DAY-07 天叢雲剣
大変長らくお待たせしました(礼)。
文章が上手くまとまらず、何と1万字を超えてしまいました(汗)。
物語の構成上、二話・三話に分ける事が困難でした(礼)。
アメリカ合衆国 ワシントンD.C ホワイトハウス 大統領執務室
大統領の執務机には情報端末だけでは無く、数多くの写真や文章が散乱していた。
「現在、確認されている生物は・・・・。 あえて生物と表現しますが、大別するならば三種の種類と、二つ個体差で分類可能です」
「全部で6つの個体か・・・・」
「収集された資料によると大きさが違うのは、雌雄の差となっているが?」
「現在、判明している事柄を統合すると、そうなりますが」
「が?」
「今後の研究や、情報の精度次第では覆る可能性があります」
「・・・・それでは、まだ何も解明していないのと同じではないのか?」
「この個体・・・、あえて表現するならば"ドラゴン"と呼称される事になる生物は、出現・・・、生まれるのでもなく、発見されるのでもなく、"出現"してから日数が極めて短く、食性、生態、能力、何もかもが不明で、今まで地球上に存在していた、古今のあらゆる生物の常識からかけ離れた"存在"なのです」
集まった閣僚や軍人たちは渡された資料を片手に隣に居る者を捕まえ、意見を交わす、執務室内はにわかに騒めき、一気に騒がしくなった。
《トン、トン、トン・・・・》
指が机を叩く音が静かに耳に入る。
その音を聞いた者は、その意味をさとり、しゃべるのを中断し、音のする方を注視する。
最初は、音に気付かなかった者も、意見を出し合っていた相手が、いきなり沈黙した事に気付き、訝しがり、音に気付き、沈黙するのであった。
いつしか、執務室内は静かになり、大統領はいつもの癖で机の天板を指でリズム良く叩き、考えを纏めていた。
「・・・・・・続けてくれ」
「はい」
報告者は端末を操作し、メニューから、"A"と名前の付けられたフォルダを選択する。
「先ず、ファイルAをご覧ください」
回線で接続され同期された他の端末にも同じ情報が表示される。
「種類識別"A"、通称『Ayrエア』。 翼面積が他の種とは違い大きく、小さな翼や垂直尾翼に似た翼も確認されています、推測ですが飛行に特化したドラゴンと思われます」
次に、画像や動画から推測された3Dデータと、幾つかの動画が再生される。
「モデリングデータでも確認されますが、大型の旅客機より大型の生物にも関わらず、音速超過で飛行、尻尾を利用した重心移動で驚くほど小さい旋回半径が確認されていますが」
一つの動画の画面が拡大される。
「先日、西海岸沿岸で撮影された映像です。 映っている戦闘機は最新鋭の高機動戦闘機です」
そこには飛行するドラゴンと、ドラゴンの後ろを取り、追尾している戦闘機が映し出されていた。
画面内を、目まぐるしく動き回り、何度となくフレームアウトしていたが、音速突破を突破した事を示す衝撃波が映し出されていた。
「追尾している機の両機が撮影した映像です・・・・」
映像が一旦静止され。
「次の瞬間です」
言葉と共に再生される。
カメラが激しく左右にブレ、ドラゴンがいきなりフレイムアウト、追尾していた戦闘機が炎と黒煙を撒き散らし爆散したのである。
「!?、何が起きた!」
「ドラゴンの攻撃か?」
「後ろに? 後方攻撃の手段か?」
「この映像を高解像度処理を施し、CGで補正した映像を、スローで再生します」
誰もが携帯端末に注視する中。 一つの画面が拡大され、問題の個所が再生される。
ドラゴンと戦闘機が画面の右から左に向かって飛行していた。
画面下に両者の推定速度が表示されていた。
両者の速度は推定M1.5超。
次の瞬間、ドラゴンが急に身体を起こし、周囲に白い水蒸気をともなった衝撃波を撒き散らす。
ドラゴンの推定速度はいきなり0を示す。
後ろから追尾していた戦闘機は、衝撃波の白い幕にまともに突っ込んだ。
そして空中分解、炎を吹き出し爆発した。
室内に沈黙が支配する。
誰もが驚愕し、絶句していた。
「収集したデータを解析した結果、可能性として最も有力なのが、重力制御の能力を有すると思われます」
「重力を!!」
「どの様な器官を有していると言うのだ?」
「いや! あの巨体ではそれも有り得るか・・・」
室内が再び騒めく、それに構わず解析管が言葉を続ける。
「あの巨体と翼面積の比率では、通常ですと浮かぶ事はおろか、空を飛ぶ事も不可能です」
端末に次々と飛行中のドラゴンの動画が再生される。
そこには直角に曲がる機動がかわいく見えるほどの空中機動が収められていた。
速度を維持したままノータイムでバックしたり、その場で前後を入れ替えたりしているのである。
この軌道の為、動画では何度もフレームアウトをしてまともに捉えられているのは遠景からの広角撮影した映像位であった。
騒めきの中、手元の端末に表示されている情報を観ていた大統領が、視線をあげる事無く言葉を発した。
「・・・・・他の種についても説明を頼めるか?」
「はい」
再び室内に無言の緊張がはりつめ、誰もが手元の端末に視線をおとす。
今まで表示されていた画像や映像・文章が一旦、消え、代わりに重厚なドラゴンが映し出された。
「次の種は"G"、通称『Groundグラウンド』。 翼はエアより幾分小さく、飛行は長距離の移動手段に限られ、その活動の大半を地上で過ごしています。 そう言う意味では我々人間にもっとも脅威となる種と言えます。 我々が知る、最もファンタジーのドラゴンらしいドラゴンと言えます。 その表面の装甲の厚さを除けばですが」
それは観ただけで全て理解できるような分厚い鱗に覆われたドラゴンであった。
CGで補正された3D画像を観ながら軍関係者は、ぽつりと感想を漏らす。
「これは・・・、あえて説明の必要は無いな・・・」
この感想は、その場に居た全員の言葉を代弁していた。
「・・・取り敢えず、説明を頼めるか? あんまり意味が無いとは思うが」
解析管が指を滑らせ情報を開示する。
「はい。 この種に対しては考えられる限りの攻撃を試しました」
画面に複数の動画が再生される。
「戦車砲・榴弾砲・対戦車ミサイル・設置型のレールガン、最終的には高空からのバンカーバスターの
直撃」
動画では派手に土煙を撒き散らしたり、激しい炎に包まれるドラゴンの姿が映し出され、そして、結果は全て同じであった。
煙や炎が晴れると、画面の中央で丸くなって眠るドラゴンが微動だにせずいびきを唸れせて熟睡していた。
「現場からはサーモバリック爆薬の使用も要請されましたが、おそらく無意味でしょうからやめました」
次世代型の燃料気化爆弾で、空気中の酸素を全て燃焼すると言った効果があり、生物にとっては致命的な結果を齎すが、ドラゴンにそれが通用するのか不鮮明すぎるのである。
実際、効果なんか無いのである。
「後はNBC兵器のどれかです。 これらは大統領の許可が無くては使用できませんが・・・」
NBC兵器(Nuclear Biological Chemical) 核兵器・生物兵器・化学兵器の事である。
いわゆる、大量破壊・大量殺傷兵器である。
これらの兵器は、効果より使った事実そのものが問題視される兵器である。
それ以前に、たとえドラゴンに効果があったとしても、使用された地が、確実に不毛の大地になる兵器など、軽々しく使うべきではないのである。
しかも、核兵器の大気圏内での使用は致命的である。
「許可は出さんぞ」
大統領は鋭い眼と声で周囲を睨み付ける。
「・・・・はい」
報告者は、まだ大統領は冷静な判断が出来ると分かり、明らかにほっとした様に、息を吐き出した。
室内に居た一人が重苦しい話題を変える為に、咳払いをする。
「んっ! ん! こいつは二足歩行なのか? それとも四足なのか?」
「いえ、それはまだ確認されておりません」
「そうか・・・・。 それで最後の種については?」
「はい」
再び端末の画面が切り替わる。
映し出された画像のその大半はCGによる、3Dの推測画像であった。
「最後の種は"S"、通称『Seaシー』。AおよびGの中間の様な形体です。 この種に対しては最も情報が不足しています」
画面に三種の推定される三面図が映し出され、大きさを無視した縮尺で重ねられ、それぞれの体型の違いがかなり大雑把に表示される。
「推測される情報精度が50%を切っています」
それに合わせて、様々な情報が表示されるが、その大半に赤文字で"UNKNOWN"と表示される。
「また、ご承知の通り、我が国の海軍が先の海戦で致命的な損失を被った為、明確な防衛行動が不可能なのが現状です」
その言葉を聴いて、室内に居た全員が一斉に渋い顔をする。
合衆国海軍は、物質的にも金額的にも正に致命傷を被っているのである。
謎の転移現象で人的損失は最小限に思われるが、逆に考えればただ飯ぐらいの役立たずが大量に居る事の裏返しである。
損失額の計上だけで、財務関係のスタッフの幾人かが、そのあまりにもの大量に発生した書類と計算で、ぶっ倒れて病院に担ぎ込まれ、責任者の幾人かが推定される数字を観て、眼科と脳神経外科に駈け込んだほどである。
あきらかに空気が悪くなった事を感じた担当者が(この者は後に、明らかに殺気を感じたと、孫に語っていた)
「みっ! 未確認情報ですが、南極海方面で日本所属の調査捕鯨船とGPとかSSとかに所属するエコ・テロリストの妨害船がS・ドラゴンと接近したそうです」
「・・・それで、どうなったのかね?」
「は~、暫く両者の間を悠遊していましたが」
「が?」
担当者が手元を操作し、動画投稿サイトから拾得していた二つの動画を流す。
「妨害船の方を尻尾で叩き潰して、去って行ったそうです」
「なぜ、妨害船の方を?」
「普通、逆ではないかね?」
「二つの動画を観て頂ければ分かりますが」
二つの動画は調査捕鯨船と妨害船の双方から同じ場面を録画した物の様である。
両船の間にドラゴンの背びれが見えている。
「日本の調査捕鯨船は静かに録画し、適切な距離を保っています」
確かに動画には「距離を取れ」とか「速度に注意しろ」などの声以外しずかなものである、後は波の音くらいしか入ってこない。
一方、妨害船の方は。
歓声やら、奇声やらが入って喧しすぎた。
しかも、接近したり、離れたりを繰り返し、中にはフック付きのロープを引っ掛けて強引に接近し鱗に手を触れて、狂声をあげている。
「・・・・・・説明は不要だな」
「確かに、ドラゴンもイラッとしたのだろ」
妨害船の動画は途中で途切れている。
調査捕鯨船の動画では一部始終だ録画されていた。
一旦、潜水したドラゴンが妨害船の船底を尻尾で打ち上げ、乗っている人間ごと天国への階段ならぬ、ロケットで打ち上げたのである。
大統領はいつもの様に机の天板を指で叩き。
「事前の報告はこれ位でいいだろう。 そろそろ、話の本筋を説明してくれないか」
担当者に話の先を促す。
「・・・・・・・分かりました」
「これは先日、行われた作戦の結果です。 ここに居る皆様には既に大まかな概要を伝えておりますが、改めて説明させていただきます」
僅かな時間で部屋の明かりが落とされ、大型のプロジェクターが用意される。
「ロッキー山脈の西側中腹に核ペレット・レーザーキャノンを12機設置しました」
北米大陸の地図の一部に赤い点が示され、そこから扇状の形が示される。
「射程は意外と短いようだが?」
「本来は"対アダマス"用として分散して配備し、広範囲をカバーする予定でしたが」
西海岸に12個の点が示され表示され、扇が全域を覆うように範囲が広がった。
「ドラゴンの出現に合わせ、急遽予定を変更、集中配備しました」
12のマークが1か所に集約され、一番最初の画面に戻る。
「射程の問題には、戦闘機を使い、射程内に誘導する事にしました」
「それでは・・・・、先ほどの動画は」
「はい、誘導の為の空戦の映像と、地上での挑発の映像です」
先ほど表示した動画を再び再生させる。
「ご覧のとおり"G"は誘導に失敗しましたし、"S"に関してはそもそもそれ以前の問題でした。 そして"A"の誘導には成功しました」
「もっとも核ペレット・レーザーキャノンの試射には"A"が有効なのでこれは予定通りの結果と言えます」
「なぜ? "A"が有効なのかね?」
「"G"及び"S"は、陸上と海中を主な活動地域としている様です、これを攻撃するには地上を薙ぎ払う事になります」
「・・・・なるほど。 被害範囲の予想が困難か」
「はい、空中であれば被害範囲は限定できます。 我々はドラゴンA種の小型クラスを誘導しました」
「小さい方をか?」
「攻撃するなら的の大きな大きい方を誘導すべきなのでしょうが。 大型クラスは時として、こちらが完全にロスト、見失ってしまうのです」
「見失う? あんな巨体をか?」
彼等の言う、ドラゴンA種の大型タイプは100mにもなる巨体である、最高高度の警戒態勢をとっている本土で、旅客機サイズの大きさの航空機を見失う、そんな警戒態勢は欠陥もいいとこである。
「レーダーは素より、空中管制機の指向性レーザー測量および戦術機による光学観測でも無理でした。 大型クラスは、高度なステルスと精度の高い光学迷彩の能力を持つようです。 残念ながら、我が軍の装備ではこれを探知する事は出来ません」
「くっ! やっかいだな・・・・」
彼等の言う所の大型クラス、つまり竜王、エンシェント・ドラゴン・ロードは単純に人の姿になっているだけなのであるが・・・・。
「探知できないとは。 これは脅威だな」
彼等がそれを理解するのは、もう少し後の話である。
もっとも、知ったら知ったで、絶叫して、泡を吹いてぶっ倒れ、病院に担ぎ込まれるだけなのであるが。
「報告を続けさせていただきます。 攻撃部隊に所属する航空機の6割を失いながら、誘導に成功」
エンシェント・ドラゴンにしてみれば、単純に面白そうだからそちらに向かっていただけの話なのだが。
「核ペレット・レーザーキャノン12機の一斉斉射をしました。 それがこの動画です」
端末に動画が再生される。
「スペクトルの関係で本来、レーザーは不可視ですのでフィルター処理をした映像です」
山脈の中腹に突貫工事で設置された砲台から青白い光の柱が出現し、近くに生えていた樹木が瞬時に燃え上がり炭化した。
室内に静かだが興奮した歓声が漏れる。
「次はドラゴンA種の小型クラスを観測していた、戦術偵察機の映像記録です。 二つの映像は再生の時間帯を同期してあります」
レーザーキャノンの映し出されている動画は、砲身の強制冷却の為、猛烈な勢いで白い水蒸気に覆われて行く。
二つ目の動画が表示される、カメラフレーム内で優雅に飛んでいたドラゴンを青白い光の柱が呑み込み、画面がホワイトアウトする。
興奮した声があちらこちらからあがるが、彼等はこの後どうなるか知っている為、非常に控えめであった。
ホワイトアウトしていた映像が通常の状態に戻った時、そこには青白い光の柱に呑み込まれる前と寸分も違わないドラゴンの姿が映し出されていた。
「OH MY GOD!!」
「Jesus!」
ここで一旦、映像が停止し、様々なデータが表示される。
「高密度解析と分析の結果、ドラゴンは何らかの防御手段を形成した痕跡は確認できませんでした」
「・・・・つまり、ドラゴンは素の状態で今の攻撃を凌いだのか? 無傷で?」
「"凌ぐ"と言う表現が正しいのか、その回答、続きの映像にあります」
再び動画が再生される。
突如、ドラゴンはホバーリング、つまり空中に静止する。
戦術偵察機機はその動きについて行けず、一瞬だがドラゴンの姿を見失い、画面がぶれる、カメラが再びドラゴンを捉えたのは、ドラゴンの正面から時計回りで映している時であった。
どうやら、戦術偵察機機は空中に停止するドラゴンの周囲を旋回している様であった。
変化は唐突であった、ドラゴンの咢の前に光が徐々に集約していく。
室内に居る一人が視線をスクリーンから外さずに担当者に尋ねる。
「フィルター処理をしているのか」
「いえ、既に外されています。 これは可視域で捉えられた光です」
スクリーンの中に太陽が出現する。
そして、次の瞬間、光は音も無く一瞬で消失し、レーザーキャノンの状態を映し出されていた映像が突如、ホワイトノイズに覆われブラックアウト。
「この映像はここまでです。 そして同時間帯の遠方で周回していた観測機の映像と、僅かに残った偵察衛星からの記録です」
映し出された二つの映像は山脈の中腹に、突然、白い光球が映し出されていた。
「解析の結果、この光球の表面温度は約6000度、太陽の表面温度に匹敵します」
鉄の融点は1538度、沸点は2862度、つまり、現場には何も残らない事を意味していた。
「しかも、光球の範囲外の温度は一度も変化しておりませんし、気流などの環境変化は観測されませんでした」
担当者はここで一旦、言葉を切り、はっきりした口調で
「この光球は完全に制御されたものです」
そして、担当者が傍らから一つの石を取り出し、目の前に掲げる。
その石は、どこにでも落ちている普通の石だが、半分に綺麗に切断されていた。
「現場に入った調査員から超特急で送られてきたものです」
切断面は非常に滑らかでまるで鏡の様に周囲の風景を映し出していた。
「現地にはこの様なサンプルがごろごろ転がっているそうです」
誰もが言葉を無くし、鏡の様な切断面を魅入られた様に凝視する。
「簡易的な検査でも、切断面からは熱を加えられた痕跡も、力を加えた痕も、一切、検出されませんでした」
それは、つまり、核の様に衝撃波も発生させなければ、放射能も撒き散らさず、定められた範囲だけを完全破壊する事が可能な、いつでも使える大量破壊兵器である事を意味していた。
大統領は照明の落とされた室内で、スクリーン明かりを頼りに、手元にある写真を手で持ち上げ、それを凝視しながら。
「・・・・・後は本当に核攻撃しか手段が無いのか」
白く細い手が伸び、机の上にあるドラゴンの三面図のCG画像を一枚、手にとり、静かな室内に場違いな子供の声が響く。
「デッサンが甘いね。 この角はもう少し長い方がカッコイイと思うんだけど?」
「???!!」
「なに!」
「誰だ?!」
今まで居るか居ないか分からない位に気配を絶っていた、部屋の四隅に立つシークレットサービス(SS)
が素早く反応する。
突如、室内に明かりが戻り、誰もが一瞬、眼を眩ませる中、殺気だった声だけが耳に聞こえてくる。
「武器を捨てろ!」
「両手を頭で組んで跪け!」
その場に居た全員の目が光になれ、眼にしたものは。
SS達に銃を突き付けられながらも、漆黒のゴシック・アンド・ロリータの衣装を身に着けた、茶髪をツインテールにした少女が、大統領の机に腰かけ足をブラブラさせている所であった。
SS達は銃口を少女に向けたまま微動だにしなかった、いや、動く事が出来なかった、それどころか最初の警告を発した以外、一言すら発する事が出来ず居るのである
彼らは、まるで全身に剣を突き付けられている様に感じていた、ほんの少しでも動けば全身がバラバラに引き裂かれるような圧力を感じていた。
少女、ミウは自分に銃を向けた人間い対して、軽く【威圧】を使っているのである。
もし、ミウが制御しない【威圧】を向けたら、SS達は心停止を引き起こしていた事であろう。
恐怖が、彼等の身体を縛り上げているのである。
SS達の代わりに、憤慨した軍服を着た偉そうなマッチョが立ち上がり、ミウに近づき怒鳴り声と共にその身体に掴みかかろうとする。
「ガキが! 何処から入り込んだ? つまみ出してやる!」
怒気で、顔を真っ赤に染めながら、大股で近づき、無遠慮に彼女の方に手をかけようとした瞬間。
《ガッシャンーー!!!》
派手な音を響かせながら、男は室内から消失した。
ミウは人差し指で男を弾き、執務室から外に、文字通り叩き出した。
男は執務室の分厚いガラス(無論、防弾ガラスである)を突き破り、放物線すら描かず、地面に顔面から突込み、顔で芝生を耕し、そのまま動かなくなった。
「無礼者が、着やすく触るな」
室内に残った全員が微動だに出来なかった。
「嫌ね。 か弱い女の子に無遠慮に触れようとするなんて」
その言葉を聞いた全員が、同時に同じ事を思った。
(違う! 断じて、違う! 大柄の男を、指で叩き出す少女を、か弱いとは絶対に言わない!!)
賢明にも、その言葉を口に出す愚か者は、この場には存在しなかった、それは誰にとっても幸運な事であった。
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誰も、動けなかった。
ガラスが割れた事で、執務室での異変を察知し駆け付けてきた兵士達もミウの【威圧】を受け、彫像と化していた。
重苦しい沈黙が支配する室内で大統領が最初に少女、ミウの背後から声をかけた。
「君は、我々をどうするつもりかね?」
ミウは机に腰掛けたまま、頭だけを動かし大統領を正面から見つめる。
大統領は、その澄んだ黒い瞳を正面から覗き込み、自分の全てを見透かされた様な錯覚を感じていた。
「謝罪も、賠償も求めようとは思わない」
「主義主張や、譲れない道はそれぞれが持つ物だから、道が交わらない限り干渉しようとは思わない」
「それでも自らの力を過信し、他者に害を与え、自分だけが安全だと思うのは・・・・」
彼女はここで一旦言葉を切り、室内の全てを見回し、ハッキリした口調で宣言する。
「傲慢だ」
「ミウ達は仏ではないから、三度もチャンスをあげるほど、慈悲深くも無いし。 神みたいに、右の頬を叩かれたら、左の頬を差し出すほど、博愛に溢れてもいない」
「・・・・・・君は、君達は何をするつもりだ?」
再び、視線を大統領に戻し、彼を正面から覗き込み宣言する。
「報復」
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永遠に思える沈黙、執務室内では誰もが身動き一つせず、完全に時間が止まっていたが。
「ふ~」
可愛らしい溜息がミウの口から洩れる。
おもむろに宙を睨み。
「そろそろ時間だね」
勢いよく机から飛び降り、体重が無い様な動作で床に着地する。
「この結果を受けて、どの様な選択をするかは、貴方たちに任せるね」
言葉と共にミウは床を軽く蹴り宙に浮きあがる、上昇と共にその姿は徐々に透け、天井達する頃には空気に、溶けるようにその姿を消した。
永遠に思える静寂の後、最初の変化はSSや兵士達が床に崩れる音と荒い呼吸音であった。
彼等は荒い息を吐き床にへたり込んでいた。
この場に居た全員が全身から力を抜き、深い息と共に椅子に身体を預ける。
「・・・・単なる脅しか?」
「ふっ、ガキのくせに説教とは・・・」
「ふふっ・・・。 所詮は子供だよ、詰めが甘い」
場を支配していた圧力が消えた事で、誰にでも分かる虚勢を吐き出す。
「これからの方針はどうするかね?」
「決まっているだろ。 父祖がそうしてきたように、我々は脅しや脅迫に屈する事は決して無い」
「確かに、今は力を貯める時だ」
「我々には今回の事で、数多くの得難い情報と経験を得た」
「幾年か後は・・・」
「我々の前に、あの連中やドラゴンを跪かせる時が、絶対に到来する」
「・・・・・・・・・・」
大統領は無言のまま、執務室に集まった連中の勝手な言い分を聞きながら考えていた。
(彼等はそんな甘い連中か? 中国がその大地ごと世界から消えた様に、我が国も、ロシアもただではすむまい・・・・・)
大統領はふっと視線を机におとした時、異変に気付いた。
執務机と机上にある全てが青白い光を放ち始めている事に。
(? 何だ?)
大統領が頭をあげ、周囲を見回すと証明の明かりとは明らかに違う光が徐々に室内全体を照らし出しているのに気付いた。
「ん? 何だ?」
「部屋の中が?」
執務室内に居る者達も光に気付き出した
「青い光・・・・・。 放射能だ!!」
「逃げろ!!」
一人の恐怖にまみれた言葉が瞬く間に伝播し、室内は一瞬でパニック状態となり誰もが我先にと扉に殺到した。
そんな中、全てが青白い光に包まれ、そして何も見えなくなり、全員の意識が一瞬だが途絶する。
大統領が我を取り戻し意識を覚醒させた時、最初に感じたのは肌に触れる凍えるような冷気を含んだ夜風であった。
足裏から地面の硬質な感覚が靴越しに帰って来る、椅子に腰かけていた自分がしっかりと地面に立っている事を理解する。
(ここは・・・・・・。 外なのか?)
ゆっくりと目を見開き最初に飛び込んで来た風景は、静かな夜の風景であった。
「・・・・どこだ、ここは?」
最初は自分が全く見知らぬ場所に連れて来られた考えたが、肌で感じる気温は、この時期のワシントンDCと差して変わらない地である事を教えてくれた。
「?」
大統領は、ここで初めてスーツの内ポケットに入れていた携帯型の端末に違和感を覚えた。
シャツ越しに妙に身体に接する所が冷えるのである、急いで取り出してみる。
「これは・・・・・・、硝子?」
彼の端末は部品の一点までガラスに置き換わっていたのである。
それは非常に精巧に造られたレプリカのようにも見えたが、闇に慣れ、遠くから僅かに照らされる光によって細部に目を凝らすと。
部品一点一点までもが完全に透明なガラスに置き換わった、間違いなく彼の端末であった。
しかも、大統領の端末だけでは無く、彼が身に着けていた腕時計までもが、歯車一つ一つから秒針やベルトまでガラスへと、その姿を変えていたのである。
彼の周囲で、同様の変質を確認した者達が騒ぎ出し、徐々に周辺が騒乱に包まれて行く。
大統領の姿を確認したSSや兵士達、高官たちが、彼の周囲に徐々に集まり出し、誰もが不安そうであった。
SS達が大統領の周囲の警戒を始めるが、彼等の手にある物は、内部の構造が良く分かる拳銃やライフルの形をしたガラスであった。
彼等はまだ知る事は無いが、この現象はホワイトハウスを中心に半径5kmの全ての人工物が硝子へとその姿を変えているのであった。
ビルも、自動車も、アスファルトも、街頭も、ノートパソコンも、ゲーム機も、冷蔵庫も、ソファーも、ベットも、ありとあらゆる無機物が、文明の利器が、地表、地面の中、関係なくその姿を単一の結晶物質・ガラスへとその姿を変えていたのである。
これらのガラスは何らかの"保護"が施されているらしく、どんな力で叩こうとも、どんな高温で炙ろうとも、その姿を変える事は無かった。
やがてこの街・ワシントンDCは、硝子細工の街『虚栄の記念碑』として後世に語り、受け継がれて行くのである。
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ワシントンDC上空に二つの人影が浮かんでいた。
ミウが隣で、空中で胡坐をかいているドワーフに声を掛ける。
「オヤカタ、手間かけちゃったね」
「何の! 金に変換するよりは、楽な作業じゃったわい! はっはははは!!」
オヤカタは、眼下を眺めながら豪快に笑い飛ばす。
「それより早く帰ろうぞい! 花火と酒を見逃したとあってはドワーフの名折れよ!」
「そうだね」
ワシントンDC上空で二つの人影が、突如、消失する。
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ワシントンDCのガラス化の範囲はホワイトハウスだけでなく、国防総省も巻き込んでいた。
当然、ガラス化した電子機器にデータや電気は流れる事無く、その機能を完全に停止していた。
そしてワシントンDCの機能消失は、政府機関の停止だけでは無く、陸上の核兵器配備基地や、深海に身をひそめる戦略原潜のコントロールを失う事を意味していた。
彼等は定められた手順に従い、ワシントンDCに何とか連絡を取ろうと努力し、それを暫く繰り返していたが、その努力は報われる事無く、タイムリミットを迎えてしまった。
そして、多くの兵士達が己の使命を全うするために行動を起こすのである。
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地球 大西洋 海中 アメリカ海軍所属戦略原子力潜水艦「ポール・バニーヤ」
「・・・・最終確認 国防総省およびホワイトハウスからの中止命令は?」
「ありません!」
「・・・・・・安全装置解除」
「チェック! OK!」
「・・・・コード確認」
「システム・オールグリーン!」
「・・・・・艦長」
「副長、キーを。 ・・・・・カウント・スタート」
「カッ カウント! スタートします!」
「10・・・・5・・3、2、1」
「全弾・・・・、発射を確認・・・・、全弾頭、異常なし・・・・」
「神よ・・・、我らの罪を許したまえ・・・・・」
おかしい・・・・。
ワシントンDCでの会議
ミウ参上
都市のガラス化
核の発射
単純な構成の筈だったのに・・・・。
次回「DAY-07 草薙剣」
同時刻のロシア・モスクワの話。
次回はもう少し短いかな・・・(汗)。




