異世界のはじまり 食欲は剣よりも強し!
元は「ペンは剣よりも強し」
食料事情の改善のしかた。
「牛を飼いたい。 鶏が欲しい・・・・ はたけ・・・」
「「・・・・・」」
とりあえず、住む所や工房、農場を整備して数日。
チヒロはおもむろに、自らの欲求を呪詛と共に吐き出していた。
この世界では ヴァーチャルではなく本当に畑を耕し家畜の世話をする事が出来るのだ。
しかもこの数日間、村の手伝いで実際に農作業を体験したせいで、箍が外れたみたいである。
どうやら異世界に来て、趣味の農耕熱 牧畜熱が悪化したようだ。
「牛乳・・・・。 玉子・・・・。 野菜」
周りで聞いている方の精神値が、ガリガリ削れていく様な呟き洩れ出ている。
そんな中、チヒロの従者である熊獣人の影丸が、主の常軌を逸した言動に全く動じず。
主と違い落ち着いた表情(熊顔)で正座で番茶を飲みながら素朴な疑問を出した。
「主よ。 家畜などはどの様にして手に入れるつもりだ? 家畜には出産の時期というものもあろう?」
「うむ~・・・・・」
その言葉に、少し冷静になって考えをめぐらすが。
エレェリアが優雅に紅茶を飲みながら。
「いっそうの事、自分で採って来れば良いんじゃないんですカ?」
何気ない一言。
「!」
彼女の余計な一言で事態は思わぬ方向に進み始めるのであった。
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彼らはその森に陣取り、既に三日の日数が経過していた。
交代で休みを取りながら、目の前の草原にそれ(・・)が来るのを、ただ、じっと待ち続けていた。
来ないのか?
いや! 必ず来る!
この辺り近年、奴らの周遊コースとなっている、そう、渡り竜の群れの・・・・・
[渡り竜]
全長約10m 翼幅30m 羽毛に覆われた二翼四足のドラゴン、毎年決まったコースを周遊する。
群れの規模が変化するごとに縄張りの周遊コースが変化する。
雑食だが、滅多に人を襲う事は無いがコース上に入った畑や放牧地などは尋常でない被害を受ける
だが、上手く飼い慣らす事によって強力な竜騎士となる。
討伐対象、又は捕獲対象である。
王国騎士団と冒険者の合同捕獲作戦。
総人数100余名の部隊、後方の支援隊を含めれば全体で500名を超える大規模な部隊となる。
これだけの人数を動員した理由は、確認された群れの規模だ、大小合わせて30~35体。
全体を統率する騎士隊長は自身の天幕で考えをめぐらせていた。
全ては無理でも群れの半数でも捕獲できれば、王国の戦力は大幅に強化できる。
先ずは、動きがまだ鈍い幼竜を生け捕りにして親竜を牽制する、群れの絆が強い渡り竜ならこの方法で無力化は容易であろう。
むしろ、扱い難い成竜は討伐して、幼竜を捕獲し躾ける方が後々王国の為に、いや自分の為になると。
この功績があれば、将来は騎士団長だけでなく近衛騎士への出世も夢ではない。
隊長は天幕の中で自身の将来が非常に明るい事に満足していた。
また、この作戦に参加した冒険者の心情も似たようなモノであった。
大人しいとはいえ、竜を殺した名声と竜の素材を使った装備、捕獲に成功して王国に引き渡せば一年は遊んで暮らす事が出来るだけの報酬が約束されている。
彼ら前衛の眼は欲に塗れていた。
昼下がり。
物見からの狼煙が上がる!
事前の予想どうり方角は北西から進入。
目の前の草原には、群れの餌となる野菜と大好物の果実の山。
最初は匂いに釣られて、針路を草原に向けたが。 直ぐには舞い降りず周囲を回り続けていたが、偵察のため数頭が舞い降りてきた。
警戒しながら接近。
匂いを嗅ぎ、一口、二口。
奴らは匂いに敏感だ、ほんの一寸の異変を感じたら、決して口をつけない。
薬品を混ぜるなど論外だ。
数頭が食べ始めたのを機に、群れ全体が舞い降り、食事を始める。
包囲は既に完成している。
後は、この腕を振り下ろして、一斉攻撃するだけ。
まさに腕を振り下ろす。
『ピィーッ!』
草原と周辺の森に、鋭い泣き声が響きわたった。
人や竜が、そればかりか周辺の全ても動物が空の一点に視線を向けた、否、向けざるえなかった。
そこにいたのは、クリーム色の羽毛に包まれた小竜。
その眼には知性の輝きがあり、自身に向けられる竜の群れの視線を一心に受け、その眼で何かを語っているかのようであった。
誰もが動けなかった、体長1m弱のその小竜がその場の全てを支配していたのだ。
再び首を振りながら、一声!
『フィーッ!』
その時、渡り竜が一斉に羽ばたき宙に舞い、北の一転を目指して飛び去って行った。
その間、小竜は決してその場から動かず、全ての竜が飛び去るのを見届けてから、その場にいた全てに対して別れの挨拶をする様に優雅に二度ほど旋回してから、群れと同じ方角に飛び去って行った。
騎士達も、冒険者達も小竜が飛び去るまで一歩も動くことが出来ず、その小竜から目線を外す事も出来なかった。
その場にいる者で出来ることは何も無かった。
後にその光景を眼にした多くの騎士や冒険者が異なる口で語る「まるで群れに向かって『さあ! 行こう!』と命令しているようだった」「あの小さな竜には王者の風格があった」と、彼らは後々まで語り継ぐ事になる。
小さき竜王の物語を。
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それはさておき。
ミウは無事に群れを誘導した、小竜のクッキーを抱き潰さんばかりに可愛がっていた。
「よくやったね! クッキーちゃん! チヒロ兄も喜んでいるよ♪」
「クッルー!」
甘えるようにひと鳴き。
「約束だからね! ご褒美にナッツあげるね♪」
「ピィ~ッ♪」
クッキーは好物の大量のナッツを主から貰ってご満悦である。
一方、牧場予定地では大量の渡り竜の前では。
「ワッハッハハハハッ ハッ! ゲホッ ガホッ ゴホッ!」
チヒロは少々、壊れていた。
「いいぞ! 凄くイイ! 来た! 来たぞ! オレの時代が!」
何の時代だか、いまいち不明だが、彼は非常に機嫌が良いようだ。
あ、竜に頭から咥えられた。
「はっはっはっ! こいつ! 甘えちゃって♪」
甘噛みでは無いと思われるが、あ! 何か咀嚼されている様な。
「はっはっ! よせよせ! グエッ」
あっ 吐き出された。
やはり、食えなかったか。
その様子を見ていた(当たり前の様に助けなかった)、エレェリアが素朴な疑問を一つ。
「とこれでチヒロさン。 この子達どれくらいの頻度で玉子を産むんですカ?」
チヒロは涎まみれながら、少し冷静になり。
「そうだな~。 そんなに多くは無いだろうな・・・」
「如何するんですカ?」
「ま~。 それは~。 アレ(・・)して、コレ(・・)して、ナニ(・・)すれば何とかなる」
彼女は彼の発言に少々不安なものを感じながら、具体的な内容を問い詰める。
「アレ(・・)とコレ(・・)とハ?」
「ほれ! 他の種と合体だとか、進化だとかその辺だな~」
それでは〇神転生や〇ケモンですよ・・・・
彼女がゲンナリするのをおかまいなく、チヒロは上機嫌で自らの欲求を話し続けるのだった。
「欲を言えば、後50~60くらい欲しいな。 そうすれば・・。 ナニして・・・」
「・・・・・。 聞かなかった事にしまス・・・・」
懸命な判断です。
その会話の横で、凄い勢いで竜舎を建て増ししていた(分身の術?)マイヒメが手を止める事無く。
「ね~! 何か食べるもの持ってきて」
その後
「フッフフフ。 次は・・・牛か・・ 豚か・・・・」
「なぁ~、カズマ! べヒモスてこの世界にいると思うか?」
「知るか!」
一方
「ねえ、カズマ。 マイヒメに犬小屋作ってもらっていい?」
「犬小屋? またなんで?」
「ライオンちゃんとタイガーちゃんが散歩してたら拾ってきたちゃったのよ」
「拾ってきた?」
「そうなのよ。 喧嘩吹っかけてきたから、ひと睨みしたらしたら、お腹出して服従したんだって」
「ふ~ん。 躾の方は大丈夫か?」
「うん、平気。 さっき見て来たら、お腹出して撫でたら気持ち良さそうにしていたから」
「まあ、それなら良いんじゃないか。 ところで、どんな犬なんだ?」
「黒くて、大きくて、口から火吐いて、あと頭が三つあるわ」
地獄の番犬も所詮は犬よ、狼の敵では無いわ!
クッキーの指示は。
「鳥っぽくて、玉子産みそうで、大きくて、数が多い動物連れてきてくれ」
「鳥っぽくて」 羽毛に覆われいます
「玉子産みそうで」 当然、卵生です
「大きくて」 全長約10mは小さいとは言わない
「数が多い」 30体以上います
[渡り竜]は全部当てはまりました。




