野菜畑の最も永い一日 AM11:30~PM3:00
久しぶりに更新。
野菜畑の中ほど、小高い丘になっている処に砲台が存在する。
勿論、誰かが砲台を設置したわけではない.
この野菜畑にある全ての植物にはチヒロが自己管理能力と自己防衛能力、そして自己進化能力が付与されているのである。
つまり、全く世話をしなくても美味しい野菜や果実が勝手に出来上がり、盗人からも守られる至れり尽くせりの野菜畑なのである。
しかし、彼が自動出荷能力を付与するのを忘れた為、盗み対策の自己防衛能力が肥大化し、畑に侵入する者、全てを攻撃するようになり、収穫するのが非常に困難な野菜畑になってしまっていたのである。
ま~、なんだ~。
毎年、収穫時期になると、近隣の街や領主、果ては国家を巻き込んだ一大イベントの、大騒ぎの素になるのである。
話を戻そう。
砲台である、そう表現してもおそらく間違えでは無いであろう。
上空からこの丘を見る事が出来れば(撃墜されなければだが)様々な野菜と木が植えられている菜園にしか見えないであろ、だが、空中に飛び出すジャガイモや、炸裂するトウモロコシはまだ可愛い方である。
打ち出されて熱を持って弾ける毬栗に、程よく熟成し酔っ払いを量産するワインを自動生成するブドウと言った、凶悪な果物が植えられているのである、しかも、どの果物も非常に美味である。
つまり、この砲台を攻略するには、美味しいスィーツと極上の酒類の誘惑を断ち切らなければならないのである。
D‐デイ昼、太陽が中天にさしかかた頃、汗だくになりながら丘を登る一団があった。
数多くの脱落者(酔っ払い)を出しながら、一直線に丘の頂上を目指していた。
「隊長! B小隊からの連絡が途絶えました!」
B小隊からは今まで損害らしい損害を出していなかったのに、いきなり全小隊員からの連絡が途絶えたのだ。
「なに! さっきまで順調に進んでいたのに、どうしたというのだ?」
「先ほど、ブドウ畑に突っ込むと言っていましたので・・・・」
隊員の口から原因が推測される。
「くっ! 再び酔っ払いが量産されたか!」
「はい、今頃、酒盛りの真っ最中と思われます」
隊長は部隊を一旦静止させ、主だった者を集め、懐から地図を出しそれを眺めながら思案する。
「ブドウ畑や果物畑はなるべく回避したいな・・・。 ルート上の先行確認をさせるべきか・・・」
「しかし、それでは斥候が前後不覚になる恐れがあります」
「何かないのか?」
隊長の口から思わず弱気な声が漏れる。
「あの~」
一同が暫し沈黙する中で一人の隊員が自信なさげに手を挙げ発言をする、一同の鋭い視線が気弱な青年に注目し、彼は思わず手を引っ込めてしまう。
「どうした?」
「あっ、はい。 西の方に収穫トラクターの部隊が展開しているはずです。 それに応援を頼む事が出来れば・・・。 いえっ! すいません!」
全員の視線が更に鋭くなっていくのど思わず反射的に謝ってしまう、そんな彼を無視して。
「おい! 大至急問い合わせろ!」
「はい!」
「部隊を再編しろ!」
「了解!」
部隊の主だった者たちは、再び地図を眺め、今度は熱心に意見を交わすのであった。
「このルートを通り・・・」
「いや! こっちの方が・・・」
「なら! こうはどうだ?」
「こっちの・・・」
短い時間の議論は尽きる事は無い、彼らが砲台を攻略するのにはまだ数時間を有する事になる。
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空挺部隊が確保した地点の仮設本部で、斥候の報告を聴いていた隊長が驚きの声を発した。
「なに! それは本当か?」
斥候から帰って来た空挺隊員が地図の一点を指さしながら自らの見たモノを説明する。
「はい! ここから東に約1kmの処で巨大なカラスを確認しました! おそらくガルダ様と思われます!」
「接触は出来たのか?」
「いえ、残念ながら接触は出来ませんでした。 ガルダ様方の周囲を果物の樹木が囲っているため少人数での突破は困難だと思われます」
隊長は地図を見ながら思案する。
古今東西、空挺部隊は攻めるのにも守るにも適している部隊とは言えない、短い期間、ある一点の場所を確保するのに向いている部隊なのだ。
装備も貧弱ではないが重装備とはとても言えないのである。
「本隊と合流してから接触するべきか・・・・」
あと二時間位この場所を確保できれば本隊と合流する事が出来る、隊長は本隊との合流を優先する事にし、現状を本部に連絡する事にした。
「本部に連絡を入れろ! ガルダ様方の姿を確認したが、接触は困難なので本隊と合流後、連携してあたると」
「了解しました!」
隊長は、部下が連絡するのを横目で見ながらもう一度、地図に視線を落とてし現状を確認していると、突如、視界に光が乱舞する。
「なんだ?」
慌てて周りを見渡すと、誰もが驚き、作業の手を止め辺りを見回していた。
「たっ! 隊長!」
部下の一人が驚きの声を上げる。
「どうし!?」
声をした方に振り向くと、部下が驚愕した表情で宙の一点を指さしている。
「上を!」
隊長は、そちらに視線を向け言葉を失う。
「?!!」
光の粒子が収束し、人の形を創り上げる。
「空間跳躍・・・・・!! 生身で!!」
誰かの驚愕の呟きが妙にはっきりと聞こえた。
異なる場所を結ぶ魔導。
確かに不可能では無いが、現在の技術では送り側と受け入れ側のゲートと呼ばれる大規模な魔導装置を必要とする。
しかも、距離の二乗に比例し、長距離の転移をしようとすると膨大な魔力を必要とするのだ。
一個人がこの魔導を使えば宮廷魔術師クラスの魔導士が1m移動するのに全魔力を消費してしまい、移動先で疲労困憊して、一歩も動けなくなってしまうのである。
ゲートを必要とせず、連絡先にピンポイントでしかも個人が転移するなど、どれだけの魔力が必要になるのか想像するだけで目眩を憶えるほどである。
そして、光の中から一人の人が地面にゆっくりと静かに降り立つ。
光の中から現れたのは、白金色の髪、抜群のスタイル、透き通った美貌の女性。
「エレェリア様・・・・」
誰かの呟きが口から洩れる。
彼女が静かに微笑し、誰もが魅了するそのほほえみで周囲の時間が止まる。
「現在の詳しい状況を教えてくださいナ?」
「『・・・・・・・・』」
彼女の口から尋ねられても言葉を返せる者はいない。
優雅な足どりで隊長の広げていた地図の前に進み出て、地図に視線を向けながら。
「ガルダ達ハ、どの付近でしょうカ?」
「『・・・・・・・・』」
時間停止中。
「??」
「『・・・・・・・・』」
あまりにも長い時間、誰も動かないので不憫に思い、周囲を見ながら。
「あの~、もしもシ?」
「『・・・・・・・・』」
「隊長さン?」
「・・・・・・・・・」
失礼とは思いながら、隊長の目の前に手をかざしてみる。
「・・・・・・・・・」
動きがない。
指で突っついてみると、初めて動きが生じた。
隊長が白目をむいて、仰向け倒れたのである。
「え!?」
どうやら、驚きで固まり、呼吸をするのを忘れてしまい、酸欠で気絶したようである。
エレェリアが周囲を見渡すと、その場に居た隊員が立ったまま気絶していた。
「・・・・・・・」(汗)
「え~ト・・・、どうしましょうカ?」
空挺部隊仮設本部、ある意味で全滅。
10分後、復帰。
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「え~と、チヒロ様、もう一度言ってくれますか?」
仲間と逸れた空挺隊員の彼は不幸と幸運の狭間に居た。
幸運なのはチヒロと合流し、野菜の襲撃をほぼ完ぺきに遮断でき安全に歩けること。
不幸なのは・・・・・。
「おお! いいぞ! これから野菜畑の中枢に行き、野菜の迎撃を無効化するんだ!」
何を思ったのか、二人で野菜畑の最奥に行く事になってしまった事である。
「え~と、私も行かなくては為らないのですか?」
「一人でこんな処に残るのは嫌だろ?」
「・・・・・はい」
全く反論できない。
「と言う理由で、GO!」
チヒロが力強く手を振り上げ。
「おお!!」
彼はヤケクソ気味に彼も大声を上げる。
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「野菜畑の中枢? そんな物が在るのか?」
カズマはその報告に自身の耳を疑い、手の中の飲み物に幻覚剤が混入していないか不安になった(もっとも彼らに毒物は全く効かないが)。
「左様。 主が確かに中枢があると言っておられた」
チヒロの従者で熊の獣人の影丸が何時もと変わらない態度でそれに答えた、二人のやり取りにミウが口を挟む。
「どうしてそんな物が在るのよ?」
サクラも疑問に思い、思わず考え込む。
「そうね。 無くて困るものでもないし・・・、どうして?」
皆の疑問に影丸は腕を組みながら何時もと変わらない口調で。
「うむ。 主が言うには・・・・」
「言うには・・・・」
誰もが固唾をのむ、ひと時の静寂の後。
「いちいち世話をするのがめんどくさいから、代わりに管理してくれるモノを創った、と言っておられた」
「「・・・・・・」」
三人の開いた口が塞がらなかった。
「あいつ・・・、何を考えているんだ」
「この頃、真面目に畑に足を運んでいたと思っていたら」
「チヒロ兄・・・、何してるのよ。 ?! まさか! 今回の騒動も、もしかして・・・」
「「? !!」」
ミウが嫌な事を思いついてしまい、カズマとサクラも同時に同じ考えに至った。
「十分、有り得るな」
「そうね・・・」
三人は顔を見合わせ。
「あいつ制御に失敗しやがったな」
「だから、突然、収穫を手伝てくれなんて言い出したのね」
「それで、正解?」
ミウの視線を受けた、風丸は何かを思い出すようにしながら。
「うむ、概ねそんな感じだったな」
「どうして、今まで言わなかったの?」
サクラが少し憤慨したように問い詰める。
「我も、主を裏切るのに躊躇するのでな」
「それは・・・、仕方ないな」
「でも・・。 どうして、今、言うの?」
「主が自ら解決に乗り出した様なので、もう良かろうと思ったのだ」
「なるほどね・・。 もう良いわ。 カズマ」
何か諦めた様にサクラが彼に尋ねる。
「やって、いいぞ」
内容を聴かずに脊髄反射で許可を出す。
「ありがと♫」
「カズ兄! 私も!」
「おお! 存分にやれ!」
ミウに条件反射で許可を与える。
「やったね♫」
「「ふっふふふふふふふ」」
サクラとミウの肉食動物が獲物を見つけた様な笑みと、不気味な笑い声が仮設本部にこだまする。
周りにいた者達は、懸命にも見なかった事にした。
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「?!!」
「どうしました?」
急に慌てた様に辺りを見回すチヒロに、空挺隊員が心配して声をかける。
「いや。 何でもない、急に悪寒に襲われてな。 気のせいだった様だ」
「は~」
「急ぐぞ」
「はい」
次回がクライマックスかな?
次話は日曜か月曜に更新予定です。




