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DAY-06 NEWGAME+

会議もグダグダ。

日本国 東京 首相官邸会議室



《ゴッチン!》

 応接室に盛大で澄んだ音が響いた。


 矢吹総理が盛大に頭をテーブルにぶつけ、突っ伏しているのである。

 周囲の秘書官や側近たちは勿論の事、急遽、呼び出され同じ会議用テーブルに着いていた閣僚たちも、そして護衛のSP達も固まっていた。

 分別のあるいい大人が、ましてや一国の宰相のする態度では無い事は、彼自身が重々承知している。

 だが、思わず態度に出てしまうくらい、彼女のエレェリア=アリシア・T・サインの話は衝撃があった。


 細長い会議用テーブルの反対側に着いていた彼女は・・・・・

「う~ン、このジャムもなかなかでス」

 自ら持ち込んだ白磁に似ているが全く別物のアフタヌーンティーセットで、紅茶に似た何かを飲みながら。

 3段のケーキスタンドから、ケーキやスコーンを摘まみ、優雅に午後のひと時を楽しんでいた。

 平常運転アクセル全開である。


 奇跡的に一番最初に復帰した矢吹が、ノロノロと身体を起こしながら。

「・・・・・・話を整理すると」

「(もぐもグ)・・・・・・はイ」

「魔術を行使する集団に因縁を付けられ、異界の亜人を呼び出され、結果的に400人ほどの外国人が都内から消えたと?」

「返り討ちと言うよリ、自滅ですけどネ」

「それは、どうでも良い」

 ソファーに身体を預け天上を見上げ、眼の間を軽く揉む。

 なんだか、疲れが一気に来た様な気がしていた。

「・・・・・それで、後始末をこっちに振ったと?」

「その通りでス!」

 誰もが見惚れる天使の様な美女が、可愛く言ったものだから、非常に魅力的なのだが。

 尻拭いをさせられる方にとっては、天使の翼ならぬ、悪魔の尻尾が見えそうである。

「他の解決方法は?」

「・・・・・さ~、一番手っ取り早い方法をしただけですんデ」

「・・・・・・(少し考えれば、思いついたんだな)」

「あッ! でモ、大半は不法入国らしいですかラ、それほど面倒では無いと思いますヨ」

「・・・・・・そう言う、問題では無い」

 矢吹によって能力を買われ、臨時に任命された法務大臣が頭を抱えながら横槍を入れる。

 現在、非常事態な為、人々の国内の移動をある程度制限しているとはいえ、国民と外国人の所在の確認と、出入国の記録との照合などなどなど・・・・・・。

 彼は事務系の仕事に明るい、その為、これからしなければならない膨大な乱雑な処理を思い浮かべ、今すぐ、ベットに直行して寝込みたくなった。

「それに、魔術結社だと・・・・・・・」

 防衛大臣がこれから問題となる治安や機密保持の事を考え、隣に座って居る警察庁長官と小声で相談を始める。

 しかも、魔術となると、詳しい専門家の心当たりがない。

 思わず腕を組んで考え込んでしまった。

「それなラ、宮内庁に応援を頼むといいですヨ、知っていると思いますかラ」

「何故? そう思うのかね?」

「皇居と呼ばれている場所ニ、意外と強固な結界が施されていましたかラ」

「・・・・・・古い時代のモノでは無いのかね?」

「江戸時代、もしくはそれ以前の」

「いエ、つい最近、直された形跡がありましたかラ」

「何時頃かね?」

「古くて15、新しくて3年前でス」

 重苦しい沈黙が会議室を満たす。

 エレェリアが紅茶?を一飲みして、人心地ついてから。

「本当ニ、知りませんでしタ?」

「・・・・・・大至急、問い合わせろ」

「知らんと言ったら、寝言は寝てから言えと伝えろ」

 大慌てで秘書官の一人が廊下に飛び出して行く。

「(今すぐ、風呂に入って、ビール飲んで、寝て~。 そして、朝起きたら全て夢だったら、どんなに楽な事か・・・・)」

 矢吹は気苦労から思わず現実逃避に走ってしまった。

 もっとも、その思考はエレェリアにダダ洩れだったりするのだが。

 虚空からティーカップとプレートを取り出し、紅茶?とケーキを丁寧に乗せ、宙を滑らせ矢吹の前に差し出す。

「御一ツ、如何ですカ?」

「貰おう」

 普段の彼であれば、断る所だが、気苦労と疲れから、即答で受け取ってしまったのである。

 それからしばらく、思わず時を忘れ午後のひと時を楽しむのであった。




「(はて?)」

 彼が正気に返ったのは飲み物を三杯、ケーキを二個とスコーンを一個食べ、最後の一杯の紅茶?に口を付けて、香りを楽しんでいる時であった。

「(何をしていたんだったかな?)」

 ふっと周りを見回してみると。

「ほ~、これはなかなかですな」

「このスポンジは・・・・・」

「これは何の果実のジャムですかな?」

「私は本来、甘いものは苦手なのですが。 ・・・・・これは美味しいですね」

 会議室に居た、全閣僚が時と場所を忘れて、三時のおやつを楽しんでいるのであった。

「(おいおい)」

 彼、矢吹が選んだ者達だけに、彼等は自制心と能力が高く、非常に有能である。

 買収や賄賂とは完全に無縁の者達で構成されているにも関わらず・・・・。

「お土産に何個かもらえないものか?」

「作り方、是非、教えてほしいですな~」

「うむ~、このティーセットもなかなか・・・・」

 普通のサラリーマンと近所の主婦と化していた。

 矢吹は、やれやれといった感じで頭を振って溜息を吐き、周りの違和感に気付き、周囲を見渡すと。

 いつの間にか、ワゴンの上に大量のおやつが用意され、秘書官や官僚達、そしてSPまでもが、入れ替わり立ち代わり無言で飲み物やケーキを食べているのであった。


 話題休閑


 30分後


 会議室四隅にSPが直立不動の姿勢で彫像の様に控え、周囲に眼と耳を光らせていた。

 会議用のテーブルには首相が真ん中に座り、両脇を閣僚が詰め、鋭い視線が対面に座る女性に注がれる。

 後方に控えた官僚たちが支持を待つ。

「それで、これからどうするのかね?」

 先ほどの和やかな雰囲気は霧散し、会議室は再び真面目で面白みのない空間に戻っていた?

 もっとも、SPや官僚の口の周りに少量のクリームが付いているのはお約束である。

 あっ、誰かがゲップを漏らした・・・。

「そうですネ・・・・・。 取り敢えズ、イタズラ好きな熊さんト、やんちゃな鷲さんを躾けようかト・・・」

(熊? 鷲?・・・・・・・)

「クレムリンとアンクルサムかね?」

「えエ」

 矢吹が部屋の隅に目くばせすると、部屋に控えていた秘書官と官僚の幾人かが、走り出さないギリギリの急ぎ足で部屋から出ていく。

「・・・・・・我々に何かできる事はあるかね」

「ありますよ、大きな花火が打ち上げられますのデ・・・」

 彼女のこの発言を聴き、エレェリア以外の全員が驚愕のあまり息を呑むのであった。

 室内の全員が花火=核ミサイルである事に気が付いたのである。

 幾人か、場所をわきまえず、大慌てで携帯端末を取り出し、手と指を忙しく動かし操作を始めた。

「それは・・・・、我々にできる事は限られていると思うが・・・・」

 矢吹を始めとする全閣僚は、どうしようもない無力感に囚われた。

 日本には、自国周辺の狭い範囲外で、この様な事態に対応する手段を所有していない、しかも、自国周辺の事ですら完全とは言い難いのが現状である。

 絶望感に満たされ沈黙に覆われた室内で、エレェリアの場違いな明るいコロコロとした声が響く。

「いえ、花火見物と言えば、ビールとお食事が必要ですから」

「宴会の準備をするのがよろしいと思いまス」

「「「・・・・・・・・はあ?」」」


「花火見物?」

「花火見物でス」

「ビールと食事?」

「ビールとお食事でス」

「宴会?」

「宴会でス」

「「「・・・・・・・・・・・」」」

「花火(核ミサイル)なのだろ?」

「花火ですヨ」

「?」

「?」

 両者の認識の違いには会議用テーブルの対面と言うより、成層圏に届きそうな壁が存在し、太平洋に匹敵するような距離が有るようだ。


 それはさておき。


「さテ、伝える事も伝え終わりましたシ、そろそロ、お暇いたしますネ」

 エレェリアはゆっくりと立ち上がり、振り返り片手を目の前に掲げる。

「また訪ねてきたまえ、歓迎するぞ」

「えエ、機会がありましたラ。 まタ、紅茶とケーキを御馳走しますワ」

「期待している」

「・・・・・・・そう言えば、あのケーキと紅茶は何処の店の品物かね?」

 出来れば自ら足を運んで手に入れたいと思うほど一品であった。

 それに対して彼女の答えは、予想の斜め上を超音速で駆け抜けて行くものであった。

「紅茶は世界樹の若葉を発酵させたものデ、ケーキとスコーンはサクラさんが自ら材料を厳選し吟味の末に作った物でス、ジャムは常世に実る不老不死の黄金の林檎を煮詰めた物ですワ」


「・・・・・・・・・何か、・・・・・・・・何か特別な、・・・・特別な効能は有るのかね?」

「紅茶は一杯飲めば寿命が10年ほど伸びますネ。 ケーキ類はあらゆる状態異常や病気を即座に完治させ予防しまス。 ジャムは残念ですが加工の過程で変質と劣化しましたので不老不死にはなれませんガ」

「が?」

 何人かが自分の腹のあたりに手をやる。

「部位欠損以外のあらゆる外傷を完治しまス、例え手足が切断されても傷口をくっ付けていれば数秒で繋がりまス、五体が揃っていれバ、死者ですら完全に蘇生させる事が出来まス」

「「「・・・・・・・・・・・・・」」」

 どれもこれも、午後のお茶会に気軽に食べて良い物では、断じて無い。

 そんな事はお構いなく、彼女は優雅に一礼した後に。

「では皆様、"See you again someday"」

 別れの言葉と共に、その場から掻き消えた。


 短いが非常に不気味な静寂が室内を満たす。


 数分の静寂の後、それからしばらくの間、室内は騒然となった。

 自らの口に指を突っ込み、何とか口の中に残った物は無いかと必死に探す者。

 何とか吐き戻そうとトイレに駈け込む者、その場でぶちまけ無かったのは、少しは冷静であったと言える。

 そして最も過激な行動を起こそうとした者達も少数だが存在した、何を血迷ったのか外科医に連絡をとり、自ら腹を切ろうとする者までいたが、これはあらゆる意味で周囲が止めたのであった。


 矢吹は、周りの騒ぎを他人事の様に観察しながら・・・。

(確か・・・・、紅茶を三杯・・、いや、四杯と、ケーキを二つの、ジャム付スコーンを一個だったよな・・・・。 平均寿命を八〇歳と仮定しても・・・、一二〇歳までは余裕で生きるわけか? しかも無病息災、怪我とは無縁の健康体で・・・・)

 一番多く食べていた外務大臣に視線を向ける。

 彼は周囲から羽交い絞めにされていた。

(彼なら、一八〇歳まで生きるな)


 室内の騒ぎは止まる事なく、さらに拡大し、既に廊下まで広がっていた。


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おまけ


日本国 東京 首相官邸執務室


「今度は何だ? 南極でもひっくり返ったか?」


「いえ、南極は関係ありませんが、先日の都内で勃発した、銃撃戦の事についてです」


「都内の銃撃戦? ・・・・米軍と自衛隊とのあれか?」


「はい、少数ではありますが双方に死傷者と、多くの建造物に被害が出ました」


「・・・・全て不可抗力だし。 正当な行為だった考えているが? 野党の五月蠅い素人も反対はしていない筈だが?」


「問題を起こしているのは野党ではありません」


「?」


「人権派の弁護士達が、"自衛隊が街中で銃を持つのは銃刀法違反で、街中での銃撃は憲法違反で、銃殺は殺人罪にあたる"と訴えを起こしています」


「・・・・・・・はぁ? そいつ等、バカか?」


「彼等は至って真面目です」


「アメリカかロシア、もしくは中国・・・、中国は無いな。 どっかの国の回し者か?」


「いえ、単なるバカです」


「確かに、単なるバカだな」



次回 DAY-07か枝編のどちらかになる予定。


DAY-07ではでっかい花火があがります。


興味のある方「瀬戸内シージャック事件」を調べてみるのも面白いと思います。

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