DAY-06 LAST BATTLE
驚愕の展開!!
東京都内を覆う濃厚なスープの様な霧は、そのビルを起点に狭い範囲で円柱状に押しのけられていた。
喧騒の無い大都会にあって非日常の朝の中で、その場所だけが日常の朝の風景を取り戻している様であった。
宗主は柄にも無い高揚感に包まれていた、眼下を目まぐるしく人々が動きまわり、叫び声が上階のここまで聞こえてくる、武器を調整する者も居れば、部下達を纏め上げるリーダーの姿もあった。
宗主は、彼の言葉で極限まで志気の上がった部下達の様子を眺め非常に満足していた。
「宗主。 そろそろ移動の準備を」
右後ろに控えていたアダムが声をかける。
それに続き、左後ろに控えていたイブが促す。
「既に、車両の準備は整っております」
「うむ。 最初の班は何時、出るか?」
ゆっくりと振り向き、エレベーターの方に歩きながら、確認を取る。
「予定では直ぐに出るはずです」
「最初は十五班と聞いております」
エレベーターの扉を部下の一人が押さえて待っていた。
「十五班?」
ガラス張りのエレベーターに乗り込み、朝日に照らし出された極東の摩天楼を見渡す。
ビルの全面を覆う、ガラス張りの壁面から朝日と、目覚め始めた大都会の喧騒が伝わって来る。
「湾岸に向かいます。 結界の起点はその場所が、もっとも離れております」
アダムが答え、イブが一階のボタンを押し、エレベーターはゆっくり下に向かって降って行く。
二階辺りで外壁によって視界が遮られ宗主は眉をひそめる、若干だが水を差された様な気がしているのである。
一階に到着、背後のドアが耳障りな電子音と共に静かに開く。
「正面に車を回します」
アダムの言葉に無言で答え、ゆっくりと正面ロビーに向かって歩みを進める。
ロビーに居た者達は彼の姿を確認すると、静かに目礼をした後、その背後に付き従う。
突如、表から金属を擦り合わせたような急ブレーキの音と、車を潰したような鈍い衝撃音が響き渡る。
ロビー内が再び騒がしくなるが、誰も表を確認するために動こうとしない。
「何事だ!」
「正面か?」
「事故か!!」
(何故? 誰も動こうとしない)
彼は初めて疑問に思い、自らの後ろを一瞥する。
彼の背後に控えているアダムとイブですら、困惑気味に周りを見回すだけで、一向に動こうとしない。
宗主はほんの少し躊躇った後、正面ロビーを足早に横切り外に飛び出す。
そして、風景が一変する。
街並みを明るく照らす朝日は消え、白い濃霧に覆われ。
大都会の喧騒や人々の営みは、沈黙と静寂に覆い尽くされていた。
目の前に広がるのは、緊張し武器を構える部下の姿と、多重の衝突事故を起こし潰れた車両の列、そして、潰れた車の前で、思い思いの姿で佇む神像ならぬ、六人の人の姿をしたナニか・・・・。
瑠璃の軽甲を纏い、二対の剣を持つ青年が中央で腕を組み佇み。
巫女装束に浮遊した紅玉の大盾を従え、強大なガトリング砲に手を添える乙女。
純白のウェディングドレスに真珠のティアラと篭手、足鎧を纏い、石剣を持つ美女。
漆黒のゴスロリ服に紫水晶の機翼をはためかせ、巨大な棍棒を構えた少女。
翠玉の重甲を纏い、禍々しきハルバードと重盾を背中に背負った女性。
蛋白石の大鎧をその身に纏い、刀を手に持った男性。
翡翠の教団の宗主は、異形・異装の装備を纏った六人のこの世の者でないモノたちの姿を、その視界に収めた。
直接、見た事は無い。
だが、知っている。
宗主は真っ白になった思考で、何とか絞り出した声が一つの音を生む。
「アダマス・・・・」
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男の笑い声が木霊する。
「ハハハハハハハッハハハ・・・・・・
背後に従えた部下達の困惑と、目の前に居る六人の青年たちの困惑などお構いなしに、哄笑が辺り一帯に響きわたっていた。
「毎回 毎回、呼び出されるから 今度はこっちから 出向いて来たんだが・・・」
「周りに被害が出ない様に・・・・」
「少々、気を使いましたけド・・・」
「あんまり・・・・、意味なかったね?」
「ちょっと壊れていないか?」
「・・・・・・見なかった事には」
((((((出来んだろ))))))
・・・・・・ハハハハハハハッハハハ! ごっほ! ごっほ!」
長い笑いの反動の咳と、酸欠によって、ようやく笑い声が途切れる。
心配し、背後から声をかけようとしたイブを片手で制し。
荒い呼吸を繰り返しながら、目の前の六人を睨み付ける、その眼光はいささか衰える事は無く、もし視線だけで人を殺せるのであれば、人の身体に穴が開く程の力が込められていた。
「クックク! 貴様らを呼び出す手段と策を幾重にも考えてはいたが。 これで手間が省けると言う物よ!」
「獲物の方からわざわざ、肉食獣の咢に入って来るとは・・・。 クッ」
「これが嗤わずにいられるか。 フッ! ククッ! ハッハハハハ・・・
宗主のこの言葉を聴き、今まで動揺していた教団員達は急速に落ち着きを取り戻していき。
カズマたちは、珍しく多少は・・・・、ちょっと・・・・、僅かに・・・、警戒するのであった。
宗主が片手を振ると共に、教団員は静かにカズマたちを中心に半包囲の態勢を整えていく。
アダムとイブが宗主を守護する様に前に出て身構える中、彼は星空を凝縮した様な水晶球を掲げ、幾分落ち着いた口調で言葉を続ける。
「地獄に行く前に教えてやろう、この力の前に貴様らは無力となり、絶望しながら死んでいくのだ」
「この水晶球には、"かつてお前たちが敗北した者の力と姿が宿っている"」
カズマは僅かに目を細め、隣に立つサクラに目くばせし、無言で会話(念話)を交わす。
〈敗北なんか有ったか?〉
〈・・・思い出せないわね。 マイヒメは?〉
〈知らないわよ!〉
〈残念ですガ、私モ・・・〉
〈・・・・分からん!〉
〈・・・・・・・・何か遭った様な・・・・〉
彼等の困惑を別に、宗主は勝ち誇り言葉を続けていた。
「無論! 我等も全く代償無しにこの術法を行使する事は出来ない。 過去を読んだ"星読み"はその命を散らし、燃え尽きた」
「そして、我々も条件を満たすまでこの身は現世から抹消され、存在が消えるのだ」
【名も無き禁術】
名も詠唱も記録から抹消された術法。
ある意味、召喚術の一種で、現世においての自らの存在情報を贄に、異界、死者、架空を問わず呼び出すのである。
その代償として、定めた条件を満たすまで(大抵は敵対者の殲滅)術を行使する術者本人がこの世界から抹消されるのである。
万が一、召喚した存在が敗れた場合、術者の存在は定めた条件を満たしていない為、この世界から永久に消えてしまうのである。
勿論、呼び出した存在が簡単に敗れる様では意味が無い、その為、自らの存在情報と宿る力を分け、呼び出したモノに、自らの力を上乗せし、強化した状態で召喚するのである。
召喚が終了した後、この術行使した者は代価として自らに宿る力の大半を永遠に失ってしまうのである。
少しずつ周囲が白い闇から"夜"に包まれて行く、宗主によって掲げられた水晶球は、徐々にその力を解き放ち始めたのである。
辺り一面が星空へと塗り替えられていく、それと同時に彼と水晶球の境界線が曖昧になってゆく、存在が徐々に解けているのである。
宗主の存在が星空へと書き換えられていく。
少し遅れて、アダムとイブも、そしてカズマたちを半包囲していた教団員達も星空へと溶け、存在が希薄となっていく。
翡翠の教団の宗主は、閉ざされて行く視界と、薄れいく思考の中で、ただ一つの事だけを思っていた。
(勝った!)
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辺り一面を包み込む星空の中でアダマスの六人は、緊張と戦慄・・・・・・。
とは、無縁の雑談を交わしていた。
エレェリアは自らも召喚術として、目の前で行使される術を最初は目を凝らして、術を凝視していたが、次第に不機嫌になり、遂には物凄い剣幕で怒り出してしまった。
「物質変換・・・、強制召喚、魂の錬成? う~ン、ゴチャゴチャでいまいち解かりませン! ・・・何ですカ! この幼稚デ、未整理な術ハ!」
「エレェ姉。 そんなに幼稚な術なの?」
「はイ! 子供ノ・・・、いエ、幼児ノ・・・、いエ、赤ん坊の落書きでス。 何で行使できているのか杜撰すぎテ、サッパリ理解出来ませン」
「どんな状態なの?」
「力が有るのに制御は脆ク、その力も無理矢理、式に流していまス。 しかモ、出鱈目に世界を繋いでいまス」
「例えるなら・・・・、自転車のタイヤとロケットエンジンを積んだスポーツカーで、獣道を猛スピードで走りながら、屋根の上でラップダンスをしている状態か?」
チヒロが良く分からない例えをする。
彼女は少し考えてから・・・・。
「・・・・・・概ねそんな感じでス」
肯定するのであった。
エレェリアとチヒロを除く四人が、心の中で同時にツッコんだ。
((((どんな、例えだ!))))
星空を観ていたミウが注意を促す。
「? カズ兄! 何か現出するよ!」
「!? エレェリア、観えるか?」
カズマは召喚の専門家である、彼女に意見を求める。
「・・・・・いエ、力の振れ幅が大きすぎまス、複数の異なる存在でス。 完全に現出するまで不明でス」
マイヒメは武器に手をかけながら質問する。
「脅威なの?」
彼女は今まで遭遇した敵対者の中から強者を思い浮かべる、あの男の言葉が確かなら、自分達にとっても容易でない"モノ"が出現するはずである。
「いエ、全然」
エレェリアはあっさり不定するので、マイヒメは脱力しながら彼女の方を向きながら。
「じゃあ、な
「来るわよ」
サクラの声に慌てて視線を正面に向け、眼を見張り言葉を失うのである。
カズマの驚愕の声だけが全員の耳に残った。
「こっ! こいつは!」
アダマスはゲーム時代、一度だけ敗北を、全員が死に戻りを体験しています。




