで観測できない力はこの世界に存在しません。 基本的にビッグバンすら観測は不可能ではありません」
『なるほど・・・。 ところで彼(He)は如何したのかね? 姿が見えないようだが』
「ああ・・、Heは『Sphere』研究中ですよ。 頼もしいものです」
『そうか。 引き続き調査を頼む』
「はい、大統領閣下」
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彼は興奮の中にいた、これ程、興奮したのはいつ以来であろうか、ジュニアハイスクール時に核の模型を造った時、以来であろうか。
彼(he)には名前は無い。
勿論、両親に付けられた名前は確かに存在するが、彼には何の意味もない、その名前は単なる彼を現す記号でしかない。
ノーベル賞など、目立ちたがり屋のバカ共が目指せば良いのである、小さい時から、否、生まれた時から彼が求めているのはこの世界の真理ただ一つである。
彼は、この世界に謎は多く存在するが、それも知の力に寄って解明できると信じていた。
そう、今まではそれで良かった。
今、彼の頭に有るのは『Sphere』の事だけ。
食事や睡眠をとる時間すら惜しい、これを説明するのに言葉にする時間すら勿体ない。
今、頭にある言葉を書き留めるのにはキーボードを打つのは、すでに追いつかないほどだ。
手はすでにキーボードから手を離し、鉛筆と紙に様々な図形と文字と数式を思いつくままに書き留めていく。
今、彼を現す言葉はこれしかなかった。
狂気にして狂喜。
彼の現在を現す記号は『He』、これがアメリカ政府が彼に与えた固有名詞である。
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『Sphere』その球体に名付けられた名前。
ロスアラモスの名前のない場所の地下の頑丈な隔壁の中に厳重に保管され、様々な観測機器に囲まれ、四六時中一秒も休みなく観察され続けている。
音波やも全ての波長も形状すらも、そして温度や放射能なども変化が無いか観測されていたが、ただ一つの事を調べる観測機器が設置されていなかった。
『魔力』
もしこれを観測できれば、驚くべき変化を計測できた事であろう。
この球体から正確に六時間毎に魔力の波動が周囲に放出されているのである、その波動は隔壁や地面を難なく貫通し100kmの範囲を、まるでレーダー波の様に走査するのである。
ロスアラモス国立研究所の周囲に居る人々の中で僅かに魔法の素養のある人は六時間毎に誰かに見られているかの様な感覚を憶え、周りを何となく見回すのであった。
もし、これを観測できれば多くの人々はこう感じた事だろう。
「レーダーかソナーの様だ」と・・・。
しかし、これらの人々もこれがこの球体を送り込んだ者の灯台あるいは目印とまでは考えないであろう。
『Sphere』と名付けられたこの球体こそが「アダマス」の帰って来る時に、地球の座標を確認する道しるべなのだ。
地球の人々は未だ、それを知る事は無い。
The Demise of the Old Worldの到来を・・・。
春を迎えるには、冬を乗り越えなければいけないし
朝日を拝むには、暗黒の夜を超えなければいけない
どちらも、冷たい冷気と犠牲が伴う。
と、言う真面目な話は置いといて
暗い話にはなりませんよ(笑)
相変わらず、破滅するのはバカとアホと愚か者だけです。
次回から何時もの調子に戻ります。
そして、最後にアダマスが残す贈り物とは・・・。
かなり先の話の「帰還編 最終回」で明かされます。




