外伝 勇者召喚 その弐
ようやく再開します。
この連載は不定期連載です。
神聖テラリュル皇国 教都テラスの近郊の森。
「セイ!」
『ガァアアアッ!』
マサトは灰色の巨大なクマに愛用の剣で一撃を与えたが、踏み込みが遠い所為か浅い傷を与えただけで終った。
巨大なクマ(キラーグリズリー)は傷つけられた事により一層怒り狂い、彼にその強大な爪を叩き付けた。
マサトは辛うじて左手に装備した盾で受け止めたが、格下の相手にも拘らず後退を余儀なくされた。
それを見てクマは追い討ちをかけようとさらに前に出ようとするが、右のわき腹に立て続けに矢が命中し気勢をそがれる事となった。
『ゴォッ!』
怒りと激痛の叫び声が森に響き、矢の放たれたほうに怒りの視線を向ける。
「マサト! 体勢を立て直せ!」
「わっ わかった!」
木の上から矢を番えたセイジが彼に注意を促す、マサトはクマの注意をが逸れた機に呼吸を整え、剣を構えなおす。
「こっちを向け! デカ物!」
セイジが登っている木を揺するクマを挑発し、注意を自分に向けさせる為に後から剣を突き立てる。
『ギッガガガ!』
クマの叫びと共に死闘が再開された。
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切り株に疲れきり脱力して腰を下ろした男性二人に女の子二人が気遣いの声を掛ける。
「大丈夫?」
「ああ・・・、大丈夫だ・・・」
マサトは、ナルミから手渡された水筒を奪い取るように受け取り水をがぶ飲みし一息ついてから、何とか返事を返す。
「セイジさん、平気ですか?」
最年少のヨーコがセイジを気遣う。
「あっ、ああ・・・、何とかな」
セイジは、震える両手をこすり合わせながら、何とか震えを取ろうと努力する、クマの一撃が登っていた木に命中して、転落しそうになったのだ。
マサトとセイジは暫く動こうとしない、身体的な疲労より、精神的な疲労が二人を疲弊させていた。
「「・・・・・・」」
暫く沈黙が森の中を満たす、耳に残るのは風で揺れる葉の擦れる音だけ。
どれ程、黙っていただろうか、何とか呼吸と心拍を落ち着かせた二人。
「おそらく、慣れなのだろうな・・・・」
始めに、セイジが何とか声を絞り出した。
「手ごたえが・・・・、ゲームとはまるで違うんだよ・・・・」
自らの手を見詰めながらマサトが後を続ける。
「ああ・・・、そうだな。 あの感覚は女の子には辛いだろう」
「私は平気だよ」
前衛系のジョブを持つヨーコは気丈にも明るい声で返すが、明らかに足が若干震えていた。
セイジとマサトは思わず顔を見合わせて、同時に苦笑を浮かべる。
「ふっ、無理するな。 慣れるまでは俺達が前衛を勤める」
「頼むから暫くは後にいてくれ、その内嫌でも前に出る事になるから」
「でも・・・・」
「二人の言う通りよ。 ようやく二人の連携が遭ってきたのにヨーコちゃんが前に出たら、二人ともあなたを気にして動けなく為っちゃうわ」
渋るヨーコをナルミが説得する。
「そう言うことだ、後方から冷静に観る人間がいないとな」
「そうだな・・・、唯一の回復役が前に出てくるのは無しで頼むよ」
「うん、分かった。 でも、危なくなったら前に出るからね」
何とか納得して返事を返すが、自分の意思だけは曲げる気は無いようである、もっとも、二人で抑えられない事態になったら三人とも逃げる気でいるのだが。
「了解した」
「ああ、頼むよ」
「ええ、その時はお願いね」
暫く、和やかな雰囲気が辺りを包んでいた。
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「これから如何しようね?」
ナルミの口から、何度目かになるのか分からない呟きが思わず漏れる。
「僕達をここに呼んだ連中の言う事を聞くしかないのかな・・・」
「でも、あいつ等の言っていること理解できないよ」
マサトとヨーコが神聖テラリュル皇国に対する正直な感想を言った
「逃げる事は出来ない、帰る方法も不明。 なら、当分の間は、俺達を呼んだ奴らの保護が必要だな。 何をするにも先ずは情報と力が必要だ」
纏め役で最年長のセイジが話を纏める。
「情報は解るけど、力って?」
「そう言う事だ。 連中に俺達の価値を認めさせなくちゃいけない」
「勇者をしろと?」
「そう言う事だ、その為には力をちゃんと使える様にならないとな」
その時、四人の頭上に黒い影が落ちる。
突然の日食に、その場にいた全員が思わず空に視線を向けたとき、強大な物体が視界を埋めた。
「かっ! 回避しろ!」
セイジが横に飛び跳ねながら大声をあげ、反射的に全員が転がるようにその場から離れた。
《ズガッン!!》
『グッガガガッガ~~!』
重苦しい地揺れと共に、金属を噛み砕いた様な叫びが辺りにこだました。
赤黒い鱗に覆われた長大な身体、この世界の人々の抗う事の出来ない存在の一つ。
【火竜】
マサト達は辛うじて、直撃を受けなかったが、回避した場所で一歩も動く事が出来なかった。
普段のマサト達なら、苦も無く処理できる個体だが、遥かに格下のキラーグリズリーですら苦労する今の彼らでは歯向かう事や、ましてや逃げる事すら不可能な相手である。
火竜の雄たけびが彼らの前で響き渡る、絶対者の咆哮が。
『ガァアアアア!!』
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教都テラス、教皇の執務室で部屋の主が書類にサインを入れながら部下からの報告を聞いていた。
「御指示通り、竜香を森に撒いておきました」
「うむ、ご苦労・・・・」
教皇は顔を上げる事無く、手を振るだけで退室を促す、何時まで経っても退室する様子が無い、何か躊躇う様な気配を発している。
「何か聴きたい事でもあるのか?」
部下は言葉を発して良いものか躊躇っているようである、その様子に苦笑を浮かべながら。
「かまわん。 申してみよ」
「はっ、恐れながら申し上げます。 本当に宜しかったのでしょうか、勇者達に竜香を使い竜を嗾ける事が・・・」
【竜香】 近隣の竜を呼び寄せる魔法の香である。
無作為にその場所に肉食の竜を呼び寄せるため、取引や所有するだけで罪に問われる、街中で所有しているだけで斬られても文句の言えない特上の禁制品である。
教皇はここで初めて顔をあげ、部下に鋭い視線を向けながら離し始める。
「必要な事だ、我々が必要としている勇者は竜を退ける力が無くては為らない」
部下は教皇の言葉を聴いて、思わず息が止まる思いをした。
「それでは、勇者達が敗れる事になった場合は・・・・」
「竜の顎から逃れられない弱き勇者など不要だ」
部下は教皇の真意を悟り、静かに一礼して退室した、一人残された教皇は再び書類の処理に没頭しながら、誰にも聞かれる事の無い独り言を呟く。
「勇者など、幾らでも呼ぶ事ができる。 我らに必要なのは、我らの剣となる勇者なのだから」
お待たせしました。
次回は明日の夜の予定です。




