外伝 勇者召喚 その参
超越者との出会い。
火竜の尾の一撃を受け、鎧に身を包んだ戦士が遠くに吹き飛ばされる。
普通の戦士であればその攻撃でひき肉に成ってもおかしくない一撃だったが、その戦士はまだ原形を保っていた。
「ぐっ! がっあぁ!!」
マサトは苦痛の叫び声と共に、派手に吹っ飛び木に叩きつけられた。
「!!っ!」
彼に肺の中の空気を根こそぎ吐き出したような衝撃が襲い、一瞬、気が遠くなる。
「くっ!」
木の根元にずり落ちるが、すぐに立ち上がる事が出来ない、身体にきたダメージはそれほど大きくないが精神に来たダメージは致死クラスの恐怖を与えるモノだった。
『ガァアアアア!!』
火竜の咆哮が森の中に響く。
「くそっ!」
ゲームとは違う本当の恐怖が彼を襲う。
足の震えが止まらない、足に力が入らない。
セイジは、すでに彼と反対側で気を失っている、そばでヨーコが半泣きになりながら何とか治癒術を施そうとしているが何度も失敗を繰り返している。
彼の後方ではナルミが攻撃呪文を唱えようとしているが、低レベルの呪文を何度も失敗してまともに行使できないでいる。
彼女の焦った声がここまで聞こえてくる。
「も~! どうして上手く出来ないのよ!」
魔法や魔導の術は術者が簡単な詠唱で行使できるモノであるが、それは精神状態が平常な状態でいる事が前提である。
現在の様に慌てて混乱し恐慌している状態では、低レベルの術でさえ、まともに行使は期待できないのである。
マサトは剣を杖代わりにして何とか立ち上がるが、足が震えて戦える状態ではない。
『グ~ルルル~!!』
目の前に火竜の強大な身体が壁の様に立ちふさがる、その眼は怒りに震え、肉に飢えている。
思わず息を止め、竜を凝視する。
突如、その巨大な前腕が無造作に振るわれ、彼を後方に弾き飛ばす。
「かっ!」
マサトは何度も地面を転がり、再び大地に叩きつけられる。
剣と盾はすでに手元にない、今の攻撃で別の場所に飛ばされてしまったのだ。
「マサト!」
ナルミが彼の元に転びながらも駆け付けて来る。
(来るな!!)
四つん這いになりながら彼女の方に叫んだつもりだったが、声に出して言う事が出来ない。
今の一撃で手足に入る力も無く、全ての力を出して辛うじて身を起こすの精一杯だったのだ。
彼女は泥だらけになりながらも何とか彼の元に辿り着き彼の体を支える。
「大丈夫? ほら、しっかりして!」
気丈にもマサトを励ますが、ナルミの方が涙と泥で汚れ、どちらが助けられているのか分からない常態だ。
「な・・、ナルミの方が酷い状態じゃないか」
何とか呼吸が落ち着き、返事を返す事が出来る。
「それだけ、声が出れば大丈夫よね」
ナルミは何とか笑顔で返す事が出来た、彼も苦笑いを返す事が出来った。
あるいはこれが最後の会話になると言う思いと共に。
『グルルルル~~』
火竜の唸り声が彼らを現実に引き戻す。
エサは多い方が良いと思ったのかもしれないが、火竜は何故か攻撃をして来なかった。
(やっぱり僕は勇者じゃないな・・・)
彼はナルミに支えられながら、何となくそんな事を考えていた。
死の気配を感じながら、彼は赤黒い強大で巨大な竜から目を離す事が出来なかった。
以外に思ったのは、先ほどまで感じていた恐怖は今は感じない、あるいは死を自覚したからか。
(これが、「死ぬ」と言う事か・・・)
マサトが生を諦めた瞬間だった。
横たわるセイジの傍でヨーコが何か必死に叫んでいるが、何も聞こえない。
火竜のアギトが開き、此方に攻撃を加えようとしている。
何もかもがスローモーションの様にやけにゆっくりと、しかもハッキリと観る事が出来た。
フッと視線を感じ、ナルミの方に視線を向ける。
ナルミは彼を支えながら、優しくほほ笑んでいた。
そして、ただ一言。
「ありがと」
「こちらこそ」
彼もほほ笑み、自然と返事を返す事が出来た。
そして、視界が真っ白に覆われる、最後に見たのはナルミの優しいほほ笑みだけ。
彼は意識を手放した。
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静かにマサトの顔に心地よい風が吹きかける。
仰向けに倒れている彼の身体に軽い重みがかかっていた。
薄く目を開けて最初に見えたのは青空と白い雲。
(ここは・・・、天国なのか?)
半分、寝ぼけた頭でそんな事を考える。
どうやら草原の上に倒れている様だ。
手を動かしてみると彼の上に何かが圧し掛かっている。
頭を動かし視線を向けてみると、ナルミが彼の胸の上で幸せそうに眠っていた。
彼女の髪を何となく撫でながら、ようやく動き始めた頭が今までの事を順番に思い出していた。
〈森の中・・・〉
〈熊・・・〉
〈火竜・・・ ?!〉
(火竜!!)
突如、完全に覚醒する。
ナルミを起こさないように気を付けながら上半身を起こし、周囲を確認する。
火竜はまだそこに存在した。
火竜がそこに居るではない、そこに在るのだ。
地面に横たわる竜の首は、アギトは開かれ目は開きっぱなしである、まるで自身の死を未だ気づいていないかの様である。
前腕は前方に投げ出され、翼は横に広げられている。
後脚は無くなり、尻尾が後方にあり、更に後方でセイジとヨーコが倒れている。
そう、全て部位を繋ぐ胴体が無いのだ、代わりにそこには一人の人が静かに佇んでいた。
胴体の有った場所に佇むのは、一人の女性、片手にバスケットを持ち、流れる金髪と尖った耳、整った顔立ち、優美なボディーライン。
エルフ。
そこには一人の美しいエルフが居た。
マサトは信じられなかった、この状態では目の前のエルフが あの火竜の胴体を消し飛ばしたのだ。
ゆったりとした上着とフレアスカート姿で片手に買い物籠を持った、まるで武装している様に見えない一人の華奢な女性が竜を倒したなどと。
マサトは混乱した頭で、どうでも良い事を考える。
声を掛けるべきなのか、声が掛かるのを待つべきなのか・・・
そんな事を考えていると、エルフの困惑した独り言が聞こえてきた
「あら。 妙な気配がしましたので来てみれば、何か大変な事に遭遇したみたいですね」
何とも、呑気な声が聞こえ来たので、思わず声を反射的に声を掛けてしまう。
「あっ 貴女は?」
「いえね、一寸した買い物の途中で妙な気配がしたので降りてみたのでけど・・・」
あくまで呑気に返すエルフの女性。
確かに彼女の格好を見れば、買い物の途中と言われれば納得するしかない、ただし街中で見かければの話である。
森の中で火竜の胴体を轢き潰す様な事をする格好では断じて無い。
「あら! こんな事で寄り道している暇は無かったですね」
「あの! 待って!」
エルフの女性は優雅に一礼し。
〝So, ich hoffe, Sie wieder zu sehen, alle.″(では、皆様、またお会いしましょ。)
軽く地面を蹴り。
物凄い勢いで垂直に昇り。
空中の一点で西に進路を直角に変え、衝撃波を撒き散らし音速を超える速度で飛び去って行く。
マサトは彼女が飛び去った空の一点をただ見ていた。
彼の腕の中でいつの間にか目を覚ましていたナルミが彼と同じ空を見ながら、マサトに問う。
「彼女は何者なの?」
マサトは正直に答える。
「わからない」
その声には全ての思いが乗せられていた。
この世界の事も。
自分の立ち位置も。
仲間の力も。
そして、己の実力も。
何時までも無知ではいられない、
この世界を学び、
力を蓄え磨き、
諦める事無く前に進む。
何と難しく、何と遠い道なのだろうか。
「何も、わからないんだ・・・。 何も・・・」
「そう・・・・」
何かを感じたのか、彼女は言葉短く返した。
彼らの異世界での本当の冒険が始まる。
名前が出てこないけど登場したエルフはイサベラです。
妙な気配とは彼女の主たちと同じような気配を感じのことです。
次回は
客神編(仮)か
帰還編(仮)のどちらかになる予定です。




