古代の英知はカビだらけ 侵略するならドアのノックが礼儀でしょ
田舎者は礼儀知らず?
海の上空を無数の黒鉄の飛空戦艦群が魔力を撒き散らしながら、ゆっくりと西から東へと行く。
全長500mを超える城砦状の空中要塞を旗艦とした、新生ヴァン=オルグ征国の所有する全戦艦を投入した東征艦隊である。
この艦隊を製造する為に征国が征服した西方大陸のあらゆる資源を食い尽くし、征国以外の民は塗炭に喘いだほどである。
船団の中には征国の全軍だけではなく、全国民が収容されており、この飛空艦隊こそが征国そのものである。
空中要塞で一番見晴らしの良い大きな船室で総帥と呼ばれている男が静かにワインを傾け、窓の外に見える無数の艦隊をみながらこれからの計画を考えていた。
すでに先鋒として四死天将を向かわせた、征国最強の彼らの事だ、既に目標の蛮族の街を焦土に変え更地にしている事であろう。
これほどの部隊を投入した侵略である抵抗は無意味であろうし、四死天将が蹂躙した地を足掛かりに東方大陸を制圧し、やがては全世界を征服する。
「ふっふふふ・・・、踊れ! 踊れ! 我に供物を奉げよ・・・。 神世時代の再来の為には蛮族の血と骸が必要なのだ・・・」
グラスの中の赤い液体を太陽に透かしながら、男はどれ程の血と骸が大地を埋め尽くせるか夢想する、男の野望は何処までも大きく、そして自己中心的であった。
艦隊はイナゴの群れの様に大地にある全てを食い尽くす為に東へと向かう、おそらく夏祭りの最終日に艦隊はエルタスの西に連なる山脈を越える事となる。
だが、彼らは気が付いていなかった、艦隊を遥か上空から見張る者の眼がある事に・・・・
------------------------------------------------------------
エルタスの街の早朝、夏祭りは最終日を向かえようとしていた、何の目的も無いまま続いていたかの様な祭典も今日で終わりである。
この日は夏祭りの期間中、最大の集客が予想されるだけに、商売人から市民に冒険者まで、異様に気合の入った状態になっていた。
そんな中、多くの人が街中に設置された奇妙な物体に首を傾げることとなる。
それは全高5mほどの塔に見えるが、カバーに覆われていて何であるかは確認できず、警備の人に問合せても祭りの舞台装置の一つとしか回答が無く、その回答に対して疑問に思った者も祭りの騒ぎの中で忘れていった。
飛空艦隊が西の山脈を越えるまで約六時間。
------------------------------------------------------------
飛空艦隊というより征国そのものが山脈を挟んでエルタスの西側まで進出し、部隊の部隊の展開を始めた。
戦闘艦は魔道砲での攻撃を準備し、全高10mの騎士型魔道機が発艦し空中で編隊を組み、大型輸送船上では小型の兵員降下船に兵士を満載して、出番を今や遅しと待機していた。
四死天将の行方は分からず、更地と成ったはずの街がまだ在るなど、若干の手違いはあるが、概ね侵攻は計画通りに進もうとしていた。
空中要塞の司令室では総裁と呼ばれている男が部下から報告を受けていた。
「閣下! 全部隊の展開が完了しました!」
総裁は目の前に展開する部隊に満足し、全軍に向けて司令を発した。
「全軍! 進撃せよ! 盗人共から我が国の技術を! 蛮族共から我が国の国土を取り戻すのだ! 繰り返す! 進撃せよ!」
艦隊から地鳴りの様な歓声が聞こえる。
総裁の命を受け、司令室は人が動き回りにわかに慌しくなった。
「全艦! 魔道砲による制圧射撃を開始せよ!」
「全騎士団が進撃を開始しました!」
「兵員降下船は発艦開始」
「全艦! 射撃しつつ進出開始!」
男は司令室に飛び交う命令や報告に満足していた。
全船の全臣民は、船の窓の外で色取り取りの魔道の輝きが山脈を越えていくのを観て興奮し、意味の無い歓声をあげていた。
彼らは疑いもしなかった、征国が再び神世時代の再来を目指して戦争を始め、そして勝利を掴む事を。
------------------------------------------------------------
エルタスの街の昼過ぎ、中央公園のカフェテラスではエレェリアが従者の人馬型機獣の「やまと」と「むさし」を連れ一息入れていた、周りの人々はそんな彼女らの様子を遠巻きにそれとなく観察しながらも、決して目を合わせようとはしなかった。
金属製で全高5mのやまと達が周囲を無闇に威圧している事を、気付いてんだか気付いていないんだか不明だが、エレェリアは食後のデザートを楽しみに待っていた。
《カチッ カチャッ カチャ》
「オッ! オマタッ セシマシタ!」
声が完全に裏返り、身体を振るわせ、食器の音をたてながら、青い顔をした気の弱そうなウェイトレスがケーキと紅茶を持ってきた。
「ありがとうございまス♪」
誰もが魅了するエレェリアの笑顔も、震える少女には何の慰めには成りはしない、おそらく、裏側では壮絶な押し付け合い行われた事であろう。
「シッ シッ シツレイシマス」
手早く配膳を済ませ、格闘ゲームのキャンセル技さながらの勢いでその場を足早に離れようとする少女をむさしが呼び止める。
『マテ』
「ヒッー!」
悲鳴と共に直立不動に凍り付き、機械仕掛けの人形の様に振り返る、すでに顔面蒼白で気絶しそうである。
『テヲダセ』
少女は今までの人生を走馬灯で回想し、あの世で祖母(存命)が手招きしているのを幻視した。
「ハッ ハッヒ!」
むさしはそんな少女の様子を不思議そうに見ながら、彼女の前に巨大な手を器用に操り金貨を差し出す。
『ちっぷダ、ウケトレ』
金貨を受け取った少女は安堵の為、今度こそ立ったまま気絶した。
その時。
街の上空で何かが煌めき、光が乱舞した、街を覆う結界に魔道砲の攻撃が接触したのだ。
人々は祭りの演出の一つと思い歓声をあげた。
エレェリアは紅茶を飲みながら、不愉快な気分になり思わず愚痴をこぼした。
「いやネ~、これだから田舎者ハ。」
ケーキをホークで突っ突きながら。
「侵略にくるなラ、先ずはドアのノックからでショ。 礼儀知らずネ~」
次回はフルボコかな?
次回は
『古代の英知はカビだらけ 射的の景品は何ですか』




