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野菜畑の最も永い一日 前日~AM9:00

書くものが一区切りついたので予定を早めて投稿。



[D‐デイ]

 戦略上重要な攻撃もしくは作戦開始日時を表す際に用いられた米軍の軍事用語。


 チヒロを逆さに吊し上げて真相を聞き出した夕食後のお茶の時間、ちなみにチヒロは未だに吊るされたままである。

 はっきり言って、本当にどうでもいいのだが、野菜狩りは行わなくてはいけないので、全員がげんなりしつつも行うことになった。

 白亜の宮殿の喫茶室では・・・・。

「はぁ~~~」

 マイヒメは、はっきり言ってため息しか出てこない、エプロン姿のイサベラがお茶を出しながら心配して声をかけた。

「マイヒメ様、顔色が悪いようですが・・・・」

 机に突っ伏しながっら、力なく手を振り。

「心配しないで、書類を整えるのに疲れただけだから・・・・」

「は~、それで何の書類ですか?」

 彼女は若干顔を上げ、遠くを見ながら。

「街の住民に応援を頼む事にしたのよ。 人海戦術よ」

 イサベラは若干驚いて問いただした。

「大丈夫ですか? オヤカタだ飛ばされた様な危険物ジャガイモが埋まっている畑に普通の人を入れて?」

 その心配はもっともである、オヤカタは飛ばされてから一時間もしてから帰還したほどである、普通の人など星に成ってもおかしくない威力があるのだ。

「心配ないわよ、カズマとミウが専用の道具を突貫で造ったから」

「それで・・・、何とかなるのですか?」

「何とかするのよ・・・・」

 イサベラは、何とも微妙な表情のまま。

「それで、決行は何時ですか?」

「明日の早朝よ」

 彼女たちは窓の外を見やる。

「今日の夜は嵐との事です」

「明日の早朝は濃い霧が出るらしいわ」

「「・・・・・・」」

 二人は暫し思いを巡らしてから。

「今日は早めに寝るわ。 お茶、ごちそうさま」

 マイヒメは椅子から立ち上がり部屋から出ていく。

「はい、お休みなさいませ」

 イサベラが綺麗なお辞儀で送り出す。

 マイヒメは自分の部屋に行く為に廊下を歩きながら、イサベラは後片づけをしながら。

(何か忘れているような?)

(何か忘れている気がするのですが・・・)

 同時に同じ事を考えていたが。

(気のせいよね。 寝よ、寝よ)

(気のせいですね。 早く片づけてカズマ様の手伝いをしましょう)

 同時に忘却した。


 その頃、雨と風が吹く中、白亜の宮殿の敷地にある木の枝では。

「お~い、誰か降ろしてくれ~」

 特別性のロープで簀巻きにされたチヒロが揺れていた、本気に成れば切れない事はないが、周りの被害も馬鹿に為らない為、未だに吊るされたままである。

「皆さん~、忘れていませんか~」

 反動を付けて、体を揺らす。

「お~い、誰か あっ!」

       《ボキッ!》

 あっ! 折れた・・・・。

《ドサッ》

 墜ちた・・・・。

 おっ、這い出した。

 行先は・・・、納屋だな。

 今晩、彼の寝床は納屋の中のようである。

 おぉ! 転がりだした、目が回らないか不思議である。

 うん? 止まった? 悶絶している。

 なるほど、気分が悪くなって早急に止めたようである。

 確かに、あの移動法は人類にはまだ早いようである。


------------------------------------------------------------


 一方、野菜畑の中央付近、撃墜された三匹は・・・。

(満腹! 満腹!)

(モシャ、モシャ)

(もう少し、結界の強度を上げるね)

 食料を現地調達し、寝床を造り、結界で天井を設置して、かなり快適に遭難ライフを満喫していた。

 誰も心配してはいないが、今すぐ戻る気は・・・・


(おやすみなさい~)

(おっ! このブドウの果汁、お酒になっている!)

(どれどれ・・・、おっ! 結構いけるね!!)


 ・・・・・・・無いみたいである。


------------------------------------------------------------


 朝の静寂の中、真っ白な雲が深く緑の大地を覆っている。

 何か、言葉で表せない緊張感が辺りに蠢いていた。


 遠くで地響きが響き渡る。


 鬨の声があがる。


「総員! 抜刀! 突撃!」

「『おおぉ!』」

 お揃いのカーキー色の作業服とヘルメット姿の部隊が走り出した。

 多くの街の人々と、雇われた冒険者が津波の様に畑に向かって突撃を開始した。

 雄叫びに合わせるように野菜畑から連射され打ち出される麦や米、人参が複雑の軌道を描き飛んで来る、地面で炸裂するジャガイモ、飛翔する玉葱からは毒の様なガスを発し、トマトがぶつけられる。


 街の住民の中で農民が手際よく、野菜を刈り取り収穫して袋や籠に詰め込んでいく、詰め込まれた袋や籠を街の人々がトラクターやトラックに満載された野菜をピストン輸送で後送し、冒険者が農民や街の人々を構えた盾や武器で護衛する。


 上空を大型の浮遊機の大規模編隊が空挺部隊を載せて、前線を飛び越えて行く、最前線で歓声が上がり志気は高まっていく。

「隊長! 前方の丘に砲台が有るようです! 猛烈な攻撃を受けて前進出来ません!」

「強襲部隊に応援を要請しろ!」

「了解しました!」

 近くで、ジャガイモが炸裂し、付近で収穫に従事していた農民が一斉に伏せる、隊長は激しい攻撃の中、立ち上がり、力強く皆を鼓舞する。

「怯むな! 農家が道を開く!」


 収穫作業は始まったばかりである。


------------------------------------------------------------


 兵員輸送のための十六人乗り大型浮遊機が上空で激しく揺れる。

「地上からの攻撃が予想より激しいです。 かなりの高速で目標地点を通過しますので注意してください」

 浮遊機を操縦する自動人形のメイドが後ろに乗っている空挺部隊に注意を促す。

「滞空は出来ないのか?」

 部隊長が激しく揺れる機内で器用に歩いて、操縦席の傍に来てメイドに提案する。

「障壁を展開していますが、降下の為に展開しますので直撃されては墜ちる可能性があります」

「なるべく固まって降りたいのだが・・・・」

 滞空で出来ない理由は理解できるが、部隊がばらけるのは避けたい。

「他の機と連携して目標地点で旋回しますので上手く合流してください」

 メイドの言葉に納得して、ほんのちょっと冗談を言いながら力強く頷く部隊長。

「分かった! なるべくゆっくり頼むぞ」

 部隊長に無言で頷きながら、真面目に返すメイド。

「もうすぐ、降下地点です。 ご準備を」

「了解した! 全員! 装備を点検しろ! 降下用意!」

 部隊長の声に合わせて、あわただしく動き始める部隊員。

 やがて、赤ランプが灯り、機体横の装甲がスライドする、白い霧の所々の切り目で、青い空と緑の大地が高速で後方に流れていく。

 傍には同じように展開する大型浮遊機と炸裂する対空攻撃。


「旋回します」

 メイドの声と共に、急激に横Gが掛かる、思わず踏ん張る隊員たち。

 緑のランプが点灯。

「行け! 行け! 行け!」

 部隊長の声と共に全部隊が降下。


 部隊長は大気を切り裂きながら自動降下の魔導機で自由落下に近い速度で降下する、障壁を展開しているので対空攻撃は気にしなくて良いのは好いのだが、頭を下にして落下するのはかなり恐怖を感じる。

 安全に降下できると分かっていても、何人かの隊員は自動操作を解除して手動操作に切り替え急激に降下速度が減じ、地表から狙い撃ちにされている。

 部隊長は予定通り、地表付近で急制動が掛かり軟着陸、すかさず近くを転がっていたカボチャを解体し周囲を確認する。

 何人かの隊員を発見したが、多くの隊員はばらけて降下してしまったようだ。

 ハンドサインで周囲にいる者に集合をかける。

 彼の周囲に集まる部隊員たち、見慣れない顔も在る。

「おい、お前はどこの隊だ?」

「自分はB部隊です」

「私はCです」

 見事にばらばらである、隊長は少し考えてから。

「仕方がない、臨時に部隊を編成する。 誰か地図を持っていないか?」

「私が持っています!」

「貸せ!」

「はい!」

 部隊長は地図をその場で広げて、現在位置を確認してから。

「当初の予定通り前線まで道を切り開きながら、孤立した他の隊員たちと合流する! いいな!」

「「了解!」」

「よし! 行くぞ!」

 手近の野菜を収獲しながら前進を始める。


------------------------------------------------------------


 野菜畑の手前、臨時の指令室ではカズマとサクラが難しい表情で顔を突き合わせていた。

「思いの外、手間取るな」

「私たちが出ても余り変わらないみたいね」

 カズマの呟きにサクラがため息交じりに返す。

「ああ、全開で刈り取ったら、原型は留めていないだろう」

「むしろ、収穫なんて慣れていないから、農民より遅い位だよ」

「普段から畑仕事もすれば良いんじゃないのか」

「そうだな・・・」

「そうね・・・」

「「?!」」

 二人以外の第三者の発言に思わず、声のした方に振り向くカズマとサクラ。

「いや~、やっぱり、朝のコーヒーは旨いな!」

 どこから持って来たのかソファー座り、優雅に足を組みながらコーヒーを飲むチヒロ。

「「・・・・・・」」

 思わず固まる二人。

「うん? どうした二人とも、固まって?」

 心底、不思議そうに首を捻るチヒロ。

「「・・・・・・」」

 まだ、凍結中の二人。

 チヒロは取り敢えず、コーヒーの続きを楽しむ事にした。


 チヒロが二杯目を飲み乾した時になって、ようやく解凍されるカズマとサクラ。

「お前、なんで此処に居るんだ?」

 冷たい声で問いただすカズマ。

「うん? 朝のコーヒータイムだけど?」

 なに、当たり前の事を聞くのだと言った態度のチヒロ。

「そのソファー何処から持って来たのかしら?」

 絶対零度の声で問いただすサクラ。

「自分の部屋からに決まっているだろう」

 二人の声の温度に気づかず、無意味に胸を張るチヒロ。

「「・・・・・・」」

 目で語り合う二人。


 サクラは無表情の平坦な声でカズマに尋ねる。

「ねえ、カズマ」

 カズマも平坦の声で返す。

「なんだ?」

「蹴っていい?」

 主語を省いた簡潔な言葉。

「よし、やれ!」

 脊髄反射で許可。

「ありがと♬」

 満面の笑みで返す。

「?」

 よく分かっていないチヒロ。


《ドカンッ!》


 ソファーごと、野菜畑の方に放物線を描いて飛んで行くチヒロ。


最大戦力、野菜畑に降臨!

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