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DAY-06 ENCOUNTER

あけましておめでとうございます!

 日本国 東京 某所


 その室内は闇に包まれていた。

 明かりさえあれば豪華なソファーや、値段の付ける事の出来ない古書が並べられた壁一面の本棚が眼に映った事であろう。

 闇の中、僅かに着くずれの音が生まれた。

 無人と思われていた室内に突如、人の気配が生じる。

 誰かがソファーから立ち上がったのだ。

 その暗黒の中、耳をすませば絨毯を踏みしめる規則正しい僅かな音だけが聴こえてくる。

 音の主は、壮年の男だ。

 男は迷う事無く、闇の中で、まるで観えているかのよう歩みを進める。

 壮年の男が静かに窓辺により、厚く細かな装飾で彩られたビロードのカーテンに手をかけ、一瞬の逡巡の後、それを振り払うように一気にカーテンをひく、カーテンを引く音が勢いよく筆内に響き、雲一つない空と地平線もしくは水平線の太陽が飛び込んで来て、朝の光が室内に満たされる。

 暗かった室内が一瞬にして黎明の光が満たし、今まで見る事の出来なかった室内の様子が目に飛び込んで来る。

 そして部屋の両隅に二人の男女が跪いていた。

 壮年の男が振り向き、特に驚く事無く男女を視界に収めた時、室内に初めて男とは別の二つの人の気配が生じた。

 九聖の剣のアダムとイブである。

「首尾は?」

 壮年の男、翡翠の教団の宗主は言葉少なく、跪く二人に問いただす。

「はっ、教団の主だった戦闘可能な者は、深夜の内に既に集まっております」

 まず、アダムが答える。

「うむ、配置は?」

 今度はイブが答えた。

「未だ。 皆、宗主の言葉を待っておいでです」

「・・・・・・・・そうか」

 短く瞑目、暫し静けさが室内に満ちる。

 見開いた宗主の視線は、自然とテーブルの上に置かれた水晶球に注がれる。

 美しくも妖しく、星空を凝縮したような瞬きを発するそれに、暫し心が奪われる。

「宗主。 全ての準備が整いました」

「皆、宗主の命を待っておいでです」

 宗主は二人の言葉を噛み締め、ゆっくりと窓辺から離れ、両開きのドアの方に歩み出す。

 テーブルの秋を通った時、僅かに手をかざすと、水晶球は誰も触れていないのに浮かび上がり、男の手に自然と納まった。

「征くぞ! 世界の秩序を乱す者を征すために!」

「「御意」」

 両開きの扉が自然に開かれ、ビルの全階をぶち抜いた吹き抜けのホールに面した廊下に出る。

 宗主はアダムとイブを両脇に従え、ホール全体を見下ろす。

 ホールのいたる所に老若男女が直立不動で立ち並ぶ、黒人も居れば白人もアジア人も居る、ローブを纏い杖を持ち如何にも魔法使い然とした者も居れば、ダーク・スーツ姿に鞄を持ったごく普通のサラリーマン風の者も居て、普段着の学生風の若者も立ち並んでいた、様々な人種に色々の姿の者が、その瞳を一点に集中していた、そして誰もが宗主の視線を受け止める。

 ホール全面のガラスには東京の街並みが朝日に照らし出され、他のビルのガラス窓に反射した朝日がホール全体を金色に輝かせ、それは彼等の勝利を祝福する様に輝いていた。

「教団の魔術師、全409名。 宗主の命を待っておいでです」

「一人の脱落者も無く、ここに集いてございます」

「「どうぞ、ご命令を」」

 宗主はその言葉と教団員の視線に満足し、無言のまま小さく頷く。

 そして右手に携えた水晶球を掲げ力強く宣言するのであった。

「これより! 世界の秩序を乱す者を征す! 我らに勝利を!」

「「「「我らに勝利を!」」」」

 金色の朝日に染まった吹き抜けのホール全体に鬨の声が木霊する。



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 日本国 東京 某所 地下駐車場


 暗く蛍光灯の光だけが光源の地下駐車場内に様々車種と種類の自動車で溢れていた。

 その全てがライトを点灯させ、エンジンを吹かし重低音を発し、電気モーターの低い音を響かせていた。

 広大な地下駐車場内は、その換気機能も追い付かないほどの排気ガスで呼吸が苦しくなるほどであるが、それに勝るほどの熱気と怒号に包まれていた。 

「七班は! 東京駅を起点に結界を展開せよ!」

「一班はここに集合しろ! 直ぐに出るぞ!」

「十五班! 直ぐに出るぞ!」

 五台ほどの車列がアクセルを吹かし、タイヤを空回りさせ煙を撒き散らし、地上に繋がる坂道を駆け上がって行く、出口に東京の目覚め立ての朝の風景だ広がっていた。

 車が勢い良く街中に飛び出した。


 そして、


 ホワイトアウト。


 白く輝く、真っ白な世界。


 一寸先ですら視認するのも困難な濃霧に包まれた、音の無い静寂な街中。


 ドライバーは驚愕の中、反射的、本能的にブレーキを踏み込む。

 勢いよく地下から飛び出した為、一瞬だが宙に浮いていた車は鈍い衝撃と共に急制動、ブレーキが、車中が、擦れた耳障りな金属音を響かせる。

 タイヤは悲鳴を上げ道路を滑る、ハンドルを握ってはいるが、車が真っ直ぐなのか曲がっているのかさえ判断できない、それどころか上下の関係すらあやふやである。


 人が行き成り何も無い空間に放り出されたら立っている事すら困難で思わず座り込んでしまうに違いない、それはまるで水の中で自分の位置を見失った溺れている状態に似ている。


 突如、後ろから殴られたかのような衝撃が車内を襲い、車内の全員を翻弄し、エアバックが作動し、それを勝るほどの衝撃が幾重にも襲って来る。

 それは、彼等の後ろに続いていた車両の玉突き衝突を起こした結果であった。

 彼等はビリヤードの玉の様に、白い闇の中を左右に振り回され、前後左右のいずれの方向に進んでいるのか判断できない状態に陥ったのである。

 ドライバーは踏み込んでいるブレーキから伝わって来るタイヤが地面を捉えている感触から、辛うじて上下の感覚を掴んでいた。

 そして、歯を食いしばりながら、早く止まってくれる事を、神に祈り続けた。


 突然、今までにない強烈な衝撃が前方から伝わって来て、彼等が装着していたシートベルトが身体に喰いこみ、その衝撃から肺の空気を残らず吐き出すような痛みを体験するのであった。

 せき込み、痛みに悶える中で、車内に居た全員が、一連のアクションで鈍った頭でようやく車が静止しているのに気が付くのであった。

 車両の窓は奇跡的に無傷で霧の侵入を防いでいた。

 車が何か固い物に衝突した事は、何となく理解できるが、粘り付く様な濃霧の中でそれを確認するのは、非常に困難であった。

 車内は呆然自失の空気に包まれていたが、周囲から騒がしい声が響きわたってきて、我に返った助手席の男が携帯端末を手に取り、何やら操作を始める。

 隣の席から話声が聞こえてくる中、ドライバーの男は強張った手で未だハンドルを握ったまま前方を見続けていた、エアバックで遮られていた視界が僅かなガスの抜ける音と共に徐々に開けて来る。

 前方は相変わらずの白い闇の中だが、僅かに変化が観られた。


 濃霧が少しずつ動いていた。


 白い水面が徐々に下がる様に霧が少しずつ後退し、徐々に視界が開けて来る。


 車のボンネットが観え。

 凹んだフロントが視界に収まり。

 フロントを蹴りつける黒い編み上げブーツが確認でき、

 ブーツを履いた足が、

 漆黒のゴスロリ服を着た少女が、

 そして最後に背中から生えた紫水晶の翼が現れた。


 運転席で無意味に未だハンドルを持ち続けているドライバーと、助手席で携帯端末を操作していた男が、驚愕の眼差しで少女を凝視している。

 携帯端末から声が漏れて来るが、それも遠くで関係ない事を喋っている声の様で、頭に入って来る事は無い。

 目の前で、片足で車を停めた少女に魅入られる。


 人は、誰もが危険と判るモノにさえ美を感じる事がある。

 それが破滅へと繋がるモノと分かっていても、視線を外す事が出来ずにいるのだ。


 そして目の前に居る少女は、彼等が体験した事の無い途轍もない恐怖を撒き散らしていた。




 彼等は、茶髪をツインテールにし小悪魔の様に彼等を嘲り見下す少女に、


 魅入られる。




 そして、少女が嗤い、


 言葉を紡ぐ。


「Welcome to ...(ようこそ...)











  our battlefield(私達の戦場へ)」

 実はビルの全ての窓に幻影を被せていました。

 そして、中に留まるようにする軽い暗示も・・・・。


 次回は「DAY-06 LAST BATTLE(仮)」の予定です。



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