表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/119

DAY-06 RESULT

本日、二回目の更新。


【初見殺し】

 ゲームにおいて誰もが一度は受ける開発者からの洗礼である。

 それを初めて経験する人はほぼ必ず引っかかること。



------------------------------------------------------------



 雄叫びと、勝どきが辺り一帯を包み。

 地を勢いよく駆け。

 剣が振り下ろされ、斧が叩きつけられる。

 弓が唸り、時おり、魔法の火矢が放たれた。

 怒涛の攻撃の連鎖が振るわれ。

 敵対者を包み込む様に蹂躙するのである。



------------------------------------------------------------


 日本国 東京某所 濃霧の中


「・・・・・・・え~と、これ何?」

 言葉が見つからないカズマが、隣のサクラに尋ねる。

 同じく言葉が見つからないサクラが投げやりに返事をする。

「・・・・私に聞かないでよ」


 甲高く、醜い叫び声が辺り一帯を包み。

 地を素足の短い脚と手を使い走り。

 刃こぼれした剣がよろめきながら振り下ろされ、錆の浮いた斧が身体ごと叩きつけられる。

 粗末な弓から小枝が放たれ、時おり、短くて遅い火矢がゆらゆらと跳んできて途中で消える。

 無秩序で連携も無い攻撃が振るわれ。

 一番外側の障壁に虚しく当たり、跳ね返されるのである。


 人間よりはるかに小柄で、短い手足に、大きな目と耳。

 粗末な装備に、知性の欠片も無い表情。


「ゴブリンだよね?」

 ミウ視線を前方から外さず取り敢えず、隣に居るマイヒメに確認を取る。

 彼女はかけていた眼鏡を外し、レンズを布で吹いてから、念の為、レンズを太陽にかざして曇りが無い事を確認してから、もう一度、眼鏡をかけ直す。

「どう見ても・・・・・、ゴブリンよ。 何故、疑問形なの?」

 マイヒメの返答に、頭を少し掻きながら。

「ちょっと自信が無かったの。 それより、眼鏡、曇ってなかったよ」

「念の為よ」



【ゴブリン】

 作品においてはオーク、コボルトなどとも呼ばれてはいるが、基本あらゆるゲームにおいての代表的なモブキャラクター。

 いわゆるザコ、ザコの中のザコ。

 キング・オブ・ザコである。

(これ以外に、どう説明しろと)


 

 効果も無いのに、無意味に攻撃をして、障壁に跳ね返され、耳障りな声でギャーギャー騒いでいる。

「・・・・こいつ等、知性も低下していないか?」

 チヒロはエレェリアに尋ねる。

 彼女は眉の間を揉みながら、チラッと正面を見て、視線を外し もう一度、揉み解し、若干疲れた声で

「ゴブリンなラ、こんなものでしョ。 魔法を使っている個体も居るかラ、若干、強化されているわヨ」

「魔法? 届いていないぞ」

 魔法の火矢は、障壁に触れる前で"ボヒッ"とか"シュボ"とかの擬音付きで消えているのである。

 中には爆裂系の魔法を行使しようとして、目の前で破裂し、ひっくり返て眼を回している個体も存在する。

 それを見て、手を叩きながら、跳ねまわり、ギャンギャンと下品な笑いを発するゴブリン達。

「魔力が足りなくて術式を維持できないのヨ。 ・・・と言うよリ、術を維持する集中力も期待できないわネ。 ・・・・・・多分」

 相変わらず無意味に武器を振るっては跳ね返されひっくり返ている。

「・・・・・障壁の攻撃反射の機能、解除していないよな?」

 怪我をするかしないかの攻撃なんて反射しても意味が無いのである。

「反射するほどの攻撃力も無いのヨ。 ・・・・・・多分」



「どう見ても・・・・、弱体化しているよな?」

 カズマとサクラは気を取り直し、何とも間の抜けた会話を交わす。

「素が弱すぎるのよ、それども、・・・・五割増しには成っているわよ」

 カズマは宙に視線を向け、若干考えてから。

「ゴブリンの素って、Lv幾つだけ?」

 サクラは同じ様に、宙に目を無意味に向けながら。

「え~と、ゲームの中では・・・・、個体差によるけどLv2か3だと思うわ」

「「・・・・・・・・・」」

「五割増し?」

「五割増しね」

 思わず見つめ合ってから、再び正面を向く、相変わらず無意味でシュールな光景がエンドレスに続いていた。


 VRMMO[ワールド]内におけるゴブリンの五割増し、Lv3~4、多くてもLv5。

 アダマスの現在のLv換算、Lv1000+。


「・・・・障壁と結界を全部解いても問題ないな」

 防具無しでも髪の毛一本も乱れる事は無い、と言うより、素の状態でも手足がかすっただけで弾みで殲滅しかねないの能力値の格差がある。

「嫌よ! あんな、小汚くて臭い"物"に直接触られるなんて」

 既に、"者"から"物"扱いである、"ゴミ"扱いで無いだけマシかもしれない。



「あ! あっ!! あっあああああ~!」

 突如、ミウが声をあげる。

「どうした?」

「何事ですカ?」

 ミウは、目と口を目一杯見開き、その場で腕を振り回しながら、ピョンピョン跳ねまわっていた。

「サクラ姉! あれ! あれ! あれ!」

「あれ?」

「”裏山のゴブリン”!!!」

「裏山の?」

「・・・・ゴブリン? ・・・・あっ!!」

 その時、全員の頭の中で稲妻が駆け抜け、電球が灯り。

 彼女と同じように目と口を目一杯見開き、声をあげる。

「「「「「あっ!! あっあああああ~!!!!」」」」」

 周囲では相変わらず無意味に武器を振るってひっくり返ていた。



------------------------------------------------------------


【裏山のゴブリン】

 VRMMO[ワールド]において、NPCから定期的に提示される討伐系クエストの一種。

 曰く、『裏山に出没するゴブリンを討伐してほしい』と言う何の変哲も無い、RPGにおける定番の依頼である、バリエーションとして畑とか森とか存在するが、概ね同じ内容である。

 内容からして初心者や初級者レベルの冒険と思われているが、ユーザーの間ではLv50以上、出来れば推奨レベルがLv100~200が必要とされている、[ワールド]内においては「初心者殺し」とも「初見殺し」呼ばれているデス・クエストである。


 ゲーム内でのゴブリンのLvは決して高くは無いLv2~3、ユニークなレアな個体でさえLv5までであるり、一個体であれば村人NPCのスコップや鉈の一撃で簡単に倒す事が出来るのである。

  つまり、畑や村はずれで10匹ほど倒しても討伐完了に成らないのである、それ位の数であれば村人が畑仕事の片手間に倒して、畑の肥料として再利用してしまうからである。

 では[ワールド]内匂いてゴブリンの何が厄介化と言うと、そこは開発スタッフの拘りで、無駄にリアルを追及した環境系とNPCやエネミーのAIを構築している為、低位エネミーの繁殖力が凄まじいモノに成っているのである。

 [ワールド]においてのゴブリンは、どこぞのGの様に「一匹観つけたら1000匹居ると思え!」と格言があるくらい、数多く出現するのである。

 つまり、非常に弱いゴブリンが村を襲うという事は、森で採取できる食料だけではゴブリン達の食糧事情を維持できない、かなり切迫した状態なのである。

 しかも、中途半端に知恵が回るものだから、人間の村を襲撃する時は、最低1000匹単位の集団を形成したりする。


 イメージ的には映画「指輪物語 第一部」の地下坑道モリアでわらわらと沸いてくるオークを思い浮かべると近いものがある、初心者はその数の暴力に圧倒され、無数の傷を負わされ死に戻りを体験するのである。

 Lv50クラスのプレーヤーであればスキル構成によって戦闘時の自己回復が追い付き、無双が可能ではあるが、今度はユーザーの精神が持たないのである。

 VRMMO[ワールド]の生態系は実に細かく設定されている、その為、攻撃時の衝撃やダメージもかなりリアルに設定されているのである。

 つまり、ある程度制限されていても、剣で肉を切り裂く感覚、骨を断つ固い衝撃、飛び散る血に、嗅覚を刺激する悪臭、そして地面に横たわり虚ろな目の死体、戦場を知らない一般人が、それをある意味リアルに体験するのである。

 システムが常にユーザーの精神状態を監視し、危険と判断が下されるとシャットダウン、強制的にログアウトされるのである。

 ゲーム内に残ったPCの身体は作業システム制御でオートで動き、直前の単純動作を繰り返すのである、前衛のPCであれば何とかなるかもしれないが、後衛がこの状態に陥ると完全に"詰む"のである。


 結果として『裏山に出没するゴブリンを討伐してほしい』と言うクエストを意訳するなら『裏山のゴブリン達を裏山ごと殲滅してほしい』という事である。 

 推奨レベルがLv100~200という事は、スキル構成によって大規模殲滅系のスキルが使用可能なレベル帯だからである。


 因みにアダマスがこれを喰らったのはLv20未満、ものの見事に全員が死に戻りを体験したのである、彼等がこのクエストに再挑戦したのは、武器や装備を整え、スキルを習得しLv300以上に成ってからである。

 結果、ゴブリンの住む裏山は更地となった。


 余談


 ここで彼等は、止せばいいのに考えてしまった『裏山の範囲は何処から何処まで?』と。


 後に「ワールド七大偉業」の一つに数えられる行動に彼等は出る。


 [ワールド]内で一つの大陸、北米大陸をモデルとした大陸に存在する裏山と言う裏山、つまり山脈を端からガチガチと削り取ったのである。


 彼等は過程において、あらゆる素材を回収し、採取し、加工し、山脈の地下迷宮を横から攻略し、迷宮の最下層のボス・エネミーを横から掻っ攫い、開発スタッフがゲラゲラ笑いながら絶対に無理と考えていた超深度に埋蔵した超レアの希少金属を鉱脈ごと根こそぎ掘り尽くしたのである。


 生産系技能は能力値を平均的に最も効率良く伸ばす、その為、作業が進むほど能力値が上昇し、作業効率がアップするという好循環を生み出し、最後半になると秒速kmの勢いで削っていった。


 結果として、ロキー山脈、アパラチア山脈、シエラネバダ山脈、アラスカ山脈をゲーム内時間の2年で更地にし、北米大陸におけるゴブリンを絶滅させたのである。



------------------------------------------------------------


 都内を覆っていた濃霧は昼過ぎに唐突に晴れ、遅れながら大都市東京は急ぎ足で日常を取り戻して行った。

 喧騒を眼下に見下ろす、ある高層ビルの屋上では六人の男女が、心情的に頭を抱えて唸っていた。

「それで"これ"どうするの?」

 個別に結界に閉じ込め、時間凍結したゴブリン達を宙に浮かべながら、マイヒメが全員に質問する。

「元に戻せるか?」

 チヒロがエレェリアに尋ねる。

 彼女は溜息と共に返事を返した。

「条件を満たせばネ」

「条件?」

「彼等の手で私達を倒す事ヨ」

 全員の視線が交錯し、期せず結界に捉えたゴブリンに注がれる。

 そして、無言の中、全員の考えは見事に一致した。


 (無理だろ)


 ミウがカズマの袖を引っ張りながら。

「カズ兄、持って帰るの?」

「・・・・ミウ、冗談なら質が悪いし、本気なら凶悪だぞ」

 異世界にも性質は違うがゴブリンは存在する。

 しかも、意外と文化的でここまでアホでは無い、エルフや人間と交易をしている位である、エルタスの街中でも時たま見かけるほどである。

 当然、こんな知能指数の足りない種は、迷惑この上ないのである。

「じゃあ、焼いちゃう」

 それがもっとも後腐れなく、手っ取り早い方法ではあるが・・・・。

「それは・・・・、これでも、元は人間だからな」

 素材が素材だけに若干、躊躇するのである。

 しかも、自滅に近いだけに彼等の哀れさを誘っている。

「解き放つ?」

「雑食で繁殖力を考えたら悪手だろ」

 ねずみ算式ならぬ、ゴブリン算式に増えていくのである。

「少しは強化されているかラ、若干落ちていると思いますけド・・・・」

 基本的に強い個体ほど繁殖率は落ちていくのである。

「どれくらい?」

「元の九割位かナ?」

「「「「「ダメじゃん!」」」」」

 見事な焼け石に水である。

「「「「「「う~ん・・・・・」」」」」」

 完全に煮詰まってしまい、結局。

 マイヒメが頭を掻き毟りながら、投げやりに言い放つ。

「あ~めんどくさい! 強烈な呪印を仕掛けて、浮遊島の一つに隔離しちゃおう!」

「「「「「それだ!」」」」」

 アダマスは基本、力ずくで解決する方法を選択するのである。


 

 こうして、この世界の秩序を維持してきたと自認する、翡翠の教団は、その魔術師と、秘蔵して来た術式の大半を失い壊滅するのであった。


 そして、ゴブリン達は中国大陸から分れた浮遊諸島の一つに、脱出防止の強烈な結界と、繁殖率を豪快に落す呪い付きで隔離されたのであった。




 後年「秘境! カメラは浮遊島の一つに亜人を見た!」と言う感じの特番が組まれたとか・・・・・。



この流れは、かなり前から考えていました。


次回「DAY-06 END CREDITS(仮)」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ